上西充子の発言 (予算委員会公聴会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○上西公述人 法政大学の上西充子です。
 本日は、このような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、統計不正の問題と、統計手法への政治介入の問題、そして、これらの問題に率直に向き合おうとしない政府・与党の国会に臨む姿勢の問題を取り上げます。
 昨年も私はこの場に立ちました。働き方改革関連法案に含まれていた裁量労働制の拡大をめぐって、安倍首相が比較できないデータをあたかも比較できるかのように答弁をした、そのことに端を発する問題を取り上げました。
 答弁撤回に至った安倍首相の昨年一月二十九日の答弁は、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、一般労働者よりも短いというものでした。政府に都合のよい方向にデータがねじ曲げられていました。この問題の出発点は、二〇一五年の三月でした。
 さて、毎月勤労統計の不正が昨年十二月に発覚して以降、問題は広がりを見せています。不正な統計操作があったことは、二〇一八年一月分から賃金水準が上振れし、その要因が探られる中で発覚したものでしたが、二〇一八年一月分から実施された毎月勤労統計の手法の変更についても、適切な意思決定プロセスを経ておらず、官邸の不当な介入があった疑いが濃くなっています。
 二月四日の衆議院予算委員会で、安倍首相は、小川淳也議員の質疑に対してこう答弁しました。「まるで私たちが統計をいじってアベノミクスをよくしようとしている、そんなことできるはずがないじゃないですか。」
 しかし、今問題になっているのは、アベノミクスにとって不都合な事実を隠すために、毎月勤労統計の調査手法が、官邸の介入によって本来の意思決定プロセスを曲げた形で変えられたのではないかという疑惑です。
 昨年三月には、財務省による公文書の改ざんが明らかになりました。昨年十二月には、厚生労働省による毎月勤労統計のデータ不正が明らかになりました。そして今、毎月勤労統計の調査手法の変更への官邸の介入が疑われています。公的な文書もデータも恣意的に改ざんされて信用ができないならば、これは国家的な危機です。国際的な信用の失墜にもつながります。
 逢坂誠二議員は、現在の状況を、健康診断の結果が改ざんされているようなものだと例えました。血液検査の結果に問題があっても、問題がないかのように結果が改ざんされていれば、体の異常に気づくのがおくれ、対処がおくれます。経済統計のデータが信用ならない状況であれば、一国の経済のかじ取りの判断を誤ることにもつながります。現状では、消費税増税の是非も判断できず、予算案の審議の前提が崩れています。
 このような現状において何よりもまず必要なのは、徹底した事実の解明です。再発防止は徹底した事実の解明に立脚しなければなりません。にもかかわらず、その事実解明を政府・与党が阻んでいるというのが現状です。それがいかに異常な事態であるか、この機会に皆さんに考えていただきたいと思います。
 さて、昨年十二月から表面化した統計問題は、大きく四つに分けられます。
 一つ目の問題は、基幹統計である毎月勤労統計において、東京都の五百人以上の事業所について、断りなく不適切な処理を行ってきた問題です。
 具体的には、全数調査すべきところを、二〇〇四年から二〇一七年まで、およそ三分の一の事業所の抽出調査へとこっそり切りかえた上に復元処理も行わなかった結果、賃金水準が下振れする結果となりました。これが雇用保険給付などの過少給付につながり、当初予算案の閣議決定のやり直しが必要な事態となりました。さらに、二〇一八年一月分の調査からは、復元処理を始めた結果、前年比の賃金の伸び率が過大となりました。
 そして、厚生労働省は、いずれの不正についても、公表せずに隠し続けました。総務省の統計委員会がデータの上振れに疑義を呈し、厚生労働省に説明を求めていたにもかかわらず、昨年十二月まで、全数調査を行っていると偽り続けていました。
 この問題について、厚生労働省が設置した特別監察委員会が調査を行いましたが、問題の早期収束を図るためのお手盛りの調査であったことが、一月二十四日の閉会中審査以降明らかになり、改めて調査のやり直しが必要な事態となっています。また、この統計不正への官邸の関与の有無については、そもそも調査対象とされていません。
