竹下博將の発言 (法務委員会)
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○参考人(竹下博將君) 私は、実務家として事件に携わりながらも、養育費の算定ということに関しまして十年以上研究をしてきました。平成二十八年の十一月には、日本弁護士連合会の方で養育費について新算定表というものを提言しましたが、その作成にも関与しております。これまでに全国の半数以上の弁護士会で養育費の算定に関する研修をしてきましたし、先月には、養育費相談支援センター、こちらは厚生労働省の委託事業ですけれども、そちらでも研修の講師を務めています。
私は、本日、こういった立場から、養育費の算定に関わってきた立場として、成年年齢の引下げが養育費に関してどのような影響を与えるのかということをお話ししたいというふうに思います。
先に結論の方から申し上げますと、成年年齢の引下げというのは、養育費支払期間の終期については、これはもう繰り上げるということになると思いますし、それから、大学の費用というところに関して言うと、これはもう分担されなくなっていくであろうと、養育費としてはですね、そういった事態になるというふうに思いますので、成年年齢の引下げについては慎重に考えていく必要があるのではないかというふうに思っています。
引下げをするというのであれば、大学への進学とかそういったことについてどのように経済的に支援をするのかという、そういった制度の整備というところをよく考えていく必要があるのではないかなというふうに思います。
今から具体的にお話をしていくんですが、成年年齢の引下げによって養育費について受ける影響というものをお話しする前に、まず現状をお話ししたいというふうに思います。
現状は、二点お話ししたいと思うんですが、お手元には私の方から資料を二つ用意させていただきました。番号を振っていなくて申し訳ないんですが、六ページの方から始まる資料というのは、こちらの方は元裁判官が養育費の現状について最近記されたものです。それから、百十二ページから始まる方の資料は、こちらは弁護士が最近養育費の現状について記したものです。ですので、弁護士が記した資料と元裁判官が記した養育費の現状についての資料を見ながらちょっとお話をしたいと思うんですが。
まず一点目、現状についてですけれども、養育費の支払を受ける対象となる子供の範囲についてお話ししたいと思います。
遠山さんの方からもお話があったと思うんですけれども、養育費の支払の対象となる子供というのは、これは未成熟子と言われていまして、未成年者ではないと。未成熟子と未成年者の、これは実質と形式というお話がありましたので、これはそのように考えていただいていいのかなというふうに思うんですけれども、実際に養育費の対象となるのは未成熟子というふうには一応考えられていると。
ここで、その元裁判官の方の資料の七ページの方には裁判例が紹介されているんですけれども、その裁判例を見てみると、これは、成年に達しているという子供であっても、自分で生活していくだけの能力がなければ、それは、成年に達しているというそれだけでは、未成熟子ではと考えるべきではないのかという点をよく考えましょうと、そういうような判断をしている、そういう裁判例になります。
そうすると、こういった裁判例というのを見てみると、裁判所は、積極的に未成熟子であるかどうかを判断しているのかなというふうに思われるかもしれませんが、実際はそうではないというふうに思います。実務感覚としては違うというふうに思っているんですが。
弁護士の方の資料、こちら、百十二ページの方なんですが、この百十二ページの下の方に書かれているかと思うんですけれども、実務では、未成年の子を一応未成熟子として扱うというふうになっているんですね。これをもう少し説明しますと、未成年者であるということになれば、実際に働いているといったそういう事情がない限りはもう未成熟子として取り扱おうということになりますし、逆に、もう成年に達しているということになりますと、これは、養育費の支払を受けなければならない特別な事情がない限りはこれはもう対象ではないんだと、養育費の支払を受ける対象ではないんだというふうに取り扱われると、そういう意味になるかと思います。
今年に入って、ある裁判官が次のように話していました。大学に行っているというだけでは、成年に達した子供について未成熟子として判断することはできないと。つまり、大学に行っているだけでは、それだけでは養育費を支払うかどうかは分からないので、もう少し実質を検討する必要があると、そういうように裁判官は最近述べているんですね。これがかなり実務感覚に近いところじゃないかなというふうに私は思います。
こういう考え方を背景にしているのだと思いますけれども、実際実務においては、特別な事情がない限り、養育費の終期は二十歳、二十歳に達する日の属する月までというふうにされていますし、裁判所の方で用意されている書式でも、基本的に、未成熟子というような記載ではなく、養育費については未成年者というような記載がされているところです。
話がちょっと長くなってしまいましたけれども、二点目には、現状としてお話ししたい二点目ですが、大学に進学した後の学費の取扱いがどうなっているかという点です。
