三浦瑠麗の発言 (予算委員会公聴会)
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○三浦公述人 おはようございます。国際政治学者の三浦と申します。
意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。
お手元に資料がございまして、今、米中間における日本がとるべき外交の方向についてということで、予算そのものというよりも、その基礎にあります国際情勢認識について、我が国とのかかわりも考えながら意見を述べさせていただきます。
ページをめくっていただきまして、米中貿易戦争はどこまで激化するのかということについてですが、まず、民間の報道等あるいは国会の議論を拝見しましても、米中貿易戦争というもの、このワーディング自体、非常に刺激的な、戦争という言葉が入っているわけですが、それに加えまして、新冷戦である、その時代に突入したという認識が多く見られます。
ただ、新冷戦にもし突入したとするならば、日本の経済が受けるダメージというのは非常に甚大なものになるばかりか、安全保障に関しても、このままの体制では先行きが不安になる、そのような状況だということをまず踏まえて、どのぐらい深刻になり得るのか考えてみたいと思います。
中国の内政についてですが、現在、ポスト習近平と目される人物は存在しません。そして、中国は権威主義体制でありますが、ただ、やはり万全の体制というものは存在しないのでありまして、習近平体制を支えるのは両輪ですね。一つの車輪はまず、安定的な経済成長、そしてもう一つの車輪が、政治的なライバルを蹴落とす、反腐敗の政治闘争ということだと思います。
そのどちらが欠けても危ういという観点からすると、中国経済に今あるリスク要因を考えますと、今、米中が本気で対決する状況になると習近平政権の権力基盤にも影響が出てくるということで、そもそも妥協のインセンティブが存在するということです。
その妥協のインセンティブですが、権威主義体制といえども、やはり民意というのは重要になってきます。その民意を、私、この五年ほど、日中韓それぞれ二千サンプルの、詳細は三ページ目に示されておりますとおり、インターネットパネルでの調査を行ってまいりました。そこで、中国の対米認識というものを、次の、めくっていただきまして、四ページ目のグラフからごらんいただきたいのですが、このデータ自体は二〇一八年の年末からことしのお正月ぐらいにかけて集めたサンプルでございます。
これを、結果をごらんになりますとわかりますように、アメリカに対する好感度はまだまだ、これはティア1からティア3までの三十都市ほどの都市圏に限られますが、好感度は六二%と高い状況を保っています。前年に比べますと四ポイント低下してはいますが、やはり、中国の調査はできていませんが、先進国の調査を主に幅広くやっておりますピューリサーチセンターの数字などを考えると、軒並みアメリカの同盟国における対米好感度が半減というような状況である。それを考えますと、異様に高いほどの数字であるということが言えます。
また、特に日本において中国の国民感情というのはなかなかわからない状況かと思いますが、数字が示しますとおり、日本や韓国に対する好感度が上昇しています。
中国の国民の対外認識というのは、これは中国に限らずなんですが、主に左右される要素というのは、その人個人の経済状況、これから上向くかどうかという、将来に対する楽観が一番影響してきます。あるいは、その人が働いているビジネス、会社における海外との取引のこれからの伸びに対する期待とか、そういった経済的な状況によって実は日韓に対する好感度が上がっていった、米国に対してもそれほど悪化はしていないということなんですね。
ただ、やはりリスクとして考えられるのが、五ページ目のグラフです。これは、昨年と比較してみました、中国人の米国産品、サービスの不買運動ですが、特に何も行動を起こさなかったという人がやはり一五ポイントほど減っている。そして、その国の産品、サービスの消費を減らしたと訴える人が四割超えをするなど、やはり、多少ではありますが、米国に対する不買運動の認識が中国で広がってはきている。
ただ、ここであくまでもお気をつけいただきたいのは、やはり、米国に対する不買運動はかつてはほとんど存在しないような微々たるものであったのに対して、日本や韓国に対しては中国国民は頻繁に不買行動を行ってきたという点です。
つまり、その国のサービス、産品は買わないようにしたという人がまだまだ二割超え程度であることを鑑みると、日本に対する悪感情による不買行動の方がまだ水準としては高いということなんですね。それが今の、都市部に限った点ではありますが、中国人の対米認識ですね。
