橋本淳司の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(橋本淳司君) おはようございます。
水ジャーナリストの橋本淳司と申します。発言の機会を与えていただいて、大変光栄に存じます。
私は、二十五年間、国内外の水問題を調査してまいりました。世界各地には、水道がないために何時間も掛けて水をくみに行き、教育を受けたり仕事ができないまま貧困から抜け出せない人が大勢います。水不足、水汚染、そして気候変動、二〇五〇年には世界人口の十人に四人が安全な水にアクセスできなくなるという国連の報告もあります。そうした国を見て感じるのは、水は人権であり、自治の基本であるということです。
一九八〇年代後半、トルコは干ばつに苦しむアラブ諸国にパイプラインで水を提供しようとしました。打診された国々は、喉から手が出るほど水が欲しかったんですけれども、安全保障の観点から断りました。シンガポールもマレーシアから水を買っていましたが、あるときマレーシアから水価格を百倍にするという話を受け、現在は下水を再生するなどして水の自給率の向上を図っています。
さて、本日ですが、一つは、水道法案の中からコンセッション方式という法律案を除外していただき、官民連携の強化ということにとどめていただけないか、もう一つは、自治体の水政策改革という点から意見を述べさせていただきます。
世界的には、コンセッション方式はPFIを活用した民営化の一形態と考えられています。諸外国で再公営化をした自治体の多くもコンセッション方式を行っていました。水道法改正案にコンセッションを明記するということは、経験と資金力に秀でた水メジャーを呼び込むことになります。
資料一を御覧ください。
コンセッションと業務委託を比較すると、権限、責任、金の流れが違います。業務委託の場合、自治体に全ての権限と責任があり、水道料金は自治体に入ります。業務のほとんどを委託しても、契約期間は単年度、業務内容は自治体が指示をし、企業側の裁量は業務委託契約の範囲内にとどまり、企業の収入は自治体の委託料です。一方、コンセッションの場合、自治体は管理監督責任が残りますが、運営権、利用権は企業に移り、水道料金は直接企業に支払われます。契約期間は十五年以上の長期にわたり、業務のやり方は企業に任されます。
二ページ目を開けていただくと、海外で水道を再公営化した事例が百八十例ありますが、その多くは企業の業務内容と金の流れが不明瞭になったことに起因しています。多額の役員報酬、株主配当を支払い、水道への投資を行わず、税金も支払わないというケースもありました。よく海外の再公営化した事例は一握りであり多くは民営化を継続しているという指摘もありますけれども、再公営化をやりたくてもできなかったり、コンセッションより自治体の裁量が多いアフェルマージュという方式に切り替えられていたり、長期契約から変化に対応しにくいという理由で五年契約に縮められたりしているケースもあります。
もちろん、この間も自治体は管理監督体制を強化してまいりました。フランスは、一九九三年にサバン法、二〇〇一年にムルセフ法などを定め、企業の事業の透明性を図りましたが、その後も不透明な状況というものは後を絶たず、再公営化の事例は増加しました。
水道を完全民営化しているイングランドにおいては、水道サービスを監視するOFWAT、水質を管理するDWIという組織がありますが、それでも企業の利益至上主義を止めることはできません。保守党議員からも、大手水道事業者のCEOの報酬が年間四億円を超えるという指摘があり、批判が起こっております。一方、労働党が掲げる水道再公営化の公約には国民が七割の支持を示しています。また、この十月にはイギリスでは新規のPFIを行わないということを決めました。英国会計監査院が三十年間の経験を検証したところ、PFIのメリット、デメリット、資料の四にまとめておりますけれども、メリットよりもデメリットの部分が強く出たとされています。
日本の水道法改正においても、管理監督責任は自治体に残ります。しかし、職員数の減少と定期的なジョブローテーションという状況では、自治体に管理監督責任を遂行する能力は乏しく、高額な費用を支払って専門家やコンサルタントに依存するか、あるいは企業の報告をうのみにするという危険性があります。つまり、コンセッションは管理が難しく、公の関与を更に強めようとすると、コンセッションの良さとされる企業の裁量を打ち消すことになります。運営権、利用権という権利を売却している以上、その権利を侵害することはできません。二兎を追う者一兎を得ずという状況になって、コンセッションのメリットと公の強いガバナンスは両立しません。もう一つ残る災害時の対応責任ですが、実務経験の乏しい職員に責任遂行能力があるかどうかは疑問です。
