山田久の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(山田久君) 山田でございます。本日は、大変貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
私の方からは、裁量労働制と高度プロフェッショナル制度に焦点を当てながら、労働時間規制見直しを中心とした働き方改革の在り方についての意見を述べさせていただきます。
まず、そもそも今なぜ働き方改革かということに関して、二つの大きな背景があるというふうに考えてございます。
第一は、日本が人口動態の大きな変化に対応しなければならないということかと思います。従来は中核的な労働力と考えられてきた男性の現役世代の数が大幅に減少し、更にこれが見込まれております。そういう中で、女性、さらにはシニアといった多様な属性の人々の活躍の機会を増やしていく必要がある、そういう中で、育児や介護など生活上の必要から労働時間に制約のある方々が増えてくるということで、そういう中で残業時間の削減、それから柔軟な働き方、この二つが大変重要な課題になっているということかと思います。
もう一つは、産業の方の変化ですけれども、ビジネスモデルの在り方の大きな転換が求められているということです。労働力が持続的に減少していることによって、いわゆる労働集約的な薄利多売型のビジネスモデルというのは限界に近づいてきております。一方で、知識集約的な高収益型のモデルへのシフトというのが必要になってきているわけです。そういう中では、働く人々がめり張りを付けて働いて、いわゆる余暇時間を有効に使い、自己研さんあるいは人的な交流などに使うことによって、生き生きと働いていく中で知的生産性を高めるということが必要になっている。この大きな二つが背景にあるということかと思います。
そういう中でいいますと、まさにその労働時間全体の縮減と高い生産性の両立ということが求められているわけですけれども、そういう意味ではヨーロッパの働き方というのは大きな参考になると思います。そういう文脈の中で、今回の労働時間制度の見直しに関しましては一つの大きな柱が残業上限の設定ということで、これ自体はまさにヨーロッパの文脈であり、高く評価されると思います。
ただ、これに関して一点申し添えたいのは、人材育成の在り方を見直していくということが重要だということです。と申しますのも、ヨーロッパでは学校教育に実務能力が身に付くプログラムがある意味ビルトインされているわけです。このため、労働時間が短くとも効率的に人材が育つ仕組みがあるわけですけれども、日本の場合は、これまではそういう仕組みが十分整わず、言わば企業内でのOJT、職場内での訓練ですね、これが基本で、仕事と育成が一体化してきたという部分があったと思います。
これが大きな問題の根源にもあったわけですけれども、ただ、単純に労働時間を機械的に短くするということはこれは必要なんですけれども、一方で、人材育成を新たにやはりやり方を考えていかないと駄目だ、これに関して、各企業がいろいろ工夫をすると同時に、政策的な支援も必要ではないかなというふうに考えております。あるいは、ヨーロッパを参考にした産学連携による人材育成の仕組みを強化する必要もあるかと思います。
続きまして、裁量労働制に関して意見を述べたいと思います。
冒頭申し上げましたように、日本経済というのは産業構造の知識集約化という大きなうねりの中にあるわけですけれども、そういう中では、いわゆる創造的なホワイトカラー業務というのが重要になってきております。そこの分野では、必ずしも労働時間の投入とそれによる成果が連動しないということがあると思います。現状の労働時間規制の基本的な仕組みを前提にしますと、言わば必ずしも生産性が高くない、結果として長く働く人の方が、生産性が高くめり張りを付けて短く働く人よりも給料が多くなるという、ある意味矛盾が生じるという側面もあるかと思います。
一方で、生活サイドのニーズもあるということかと思います。家族形態が多様化し、子育てや介護を始め生活上の様々な制約から、業務時間と生活時間を柔軟に自ら設定していくという仕組みのニーズが高まっているというものもあると思います。
そういう意味では、私自身は裁量労働制の制度そのものは必要な制度ではないかと。ただし、問題は、これが適正に運用が行われるか、ここに関しては様々な課題が残っているというのが実態かと思います。