めくっていただきまして、六ページ目、これも実は重要なグラフなんですね。これは私がずっと設問設計しておりますので、非常に多様なプラスのイメージが示されています。これを、例えば中国人であれば、米国や日本、韓国あるいはロシア、インドといった多様な国について同時に聞いているのですが、やはり平均値が非常に高いのが米国に対するこういうプラスのイメージですね。
どういうふうにこのグラフを読み解くかといいますと、ちょっと色が白黒なので見にくいんですが、上の方の、二つの線がまるでかぶっているように推移しているグラフの方は、プラスの、イエスと答えたような人たちの割合ですね。ごらんいただきますと、ほとんどの指標が五割を超えている。つまり、過半数以上の人が対米イメージについてこのような多様なプラスのイメージを持ち続けており、この一年間でほとんど何も変わっていないということですね。
このプラスの要素は、好感度に最もきくものというのは、例えば信用できるとか、あるいは友好的である、平和的であるというものであることは、これは各国比較で明らかなんです。つまり、中国人と米国人の関係であろうとあるいは日中関係であろうと、人々の対外意識の好感度にきく要素というのはグローバルに普遍であるということになります。
そうすると、どこをいじれば好感度が上がるのかということは、これは日本の外交もこういった要素分析を通じてパブリックディプロマシーをしていただきたいものなんですが、ただ、ここからあらわれてくるのは、もうひとえにアメリカのソフトパワーの強さでございます。
この中でも、イノベーティブであるとか、自由であるとか、公平であるとか、豊かであるとか、こういった要素が、中国人がなぜアメリカに対して高い点数を比較的つけるのかということは、自分たちもそのような国になりたいな、ああ、いいなという感情なんですね。つまり、アメリカに対してうらやましいという気持ちが果たして憎しみに変わるのか、あるいは自分たちも努力してそのような国になりたいと思うのかということは、実はこれは、過去、ツキディデスにさかのぼっても、戦争や対立を構成する重要な要素である嫉妬や恐怖、憎しみといった要素にどれだけつながっているのかというのは、やはり注意して見る必要があります。
そこで、二ページ目に戻っていただきたいんですが、中国は、やはり中国人全体の、特に都市部ですが、対米感情は決して悪くない。しかも、合理的な国益の観点からいいますと、熟した柿がぽとりと落ちるように、レジデンシャルパワーではないアメリカが自動的に自分で嫌気が差して太平洋の向こうにお帰りいただくのを待つというふうな戦略が最も合理的である。つまり、客観的な国益とそれから民意の両方の観点から、中国には今、米国との本気での新冷戦をするだけの理由がないということになります。
そして、米国についてごらんいただきたいんですが、米国の状況は多少違ってまいります。
というのも、中国は、人口の観点からいっても、あるいはこれからの技術革新やそういったポテンシャルについても、アメリカよりもよい要素がたくさんあります。そうすると、アメリカはどうやったら技術覇権や経済覇権をめぐる争いで中国に対して有利な立場に立てるのかといいますと、実は、最大の武器は、世界じゅうに張りめぐらした同盟国ネットワークということになります。
どうして同盟国ネットワークが意味があるのかというと、それは、成熟した大きな市場であるアメリカに加えて、その他同盟国の成熟市場を自分たちのリーダーシップのもとにまとめ上げることができるからです。言葉をかえて言えば、中国を排除するに当たって、同盟国のネットワークはアメリカにとって最大の武器となるということです。それは我々日本にとっても大きなインプリケーションを生むわけです。
ただ、先ほど中国人の対米感情について申し上げましたように、アメリカ人の人々の中に潜む対中恐怖症というものが本当に存在するのかということについては、よくよく考えておかなければいけません。つまり、現在、ハリウッド映画なども中国市場に大幅に依存する中で、中国に対する憎しみなどというものはおよそ存在し得ないレベルにまで経済的相互依存が深まっているからです。
ただ、アメリカは、やはり商業や工業を中心とした国家でございまして、非常にビジネスマンの地位が高く、政治に対する影響も大きい。そのような中で、技術覇権をとらないといけない、譲らないぞというかたい決意を持っている人が多いことは確かです。そのような経済ナショナリストとそれから安保重視派の人たちがたまたま連合を組むことができたことによって、今、アメリカは対中強硬論が盛んになってきています。