 統計をめぐる二つ目の問題は、二〇一八年一月分からの毎月勤労統計の統計手法の変更に、官邸の不当な介入があった疑いが濃いことです。
 二〇一八年一月分からの統計手法の変更は一気に行われ、賃金水準が大きく上振れする結果となりました。
 変更点は以下のとおりです。
 三十から四百九十九人規模の事業所については、従来は総入れかえ方式であったものが、ローテーションサンプリングと呼ばれる部分入れかえ方式に切りかえられました。それに合わせて、入れかえ時に過去にさかのぼってデータを補正する遡及改定も行われないこととなりました。
 さらに同時に、二〇一四年の経済センサスのデータに基づいた母集団復元を行うためのウエート変更であるベンチマーク更新が行われたのですが、従来、ベンチマーク更新時に行っていた賃金指数の過去にさかのぼっての補正も行わないことになりました。
 また、毎月勤労統計の調査対象は常用労働者ですが、その常用労働者の定義も変更され、前二カ月に十八日以上勤務した日雇労働者を対象から除外するとともに、有期雇用労働者の定義も変更されました。
 前述の東京都五百人以上の事業所の抽出結果の復元も、それらの統計手法の変更に合わせてこっそり行われました。
 不正な抽出と復元の問題を除き、その他の統計手法の変更は、専門家による適正な検討プロセスを経て行われたものであるならば、何も隠し立てをする必要はないはずです。
 しかしながら、部分入れかえ方式を検討した厚生労働省の毎月勤労統計の改善に関する検討会は、二〇一五年の六月三日から九月十六日まで六回にわたり開催されていますが、三年以上前の検討会であるにもかかわらず、第四回から六回の議事録が公開されていませんでした。野党が議事録の公開を求め続けた中で、ようやく公開されたのは先日の二月十五日です。議事録を公開してこなかった経緯からは、不都合な事実が露呈するのを防ぎたいという意図がうかがわれます。
 そして、後述するように、厚生労働省が阿部正浩座長に二〇一五年九月に送っていた一連のメールが先週二十二日に公開されたことにより、全数入れかえを維持する方針から部分入れかえの検討へと、恐らくは官邸の介入によって結論が大きく変わった経緯が明らかになってきました。
 毎月勤労統計をめぐるその他の統計手法の変更をめぐっても、不透明な部分が多く残されています。
 統計をめぐる三つ目の問題は、GDP六百兆円の目標達成に向けた恣意的な数値のかさ上げの疑惑です。
 二〇一五年九月二十四日に、安倍首相は、アベノミクスは第二ステージに移ると宣言し、アベノミクスの新たな三本の矢を発表し、その中で、希望を生み出す強い経済として、GDP六百兆円の目標を掲げました。その目標に向けて、実際にGDPは大幅な上昇を示しました。
 しかし、その中で、その他項目の急激な上昇が、恣意的なかさ上げによるものだったのではないかとの疑いが生じています。二〇一六年の十二月に、国際基準に合わせるためとして、GDPの計算方法が大幅に見直されましたが、国際基準への適合とは異なるその他の要因で大幅な上昇が生じているのです。
 また、GDPの算出にかかわる基幹統計についても、統計委員会への申請がないものについても、未諮問審査事項として二〇一四年以降十項目の見直しが行われており、これらもGDPのかさ上げにつながった可能性が指摘されています。
 統計をめぐる四つ目の問題は、毎月勤労統計の不正の発覚を受けて行われた自主点検によって、五十六の基幹統計のうち二十四に不正が見つかったという問題です。これを受けて、調査員を含めた調査体制のあり方、統計部局の予算、人員、専門性のあり方、統計部局の一元化の是非などが問われています。
 このように問題は拡大してきていますが、毎月勤労統計の不正問題を審議すべく一月二十四日に行われた厚生労働委員会の閉会中審査では、与野党双方から、徹底した原因の究明、不正の全容解明によりうみを出し切ることが再発防止のために必要であることの指摘が行われていました。
 にもかかわらず、その後の国会審議では、政府は、基本的な事実関係さえ明らかにしない答弁を続けています。野党が求める基本的な資料の提出も出し渋りが続いており、参考人招致もなかなか認められない状況が続いています。これらは、事実解明に向けた政府と与党の消極姿勢を示すものです。
 一例を紹介しましょう。