具体的に言いますと、そのところに二点書いておりますけれども、一点は、制度が想定しているのは裁量性の高い労働者のみに限定するということなんですけれども、これが今必ずしもそういう状況になっていない。これがきちんと適用されるかという課題があります。もう一点は、過重労働を防止するやはり有効な健康確保の措置、これも十分に講じられているのか。この二点においてやっぱりまだ様々な課題が残っているということかと思います。
第一点の問題に関しましてもう少し詳しく申し上げますと、本来適用できない裁量性の低い労働者に濫用しているというケースがこれは見られるわけですけれども、これはある意味論外ということかと思います。ただ、裁量性の有無の判断は実務的に難しい面もあるというのも事実かと思います。この点に関しましては、その裁量性というものを二つの軸で分けて考える必要があるんじゃないか。それは、仕事の手順の裁量性ということと仕事の量の裁量性、この二点を分けて考えるというのが重要かと思います。
ある意味、手順も仕事の量も自ら働き手が裁量性があって決めるケースは、ある意味これは大きな問題ではないんですけれども、現実には、手順は確かに裁量性があるんですけれども量がコントロールできないというケースが往々にしてある。ここに関しては、やはりそれを適正に制御する仕組みを導入するということが必要かと思います。
そういう面から、今回提出予定であった、結果として取下げとなったということかと思いますけれども、この改正案でも、例えば少なくとも三年以上の勤務が必要であるということを明確化するといった一定の改善策が盛り込まれていたということは、これはそれなりの評価があっていいかなと思います。
ただ、制度が想定する裁量性の高い労働者のみにきちんと適用されるかは、なお漠然としているというふうな印象を私自身は持っております。先ほど言いましたように、手順の裁量性はあるんだけれども仕事量の裁量性がないという場合のこの適正運用を担保する仕組みの導入が極めて重要かと思います。
具体的に言いますと、これは労働政策研究・研修機構の研究員の方が分析をしているわけですけれども、そういう裁量性の、手順上はあるんですけれども業務量の裁量性が乏しいタイプには二通りある。一つは、結局上司が業務量を決めているというケースですね。もう一つは、お客さんの、顧客の都合で結果としてその業務量が決められているケース。この二つに関しましては、やはり一定の歯止めを掛けていかなければ適正な運用ができないということかと思います。
まあ一つのアイデアとしては、最初のケースに関しましては、すなわち上司が業務量を決めているケースには、きちんと労働者の方から業務量のコントロールに関しての声がきちんと反映される仕組みですね、これをしっかり確保していくということが必要だと思います。それから、お客さんの都合で決められるケースというのは、むしろ上司が適切にコントロールして、間に入って、お客さんとの間に入って調整をしていく、そういう仕組みをやはりきっちり導入していく、こういう部分を何らかの形でしっかりワークしていくような仕組みを考えていくということが必要条件ということになってくるんだと思います。
一方、もう一点の過重労働を防止する有効な健康確保の仕組みということでいいますと、これが必要なのは、本来は、本当の意味で裁量性があれば労働者の自由度に任せるということなのかもしれませんけれども、日本の特徴として、多くの職場で実態的には長時間労働がある意味習慣になっているわけですね。ですから、この部分をやはり何らかの形で歯止めを掛けないと、結果として過重労働の問題が起こるということかと思います。
そういう意味では、今回の提出予定であった改正案でも、例えば客観的な方法とその他適切な方法により労働時間を把握するというようなこともあって、その辺の改善策が盛り込まれていることはあるんですけれども、ざっと見まして、後ほども見ます高プロ制度、高度プロフェッショナル制度に比べても、やや今の状況では不明瞭という印象を持っております。やはりその最低ラインとして、高度プロフェッショナルというのが後ほど見ますところにもありますし、さらには、特に先ほど申し上げてきました手順の裁量性があっても量の裁量性がないケースには、具体的にはいわゆるインターバル規制とか絶対上限の規制ですね、どちらかを少なくとも導入するという、この辺りを義務付けをしていくというのは必要なのではないかなというふうな考えを持ってございます。