この点については、こちら、裁判官の方の資料を、六ページの方からの資料を見ていただきたいんですが、これの百三十四ページというところに大学進学後の学費の分担に関する裁判例が紹介されています、百三十四ページですが。
こちらの裁判では、非監護親の方がその大学への進学について同意していたかどうか、あるいは大学への進学自体について同意していたかどうかと、そういったことが問われているんですね。つまり、大学に進学するということについて非監護親の同意、承諾があるのであれば、それは同意があるので養育費として学費についても分担しましょうということになるわけです。他方で、非監護親が進学について同意、承諾していない場合はどうなるかといいますと、実務上は、親の経歴であるとか親の収入であるとか、進路について親がどれほど関心を持っていたであるとか、あるいはほかの兄弟姉妹はどうだったかと、そういったようなことを総合的に考慮しまして、その上で大学に子供が進学するということがこれは相当であると考えられるのであれば、その場合には学費について非監護親も養育費として分担しましょうと、そういうように考えられています。
こういったように、実質を判断しようという背景には、未成年者の五割は大学に進学していますし、専門学校等も入れれば八割が、高等学校卒業者の八割は進学しているということが背景にあるんだと思います。
ただ、今申し上げたように、総合的に考慮するというような形で判断しますと、どういった場合に大学の学費が分担されるのかは正直よく分からないんですね。そうすると、基準としてはなかなか明確であるとは言い難いですし、また、これも実務の感覚として、大学の学費というものを、非監護親が同意していないのにこれを分担してもらえるといったようなことはなかなかこれは難しいなと、ハードルが高いなと正直感じているところです。
こういったところの背景としては、養育費を裁判所が決めるということは、これは権利義務があるとかないとかいう判断を裁判所がするのではなくて、裁判所としては、公権的な立場で裁量的に負担をさせようと、義務を課そうというものですので、そうすると、そういった金銭的な債務を裁判所が積極的に課すというような場合には、かなり慎重に判断をするというところも背景にあるのかなというふうに思っています。
結論としては、進学について非監護親の同意がない場合は、学費について養育費として分担されるかどうかは予測がし難いということになると思います。
弁護士の方の資料の百二十七ページにはあるんですが、このような指摘がされています。百二十七ページでは、子供の立場に立てば、経済的な問題のため進学できないかもしれない、そういった不安にさいなまれながら困難な受験勉強を乗り越えるというのはこれは容易ではないと、こういう指摘がされていまして、それは私もそのように思うところです。
次に、では、成年年齢の引下げが養育費にどのように影響を与えるのかということをちょっとお話ししたいと思いますが、これも、今のお話しした現状を踏まえて二点お話ししたいと思います。
まず、養育費の終期、支払期間の終期についてお話ししたいと思いますが、法制審議会の最終報告書では、繰り上げるといった意見もあるといったようなお話がされていたかと思うんですが、日本弁護士連合会の方では、平成二十八年二月の意見書で、事実上、そのような成年年齢の引下げによって養育費の支払終期というものが繰上げに直結するのではないかと、そういう疑念が拭い去れないというような指摘がされていると思うんですが、さきにお話ししましたとおり、実務においては、特別の事情がない限りは、成年に達した子供については養育費の支払を受ける対象にならないと考えているわけですので、今般成年年齢が下がると、引き下げられるということになれば、これは養育費の終期も原則十八歳になるというふうに考えることが自然だと思います。
実際、成年年齢の引下げというのはもう見込まれる状況にあるというわけですので、養育費の終期を十八歳にしましょうという調停委員、裁判官はもう現れています。この点については、調査室の方から私いただきました資料の新聞記事でもそういった、これは平成三十年五月二十六日の朝日新聞ですけれども、そのような弁護士のコメントがありまして、これは私が実際に感じているところと同じだなというふうに思いました。
したがいまして、成年年齢が引き下げられれば養育費の終期が早まること、これはもう避け難いというふうに思います。
どのような問題があるのかというところで、この審議の中では、既に合意された場合に、養育費の終期を成年と書いていた場合に、これが成年年齢の引下げに伴って十八歳になってしまわないかといったような質問等があったかと思うんですけれども、この点、私余り心配していませんで、というのは、当時の意思を合理的に解釈すれば、それは二十歳だろうと思われると思いますので、その点は余り心配していませんし、もしもその合意が調停やあるいは審判という形であったならば、強制力があるわけですので、単純な思い込みで十八歳だというのはなかなかしんどいかなというふうに思うんです。
