中原のり子の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(中原のり子君) それでは、貴重なお時間を頂戴して、ありがとうございます。東京過労死を考える家族の会、中原のり子と申します。
私の方からは、高度プロフェッショナル制度の取下げについての発言をさせていただきます。
今日、こちら、随行に来ている者も含めて、私たちは働き過ぎなどの業務が原因で大切な家族を失いました。また、長時間労働やパワハラで体調を崩している仲間もいます。その悲しみを越えて、悲劇が繰り返さないことを願う仲間たちです。
政府が進めようとする働き方改革において、不誠実なデータが象徴するように多くの問題点が明らかになり、裁量労働制の拡大は取り下げられました。裁量労働における時間外労働が一般労働の時間外労働より長いことは、家族を失った私たちの目には一目瞭然です。あってはならない過労死を根絶するためには、労働者の命や健康を守り、安心で安全な生活を保障し、企業と労働者が納得する生産性の向上を目的に、共に考え、手を携える必要があると考えます。
まず、労働時間の上限規制は当然としても、上限がなぜ月百時間なのか、私は理解ができません。厚生労働省の過労死と労災補償状況に関するデータによれば、脳・心臓疾患に関わる支給決定件数の半数以上は月百時間未満の時間外労働で起きています。人が死ぬ可能性が高い長時間の時間外労働を上限とするのは、ある程度人が死んでも残業代を支払わない方が企業に好都合なのでしょうか。過労死の合法化の上限設定には強く反対します。
さらに、除外業種、職種が広範囲に存在しているのも大きな問題です。建設、運輸、医師、研究開発、教師、とりわけ長時間労働による過労死が問題になっています。労基法の例外をつくり残業代ゼロにすれば、長時間労働に歯止めが掛からず、過労死が増え、人が死にます。二月下旬に面会した加藤厚労大臣にも私は裁量労働制と高プロのセット削除を強く求めましたが、なぜ裁量労働だけを削除としたのか、その理由も報告も私には届いておりません。
また、安倍総理は、電通遺族、高橋幸美さんとの面談の際に、長時間労働の是正を是非実効性のあるものにと訴える高橋さんに対し、何としてでもやりますよと応じています。施政方針演説でもまつりさんの死に言及し、二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で長時間労働の是正に取り組むと述べています。二月二十八日の院内集会では、高橋さんは再度、高プロの撤回を強く求めます、過労死を増やす法律、人の命を奪う法律はやめてください、過労死をなくし、人の命を守る法律を作ってくださいと発言されました。約束は守ってほしいです。高プロ制のような過労死促進法を強行するのは過労死遺族に対する裏切りです。
国会議員の皆様、どうか高橋さんや私の言葉に耳を傾けてください。働き方改革という名の下に、人の命を奪う、過労死を増やす法律を強行するのはやめてください。私たち遺族は、三十年も前から過労死防止の声を上げ続けています。あと何人犠牲者が出たら皆さんに分かっていただけるのでしょうか。一日の上限時間、インターバル規制、健康確保措置の全てが整っていない究極の労働時間規制撤廃制度を社会に送り出すことはやめてください。
高度プロフェッショナル労働制は、スーパー裁量労働制、つまり残業代ゼロの最たるものです。裁量労働制だけを削除して高プロ制を削除しないのは矛盾であり、絶対に認められません。裁量労働制の被災者は、会社による時間管理がなされていないため、労災認定が困難です。認定を得なければ社会的支援も受けられません。多くの裁量労働制の被災者が国から救済されず、泣き寝入りを強いられているのです。その上を行く強烈なスーパー裁量労働制、すなわち高プロ制が施行されたら、更に多くの被害者の涙と悲鳴が積み上がることは間違いありません。
以下、高プロの問題点を挙げます。
一つ目、高プロ制は、時間外規制を外し、時間外、休日、深夜を含め、残業という概念自体をなくすものです。これは、第一次安倍内閣のときの残業代ゼロ法案として強い社会批判を受け、国会提出が見送られたホワイトカラーエグゼンプション法案の焼き直しです。
二、高プロ制は時間ではなく成果で支払うと言われていますが、これは間違いです。あらかじめ決められた額しか支給しない固定賃金制度です。
三、対象業務が定まっていません。ディーラー、アナリスト、コンサルタントなどが例示されていますが、法律が一度成立されたら、国会審議を経ずにも簡単に広がる危険性が大きいです。現在過労死などが多発しているIT産業のSEなども対象になる可能性があります。
四、年収要件の切下げの危険があります。年収一千七十五万という一部の高所得者だけが対象と言われますが、それは最初だけです。実際、塩崎前厚労大臣は小さく産んで大きく育てると発言されていますし、以前、経団連は、ホワイトカラーエグゼンプション、残業代ゼロ制度のときには年収四百万円以上が望ましいと発言していました。高プロ制が万一今回導入されたら、あっという間に年収要件が引き下げられるのは明らかです。そもそも、高収入であれば過労死ラインを超えて働かせることができる理由には決してなりません。高収入であれば過労死しても構わないはずがありません。