コンセッションの特徴として、附帯事業が挙げられます。これも水メジャーにとっては大きな魅力となります。一般的には水道事業には附帯事業は少ないというふうに言われておりますけれども、そんなことはありません。人口減少によって余った水を海外に売ったり、小水力発電を行うこともできます。さらには、マーケティングデータとして個人の水使用量情報をIT技術などを駆使して集め、新たなビジネスを生み出すことができます。本来、公が管理すべき個人情報が企業によって抜き取られるという可能性があります。
コンセッションを行う自治体には規模が必要です。本当に水道の持続に苦しむ小規模事業者の救いにはなりません。そこで、規模を広げていくという可能性があります。しかし、地理的な環境によりどこにでも影響を受けるので、面積だけで判断するとスケールメリットが働かなくなることがあり、管理監督体制が複雑となって、モニタリングコストが上昇するケースがあります。
二番目に、五ページにあります水道を含めた水施策の見直しということをお話しさせていただきます。
当然ながら、公共で水道事業を維持していく場合にも事業の見直しは急務です。パリ市は再公営化ということで有名になっておりますが、実際には自治体が再公営化後に独自に業務改善をしたということで参考になります。
まず、水道という仕事を取水から蛇口までではなく、流域という単位で考えています。流域とは、山に降った雨が一つの川として収れんしていく範囲です。パリでも温暖化の影響を受け洪水が多発しているため、広範囲での水資源管理、森林管理、持続可能な農業などを実施する施策を取っています。また、ITを活用した自動化、最新ソフトなどを使ってコストダウンも図っています。気候変動、デジタル化という変化の激しい時代にあって、地域の能力を集約させた公の力が試されています。
次に、一般的に公表されている料金値上げの試算についてです。
これは、現状の施設を維持した場合という仮定の下に行われています。現在、水道事業は過大な投資によって支えられており、この反省のないまま更新をすると更なる過大な投資を生みます。そして、水道料金は上がり続けます。人口減少に直面する地方ほど見直しは急務ですが、都市部でも無縁ではありません。節水が浸透して、東京都水道局の減収は、十年前から百三十億円減っております。
過大設備の縮小といっても、やり方は様々です。例えば、岩手県の中部水道企業団というところがありますが、ここは、北上市、花巻市、紫波町などが広域統合し、二〇一四年に新組織で事業を開始しました。統合前に設備の老朽化と将来の更新費用を調査すると、料金収入は激減し、更新投資は大量に発生すると分かりました。施設を維持したら事業費は数倍になり、料金値上げにつながると言います。そこで、統合前から、三十四の施設のうち稼働率の低い施設、水質の良くない水源などを減らし、現在二十一施設まで減らしています。これによって数十億円の将来投資が削減できました。統合前には半分程度だった浄水場の稼働率が七割を超えて、管路の施設の耐震化率も伸びています。
また、ここでは、広域化と同時に小規模水道を残すという施策も行っています。一般的には、小規模施設は非効率的とされて、基盤強化の名目で事業統合が進められています。しかし、実際には、住民との距離も近く、組織的にはコンパクトで、意思決定も早くできるというメリットがあります。また、山間部等に分散した施設の統廃合は管路施設のコスト増大を招く、それから、運用時の環境負荷やリスクの分散の視点でのマイナス面もあります。
そこで、人口減少により給水区域の再編や廃止等が予測される場合は、地域特性に合った、あらかじめ分散処理型の施設を広域と併せて行うことが有効です。水道事業の広域化で運営効率を上げていくことや、逆に、数軒しか家がないような集落では独立型の水道を考えるなど、地域に合った様々な対策を講じていかなければ、根本的には水道事業は継続することができません。
さらには、気候変動によって多発する豪雨災害の対策や荒廃した森林の保全など、従来の水道という枠を超えて総合的に水行政を行っていく人材が必要です。そのために必要なのは、地域ごとの専門人材の育成です。コンセッションで民間企業に任せきりにしたら、地域に人が育ちません。設備を削減すれば人件費は賄えます。そして、地域の水を地域に責任を持って届けるにはどうしたらいいかというビジョンが地方自治体には求められています。
以上です。ありがとうございました。