 一月二十四日の閉会中審査では、大串博志議員が、毎月勤労統計の不正な抽出と不正な復元をめぐる問題について、厚生労働省が設置した監察チームと特別監察委員会によるヒアリングの実施概要について情報開示を求めました。しかし、対象者の実人員数という基本的な情報でさえ、答弁を得るまでに何度も速記がとまり、混迷した答弁状況が続きました。
 さらに、いつ、誰が、誰にヒアリングを行ったのかの情報開示を求めた大串議員に対し、定塚官房長は、処分につながるヒアリングであるため、一切出せないのが私どものルールであると答弁しました。
 しかし、これは言いわけでしかありません。そのことは、冒頭に紹介した裁量労働制をめぐる不適切なデータの比較について、昨年、厚生労働省の監察チームが行った調査結果の報道と照らし合わせても明らかです。
 これも処分につながるヒアリングでしたが、昨年七月十九日の報道発表資料には、ヒアリング対象者の役職や人員、ヒアリング実施者、ヒアリング実施日時が明記されています。処分につながるヒアリングだから詳細は開示できないという定塚官房長の答弁は、この前例と整合せず、情報を出さないための方便でしかないことが明らかです。
 後に野党の追及により判明したところによれば、毎月勤労統計をめぐる調査は、事務方である厚生労働省だけがヒアリングを行っていたケースが多く、報告書の原案も事務方が作成していました。さらに、その報告書の原案を外部委員に示したのは、報告書が取りまとめられた一月二十二日当日であったようです。
 労働政策研究・研修機構の樋口美雄理事長を委員長に迎えた特別監察委員会は、一月十七日と一月二十二日の二回しか開かれておりません。二〇〇四年までさかのぼり、経緯が複雑な毎月勤労統計の不正に対し、余りにも短期間の調査しか行わず、組織的な隠蔽は認められなかったと結論づけたのです。
 お手盛りの内部的な調査によって問題の収束が図られたことは明らかでした。その実態を隠すために、野党の事実確認に政府側が誠実に答えないことが国会審議で繰り返されたのです。
 しかし、与党は、事実解明に消極的な政府の姿勢をただしませんでした。野党が求める樋口委員長の参考人招致についても、労働政策研究・研修機構の理事長としての出席しか認めません。特別監察委員会がどのような問題意識でどこまで事実解明を行ったのかも明らかにされないままとなっています。
 次に、直近で問題となっている毎月勤労統計の部分入れかえ方式への変更過程の問題を取り上げます。
 現在、二〇一五年三月と二〇一五年九月に、毎月勤労統計への官邸の介入があったと疑われる状況になっています。
 二〇一五年三月三十一日には、中江首相秘書官が姉崎統計情報部長らに問題意識を伝えています。同日に公表する予定だった毎月勤労統計の一月分の確報は、当日になって急遽公表が延期され、四日後の四月三日に公表されました。この年の一月分からサンプルの入れかえによって過去にさかのぼって補正が行われたことにより、二〇一四年の十月と十一月の名目賃金の前年比がプラスからマイナスに転じることとなりました。それに対し、過去にさかのぼって大幅に数値が変わるようでは、経済の実態がタイムリーにあらわせないとの問題意識を中江秘書官が伝えたのです。
 その問題意識を受ける形で、厚生労働省では、二〇一五年六月三日に、毎月勤労統計の改善に関する検討会が立ち上げられています。冒頭に姉崎部長が語った問題意識は、アベノミクスの成果としての賃金の動きが注目されている中で、サンプルの入れかえによる遡及改定によって過去の数値が変わることについて、人騒がせな統計だといった意見があるというものでした。
 ただし、この検討会は、二〇一五年八月七日の第五回の時点では、従来どおり、三十から四百四十九人規模について、総入れかえを維持し、遡及改定を維持することが適当と阿部座長がまとめていました。中江秘書官の問題意識には沿わない方向性でした。
 にもかかわらず、続く九月十四日の第六回検討会では、阿部座長の欠席のもとで、サンプル入れかえ方法については、引き続き検討することとするという中間的整理案に変更され、そのまま不自然な形で立ち消えとなりました。
 その間に何があったか。厚生労働省が阿部座長に送っていた複数のメールが阿部座長から厚生労働省へと転送されたことによって、先週二十二日に公開され、経緯が明らかになってきました。
 二〇一五年九月四日のメールには、検討会での検討結果については官邸関係者に説明をしている段階との記述が見られます。そして、第六回検討会の二日前の九月十四日のメールには、委員以外の関係者と調整をしている中で、サンプルの入れかえ方法について、部分入れかえ方式で行うべきとの意見が出てきましたという記述や、検討会開催前の突然の方針変更で御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますとの記述が見られます。