五、長時間労働から発生する健康悪化の歯止めがありません。政府は、長時間労働の懸念を否定できないために新たに健康確保措置という言葉を出していますが、今年の一月に新潟で起きた過労死事案は、保健師に相談した翌日に亡くなっています。健康確保の時間数設定は過労死防止の歯止めにはなっていません。
六、高度の専門職という規定では、三十代、四十代、五十代の働き盛りの専門職、管理的職業従事者が該当します。この年齢層のホワイトカラーでは過労死と過労自殺が多発している実態があります。
私の夫、中原利郎は、都内の民間病院に勤務する小児科医師でした。十九年前、一九九九年に長時間労働、過重労働が原因でうつ病を発症し、勤務先の屋上から投身自殺しました。享年四十四歳でした。
十一年の裁判終了後、死んでからでは遅過ぎる、労働者の命や健康を守るのは政府にも責任があるはずと思い立ち、過労死防止法制定に尽力しました。二〇一四年六月二十日に過労死等防止対策推進法が全会一致で制定されたときには、ようやく過労死をなくす活動に踏み込めると思いました。
しかし、その僅か四日後に、裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル労働制を盛り込んだ文書が閣議決定されて、私の夫は高プロ制を先取りしたような働き方をして亡くなったことが分かりました。高プロ制には人が亡くなるわながあると気付きました。
医師は高プロ制の対象業務として想定していないといっても、その働き方はまさしく、残業代なし、勤務時間無制限の高プロ制先取りの勤務体系でした。亡くなる前には、愚痴などこぼさない夫が、馬車馬のように働かされている、病院に搾取されている、病院に殺されるとつぶやいていました。小児科医は天職と自負していた夫が、小児科医師なんて誰からも感謝されない、くだらない職業だと言い残し、社会に絶望して亡くなりました。しかし、中原先生が部長になって売上げが上がりました、葬儀委員長だった院長の挨拶に、私は愕然としました。ベッドの稼働率を上げ、成果を上げ、病院に尽くした代わりに命を落としたのです。
そもそも、超長時間労働と果てしなく成果を求め続けられる働き方をすることで、高度のプロの仕事が果たせるのでしょうか。健康確保措置は効くのでしょうか。医師の面談といっても、医師の働き方そのものが過労死ラインを超えての超過重労働です。小児科医師だった夫の健康を確保する手だてはありませんでした。院内で働く医師たちは、それぞれ自分のことで目いっぱいでした。高プロ制の働き方では、人は過労死します。長時間労働は、過労事故死、業務上のミス、医療者でしたら重大な医療事故、それから過労死、過労自殺を生み出す最悪の働き方です。
皆さんおなじみの詩があるので、ちょっと聞いてください。
僕の夢
大きくなったらぼくは博士になりたい
そしてドラえもんに出てくるような
タイムマシンを作る
ぼくはタイムマシンに乗って
お父さんの死んでしまう前の日に行く
そして仕事に行ったらあかんて言うんや
大きくなってもぼくは忘れはしないよ
得意な顔して作ってくれた
パパ焼きそばの味を
ぼくはタイムマシンに乗って
お母さんと一緒に助けに行こう
そして仕事で死んだらあかんて言うんや
仕事のための命じゃなくて
命のための仕事だとぼくは伝えたい
だから仕事で死んだらあかんて言うんや
これは、マーくんという子が、小学校一年生のときに、父親を就学前に亡くして書かれた詩ですので、皆様も聞いたこと、読んだことがあるかもしれません。こういった遺児を出さないということも大切な仕事なんじゃないでしょうか。
我が家の場合では、高校三年生のとき被災した長女は、医者にだけはなるなと言い続けていた父親の言葉に背いて、今小児科医になり、夢中で父親の後ろ姿を追い続けています。反抗期真っ盛りの十五歳だった長男は、今三十四歳になっていますが、世界中で尊敬できる人間はおやじ一人だけ、もっと話をしたかったとつぶやきます。十二歳だった末の息子は、父親と同じように大のサッカーファン。ワールドカップの試合を見ながら、一緒にこのゲームを見れたらよかったのにな、ばかだな。父親に触れた発言は十九年間の中でそのたった一回、その言葉だけです。それぞれに心の傷は癒えません。これからも一生消えない悲しみを胸に秘めて過ごすのでしょう。こんなに苦しい思いをするのはもう私たちだけでやめていただきたいのです。
裁量労働の拡大や高度プロフェッショナル制度の新設が過労死を促進することは、これまでの議論で十分はっきりしました。政府には、法案提出は取り下げていただき、是非、過労死の促進ではなく、過労死を防止するためのより具体的で実効性のある対策を議論することに時間を費やしていただきたいということを強く申入れいたします。
御清聴ありがとうございました。