鎌田薫の発言 (文教科学委員会)
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○参考人(鎌田薫君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました鎌田薫でございます。
私は、平成二十三年四月に原子力損害賠償紛争審査会が設置されて以来、東京電力福島原発事故に対する損害賠償の指針の策定に関わり、平成二十八年四月からは会長を務めてまいりました。さらに、平成二十七年五月に設置されました原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会の部会長代理として、濱田純一部会長を補佐して、原子力損害賠償制度の見直しに係る報告書の取りまとめに携わりましたので、本日はこの専門部会における審議状況等について御説明をさせていただきます。
お手元に専門部会報告書とその要点を記した三枚物の資料をお配りしておりますが、時間も限られておりますので、三枚物の資料を用いて説明をさせていただきます。
一ページ目に専門部会の審議経過を記しておりますが、平成二十七年五月から約三年半、計二十一回に及ぶ審議を重ねて、本年十月末に報告書を取りまとめました。
次のページを御覧ください。
原賠制度の見直しに当たりましては、東電福島原発事故の経験等を踏まえ、被害者保護に万全を期す必要があるため、原子力損害について被害者が適切に賠償を受けられるための制度設計の検討が必要であるという点を基軸にいたしまして、原子力事業者及び国の役割分担を考慮し、被害者への賠償に係る国民負担の最小化や原子力事業者の予見可能性、すなわち賠償リスクの予測可能性の確保にも留意しながら、適切かつ迅速な賠償を実施する制度の在り方について検討を進めてまいりました。
原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担に関し、まず国の役割について、専門部会では、現行の原賠法に国の責務に関する規定を追加すべきといった意見が示されました。責務という語は多義的でありますが、国が賠償の負担を負うべきであるという点については、国が原子力政策を進めていることから直ちに国に損害賠償責任があるということは難しいといった意見、国は原賠法第十六条の具体的な措置として原賠・廃炉等支援機構法による支援を行っているといった意見がありました。また、国は紛争審査会における中間指針等の作成やADRセンターにおける和解仲介手続の実施など、迅速かつ適切な賠償を実現するための体制を整備してきたことも、国が果たしてきた重要な役割であります。
こうしたことを踏まえ、原子力事業者が万全の被害者の救済や迅速かつ適切な賠償を最後まで行うよう、国は引き続き責任を持って原子力損害賠償制度を適切に運用していくことが重要であり、このことが立地地域を始め国民全体の原子力に対する信頼や理解に資するといたしました。
次に、原子力事業者等の責任を無過失責任とし責任集中をさせることについては、ほとんど異論がありませんでした。
また、責任集中に関しましては、関連事業者や製造業者を免責することにより資機材の安定供給に資するといった意見があり、この点は、東電福島原発事故の収束や廃炉作業等に従事する事業者にとっても事業参画に必要な法的条件であると考えます。さらに、保険の引受能力を最大化することが可能になること、被害者にとっては原子力事業者が損害賠償請求の相手方となることが明確になること、原子力損害の補完的な補償に関する条約、CSCでありますが、この条約において原子力事業者への責任集中が求められていることなども考慮して、現行の規定を維持することが妥当であるといたしました。
これに対し、原子力事業者の責任の範囲に関しては意見が分かれ、時間を掛けて議論をいたしました。
原子力事業者の予見可能性確保の観点から責任を有限とし、責任限度額を超える部分は国が負担すべきであるといった意見がある一方で、無限責任が不法行為の一般原則であること、責任限度額の水準を設定するのが難しいこと、原子力事業者が責任限度額を超える賠償責任を免れて事業を継続することについて国民の理解を得るのが困難であることなどから、無限責任を維持すべきであるという意見もありました。
このような議論を踏まえ、法的、制度的に短期間で解決できない課題が多く、現行の原子力事業者の責任の範囲を変更する状況にはないものと考えられる、このため、原子力事業者の責任の範囲については現行どおり無限責任を維持することが妥当であるといたしました。
次に、原子力事業者の株主あるいは金融機関等のいわゆる利害関係者の責任の在り方や法的整理に関して、東電を倒産させなかったことで、利害関係者が明確な責任を負っておらず原子力事業に対する不信感を生じさせているという意見がある一方で、法的整理のみが公正な利害関係者の負担の在り方とまでは言えないという意見や、実際に法的整理がなされた場合、賠償債務が確定していないと被害者の保護に支障を来すおそれがあるのではないかといった意見もありました。