ただし、ペンス副大統領の演説の落としどころも最終的には中国の長年言われてきた構造改革であることからわかりますように、最終的な要求というものは決して完全なる新冷戦の復活ではないというふうに私は見ております。
ただし、このような、そこまで新冷戦に拡大しないという見解を述べさせていただいたところで、一つ注意点を喚起したいと思います。既に、米国が始めた米中貿易戦争の余波は民間のさまざまな分野に及んでいるからです。
実業の方々はおわかりと思いますが、既に、融資のつき方、あるいはどのような技術を選ぶのかについてのそんたくなど、今後ビジネスに欠かせない、不確実性をなるべく低める、リスクを低めるという観点において影響が出始めているからですね。とりわけ金融機関のリスクを織り込む判断の中にこうした米中貿易戦争の要素が入ってきているということについては、政治が思っている範囲よりも更に更に拡大してこういった経済的なダメージが行われるかもしれないということです。
ちょっと飛んでいただきまして、七ページをごらんください。七ページは、今の米国政治の状況を俯瞰したものでございます。
今、大統領選に既に突入したとも言える米国政治の中では不毛な対立が多くなってきていますが、そのような不毛な対立は、トランプ大統領にとってはむしろ政治的にプラスに働く可能性があります。それは、二〇一六年の大統領選で既に、トランプさんが失言をすればするほどトランプさんが登場するエアタイムがふえるという状況、あるいは、人々の中でもトランプ支持者の熱狂的な層が動員されるということを通じてプラスに働くということです。
ただ、問題は、共和党のトランプさん化によって、民主党もミニトランプ化が起きているということです。とりわけ、現在、大統領選に対して出馬を表明している民主党系の議員の中からは、実現不可能なポピュリズム的な税制改革案やあるいは分配をめぐる論点というのが出てきています。そういった実現不可能な案によって、国民の期待を必要以上に拡大させるとともに、経済に大きなダメージを与えかねないというふうな懸念があります。
そうすると、これは共和、民主問わずなのですが、財政が今逼迫している状況ですので、しかも、今後、軍事技術に対する投資なども減らせない支出が織り込まれているので、同盟国に対する要求はどんどん、どっちの党を選んだとしてもエスカレートしていくだろうということです。
とりわけ、トランプ外交独自のリスクということでいいますと、これはいいのか悪いのか、リスクなのかそうでないのか、ちょっと不明なところがありますが、今までネオコンなどと呼ばれる人たちが推進してきた、民主化をする、世界に民主主義を広めるという発想を、トランプ大統領の登場によってアメリカは捨ててしまったかのように見えるからです。それ自体は戦争を減らすことは確かです。しかも、学術的に言っても、民主的平和論よりも商業を通じて平和を導こうという方が多少平和にきくというふうな結果も出ています。
ただ、この商業的平和論をとりますと、平和の代償として価値相対主義がとられるようになり、同時に、自由主義などの価値観を共有してきた同盟国に対する特別扱いが減り、さらに、踏み絵を迫るかのような利用、同盟国に対する利用もふえていくんだろうということになります。そうすると、我々は、米国以外のネットワークを選ぶことができないので、アメリカに対する脆弱性にさらされるということになります。
今後、しかし、民主党が選ばれたらどうだろうかということを多少シミュレーションしておきますと、民主党は今、急進派と主流派に分裂していますが、支持者に圧倒的に支持が多いのが急進派です。ただ、この急進派は資本主義を害しかねないような極端な改革案をぶち上げているほか、あるいは、実際に、フェークニュースと呼ばれるものは、実は右派だけではなく左派に多く浸透していることが見られます。
例を挙げますと、上院の情報委員会で資料が提出されたことから明らかなように、ロシア発の選挙に対する介入工作は主に黒人をターゲットに行われていた。そして、黒人は伝統的に民主党支持者であったわけでございます。そうしますと、フェークニュースが左右両極で展開され、結果的に非常に醜い政治が行われるだけでなく、現実的に同盟国にとって、あるいは世界の経済や平和にとってよい選択肢がどちらの党ならとられるというふうな確信が持てない状況でございます。
