加瀬和俊の発言 (農林水産委員会)

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○加瀬参考人 こんにちは、加瀬と申します。よろしくお願いいたします。
 私は、沿岸漁業における漁業権問題、したがって、漁業法改正に絞って意見を述べさせていただきます。
 まず、漁業法改正案の第一の問題点は、第一条で、現行法の二つの目的のうち、漁業の民主化が削除され、漁業法の目的が漁業生産力の発展だけになったことです。
 この理由は、民主化は既に達成されたということのようですが、地元の自然資源を、地元に住み、みずから労働する漁業者が優先的に利用できるという原則を外し、資源がありながら地元漁業者はそれを利用できず、外部の企業が優先的にこれを利用するとなる、戦前型のシステムというものには賛成できません。
 農地改革は小作人に土地の所有権を移しましたから、民主化が達成され、後戻りもできない状態になったと言えますが、同じ時期に実施された漁業制度改革は、海の所有権を地元漁業者に与えたわけではなく、地元漁業者が漁場で操業する権利と企業が漁場を利用する権利とがぶつかった場合には、地元漁業者が優先するという原則を定めたものです。
 したがって、今回の改正で、その点を事実上企業優先に変更するわけですから、それは戦前のシステムに後戻りすることを意味することになります。
 言うまでもなく、私たちは、漁場の全ての利用を地元漁業者優先にせよと言っているわけでは決してありません。日本の漁業が利用している世界の漁場、その中で、日本だけが操業する権利を持っている二百海里漁場、岸辺から約四百キロあるわけですが、その中で、わずかに地先一キロないし三キロという非常に狭い漁業権漁場、その範囲だけは地元漁業者が伝統的に利用してきた漁場なので、地元漁協と協調する形で企業は入ってくださいということが、現漁業法を守りたいと思っている私たちの主張です。
 漁業権の範囲は極めて狭いものです。瀬戸内海では陸地からたった一キロ未満のところが大半で、日本全体でも三キロ以内がほとんどですから、一人乗りの小さな漁船でも五、六分も走れば漁業権のない沖合漁場に出てしまいます。広い沖合漁場は全て企業の参入に開かれており、沿岸漁場を沖合に広げることは沖合漁業との対立をもたらすとして、明治以降、実質的に拡張は禁止をされております。せめて、現在沿岸漁業者が優先的に使用できている沿岸漁場については、地元漁業者が使用する権利を奪わないでいただきたいというのが私どもの主張です。
 これまでは、この民主化条項がありましたので、同じ漁場を企業と漁協が争った場合には、漁協が優先されることによって地元漁業者が操業する権利が守られていたのですが、今後は、こうした優先順位の考え方が廃止されますので、漁協と企業がともに申請できる漁場については知事が裁量的に決定する権限を持ち、その他の漁場については、企業にしか免許が与えられない漁場と、漁協にしか免許が与えられない漁場とに二分される形になってしまいます。
 これまで操業していた漁業者から漁業権を奪うと直接明示的に書いてある条項はありませんが、それは、知事が漁場が適切、有効に利用されていると判定した場合に限られています。法の目的が漁業生産の発展だけに変わりましたから、沿岸漁業者が操業している漁場の水揚げ高が一億円、企業が入ってクロマグロ養殖を行ったら三億円という試算ができるような漁場の場合には、漁業生産の発展が実現できると考えられ、漁協組合員の漁場利用を不適切と知事が判定をすることは十分あり得ることではないかと危惧しております。
 地元漁業者よりも外部の企業に漁場を使わせたいと知事が判断しても、現在の漁業法ではそれは不可能です。地元の漁業者が養殖業を希望し、それを代表して漁協が漁業権を申請すれば、現行法の優先順位の規定によって、漁業権は漁協に免許されるからです。
 これに対して、今回は、企業が養殖業をもっと積極的に実施できるようにするという点が法改正のメーンの目的ですから、新設漁場の大半が初めから企業用として、すなわち個別漁業権として設定されてしまい、漁協は、その漁場部分については申請する権利がなくなることになります。
 民主化条項の廃止にかかわって、海区漁業調整委員の公選制の廃止も重大問題です。
 これまでは、漁場利用、漁業調整等についての県の決定に不満があっても、自分たちが選んだ代表が参加して決めたのだから従わなければならないという理由で漁協、漁業者は納得をしてきましたが、この制度が変更されることによって、納得する根拠を失うことになるからです。知事が知事の提案に賛成することが見込める人だけを選んだ委員会は、漁業者にも漁協にも、公平な組織として受け取られることはなくなると思われます。
 就労機会の乏しい漁村において、地元資源に依拠して生活を成り立たせてきた沿岸漁業者から生存権の最も確実な保障である漁業権を奪うことは、何としても回避していただきたいと切に願っております。
 続いて、第二の論点として、海区漁場計画にかかわる問題を取り上げます。
 その第一の問題は、策定プロセスが曖昧になり、有力企業と行政との癒着が必ず生じる方式になってしまう点です。
 具体的には、漁業法案第六十二条第二項に当たりますが、漁場計画を策定、告示する時点で、それぞれの区画漁業権に漁場の位置、形状、養殖対象物、漁協免許か経営者免許かの別が特定されていなければならないとなっていますし、七十一条では、その内容と異なった申請に免許を与えてはならないと言われています。
 これでは、行政、すなわち知事が、この企業に免許を与えたいと考えた相手に即して、漁場の形状、位置、漁獲対象物、経営者免許であることなどを定める形にならざるを得ません。
