鎌田薫の発言 (法務委員会)
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○参考人(鎌田薫君) 民法成年年齢や婚姻適齢に係る民法の一部を改正する法律案に賛成する立場から意見を述べさせていただきます。
まず、民法成年年齢につきましては、第一に、国民投票年齢、公職選挙年齢、民法成年年齢を一致させることが望ましいこと、第二には、少子高齢化が急速に進む我が国においては、若年者が一人前の社会人として主体的、積極的に活躍することが望まれていること、第三に、世界的には十八歳又はそれ以下を成年年齢とする国が多数を占めており、グローバル化の進んだ社会では世界標準に準拠することが望まれること、そして、社会生活の高度化、情報化により若年層が取引活動に参加する機会は飛躍的に増加しており、責任ある取引主体としての地位を早期に確立することが望ましいことなどから、これを十八歳に引き下げることに賛成いたしております。
その理由につきましては、平成二十一年の法制審議会民法成年年齢部会最終報告書に記したところと同旨でありますので、これを援用させていただいた上で若干の補足をさせていただきます。
国民投票年齢、選挙年齢と民法成年年齢との関係についてでありますが、理論的には両者は必ずしも一致する必要はありません。とはいえ、取引社会、言い換えれば市民社会の一員としての行動について、親の権威の下にある者が国家の行方につき責任ある判断をなし得ると考えることは余り適切ではないように思われます。
やや場違いなエピソードを引用させていただきますが、私の所属する早稲田大学の前身であります東京専門学校の開校式におきまして、その開学を実質的に牽引した小野梓は次のように述べています。「国を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその民を独立せしめざるを得ず。その民を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその精神を独立せしめざるを得ず。而してその精神を独立せしめんと欲せば、必ず先ずその学問を独立せしめざるを得ず。」と。これは、福沢諭吉の一身独立して一国独立すという名言と同様の趣旨でありまして、当時、上からの近代化が目指され、そのために官立大学で専ら官僚養成を主目標とした教育が行われていたのに対し、むしろ一人一人の市民が、統治、支配の対象としてではなく、主体的に独立した判断をなし得る自立した市民として市民社会を支えるとともに、その判断力を基礎として積極的に国政に参加するのでなければ真の発展は実現し得ない、そのために広く市民に高度の教育を受ける機会を提供していかなければならないという、こういった趣旨のものと理解しております。
グローバル化と科学技術の発展によって産業構造、社会構造が劇的に変化しつつある一方で、我が国では少子高齢化が急速に進み、若者の政治離れが指摘されています。こうした我が国の現状に鑑みると、十八歳、十九歳の若者を社会的、経済的に大人として処遇することによって、市民社会を構成する一人前の大人としての自覚を高め、それを基礎として国政選挙や地方選挙への主体的、積極的な参加を促すことが望ましいように思われます。こうした観点から、成年年齢と選挙年齢とを一致させることに賛成する次第であります。
また、世界的には十八歳を成年年齢とする国が多数を占めており、グローバル化の進んだ社会では世界標準に準拠することが望ましいとも考えております。
これも若干エピソード的になりますけれども、近時、我が国における外国住民比率も、そしてまた外国からの訪問者、外国への旅行者も急速に増加しつつあります。私の所属する大学でも、昨年度の在籍外国人学生数は七千五百名に及んでいますし、短期留学も含めれば四〇%程度の学生が一度は海外での学びを経験するに至っております。こうした留学生や旅行者が海外で取引行為をするケースはますます増加していますし、インターネットを通じて若年者が海外取引をするケースも増えています。
外国での取引、あるいは外国人との国内取引について限って見ますが、法の適用に関する通則法第四条は、人の行為能力は本国法によって定めることを原則としつつ、本国法によれば制限行為能力者であっても行為地法によれば行為能力者となるべきときは、当該法律行為の当時その全ての当事者が法を同じくする地にあった場合に限り、当該法律行為をした者は行為能力者とみなすものとしています。