このような議論を踏まえ、専門部会としては、原子力事故を起こした原子力事業者の利害関係者に対し、個別の事故の状況に応じて適切に協力、責任を求めることは必要であると考えられるが、当該原子力事業者が負う責任を全うすることを前提とした場合に、法的整理により利害関係者の負担を求めることについては、どの程度の負担をどのような方法により求めることが適当かという点で、個別の事故の状況に応じ様々な考え方、方法があり得るとした上で、法的整理を原子力事業者が選択する可能性を否定できないことから、国は見直し後の原賠制度において対応可能な事項、対応困難な事項を整理し、万が一の事態に備えておくことが重要であるとさせていただきました。
次に、原子力事業者の免責については、専門部会では、制定当時の立法趣旨、東電福島原発事故の経緯、原子力損害の補完的な補償に関する条約において免責が認められていることなどを確認した上で、被害者の保護という法目的に照らし、免責事由を不可抗力よりも更に狭い非常にまれな場合に限定している立法趣旨等を踏まえ、免責規定を維持することが妥当であると取りまとめました。
続きまして、三ページ目を御覧ください。
賠償資力確保のための枠組みに関しましては、最も長い時間を掛けて検討を進めました。
議論の過程においては、原子力事業者の予見可能性を確保しつつ、今後あり得べき事故に備えるためには賠償措置額を大幅に引き上げるべきという意見が示された一方で、現在の責任保険契約における最大の賠償措置額である一千二百億円は国際水準に照らして十分高い水準にあるという意見、国内外の保険市場の引受能力を考慮すると持続的に運営できる限度にあるといった意見や、安全確保に関する取組が強化されており、その評価を見極める必要があるといった意見がありました。
その結果、本年一月にまとめられた報告書の素案におきましては、今後の損害賠償措置の在り方について、第一に迅速かつ公正な被害者への賠償の実施、第二に国民負担の最小化、第三に原子力事業者の予見可能性の確保といった観点も踏まえつつ、現行の原賠法の目的や官民の適切な役割分担等に照らして、引き続き慎重な検討が必要であるとさせていただきました。
これを受けて、本年八月に開催された第二十回専門部会におきまして、原賠法を所管する文部科学省より、今後の損害賠償措置の在り方については、第一に国内外の保険市場の中長期的な見通し、第二に電力システム改革の進展による原子力事業者の事業環境の変化、第三に原子力発電所の安全性向上に向けた東電福島原発事故後に導入された新規制基準への対応や事業者の自主的な取組の状況などから、現時点においては損害賠償措置額の見直しを行わず、今後、迅速かつ公正な被害者への賠償の実施、被害者への賠償に係る国民負担の最小化、原子力事業者の予見可能性の確保といった観点に十分留意しつつ、文部科学省を中心に引き続き検討を行うこととする旨の説明がなされ、この内容を報告書の別添として盛り込みました。お手元の報告書本体の二十ページでございます。
次に、被害者救済手続に関しましては、原子力損害賠償が有する特殊性、東電福島原発事故の経験等を踏まえ、何よりも適切な賠償が進められるよう被害者救済手続の実効性を確保することが必要であると考えました。
これに関連して仲裁手続の導入の是非が議論され、これに賛成する意見がある一方で、司法判断を経ずに賠償義務を負うことを事業者が忌避する可能性が高いとの意見や、迅速かつ柔軟な紛争解決という観点から、当事者間の交渉とそれを補完するADRセンターによる和解仲介という現行の紛争解決手続は十分に機能しているとの意見、さらには、強制力のあるADRの導入が被害者の迅速かつ適正な救済につながるかどうか慎重に見極める必要があるとの意見がありました。
また、ADRセンターの示す和解案を東電が受諾拒否しているとの苦情があることから、原子力事業者に片面的な受諾義務を負わせることの是非についても議論がなされました。これについても、法的に実効性のある片面的受諾義務を将来的に検討するべきという意見があった一方で、憲法で保障されている裁判を受ける権利の制約になるおそれや、拘束力のある手続を利用することを望まない紛争当事者が和解仲介手続の利用をちゅうちょし、紛争解決の迅速性及び簡易性が損なわれるのではないかとの懸念が指摘されています。
これらを踏まえて、報告書では、和解の仲介について、現行の規定を維持することが妥当である、また、適切な賠償を進めるためには和解仲介手続の実効性を確保する必要があることから、原子力事業者の賠償への対応に係る方針の整備の中で適切に対応することが妥当であるとしました。
次に、迅速に賠償手続が開始されるよう、国が賠償指針を速やかに策定し、和解の仲介を行う原賠ADRセンターを速やかに設置したことが大きな役割を果たしてきたことを踏まえ、和解の仲介について現行の規定を維持することが妥当であるといたしました。
その後ろに記しております和解仲介手続に係る時効中断、原子力事業者の賠償への対応に係る方針の整備、国による仮払い、立替払の三つにつきましては、原賠法改正法案に盛り込まれており、委員の皆様も御承知のことと思いますので、ここでの説明は割愛させていただきます。
少々長くなってしまいましたが、専門部会で示された論点と意見の概略を説明させていただきました。多岐にわたる論点を多様な関係者の御意見を伺いながら取りまとめることは、多くの時間を要する困難な作業でありました。参議院文部科学委員会の皆様の真摯な御審議と賢明な御判断に御期待を申し上げて、私の説明を終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。