須網隆夫の発言 (文部科学委員会)
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○須網参考人 早稲田大学の須網でございます。
私は、法科大学院ができてから十五年間、一貫して法科大学院で教育に携わってまいりました。きょうは、そういう現場の教員という立場から御意見を述べさせていただきます。
皆様御存じのように、数日前に、法科大学院を含む司法制度改革について大変御尽力いただいてきた自民党の保岡興治先生が亡くなりました。私、司法制度改革審議会のころから保岡先生に御指導いただきまして、今回の法案については少し保岡先生とは意見が違うんですけれども、きょうまたこういう形で国会にお邪魔させていただきまして、保岡先生を追悼するという思いで、きょう意見陳述させていただきます。
まず、法科大学院の現状から少しお話しした方がいいと思うんですが、一つは、皆様のお手元に「浪江町聞き取り調査報告書 早稲田大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト」、こういう冊子があるかと思います。
法科大学院は実務と理論の架橋ということがキーワードですので、これには、研究者も、実務で発生する新たな問題に向き合いながら、みずからの研究を発展させていく必要があります。こういう形で、早稲田大学の法科大学院では、二〇一一年の震災直後から福島の被災地の自治体への支援ということをずっと継続しておりまして、このプロジェクトには学生も参加しております。昨日、新入生に対する説明会を行いましたけれども、三十名以上の学生が参加してくれまして、こういう形でさまざまな活動を行っているということを知っていただきたいと思います。
それから、法科大学院の全体的な状況ですけれども、実は一時期、非常に受験者、入学者が減って、存続が危ぶまれるという時期がありました。しかしながら、実はどうもその事態は脱したのではないかというふうに思っております。
文科省からいただいた統計を見てもわかりますように、ことしは去年よりも随分志願者それから入学者ともに増加しておりまして、定員充足率も八割を超えております。早稲田大学院の法科大学院を見ても、ずっと定員は二百人なんですけれども、実はおととし、二〇一七年、百十二名まで落ち込みまして、正直言って、百名を割ってどうなるんだろうと思っていたわけですけれども、昨年度百三十六名、今年度は百八十二名ということで、ほぼ定員を充足するという状態。これまで法務省、文科省始めさまざまな制度の改革、取組ということを行ってきたわけですけれども、その成果がようやく出てきた段階になっているのではないか、こういうふうに思っております。
今回の内閣提出法案について少し意見を述べさせていただきますが、内閣提出法案の中身については、学部連携、法曹コースの問題と在学中受験の問題をやはり区別して少し考えなければいけないのではないかと思います。
前者については中教審でずっとこの間議論されてきておりまして、その内容については法科大学院の教員についてもある程度伝わっておりました。しかしながら、後者の在学中受験というのは、これは本当に寝耳に水でして、大変びっくりしたようなわけです。
これに対して、多くの現場の教員がどういうふうに率直に思っているか、感じたかということをお話しさせていただきますが、一つは、これは法科大学院制度の根本的転換だねと。具体的な声としては、これは法科大学院の理念の放棄ではないか、又は法科大学院の終わりの始まりではないか、こんなような声を、これは私が言っているわけではなくて、よく同僚から、他大学含めて、耳にいたします。
法科大学院は、独立した法曹養成機関として、法曹に必要な教育を法科大学院全体のプログラムとして提供するということを考えているわけですけれども、実は、法科大学院卒業前に在学中受験を認めるということは、いわば法科大学院のカリキュラムの中に法曹にとって必要な部分とそうではない部分があるんだ、こういう見方に立つことに、少なくとも現在の司法試験法を前提にすればそういうことになってしまうわけで、これがやはり理念の大きな転換であるというふうに言わざるを得ないんだろうと思います。
それからもう一つは、法案が通れば、やはり法科大学院の司法試験予備校化ということが進んでいくんだろうという印象ですね。教員の声としては、私のレジュメに書いてありますけれども、これからは法科大学院のキャッチフレーズは、入学すれば受験生、こういうことだよね、こういうような受けとめ方です。
ここで私が申し上げていることは、要するに、司法試験科目以外の科目を余り勉強しないというような状況になることが、果たして多様で専門化した法曹養成という理念と整合するんだろうか、どうなんだろうか、こういうことでございます。
そして、特にこの在学中受験は、法学部教育への影響ということもかなり心配されます。司法試験の実施時期が、今、夏を法務省は予定されているんだと思いますけれども、そうすると、法曹コースの学生にとって、法科大学院での教育期間というのは一年数カ月ということになるわけですね。そうすると、単純に考えて、法曹養成教育の重点ということは法科大学院から法学部に移る、時間的に見ればそういうことになるわけで、やはり学部にも相当な影響が生じるのではないかということを懸念いたします。
法案提出の動機なんですけれども、この提案理由は非常に抽象的な書き方をしているのでよくわからないんですが、やはり真の動機は、予備試験との競争において法科大学院の競争条件を改善する、こういうことなんだろうというふうに思います。
しかし、この真の動機にはやはりちょっと幾つか問題があるのではないか。まず第一に、余りこの真の動機自体が正面から語られない。それから二つ目に、予備試験が本来どうあるべきかということは、伊藤参考人の御意見にありましたように、いろいろ見解は分かれると思うんですけれども、少なくとも予備試験の現在の運用が今の制度趣旨、本来の制度趣旨に合っていないということについては、これは明らかなんだろうというふうに思います。こうしたときに、予備試験の運用をそのままにしておいて法科大学院の方だけいじるというのは、これはやはりちょっと順番が違うのではないかというふうに思います。
予備試験が問題である、こういう意見に反対する法科大学院の教員は恐らくいないと思います。意見が分かれるのはどっちを先にするかということだけだと思うんですけれども、やはりこの点は今後引き続き考えていただかなければいけないのではないかと思います。
法科大学院制度、こういう形でいろいろ議論が分かれるわけですけれども、実は、一つ確認しておかなきゃいけないことは、一九九〇年代の末には、いわゆる司法制度改革審議会のころは、司法試験という一発のペーパー試験ではかれる能力には限界があるんだ、だからプロセスとしての必要な専門教育を受けたことを重視していかなければいけないんだということに、法曹三者含めて全ての方が一致されていたわけですね。問題は、果たしてこの認識を今も維持するのか、維持しないのかということが、やはり一つ大きな議論の分かれ道なのではなかろうかというふうに思います。私には、どうも今回の法案は、この点についての認識が曖昧であるというふうに思います。
結論として、拙速な変更は禍根を残すと書かせていただきましたけれども、未修者教育とか司法試験改革とか研修所教育とか、実はいろいろな問題があるわけで、本当はやはり全体、パッケージとして議論しなければいけないんだろうと思います。また、法科大学院の志願者とか入学者が増加に転じてきたのではないか、そういうこの時期に、今制度変更するということはいかにも間が悪い、タイミングとしてどうなんだろうかということもあわせて述べさせていただきます。
以上、御清聴ありがとうございました。(拍手)