宍戸常寿の発言 (総務委員会)
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○宍戸参考人 東京大学の宍戸でございます。
私は、憲法それから情報法を研究しておりますが、総務省で開催されました放送を巡る諸課題に関する検討会の構成員として、このたびの改正の前提となります検討に加わっておりました。
本日は、その観点から、本委員会で審査いただいております放送法改正案につきまして、参考人として意見を述べさせていただきます。
お手元の資料に即して御説明を申し上げます。
まず、日本の放送制度について申し上げたいと思います。
これは、放送法と、そのもとでの関係者のプラクシスにより形成されてきたものでございますが、その基礎は、受信料を財源とする公共放送と、広告収入や有料放送として行われる民間放送が、お互いの長所を発揮し、互いにジャーナリズムとして競争する、ここにありました。このいわゆる二元体制により、放送が広く普及し、知る権利に奉仕するとともに、健全な民主主義の発展に貢献してきたものと理解されております。
また、平成二十九年の最高裁大法廷判決は、NHKの放送を受信できる設備を設置した受信者にNHKとの受信契約の締結を義務づける受信料制度につきまして、知る権利を実質的に充足する、こういう目的のために合理的な立法裁量の枠内にあるとして、その合憲性を認めたところでございます。
ところが、このような放送制度は、現在、技術の発展、メディア環境の変化によって大きな変化を受けております。社会に広く普及した放送サービスが、今後の日本社会の変化を踏まえて、より一層知る権利、民主主義に奉仕することができるよう、絶えず見直しや新しい取組を進めることが求められております。
とりわけ、最近では、海外プラットフォーム事業者を含む動画サービスが進展し、グローバルなコンテンツ競争が進んでおります。また、世界では、フェークニュースなどにより選挙や投票が操作されたり、あるいは健全な世論形成が妨げられたりする、こういった問題も生じているところでございます。
今回の改正案は、このようなメディア環境あるいは放送をめぐる環境変化に対応し、NHKや民間放送に対して課題の解決を促すとともに、知る権利への一層の貢献を可能にする意義がある、このように私は考えているところでございます。
以下、順番に申し上げたいと存じます。
第一に、NHK関係の制度改正について、インターネット活用業務の対象の拡大とNHKグループのガバナンスの充実、この二つの改正事項が挙げられております。
この二つの関係につきましては、何かNHKの業務拡大を認めるかわりにガバナンスを強化するということを求める、そういったいわばトレードの関係にあるものではないと私は考えております。
ソサエティー五・〇における公共メディアとしてNHKがその機能、役割を適切に果たすことという観点からは、この二つの改正事項はいわば表裏の関係にあるというふうに理解しております。NHKが新しい技術を使ってより広く、より深く視聴者の間に根をおろして社会的基盤を築く、そのために、これまでよりも視聴者の理解が広がり、積極的な評価や批判も含めた議論のもとで適正な業務を遂行し、健全に経営される事業体であるために、この二つの改正事項は一体のものであるというふうに私は理解しているところでございます。
まず、インターネット活用業務の対象の拡大についてでございます。
これまでNHKによる放送番組の同時配信には限定がついておりましたが、改正案は、その限定を外し、常時同時配信を可能としております。これは、いつでもどこでも番組の視聴を可能にして知る権利を充実させるとともに、見逃し配信を含めた通信サービスの展開によって放送サービスのメディア価値を全体として高める、その先導的な役割をNHKに担わせるためにも不可欠な機能であると私は考えております。
したがいまして、放送の補完としての常時同時配信を求められたNHKの御要望を受けて、それを可能とする制度改正を行うことは適切なものと考えております。
また、その実施に当たりましては、国民の負担であります受信料の価値が毀損されないように適切な規律が必要であります。それとともに、公共放送には言論報道機関として自主自律が求められる、このことも考え合わせますと、政府による直接的な規制でも、また自主規制に委ねるのでもなく、まずはNHKが実施計画を立て、経営委員会の議決によりそのコミットメントを確保した上で、政府の監督を組み合わせるという、いわゆる共同規制の手法が適切であると考えております。
