八木信行の発言 (農林水産委員会)
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○八木参考人 議長、ありがとうございます。東京大学の八木信行です。
まず、今回の水産政策見直しには、私は賛成をしております。自国の水産政策を定期的に見直すのは国際的にも普通の行為で、例えばアメリカはマグナソン・スティーブンス漁業保存管理法を、またEUも共通漁業政策を、それぞれ何年か一度改定をいたします。この過程で政策課題が再認識され、関係者がお互いの考えを理解し合うというプロセスが生じます。今回の法律案をめぐっても、既に衆議院本会議などで議論がなされておりますが、実に有益な議論がなされていると感じております。
二〇〇九年にノーベル経済学賞を受賞した米国インディアナ大学のオストロム教授は、地域の当事者が自主的な努力で資源を管理し、百年以上にわたりその保全に成功している例が世界じゅうに多数存在すると述べております。日本の沿岸漁業もこの一例であると私は考えます。実際、日本の沿岸では、何世紀にもわたり積み上げられてきた知識や技術、また社会的な基盤の存在が今でも重要な役割を果たしております。今回の水産の改革でも、このような基盤を尊重し、有効に活用することが重要です。
沿岸漁業における日本の伝統的な管理制度は、漁業権です。
漁業権制度は、資源を利用する者に対して政府が利用権を与えるかわりに、資源の利用者が保全の責任を負う仕組みです。これは江戸時代から続いてきた日本のお家芸とも言える管理の方式です。
日本近海は、世界の中でも生物多様性が高い海域であり、漁獲される魚の種類も多種多様です。また、漁船の数や水揚げ港の数も多く、小規模な漁業が日本の漁業の九割以上を占めている特徴があります。これらを適切に管理するために、日本では、官民が一体となった共同管理、英語でいうコマネジメントを伝統的に行っています。
外国では、政府が号令をかけても漁業者がルールを守らないという問題も指摘されていますが、日本のように、漁業者が参加する形でルールを設定し、これが当たり前のように守られているということは、欧米の研究者からも高い評価を受けています。この中心に漁業法が存在しているとの点は、本日御出席の皆様の間でも共通の理解があると考えます。
今回の法案は、基本的に従来の漁業法の根幹を維持しながらも、現代社会で必要な改良を施し、また法律としてもわかりやすい形に整理されています。したがって、私は、今回の法案でも重要な仕組みは維持されていると考えます。
今回の法律案では、船舶ごとの漁獲割当てが国の制度として新しく設定されることになっています。これは、欧米各国でIQと呼ばれ、既に採用されている仕組みです。日本でも既に、遠洋のマグロ漁業や日本海のベニズワイ漁業などで業界の自主的な取組として先行的に実施されている例があります。このように、準備が整った漁業種からIQを設定することは一定の合理性があると考えます。また、IQを導入した大臣許可漁業は、船舶の数やトン数制限などを撤廃し、より効率的な漁業が行えるようにしている点も、この漁業の国際競争力を上げる上で重要な改正であると思います。
ただし、法律を運用する段階では、IQ設定について、準備の整った状態かどうかを判断する基準を明確化させる必要があると考えます。例えば、管理区分に所属する漁業者の八五%が賛成しているなどのことをもって準備が整った状態とするといった具体的な指針を今後国が示すことも求められていくでしょう。
また、諸外国の中には、IQを市場で売買対象とする制度の国もあります。これを、譲渡可能個別割当て制度、ITQと呼びます。平成二十六年に水産庁が設定した資源管理のあり方検討会では、譲渡性を付与しないとの前提のもとで、更に導入拡大の可能性を検討すべきと結論づけています。その一方、ITQについては、時期尚早との結論になりました。
ITQは、国際的にも賛否両論があります。この反対意見は、資本力のある一部の漁業者に割当て量が集中してしまい、社会的な公平性が損なわれるというものです。一方で、賛成派は、経済効率性が向上するとの主張です。諸外国も、この両者、すなわち社会的公平性と経済効率の双方のバランスをどう扱うかで頭を悩ませている実態があります。
今回の日本の法律案では、漁獲割当て割合は、国や都道府県の許可を得た上で、船舶等とともに譲渡が可能になっております。市場で自由に売り買いできないという意味で、ITQではないと言えます。社会的公平性と経済効率の双方のバランスを保つことができる仕組みであろうと考えております。
最後に、この点を明確にしておかないと加瀬参考人、佐野参考人が納得しないと思われる点について触れておきたいと思います。
二〇〇七年から、水産の改革をマスコミなどに対してアピールする数人のグループによる活動が顕著化しました。そして、沿岸漁場を使用している漁業者の既得権益を見直して民間企業を参入させれば浜は復活するであるとか、漁業が衰退している原因は乱獲で日本周辺の水産資源が枯渇したからで、資源管理をしっかり行えば漁業は復活するであろうといった主張がなされてきています。