したがって、例えば十八歳の日本人がイギリスや中国など満十八歳を成年年齢とする国を訪問して契約をする場合には、取引の相手方は日本人顧客が未成年者であることを前提とした配慮をする必要がなく、この日本人も未成年者取消しはできないということになります。
他方、満十八歳のイギリス人や中国人が日本で契約をするときには、その契約の相手方である日本の事業者は、当該契約が未成年者取消しの対象となり得ることを考慮する必要はありません。これに対し、日本人青年が顧客である場合には、それが全く正当な取引であっても、慎重な事業者であればあるほど未成年者取消しの可能性を勘案して、未成年者単独での契約を避けるべきことになってしまいます。
民法成年年齢制度というのは、このように、未成年者との取引の相手方にとって、通常の取引における独立的な登場人物としての資格があるかないか、これを形式的基準に基づいて一応と、例外がありますので一応と言うのが正しいと思いますけれども、一応確定していくと、こういう機能を有しているものであります。
グローバル社会の一員として日本の若者が諸外国の同世代の人々と対等な立場で活躍をしていくためには、我が国が民法成年年齢に係る国際的な趨勢と歩調を合わせることによって、先ほど述べたような複雑な事態を避けるとともに、十八歳、十九歳の日本人青年について、一人前の市民としての自覚を高めていくことが望ましいと考えております。
このような形で、民法の成年年齢を引き下げることに大きなメリットを認めているところでございますので、国民投票年齢及び選挙年齢が十八歳と定められたことを契機として始まった議論ではございますが、民法の成年年齢を十八歳に引き下げることが妥当であると考えております。
ただし、民法成年年齢部会最終報告書におきましては、民法成年年齢を引き下げた場合には、十八歳、十九歳の者の消費者被害が拡大する危険があること、親権の対象となる年齢が引き下げられると、自立に困難を抱える十八歳、十九歳の者が親の保護を受けられにくくなり、ますます困窮するおそれがあること、高校教育における生徒指導が困難になるおそれもあることなどの課題を指摘させていただきました。
そして、消費者被害の拡大のおそれに対しては、消費者保護施策の充実と消費者関係教育を充実させること、精神的、社会的自立の遅れについては、社会全体が若年者の自立を支えていくような仕組みを採用し、若年者の自立を援助する様々な施策も併せて実行していくこと、高校教育との関連では、高校教育におけるルールづくりをすること、国民一般に対する周知徹底等の方策、こうした方策を取るべきことを提案するとともに、法整備の具体的時期につきましては、それらの施策の定着度等も勘案し、国会におかれまして国民の意識を踏まえつつ御判断いただくことといたしております。
これらの点につきましては、平成二十年に同部会が設置されてから約十年の間に、青少年育成施策大綱の策定、子ども・若者育成支援推進法の制定、消費者庁の発足、消費者教育の推進に関する法律の制定、学習指導要領の改訂と消費者教育の実施、成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議の設置、さらに、今国会での消費者契約法の一部を改正する法律案の上程など様々な施策が講じられてきたところであり、これらを踏まえて、民法成年年齢を引き下げる立法措置を講ずるための環境が整えられたという御判断がなされたものと理解しております。
とはいえ、これらの課題につきまして、万全の対策を完了したというような概念とはなじみにくいものでありますから、今後とも、不十分な部分の克服や新たな課題の解決のために不断の改善を図られることを期待いたしております。
なお、養親年齢については、養子を取ることが他人の子を法律上自分の子として育てるという相当の責任を伴うものでありますから、民法の成年年齢を引き下げる場合でも、現状維持、すなわち二十歳とすべきであると考えております。
また、婚姻適齢につきましては、男女とも十八歳とすべきであるという平成八年の法制審議会の答申があり、これを変更すべき特段の事情もないことから、男女とも十八歳とするべきであると考えております。
以上で私からの意見を終わらせていただきます。