続きまして、高度プロフェッショナル制度に関しましての意見を申し述べさせていただきます。
これに関しましても、先ほど申し上げましたように、制度そのものの妥当性というよりも、やはり適正運用の二つのハードル、これが重要なんだと思います。
ただ、この高度プロフェッショナル制度に関しましては、ある意味、労働基準法の適用除外という制度ですので、裁量労働制に比べても、例えば深夜労働とか休日労働に対する割増し賃金制がないということで、かなりそういう意味ではしっかりしたコントロール、管理というのが必要かと思います。一言で言いますと、個人として労使、本当の意味で対等の立場に立つバーゲニングパワーのある労働者に限定されるべきというのが前提だと思います。
そういう視点から見ると、今回、考え方としては、高度の専門的知識等を必要とし、時間と成果との関係性が高くないもののうち政府が定める業務というふうにした上で、労政審の報告では、金融商品の開発業務、ディーリング業務、アナリスト、コンサルタント等々が想定されているということで、さらには年収要件等も想定されるということであります。
これはいろいろ議論があると思いますけれども、一応一定の労働市場が存在する分野であり、年収が一定以上ということを見ますと、いざとなれば転職という対抗手段を基本的には持っている人たちなのではないか。そういう意味では、改めて法律が成立したという前提に立ったときに、もう一度労働政策審議会において精査が必要ですけれども、まあ、差し当たり今想定されているのは、それなりの趣旨に合った形の妥当なものかなというふうに一応考えております。ただ、もう一度これを改めて精査していくことは必要かと思います。
健康管理措置に関しましては、高度に、もうまさにプロフェッショナルな、そのままの方ですと今の前提のままでいいかと思いますけれども、措置のままでいいと思いますけれども、ただ、いわゆるこの精査の中で、例えば転職という対抗手段が小さい人たち、あるいは仕事量の裁量性が相対的に低いというふうに、これが本来、この制度の導入で考えられております労使委員会の方がしっかりと精査した上で、そういう相対的なまだ疑念が残るケースの場合にはインターバル規制とか上限規制を義務付けるという、そういう補正も考えることは必要なのかなと、そういうふうに考えております。
最後に、働き方改革全体への、今回の特に裁量労働制とか高度プロフェッショナル制度の位置付けということに関して少し意見を申し上げたいと思います。
大きな流れでいいますと、日本経済の発展のためには知識労働者を増やしていくということが必要であり、その過程では、本来の意味での裁量労働制とか高プロ制度が適用されるような、そういう労働者のタイプの割合が増えていくこと自体は望ましいと思います。ただし、日本の場合は、現実にはそういう人たちがそれほど多くないというのが実情かと思います。
資料の方に図表が載っております。これは、いわゆる先進国の主要なところで、労働生産性の水準と専門的・技術的職業の人の割合なんです、を見ているんですけれども、全体で見ると、やはりその専門的・技術的な職業の方の割合が高いほど生産性高いんですけれども、日本の方は非常に低いということであります。ですから、やはりこういう専門的・技術的職業の人たちを増やしていくような全体の改革ということも必要なのではないか。それはまさに日本特有の就社型の働き方ということと関係があるわけで、ある意味そういう、職務が曖昧な形ではなくて、仕事が明確で、その結果として仕事の量がコントロールしやすい方々を増やしていく、そういう全体の労働市場改革との関わりということを考えていく必要がある。
もう一つは、今回の実の問題は、いわゆる集団的労使関係が必ずしも十分にワークしていないんじゃないかなということとも関係がしているんだと思います。形の上では、これは労使協約あるいは労使委員会の中でしっかりとルールを決めるということになっているんですけれども、そこが今の段階では必ずしも十分ではない面がある。そういう意味では、本来の意味での集団的労使関係をしっかり再建していくような取組ということを別途進めることが重要になっていると、そういうふうに考えております。
以上、私の意見でございます。
どうもありがとうございました。