大坂恵里の発言 (文部科学委員会)
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○大坂参考人 東洋大学の大坂と申します。
本日は、貴重な機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
私は、民法及び環境法を専攻しておりまして、福島原発事故後は、事故賠償問題を中心に研究してまいりました。
お手元の資料に沿って、原賠法改正について意見を述べさせていただきます。
今回の原賠法改正案の趣旨は、簡単にまとめますと、原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会における検討を踏まえ、原子力損害の被害者の保護に万全を期するため、所要の措置を講じると説明されています。
しかしながら、私は、この改正により、将来の原発事故の被害者の保護に万全を期する内容となり得るのか、疑問に思っているところでございます。それぞれの改正事項につきましては、特段の異議はございません。しかしながら、被害者の保護に万全を期するためには、より抜本的な改正が必要だと考えております。
こうした観点から、法案及び専門部会の最終報告書に関しまして、資料では五つの論点を挙げさせていただきました。
一、専門部会の審議過程において、東電福島原発事故の被害実態は適切に把握されたか。二、原賠法の目的に、原子力事業の健全な発達に資するということはなお必要か。三、原子力事業者への責任集中及び求償権の制限は必要か。四、原子力事業者の無限責任の維持は支持しますが、損害賠償措置額は千二百億円のままで十分か。五、現行の被害者救済手続の問題、特に原発ADRをめぐる問題が見過ごされてはいないか。
以下では、二つ目の原賠法の目的と、五つ目の被害者救済手続がおおむね現状維持されたことにつきまして、補足の意見を言わせていただきます。
二ページ目の二番をごらんください。
現行の原賠法には、目的が二つあります。一つは被害者の保護、もう一つは原子力事業の健全な発展に資することです。
原賠法は、不法行為の特則と位置づけられておりますが、不法行為法の主たる目的が被害者の受けた損害の填補であることは一般に認識されていることであります。
不法行為に関する特別法には、目的の中に、被害者の保護に加えて、何らかの健全な発達や発展に資することをうたうものがございます。ただ、原賠法のように、特定の事業の健全な発達に資するということをうたっているものはございません。
原賠法が、日本が原子力開発を再開するに当たって、原子力関連法の一つとして制定されたという事情におきましては、その目的に被害者保護と原子力事業の健全な発達が併記されたということについては理解できます。
しかしながら、原子力開発の黎明期をとうに過ぎ、そして未曽有の被害をもたらした東電福島原発事故を経て、なお原子力事業だけを特別視し続ける扱いにつきまして、私は合理的な説明があるか疑問に思っております。
この点、専門部会の最終報告書は、原子力事業の健全な発達を残すことにつきまして、原子力事業者が適切な賠償を行い、被害者の保護を確実に行うためには、原子力事業者の予見可能性の確保と事業の円滑な運営にも留意する必要があると説明しております。
しかしながら、この原子力事業の予見可能性の確保という文言は、専門部会の審議においては、原子力事業者の責任の有限化に関する発言とたびたび結びつけて登場しておりました。
私は、事故抑止の観点などから、原子力事業者の無限責任が維持されるということには強く賛成をしております。しかし、原子力事業の健全な発達が原賠法の目的に掲げられている限りは、原子力事業者の予見可能性の確保のための責任の有限化の議論が今後再燃するのではないかと懸念しております。
原子力事業の健全な発展は、原子力利用を推進する原子力基本法そのほかの関連法令において語られるのはともかくとしまして、原賠法の目的として、被害者保護と並列的に語られるべきではないというふうに思っております。
原賠法の目的に関する意見は、以上です。
次に、三ページの五、被害者救済手続に関して補足意見を述べさせていただきます。
専門委員会の最終報告書は、東電福島原発事故に係る原子力損害賠償が適切に行われているとの評価のもと、原子力損害賠償紛争審査会による指針の策定、和解の仲介、審査会の組織、運営等について現行規定を維持し、原子力損害賠償紛争解決センターについても現行どおりとしております。
しかしながら、先ほど河合参考人もおっしゃっていたように、少なくとも和解の仲介に関しては、現在、適切に行われているとは言いがたい状況になっております。
将来の原発事故被害者が損害賠償を請求する方法は、現行どおりといたしますと、原子力事業者への直接請求、原発ADR、そして訴訟という三ルートになると思われますが、これらは、いずれのルートをとっても、ほかのルートを排除しておりません。
そして、現行の被害者救済手続において、東電は、国の支援を受けるに当たって、原子力損害賠償・廃炉等支援機構と共同で作成する特別事業計画の中で、和解仲介案の尊重を誓っております。
しかしながら、東電は和解案を拒否するという事例が発生しております。東電社員及びその家族からの申立てに関する和解案受諾拒否は以前からございましたが、ことしに入ってから、集団申立てが次々と和解仲介手続を打ち切られるようになっております。浪江町住民の一万五千人による集団申立てにつきましては、多少詳しい経緯を載せておりますが、ほかの集団申立てにつきましても、センターの和解案提示後、東電の再三の受諾拒否に遭い、結局打ち切られるという結果になっております。現在進行中のものとしましては、相馬市玉野地区の集団申立てがございまして、つい先日、やはり東電が和解案の受諾拒否をしております。
これら和解の仲介が成立しなかった被害者に残された道としましては、個別ADRをするか、あるいは訴訟をするか、はたまた諦めるかという選択になりますが、個別ADRを行う場合には、司法アクセスの問題がございます。センターへの申立てのうち弁護士が代理しているものは、二〇一七年末までの全期間合計で三七・六%、約四割にすぎません。訴訟を提起する場合であっても、事故から七年半を過ぎ、気力、体力が残っている被害者は少数であると思われます。実際、昨日、集団申立てが打切りとなった浪江町住民が、今月二十七日に提訴を予定しているというニュースが報道されておりましたが、まずは百人程度で開始するとのことでした。
さらに、資料の四ページに進んでいただきますと、別のADR問題を報じた記事がございます。
昨年、集団訴訟の判決が出始めたあたりから、ADRと裁判と並行して起こしている被害者らに対して、東電がADR手続を留保するようになっております。
こうした対応が続いていけば、センターにも東電が受諾するような内容の和解案を提示するような意向が求められることになりまして、迅速かつ適正な紛争解決を提供するセンターの機能が損なわれていくことになると私は考えております。
改正案では、原子力事業者に損害賠償実施方針の作成、公表を義務づけることとしておりますが、各原子力事業者が損害賠償実施方針の中で和解仲介案の尊重を誓うことにとどまっているのであれば、万が一、将来、原子力事故が起きたときに、同様の問題が起きることが懸念されます。
専門部会の最終報告書では、仲裁手続の導入については将来的な検討課題とするとされておりますが、ほかのADR制度も参考にしつつ、原子力事業者に受諾義務を課すような制度設計を御検討いただければと思います。
今回、改正が急がれているのは、原子力損害賠償補償契約の新規締結及び原子力事業者に対する政府の援助の適用期限の延長が必要だということが大きい理由かと思います。しかしながら、期限は来年の二〇一九年十二月三十一日でございます。ここは、しっかり御審議いただきまして、より実りの多い改正にしていただきたいと思っております。
私の意見は以上でございます。御清聴どうもありがとうございました。