しかし、このような主張は、裏づけとなる学術論文はありませんし、全体のごく一部をクローズアップして全体に引き伸ばして議論するような無理な筋書きになっていると私は考えます。
加瀬参考人、佐野参考人も、彼らの主張には強い調子で反論されていることを私も承知しています。今回の漁業法等の一部を改正する法律案が、このグループが行っている主張を取り入れたものであれば、多数の研究者の代表として最後まで反対しなければならないと加瀬参考人、佐野参考人はお考えになっているかもしれません。
しかし、実際は、今回の法律案は、今話題となっているグループは一切関与しない状況で作成されています。この点は、私は水産庁にも確認しました。そして、私は、このグループとは異なる立場から、今回の法律案を支持しています。
彼らの論調では、現在の日本の水産業を否定して、新しい仕組みを提案する傾向が見てとれます。しかし、私は、現状の日本の水産業を肯定して、よい部分を生かしながら新しい取組を導入すべきと考えています。これは、先ほどオストロム教授の話を紹介する際にも述べたとおりです。
更に言えば、現在、世界各国で水産政策の改革が議論されていますが、自国の沿岸漁業者を切り捨てて全く新しいものに切りかえるような方針の国など、世界じゅうのどこにもありません。
国連食糧農業機関は、二〇一四年に、持続可能な小規模漁業を保障するガイドラインを合意しました。私は、このテキストの作成者の一人です。ガイドラインは、経済が発展する中で経済の縁辺に押しやられる小規模漁業者の権利をどう保障するのかを重視しています。このように、国際的には、小規模漁業者が社会で果たしている役割を改めて見直し、尊重する傾向があります。
今回の法律案は、このガイドラインにも沿った形で、今までの否定ではなく、従来の漁業者が果たしてきた役割を尊重しながら新しい要素を取り入れるものになっていると私は考えます。
次に、日本の漁業は世界の中でひとり負け、これは乱獲で周辺の水産資源が枯渇したからで、資源管理をしっかり行えば漁業は復活するであろうといった話がどうなのかという部分にも触れておきます。
まず、日本の漁業が世界の中でひとり負けしているという部分は事実に反します。
確かに、近年、日本の漁獲量はピーク時の三割台の水準に落ち込んでいます。しかし、同じように、最近の漁獲量は、ドイツはピーク時の二割台、イタリアもピーク時の三割台に落ち込んでいます。漁業が盛んなフランスやスペインでもピーク時の六割台、ノルウェーでも現在はピーク時の七割台という状況です。その一方で、中国は倍々ゲームで生産量をふやしました。
つまり、水産で日本が世界の中でひとり負けしているという解釈は間違いであり、むしろ中国がひとり勝ちしているのです。
先進国で漁業生産が減少しているのは、労働人口が一次産業から二次産業、三次産業へシフトした要因がきいています。生産者が減ったために生産量が減っているという構図です。これは農業も同じ構図です。また、米と同様に、近年、水産物も消費者離れが起こっています。日本への水産物輸入品も近年減少していることも、この水産物需要の減少を裏づけています。つまり、水産物の消費が減退したために、生産量が減少している部分があるのです。
確かに、一部の沖合漁業などでは新技術導入により漁船能力が増大しており、資源管理がより重要になっているという点はそのとおりです。しかしながら、総合して考えますと、水産物の生産量が減ったのは、市場での需要の減少、産業構造の変化など、水産資源管理とは別の要因も相当きいていると言えるでしょう。
漁業資源管理をノルウェーのようにうまく行えば、魚の水揚げ価格が向上して船員の給料も上がるといった議論もあります。しかし、これも荒唐無稽な話のように思われます。
魚の価格は、需要など市場側の要因で決まります。生産側の管理をしっかりすれば自動的に製品の価格が上がるというものではありません。確かに、魚の場合は資源管理を厳しくして供給を絞れば、需要は逼迫して価格が上がるように思えます。ところが、日本の実際は、輸入品が多く存在し、また畜産物などの代替品も存在するため、それほどうまくはいきません。
そもそも、ノルウェーで船員の給料が高いのは、国民所得が高いからです。国民一人当たりのGDPはノルウェーが八万ドル台で、日本は三万ドル台です。船員の給料もこの差を反映している要素が強いと考えます。
今回の漁業法の改正は、水産の生産面に特化した改革です。しかしながら、これとあわせて、水産物の貿易、加工、流通、消費の側面や、新規労働者の確保などを含めて、十分な対策を予算措置などを用いて行う必要があると考えます。このように総合的な施策を用いることで漁業、漁村を活性化させることが重要と考えます。
時間が参りましたので、私の発言はこれで終了いたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)