また、国際平和の観点からいいますと、トランプの岩盤支持層が孤立主義なのはわかっていることですが、エコノミックナショナリズムというふうな形で多少なりとも関与をしようとしているのに比べると、民主党はもう少し内向きということが言えますし、シリアなどからの撤退に関しては、急進派はトランプさんと実はいささかも変わるところがございません。
さらに、中国のリスクについてお話を進めてまいりたいと思います。
詳しくはレジュメに書いてございますので、言葉は尽くしませんが、やはり中台情勢がちょっと緊迫しているというのが気になるというのに加えて、中国に対してようやく先進国が見方を修正して、日本が感じてきたリスクを認識しつつあるということが言えます。
ただ、これは、単に軍事的な競争とかだけではなくて、民間企業として中国に進出していった企業がこうむるリスク、あるいは東南アジアなどにおいて中国と競合する企業が受けるリスクなどについても目配りが必要でございます。
九ページをごらんいただきまして、日本の脆弱性についてお話を申し上げます。
日本は、先進国で最も安全保障を米国に依存している国です。そして、対GDP比の防衛費は約一%水準ということで、これは、お隣の韓国が二・六%であり急激に防衛費をふやしていることから考えると、数年以内に韓国が日本の防衛費を上回るだろうということが予想されます。
また、NATOなどが四%水準を要求されたりして、二%水準までには近づけている国が多いのに対して、あるいは豪州が二%水準を早々と達成したのに対して、日本は、米国に、やはり同盟国として応分の負担をしていない、あるいはフリーライダーであるというふうに批判される材料をたくさん抱えております。しかし、我々はニュージーランドではないのでありまして、見逃してもらえる規模の経済ではなく、我々が持っている貿易黒字はやはりインパクトがあるということです。
しかし、自主性を高めようとすれば、それに反対する人々が日本国内には多く存在します。また、前線に位置する国家ではないために、同盟に対する期待も基本低いということで、実は、見捨てられる懸念は余り強く認識されないのに対して、巻き込まれ懸念が強く認識されています。
では、日本は、勃興する大国、中国と組めるのかということを十ページ目でお示ししたいと思います。
日本は、不健全な反中意識を抱える国です。およそ、前年の水準でいうと、対中好感度は一一%。そのような国の状況で中国と組めるわけがありませんが、なぜ不健全な反中意識と申し上げるかというと、これは、日本人の強い反中感情が、主にその人の経済的な世帯収入の増加見込みあるいは減少見込みによって左右されるからでございます。
ここまで現状を振り返ったところで、簡単に、まとめの十一ページと十二ページをごらんいただければと思います。
まず、日本は、冷戦後、非常に変化が遅く到来した、あるいは失われた二十年に対処することを優先してきた国ですが、そろそろ、東アジアの外部環境が厳しさを増しており、建前を排して現実を受け入れるところに来ているのではないか。
そして、これは安保法制のときにもさまざまに議論がありましたが、北朝鮮は事実上、核保有国化しました。中国は超大国化しています。ここまでは皆さん御同意のことだろうと思います。
ただ、三番目の、米国の撤退傾向あるいは内向き傾向というものが冷戦期とはまるで異なる情勢の変化をもたらしているということは、余り議論されたことを聞いたことがございません。
これから、核保有国が一カ国事実上ふえてしまったわけですから、新たな均衡点を模索しなければいけませんが、その中で、自主的、主体的努力を通じた同盟強化の方向性をとるべきであると考えます。
また、日本が韓国に対してもろもろ言いたいことがあるのは承知していますが、米韓同盟が弱められるかどうかの方が大きなリスクであって、あるいは、日本が、韓国の北朝鮮に対する経済開発の期待などに誤った認識を持たないで、しっかり現実を見据えることも大事かと思います。
最後のページですが、これからやはり米中のはざまで生きていく我々としては、中国の経済成長の果実を取り込まずに成長するなどということは不可能なのでありまして、いかに新冷戦といっても、中国との関係が断ち切られると、我々は経済的には死に直面するわけでございます。そこで、政治的な緊張はあれども、やはり経済的な交流をしっかり活発にしていくこと。
そして、国会でよく議論がありますが、中国企業の対内投資や中国人による土地購入を疑問視する声がありますけれども、これはやはり中国の体制がわかっていない意見と言わざるを得ません。中国人は自国政府を信用しておらず、海外に対して投資をするチャンスを探っているというのが実情ですから、そういった中国排除ではなくて相互に依存する関係を構築していく必要があるかと思います。
ありがとうございました。(拍手)