馬奈木厳太郎の発言 (文教科学委員会)

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○参考人(馬奈木厳太郎君) 東京合同法律事務所に所属しております弁護士の馬奈木と申します。
 今日は貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。
 ペーパーをお配りしておりますので、参照していただければと思います。
 私は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟という、福島第一原発事故に対する国と東京電力の責任を追及し、原状回復と被害救済を求める裁判で弁護団の事務局長を務めております。この裁判は、避難をした方と現地に今も住んでいらっしゃる方とその両方の方々が一つの原告団を構成しており、原告の数は現在四千四百名を超えております。全国で同種の裁判では最大の裁判、訴訟となっております。福島県内には五十九の市町村がございますが、その全部の市町村に原告の方がいらっしゃる、そういう裁判です。昨年十月十日に福島地裁において、国と東京電力の責任をいずれも明確に認める判決が示されました。現在、仙台高裁において審理は係属している状況です。
 また、私自身は、裁判のほかに、ADRで申しますと、原発事故後に自死された遺族の方の代理人、あるいは第一原発から僅か二十二キロのところで精神科の患者さんを抱えながら避難しないと決断し、事故後も地域のために医療を継続させてきた、そういった病院がございます、その病院の代理人、あるいは福島県内の事業者の方などの代理人として取り組んでまいりました。さらに、直接請求の場面では、事業者団体や農家の団体、さらには浜通りで水揚げされる魚をなりわいとしている方々の組合などについて、東京電力や国に対する賠償請求や交渉などにも関わってまいりました。
 本日は、そうした私のこれまでの経験や関わりに基づき、改正案に対して賠償実務に携わる者の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。ただし、既に衆議院の参考人の方々が共通して言及しているものなどについては、私が重ねてなぞるような指摘をすることはせず、衆議院で言及されず、したがって余り審議においてもこの間論点として意識されなかったのではないかと思われるものについて、力点を置いて発言させていただきたいと思います。
 まずは、国の責任についてであります。
 原賠法は、そもそも事業者の賠償責任の枠組みについて定めた法律であって、国の責任の在り方については、必要な援助を行うという後見的な関わりが予定されております。しかし、福島第一原発事故後、損害賠償請求など被害救済を求める集団訴訟は既に三十件近く提訴されており、その多くは国も被告としております。先ほどの津島の訴訟もその一つであります。既に五件について一審判決が出されており、そのうち四件が国の責任を認めています。
 ところで、国の責任と一口で言っても、そのありようは様々です。例えば、放射性物質汚染対処特措法、子ども・被災者支援法、あるいは福島復興再生特措法などにおいて、原子力政策を推進してきたことに伴うといった形で国の社会的責任が法律上規定されています。この社会的責任ですが、法的責任を否定するという趣旨であることは言うまでもありませんし、強調されるべきです。
 しかし、私たちのような裁判で認められたのは、社会的責任のレベルではありません。法的責任、法的義務があるということなのであって、この違いは大変重要であります。つまり、国はもはや当事者ではないという態度を取れないのであって、加害当事者としての責任に向き合わなければならなくなっているということを意味しています。
 裁判はまだ高裁での審理が続いていますが、私は、国に法的責任があるという司法判断が確定することを確信しています。
 今回の改正案では、国の責任の在り方について大きな変更は加えられていません。しかし、早晩この課題から逃れられなくなると考えます。今回の事故に限らず、国策民営と言われる原発政策の性格からしても、また規制権限を有しているという国の関与の在り方からしても、賠償義務について事業者だけが加害当事者としての責任を有するという話では済まされないと考えます。一日も早く、事業者のみならず国の責任を明確にする改正がなされることを願っています。
 今申し上げた国の責任は、今回の改正案が扱っていない、そういった問題についてでした。さて、ここからは、今回の改正案で取り上げられている点について意見を述べたいと思います。特に、衆議院の審議では、事業者や農林水産業の方々の視点というのがほとんどなかったように見受けられますので、営業損害という観点から意見を述べることにいたします。