 これまでの答弁で、九月十四日に姉崎部長は、中江秘書官と会ってコメントを受けたことを認めています。また、取りまとめの文書のまとめ部分の記載が、総入れかえ方式が適当から引き続き検討するへと変更されたのは、九月十四日の十四時一分から同日二十二時三十三分までの間であることがわかっています。委員以外の関係者とは中江秘書官のことと思われるとの根本厚生労働大臣の答弁もあります。
 中江秘書官は、九月十四日に姉崎部長と会った記憶がないと答弁しており、姉崎部長は、中江秘書官とは会ったものの、文言の修正の指示はそれ以前に行ったと答弁しています。いずれの答弁も、官邸の不当な介入を否定するための苦しい答弁と思われます。
 また、二〇一五年九月三日には、参議院厚生労働委員会における小池晃議員の質疑に備えたレクを中江秘書官が安倍首相に行っており、安倍首相は、一人当たりの賃金が伸びないとの小池議員の指摘に対して、毎月勤労統計の名目賃金と実質賃金に言及しながら答弁を行っています。「しっかりと実質賃金にも反映されるように我々もこの現在の経済の好循環を回していきたい」と首相は答弁していますが、二〇一五年の四月と五月は実質賃金でゼロ近傍まで改善とはいうもののマイナス、そして、六月は名目賃金、実質賃金ともにマイナスとなっており、実質賃金が伸び悩んでいることが、成長と分配の好循環をうたったアベノミクスにおける不都合な事実であったことは疑いようがありません。
 以上の事実関係を率直に見れば、賃金水準の遡及改定による下振れを防ぐために統計手法の変更が官邸主導で進められ、専門家の検討結果を尊重しようとする厚生労働省の意向に反して、強引に検討会の結論が曲げられたと見るのが一番自然です。
 以上、この間、何が問題になっているか、主要な論点に限って振り返ってきました。
 毎月勤労統計の不正の発覚に端を発し、徹底した事実解明をとの姿勢で、少なくとも見かけ上は与野党一致していた国会は、現在、統計手法の変更への官邸の介入を追及する野党と、その追及を阻むために国会への資料の提出や参考人招致を認めない与党との対立関係にあるように見えます。
 しかし、統計の信頼性の回復は、政府と国会が、そして与党と野党が、ともに一致して追及しなければならない課題です。そのためには、たとえ安倍政権にとって不都合な事実であろうと、また厚生労働省にとって不都合な事実であろうと、それらの事実を全て明らかにして、何が起こったのか、なぜ起こったのかを究明しなければなりません。そこからしか再発防止は図れません。
 不都合な事実はあくまで隠蔽して、事実を曲げてでも組織や安倍政権を守ろうとする、そのような姿勢は間違っています。過ちは過ちと認め、とるべき責任はとり、事実に即して再発防止を図る、その姿勢がなければ、統計の信頼性は回復できません。
 また、政府・与党には、統計が示す現実を謙虚に受けとめ、アベノミクスがなぜ実質賃金の上昇につながっていないのか、なぜ国民は景気回復の実感を持てずにいるのか、どのような政策が今必要なのかを問い直すことが求められます。
 最後になりますが、私は、昨年六月から、国会の審議を、切り取られて編集されたニュース映像ではなく、実際のやりとりをそのまま三分ごとに切り取って解説つきで街頭上映する国会パブリックビューイングという取組を、団体を結成して続けています。
 国会では、質疑とかみ合わない論点ずらしの答弁や、意味なく冗長な背景説明の答弁などで、野党の質疑時間が奪われ続けています。野党の指摘が不当なものであるかのように印象づけるような答弁も横行しています。
 私たちが主権者として国会を監視しなければ、そのような国会の機能不全は続きます。そして、不都合な事実も隠され続けます。その影響は、私たちの暮らしにはね返ってきます。
 よりよい社会の構築に向けて、国会が本来の機能を果たし得るために、私たちは主権者として不断の努力を重ねていきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119805262X00120190226_103

発言者: 上西充子

speaker_id: 31470

日付: 2019-02-26

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会