浅倉むつ子の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(浅倉むつ子君) ありがとうございます。浅倉むつ子と申します。
私は、この三月まで早稲田大学の法務研究科で労働法、ジェンダー法を教えておりました。そのような立場から、雇用差別禁止法制の研究をしてまいりましたので、今回の法改正について意見を申し上げます。
今回の法改正は、女性を始めとする多様な労働者がその能力を十分に発揮して活躍できる就業環境を整備する、そういうふうに説明されております。そうであるなら、日本にいまだ存在し続けている性差別、それを撤廃するための対策をしっかりと取るべき、そういう考え方を持っておりますので、以下五点にわたり意見を申し上げたいと思います。
第一に、女性活躍のためには、一九八五年に日本が批准しました女性差別撤廃条約、それを国内で是非とも生かしていただきたいということです。そのためには、同条約に伴う一九九九年の選択議定書を批准すべきであると考えております。日本の裁判所は、女性差別撤廃条約を司法判断の根拠規定と解しておりません。それを改めさせるためにも、選択議定書を批准して、個人が女性差別撤廃委員会に権利侵害を通報できるようにする、それが重要な課題である、そう申し上げます。
第二でございますが、女性活躍のためには、雇用における性差別を規制する最も基本である男女雇用機会均等法を強化して、できるだけ性差別禁止法に近づけるという努力を怠ってはならないと考えております。
二〇一三年には第三回目の均等法の見直しが期待されておりました。しかし、施行規則や指針の部分的改正に終わり、性差別禁止の核心に触れる改正はありませんでした。今回こそ均等法の本格的見直しを期待しておりましたけれども、これが現国会の焦点になっているようには見えません。
真に日本の女性が能力を発揮できるようになるためには、均等法に禁止されるべき性差別の定義規定を置き、そこに直接差別と間接差別が含まれるというふうに明記すること、そして七条の間接性差別禁止規定をより分かりやすい条文にする、そういう抜本的な法改正が必要であると考えております。決して今の均等法が十分であるとして立ち止まっているべきではないと強調したいと思います。
第三ですが、現在焦点となっておりますハラスメントについては、これを全般的に禁止する条文が必要だと考えております。
ハラスメントに対するこれまでの日本の法政策的な対応は、ハラスメントを名称によって分類して、行政がそれぞれ個別に対応していくという形を取ってまいりました。しかし、その定義の谷間に落ちてしまう、そういうハラスメントがあるために、本当にそれでよいのか反省する必要があると考えます。
私は、性別、人種、年齢、障害、性的指向、性自認などの差別禁止事由に関するハラスメント言動は禁止されなければならないということ、同時に、差別禁止事由とは関わらないハラスメントも禁止されなければならない、それを明確にすべきだと考えております。すなわち、全般的なハラスメント禁止規定が必要不可欠であります。
現在のような、事業主に対するハラスメントへの適切な対応という雇用管理上の措置義務だけでは決して十分ではありません。それでは一般の人々に対して、なぜハラスメントが許されない行為なのか理解させることができないからです。
EUやイギリスの平等法では、ハラスメントは、他者の尊厳を侵害する行為であり、脅迫的、敵対的、品位をおとしめるような屈辱的な行為であり、さらに不快な環境をつくる行為であると述べられております。
ハラスメントは許されない。なぜなら、それは人の尊厳を侵害する言動だからです。このことをまずしっかりと条文化すべきだと考えます。
なお、今年のILO総会で採択される予定のハラスメントに関する条約案も、全ての形態の暴力及びハラスメントを法律で禁ずることを要請しております。
禁止規定を作ることはハラスメント防止対策のイロハであって、この禁止規定から漏れてしまう人々があってはならないと考えます。人の尊厳の侵害行為がハラスメントなのですから、労働者であろうがなかろうが、例えば就活生、フリーランス、教育実習生であっても、ハラスメント行為の被害者になってはならないし、性的指向、性自認に対するハラスメントも禁止されなければなりません。このことが、全般的、包括的ハラスメント禁止規定を置く必要性であると考えます。
もしも今回の法改正で禁止規定が盛り込まれないという場合には、この後速やかに、国際基準となるであろう禁止規定の国内法化を当然の前提とした法や法規定の在り方の検討を開始すべきであります。
なお、現在の法案では、ハラスメントに関する国、事業主、労働者の責務規定の導入というものが提案されております。そこでは、例えば性的言動問題について、均等法十一条一項に規定する不利益を与える行為又は労働者の就業環境を害する同項に規定する言動を行ってはならないこと、その他当該言動に起因する問題(性的言動問題)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるというふうにされておりまして、これではハラスメントを行ってはならないという趣旨が全く伝わりません。ILO条約案が禁止規定を求めているということから見れば、ここでなぜハラスメントを行ってはならないと書いてはいけないのでしょうか。
また、この責務規定では、ハラスメントの言動に加えて、当該言動に起因する問題についても関心や理解を深め、必要な注意を払うという対象にしております。しかし、当該言動に起因する問題とは何なのか、ほとんど議論がされていないように思います。この問題とは、その言動が原因で仕事ができなくなるということなどが考えられると思いますけれども、今後、企業が取り組むためにも、指針において明確に規定する必要があると考えます。
第四ですが、ハラスメントを禁止する規定を置いた場合でもその実効性をいかに確保すべきか、何といっても重要です。
それは、均等法等の措置義務についても言えることです。均等法は現在の十一条でセクハラに関する事業主の措置義務を定めており、指針には事業主が義務付けられる十項目の内容が定められております。
措置義務を遵守していない事業主に対しては行政が助言、指導、勧告をすることができますが、しかし勧告違反に対する制裁である企業名公表は、長い均等法の歴史の中でもただ一回行われたにすぎません。しかも、これは妊娠、出産をめぐる解雇事案でございました。
制裁が行われないのは企業が行政指導を受け入れているからという説明は、部分的には当たっているかもしれませんけれども、それよりもむしろ、措置義務が遵守されていないという実態が明白になっているので、措置義務の履行を確保するだけの行政の人員が不十分だというのが真意ではないでしょうか。禁止規定を設けることと併せて、禁止規定や措置義務規定の実効性をしっかりと確保するということが重要です。
第五に、今回の法改正では女性活躍推進法の強化が中核を占めております。この法律は、言わば行動計画を事業主自ら策定させるという事業主の自発性に委ねられている法律であります。だからこそ、この法律が真に女性活躍に効果を発揮するためには工夫を重ねなければならないと考えております。私の見解では、状況把握の基礎項目並びに情報公表項目として、男女の賃金の差異の実態、そしてハラスメント対策の整備状況、それを加えることは必要不可欠と考えます。
また、労働者の関与がなければ、このような立法を機能させることは難しいと思います。行動計画策定に当たっては、労使によって構成される常設の委員会を設置すべきです。現在、事業主行動計画指針では、労働者や労働組合等の意見交換などが重要であるとされておりますけれども、この意見聴取の手続は周知徹底されることはもちろんのこと、計画の届出に際しては労働者の意見を記した書面を提出するなどの手続も導入して、労働者の関与を法に含むことが法を機能させる上で非常に重要だと考えております。
さらに、行動計画の内容や実施状況は、行政による監視指導体制がなければ真実性が確保されません。行政がいかにして行動計画の履行を実質的にモニタリングできるのか、その体制の整備の検討が不可欠ではないでしょうか。
日本でも本当に女性が活躍できるような差別のない企業社会の形成に向けて、より真剣な取組が進むことを心より期待しております。
どうもありがとうございました。