そうではなくて、私が心配するのは、成年年齢が引き下げられるということになりましたら、そのような法改正を理由として、事情に変更があったと考えて、成年年齢の引下げに伴って養育費の終期を十八歳にしてくれと、そういった非監護親が出てくるのではないかなというふうに思うのです。あるいは、ある程度期間がたって、十八歳というのが大人だということはもう常識になったではないかと、だから、法改正からも時間もたっているし、社会常識にもなったし、やはりこれは十八歳に引き下げてくれと、そういう話になってくるのではないかなと。
養育費というのは未成熟子という話でしたけれども、未就学児、例えば五歳とか四歳で取り決めた後もずっとその金額払われるということが往々にしてありますので、五年、十年たって、やっぱりもう今だったらこれは十八にしてほしいんだというようなことを申し出て、裁判所に言ってくる方も出てくるのではないかなと、そちらの方を私は危惧しています。
もちろん、収入の増減とか、いろいろとそういった事情に変更があれば、養育費についていろいろと変更してほしいというお話はあるわけですので、今申し上げたように十八歳に繰り上げてほしいというのもあれば、逆に二十二歳に繰り下げてほしいということもあったりするわけですけれども、なかなか、実は養育費を決めるというのは、まあ離婚に伴うことが多いと思いますけれども、離婚は人生のイベントとしてはかなりエネルギーを使うイベントでして、あのエネルギーをもう一度使ってやろうという気になる方はなかなかいらっしゃらない。そうしますと、私の依頼者でも、養育費をまた上げてほしいんだというような、大学に進学するので上げてほしいといった相談があっても、実際にそれを調停や審判まで運ぶという方は実際には少ないなと、そう思っていますので、先ほどもお話ししましたけれども、幼年期に五歳とか四歳とか決めた金額がずっと行くというのが実は養育費であったりするのかなと、ちょっと話が横にそれてしまいましたけれども、思っています。
いずれにしても、そういった状況ですと、成年年齢引下げ後には、いずれ裁判所の方も、そういった事情変更があったから、養育費の終期については二十歳と決めたけれども十八歳に繰り上げましょうという裁判例が出てきてもおかしくはないのではないかなと私は思っています。
法務大臣の答弁では、そのような懸念についてはいろいろと周知を図ると、成年年齢の引下げというものが養育費の支払期間の終期を早めるものではないといったような答弁があったと思うんですけれども、なかなか実務は、そのようなことは明文がないと難しいなと思われますので、そういったことを何らかの形として残しておく必要があるのではないかなというふうに思っています。
二点目に、与える影響の二点目ですけれども、大学の学費のお話をしたいと思います。
こちらは、先ほどお話ししたとおり、同意があれば、それはもちろん、非監護親が同意していれば大学の学費についても分担されるわけですから、その点は成年年齢の引下げというのは特に影響ないかなと思うんですけれども、そうではなくて、非監護親の方は同意がないという場合は、これは特に夫婦間の葛藤が高い場合にはなかなかそういう連絡を取って同意してもらうということは難しいと思いますけれども、そうすると、実際には同意が得られないので、じゃ、大学の学費についてはどう分担してもらうかというと、それはもう親の経歴とか収入とかいろんなことを総合考慮して、これは分担してもらおうということになるわけですけれども。
ただ、そうはいっても、成年年齢が引き下げられれば、大学生で未成年者というカテゴリーが消えてしまうわけですね。そうすると、そもそも大学に行くというのは、これは成年になった者が行くところなんだと、そして、おとといだったかと思いますけれども、参考人の回答の中にも、大学に行くというのは、本来的には自立するんだったら、それはもう経済的にも自立して自分のお金で行くんだというようなお話があったかと思うんですけれども、そういったような社会意識というものが醸成されていきますと、結局、裁判所としても、学費というのはそれは自分で稼ぐのだというような意識になっていくわけで、そうすると、総合考慮して学費の分担をさせるといっても、かなりそれはケースとしては限定されていくのではないかなというふうに思います。
したがって、支払終期が早まるだけではなくて、大学の学費を分担するということも、これも養育費としてはなかなか難しくなってくるんだろうなというふうに思っているところです。
したがって、大学に進学するということについては、自らの力で何とかしてお金を調達するなり、あるいは監護親、つまり一人親の場合の親の方ですけれども、実際の監護をしている親がそれなりに裕福であるといった、何らかのそういう経済的な状況がないと難しいだろうと。実際、働きながら大学に通うということもできないわけではないと思いますけれども、それで学業に集中できるとはとても思えません。実際、破綻して破産の相談を受けたことは一件、二件ではありません。
そうすると、こういったことに対してどのように対処していくのかということが、成年年齢の引下げに伴って、特に養育費との関係で立法政策として期待されるところではないかなというふうに私は思っているところです。
私の話は以上となります。御清聴ありがとうございました。