 したがって、その意味で、漁場計画ができてから、これが公示されてから、操業したい人たちがそれに申請をし、その中から適切な人が法律の優先順位に従って選ばれるということではなく、漁場計画の策定プロセスにおいて免許権者が事実上決定してしまう、そうなる以外にはないというふうに思われます。
 海区漁場計画にかかわる第二の問題は、法案の解釈に不明の点が多い点です。
 これは、この法案が期限の余裕のない中で少人数で急いでつくられたために起こったことではないかと思われますが、六十三条で、漁場計画のうち、既存の漁場が更新される場合の要件として、次のように書かれています。活用漁業権が団体漁業権であるときは、同一漁業権が団体漁業権として設定されていること、これが要件とされています。六十三条です。
 これを文字どおりにとれば、現在、クロマグロ養殖の大半の漁場は漁協免許になっていますから、その漁場は引き続き漁協免許のままとなるはずであり、企業が操業しているところも漁協免許のままになるということを意味します。新しい方式が適用されるのは、今後拡張される新規漁場についてだけと解釈されます。
 この点について、最初の切りかえ時点である二〇二三年において個別漁業権として設定されるのは、新設される増加漁場だけであるのかどうか、それともクロマグロ養殖の既存漁場を含むのかという点は法案からは非常に読み取れませんので、明確にすべきだと考えます。
 これに関連してですけれども、もし個別漁業権がその時点で認められるとすれば、現在養殖業を営んでいる地元漁業者の中からも、漁協から脱退して、独立した経営者免許への変更を申請する者があらわれることが予想されます。こうした場合に県がどのように対処するのかという点について伺いたいと思います。
 具体的には、一つの沿岸漁場に対する区画漁業権、たった一個の区画漁業権が、その中で二十の法人があれば二十個と、あと八十個の漁業者の区画漁業権とに分かれる形で免許されるということになります。すなわち、一個の区画漁業権が二十一個の区画漁業権になる、そういうふうに解釈していいのかどうかという点を明確にしてもらいたいと思います。
 漁場計画に関する第三の問題は、新水産政策では養殖漁場を積極的に新設することを打ち出していますが、それによって、地元漁業者から失われる、共同漁業権漁場が狭められてしまうことに対して何の補償策もなく、それが過度にわたらないような歯どめの措置や拒否権なども全く考慮されていないことです。
 養殖は、あいている漁場ならどこでも始められるというものではありません。施設が壊れないように、入り江の中の静穏域に限られていますし、しかも、静穏域でありながら潮通しがよいこと、水深が深いこと、大雨でも土砂をかぶることがないこと、漁港に近いことなどなど、さまざまな条件が満たされているところが選択をされています。
 また、企業が参入する場合には、生けすが一つや二つでは採算が合いませんから、組合員が使っている漁場よりもはるかに広い区画が必要になります。そのために、組合員が使っていた刺し網漁場、養殖漁場などを条件のもっと悪いところに移し、広い空きスペースをつくるといった措置が、これまでは企業が参入する際に漁協によって配慮されてきたわけです。
 そうした調整的な措置は、外部企業が漁協の一員となって、組合員と同等の権利と義務を負う形で、それを前提にしてなされてきたわけです。今後は企業体は漁協とは没交渉になってしまいますので、そうした調整は起こり得ず、県行政が企業に漁業権を免許することによって、地元漁業者の漁場を奪う決定をすることになり、両者の対立が決定的になるように思います。
 この点で、水産庁が区画漁業権の設定をただ応援するのではなく、地元の漁業者の側にこれに協議し対抗する措置が何もないという仕組みではなく、例えば、地元漁業者の三分の二が総会決議又は書面によって反対した場合には新規漁場についてはさらなる手続を必要とするといった方式が必要ではないかというふうに考えます。
 最後に、法案百九条から百十六条までの沿岸漁場管理団体について意見を述べます。
 これは、漁協が沿岸域全体の管理の義務と責任、それから権利、これを失うことになる今回の仕組みの中で、資源の保全、産卵場への配慮、藻場の育成、赤潮対策、あるいはレジャー等の利用との調整、こういった漁場全体にかかわる問題を解決する団体がなければ、全て行政が負って解決できなくなってしまうという配慮から出たものだと思いますが、法案によれば、第一に、申請主義をとっていますが、申請する団体がない場合にはどうなるのか。漁協はもうこうしたシステムの中では申請をしなくなると思われますので、申請する団体がない場合どうするのか。二つ目に、複数の団体が申請した場合はどうなるのか。三つ目に、一般社団法人もなれるとありますので、レジャー団体や海洋開発を行う建築会社の団体などがなった場合には、漁業との間で非常に大きな対立ができるような漁場管理のシステムができる可能性がなきにしもあらずだというふうに思われます。
 そうした危惧があることを前提にしますと、この法律は更に現場との対立をなくせるように熟議の必要がある。そういう意味で、早急に成立を急ぐということではなく、現場の状況を十分に把握した上で、長い時間をかけて、七十年というこの法律の期間に匹敵するだけの検討をした上で成立をさせるというのが、成立する場合でも必要になるのではないかというふうに考えます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119705007X00820181126_008

発言者: 加瀬和俊

speaker_id: 11524

日付: 2018-11-26

院: 衆議院

会議名: 農林水産委員会