 まず、今回の改正案では、原子力事業者に対して賠償実施方針を作成、公表するということが義務付けられることになっています。そこには、原子力事業者の内部規則の整備などと併せて、賠償請求手続やADRでの和解仲介への対応なども含まれています。
 本改正案の立案者の方は、東京電力が賠償対応やマニュアル作成などで事故後しばらくの間大変混乱した時期がありましたので、そういったことがないよう、事前準備を徹底させ、事前告知を図らせようというふうに考えているのかもしれませんが、ここには大きな問題点があると考えます。以下、四点にわたって述べます。
 一点目ですが、そもそも賠償実施方針が、どのような内容についてどの程度明らかにしないといけないのかが現段階では明確ではありません。そして、原子力事業者が何らかの方針を決めたとしても、当たり前ですが、その内容は原子力事業者が一方的に決めたものにすぎません。したがって、内容的に妥当ではないものが含まれる可能性も否定できません。作成、公表された方針を誰かがチェックし是正させられるのかも、現段階では不明です。
 仮に是正させられないとしたら、請求する側、つまり被害者の側が原子力事業者の都合に合わせないといけないということになりかねません。例えば、ADRでの和解案への対応について、集団的申立てには一律応じないとの方針を策定し、これがそのまま通用するということになるのだとすれば、被害救済の観点からも大問題であります。そんな身勝手が許されていいはずがありません。作成、公表された方針に対して第三者によるチェックや是正ということが想定されているのかは、実務の立場からして大いに関心が抱かざるを得ないところであります。
 二点目は、方針として是非とも盛り込まれるべきだ、そういった項目もあるということです。例えば、今回の事故直後に特に見られたのは、中小零細の事業者の方などが、どうしても体力がなく、また月々の支払が差し迫ってくる中で、事業者の方が請求している賠償額と東京電力が自ら認める賠償額との間に相当の開きがあるにもかかわらず、直ちに賠償金を得なければ事業継続そのものが困難になるという状況から、泣く泣く東京電力の主張する賠償額で合意せざるを得なかったという事態がありました。これは、事故直後には本当によく見られた光景でした。そして、今後、万一どこかで事故が生じた場合にも、原発立地自治体やその周辺といったところはやはり大きな企業よりも中小零細の事業者が多い地域というのが一般的ではないかと思われますので、このままですと今回の事故と同じような光景が繰り返されることになるのではないかと懸念されるところです。
 そこで、こうしたことを繰り返さないためには、原子力事業者も損害を認めている場合にはその範囲での合意を先行させる、つまり、請求する側が一千万円の損害があると言い、東京電力はいやいや四百万円でしょうと言った場合、差は六百万円開きがあるわけですが、少なくとも、合意している東京電力も認める四百万円については一部和解、部分和解といった形で応じさせる、そういったことが必要だと考えます。中小零細の事業者は体力がないため、早期の支払は必須です。ですから、賠償額の総額には争いがあるとしても、原子力事業者も認める部分は早期に支払がなされるべきです。しかし、残念ながら、東京電力はそうした一部合意という対応を取ってきませんでした。こうした点を改善させることが必要だと考えます。
 三点目ですが、今回の事故に際しては東京電力が、平成二十七年に入ってから、営業損害に関して将来損害を含めた一括賠償という方式を取りました。ある程度まとまった賠償金を一どきに入手したいという人にとっては、将来の損害も含めて一括して支払うという方式は望ましい方式だったと言えるかもしれません。しかしながら、この方式は、事実上の賠償打切りであるとして多くの批判を集めました。特に問題なのは、この一括賠償方式を採用して以降、東京電力はこの方式での請求でない限り賠償請求を受け付けない、合意しないという態度を取ったことです。私自身、東京電力との交渉の場で、賠償請求の方式まで加害者側が決めてしまうというのはどういう了見なのだと何度も追及しました。文部科学省や経済産業省の方々も同席していましたので、東京電力の回答をお聞きになっていると思います。
 東京電力は、仮に将来の損害がお支払いした額を上回ることが後に判明するような、そういった特段の事情がある場合には更にお支払いをする用意があるということで、こうした方式での対応を正当化しようとしましたが、どの損害をどの期間について請求するのかを請求する側が決められないというのは、賠償のそもそもの意味合いからしても大変問題だと考えます。要するに、被害が続く期間を原子力事業者が決め、請求方法までも原子力事業者が一方的に決めるという話なのであって、これでは誰が加害者で誰が被害者なのかも分からなくなってしまいます。したがって、一括賠償といった賠償方式や一括賠償での請求しか合意しないといった賠償姿勢は認められるべきではなく、一律の請求方法でしか対応しないといった方針は明確に禁じられるべきだと考えます。