したがいまして、改正案における実施基準の認可、実施計画の届出、公表の義務づけ、そして、義務に違反した場合に政府による遵守を勧告する、こういった仕組みは十分かつ適切なものと考えております。
それと、一点、お手元の資料で、二十条の十から十三号と書いておりますが、この号は項の誤りでございます。大変失礼をいたしました。
さらに、その下でございますが、常時同時配信は、その二元体制によって普及してきた放送サービスのメディア価値を向上させるものとして、NHKと民間放送の協力が期待されるところでございます。この観点から、先導的役割を担うNHKが民放に協力するよう努める義務を規定したことは、この改正案の特に重要な点であるということを強調させていただきたいと思っております。
また、放送法が地域向け放送番組の提供をNHKに求めていること、放送の区域が基幹放送普及計画において定められていることからしますと、放送の補完として行われる常時同時配信についても地域向けの放送番組の提供が適切であると考えております。
お手元の資料を一枚おめくりいただきたいと存じます。
次に、NHKグループの適正な経営を確保するための制度の充実でございます。
まず、経営委員会それから監査委員会の事後チェックによるコンプライアンスの強化が掲げられております。これは一般の会社法制を参考にしたものであります。この制度整備によって、受信料を負担されている視聴者の信頼を裏切るような不祥事が起きないよう、NHKグループ全体における再発防止の徹底を強く期待しております。
また、公共メディアとしての支持を得るためには、NHKの業務、受信料の水準、体系等について、その適切さが常に確保されるよう継続的な見直しが必要であると考えております。
改正案におきましては、経営委員会がパブリックコメントを経て中期経営計画を策定し、それに基づいて毎年度の予算、事業計画が策定され、適宜見直しが行われる、さらに、そのマクロなプロセスとして、状況の変化を踏まえて中期計画も見直される、こういったPDCAサイクルが予定されているところでございます。
このようにNHKのあり方が適切であるということが視聴者に対して透明性を持つということも重要であると考えております。さきの最高裁判決におきましても、受信料制度が視聴者の理解によって支えられるということの意義というのが指摘されているところでございます。
したがいまして、視聴者とNHKの間にこれまでより深いコミュニケーションがなされ、そのことによって、受信料制度への疑問も、あるべき受信料の水準や体系についても、国民的な議論があって、それを受けてNHKも政府も適切な解決を図っていくことが望ましいと私は考えております。そのためには、NHKグループ全体について広く情報が共有されるということが前提となりますが、この点で、わかりやすい情報提供、情報公開のための根拠規定が改正案に置かれているということを私は評価しております。
なお、こうしたコンプライアンスの強化につきましては、同時に、言論報道機関として番組編集の自律が確保されるべきことは当然でございます。また、NHK、政府におかれましては、例えば外部の専門家が経営委員会や監査委員会をサポートする仕組み、手続を導入するなど、監督、監査の実効性を高めるための工夫について、改正案の趣旨を踏まえた検討をお願いしたいと私は考えております。
それから、今回の改正法案の大きな二つ目の柱であります衛星基幹放送の帯域の有効利用を図る点についてでございます。
大容量、高画質の番組を全国を区域として経済的、効率的に提供できるその衛星放送の特質からしますと、その帯域は、マルチチャンネルや高画質化など、ますます有効に活用されるべきだ。とりわけ、国民の間に普及している右旋につきましては、帯域が逼迫しておりますことから、効率的な利用を積極的に推進すべきだと考えております。
そのために、今回の改正案が、衛星基幹放送の認定及びその更新に当たって、帯域が有効に活用されているか周波数使用基準に基づいて審査し、場合によっては割当て済みの帯域の一部を事業者から返上してもらう、そのことを法制度として明確に位置づけたということが適切であると考えております。
なお、今後の周波数使用基準の策定に当たりましては、現実に視聴者のニーズに応えて放送を行っている事業者を含め、関係者の意見を聞く機会を十分に設けるべきものと私は考えております。
以上、駆け足でしかも雑駁ではございますが、私からの意見陳述は以上でございます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)