 四点目ですが、請求手続の方針を事前に策定したとしても、実際には原子力事業者が中間指針など国の指針が策定されるまでは支払わないという態度を取ることも考えられます。今回の事故の場合、国の指針が初めて策定されたのは事故から一か月以上経過した平成二十三年四月二十八日でした。しかも、取り上げられたのは避難指示が出た地域の損害や出荷制限指示があったような場合についてでありました。避難指示が出ていない地域の営業損害に関して指針が策定されたのは同年五月三十一日、その内容も、農林水産業や観光業を主としたもので、限定的な内容にとどまりました。
 実際、東京電力が避難者に対する仮払いに着手したのは四月に入ってからですし、避難指示が出た地域の事業者に営業損害の仮払いを始めたのは閣議決定があった後の五月末からでした。それも、請求を受け付けたのが五月末からなのであって、実際に仮払いを受領できたのは六月以降ということになります。つまり、原子力事業者が自らの判断で支払を開始しないのであれば、幾ら立派な方針を事前に作成していても何の役にも立ちません。
 今回の事故では、原子力損害賠償紛争審査会が立ち上がってから約一か月で最初の指針は出されており、審査会においても相当の努力はされたのだろうと想像しますが、それでも被害者には現実の生活と現実のなりわいがあるのであって、被害救済の観点からも早期の賠償支払は不可欠だということを強調したいと思います。
 原子力事業者だけでなく国の指針についても、損害の類型化や考え方の整理などを事前に行うことが必要ですし、国の指針の策定時期の更なる早期化が不可欠だと考えます。もちろん、このことは原子力事業者が国の指針を待ってから支払うという態度を取ることを是認するわけではありません。原子力事業者が国の指針の策定を待たずに自らの判断で賠償支払を開始することも、当然求められるところであります。
 次に、国の仮払い資金の貸付けについてであります。
 これは、仮払いが迅速な賠償金の支払に役立つならば意味のある話だと思います。ただ、改正案では賠償措置額を超えない範囲で貸し付けるとされており、つまり千二百億円の範囲内で貸し付けるということになりますから、これだと金額としては不十分だと考えます。
 今回の事故に際し国が賠償支援機構を通じて支払った第一回目の資金援助額、これは平成二十三年十一月の話ですが、このときで五千五百億円を超えています。千二百億円では、福島並みの事故があった場合、到底対応できません。あるいは、賠償措置額と連動しているので、賠償措置額の据置きの議論に収れんすることになるのかもしれませんが、貸付けの金額はこれでいいのかという点は問題だと思います。
 この仮払いについては、払い過ぎとなった場合のリスクが衆議院でも議論になっており、過去の食品公害の例も参考人から紹介されていましたが、原発事故の場合は一定期間の被害の継続が想定される、そういった性質を有する事故なのであって、仮払いとしてどれほどの金額を想定するのかにもよりますが、一般的に言って、払い過ぎるというリスクは無視し得る程度の確率でしか生じないのではないかと思います。今回の事故から教訓を導くのであれば、払い過ぎのリスクではなく、いかに早く被害者に賠償を行うかが圧倒的に重要なことだと考えます。
 最後になりますが、今回の改正案では原子力事業の健全な発達という第一条の目的規定については削除も変更も加えられていませんが、仮に文言上は残るのだとしても、健全な発達という文言の意味合いは、福島第一原発事故の前と後とでは大きく変わらざるを得ません。原子力発電という事業について、その生成、発展、消滅という段階を考えたときに、今日の段階は既に発展から消滅の段階に移行しているのであって、発達という文言も廃炉に向けたその時間軸におけるものとして理解されるべきです。
 何より強調したいのは、原子力事業というものは被害者の保護が十全になされることが大前提なのであって、被害者の保護なき原子力事業とか被害者の保護なき発達などというのはあり得ないということです。被害者の保護が確保されないところでは一日として原子力事業は成り立たない、国民的理解が得られないということを肝に銘じるべきだと考えます。
 今回の改正案をめぐってもそのことが改めて徹底されるべきですし、被害者の保護に遺漏がなきよう万全の施策が取られるべきであることを再度強調して、私の意見としたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 馬奈木厳太郎

speaker_id: 14270

日付: 2018-11-29

院: 参議院

会議名: 文教科学委員会