鈴木聡の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(鈴木聡君) この三月まで三重県児童相談センターの所長をしておりました鈴木でございます。
 今回は、このような機会をいただき、誠にありがとうございます。
 本日は、三重県で進めてまいりました新しい試みを、県作成の資料に基づきましてまずは御説明をさせていただきます。
 それに先立ちまして、今般の札幌市の事件につきましては、子供を守る立場の大人として、また児童福祉関係者として大変残念に思います。お子様の御冥福をお祈りしたいと思っております。
 さて、資料一を御覧ください。当県は、都市化の進んだ北部から山間地、海岸部までその地形は多様で、地域のニーズもそれぞれ異なっており、人の動線も考えた児童相談所の配置が求められます。そのため、従来から五か所の児童相談所を設置してまいりましたが、都市化の進んだ地域では児童虐待の問題が深刻化し、平成二十四年には二件、児童相談所が関与しているにもかかわらず子供さんの命が失われるという、あってはならない事件がございました。その後の検証委員会からの大変厳しい御指摘や現鈴木知事のリーダーシップもありまして、若手の研究者にも入っていただいたワーキングを立ち上げ、新しい視点からの積極的な改革を行うとともに、今春には新たな児童相談所も立ち上げたところでございます。
 今日は、それらの中で見えてまいりました新たな視点につきまして、少しでも法案審議の御参考になればと思い、お話をさせていただきます。
 一連の改革の中で気付かされた一点目は、児童相談所が持つポリシーについてでございます。先ほどのワーキングの中で、まず研究者の方から提案されたのが、三重県が日々の対応に当たり基本とする虐待対応ポリシーの策定でございました。
 資料二がそのポリシーでございます。一番上に、保護者との関係性よりも子供の安全を重視するという、最も基本となる考え方を示しております。何か課題が出てきた場合、常に基本に戻って考えるという意味で、このポリシーの大切さは様々なところで痛感しているところでございます。現在、新しい資格制度も議論に上っておりますけれども、私といたしましては、知識や技術も大切にしつつ、このようなポリシーをまず共有することが最重要ではないかというふうに思っております。
 二番目は、緊急一時保護のための意思決定に関するリスクアセスメントについてでございます。
 三重県では、ポリシーの策定後にリスクアセスメント作成に着手いたしましたが、その基本になったのは、背景にエビデンスのある項目を選定することでございました。従来、日本でエビデンスという考え方は、特に児童虐待対応の現場では重視されていなかったようにも思います。この背景には、欧米に比べて虐待対応や研究の歴史が浅かったこと、それから、虐待というナイーブな問題を扱う児童相談所が、個人情報への配慮もあって、研究者と共同するということに積極的でなかったこともあるかもしれません。我々は、北米地域で使用が広がっておりましたエビデンスに基づいたツールの考え方も参考にし、海外の文献などにも明るい研究者の方とともにリスクアセスメントの項目を選定してまいりました。
 資料三ができ上がったシートでございます。一部を抜粋して表示しております。上段が緊急出動を判断する六項目、下段が一時保護を判断する十五項目になっております。従来日本で使われてきましたものから一歩踏み込み、保護を検討する内容や状態を具体的に明記しております。これらの項目に一つでもチェックが付けば、基本的に一時保護を検討するというふうな形に仕上げました。ただ、事例により様々な状況もございますので、もし一時保護しないのであれば、その理由を最下段に記入するというふうな形式にしております。
 見るとお分かりいただけますように、これは記述が非常に具体的なだけに、従来のものとは異なり、現場の判断を以前より縛る方向で作用いたします。また、保護が多くなった場合、親御さんや県民の皆様からの様々な反応も予想され、現場からは懸念の声が上がったのも事実でございます。しかし、二度と事件を繰り返してはならないとの決意の下、県民の皆様に向けては知事がメディアでアナウンスするなど、積極的に対応してまいりました。
 資料四を御覧ください。これが三重県のリスクアセスメントを運用した結果でございます。死亡事件が起こった二十四年度と比べ、虐待を主訴にした緊急一時保護はその後倍増しております。
 これだけ保護が増えてまいりますと、相談部門や心理部門だけではなく、さらに一時保護部門にとっても大変な状況と相なりました。一時保護所だけではとても対応できず、施設や里親さんにも一時保護委託をお願いするということになり、さらには施設に一時保護専用施設というのを設置していただくことにもつながりました。
 現在、三重県では、施設に附置された小規模な一時保護専用施設が三か所稼働しております。着実な対応には、このように、児童福祉司の増員だけではなく、様々な対応が必要になるということでございます。
 資料五を御覧ください。これは、虐待を主訴に保護を行った子供たちの家庭復帰までの日数を示しております。全体の保護が急増する中で、一週間未満という短期のものが大きく増えております。
 これは、あざを例に取りますと、比較的軽いものでも基準に該当すればまずは保護し、親御さんに来ていただいてお話を伺い、大丈夫ということであればごく早期に家庭にお帰しするという対応を取っていることを示しております。つまり、重篤な状況に至って初めて保護し、その後はなかなかお帰ししなかった従来の対応から、より早い段階での対応にシフトしてきたことを示しております。児童相談所の仕事が増えることは確かでございますが、子供さんにとりましては家庭で長く好ましくない状況に置かれるよりは良いのではないかというふうに思っております。
 このような対応によりまして、職員も、毅然とした一時保護や、その後の親御さん対応に抵抗が少なくなってまいりました。日頃からこのような経験を積んでいることはとても重要なことであると気付いた次第でございます。
 では、資料六のグラフを御覧ください。これは、リスクアセスメントで一つでもチェックが付いた、つまり原則一時保護を検討するという事例のうち、実際にどれぐらいの割合で保護をしたのかを見たものでございます。
 年度によって保護率が変動しているのが見ていただけます。我々のリスクアセスメントでは、各児童相談所ごと若しくは年度ごとに、つまり所長とかスーパーバイザーの判断の違いも見えてまいりますので、それを基に自分たちの対応を客観的に振り返ることが可能になります。より意思決定に有効なリスクアセスメントが各現場で使えるように、国には研究の促進をお願いしたいというふうに感じております。
 三番目は、蓄積データの分析についてお話しさせていただきます。
 資料七を御覧ください。児童虐待でデータ分析とは何かというふうに思われるかも分かりませんが、卑近な例で申しますと、虐待で一番亡くなるのはゼロ歳児というふうな結果が出ておりますように、個人の経験だけではなかなか知ることができない重要な事実も、そういう多くのデータを分析することで見えてくるというふうなことでございます。
 当県ではリスクアセスメントのデータを約六年間かけて六千件ほど蓄積しておりまして、それを産業技術総合研究所の協力で分析してまいりました。その中で、例えば三重県で多くなっております一週間未満の一時保護でもその後の再発率が低下するというふうなことであるとか、取った対応の違いによる将来予測ができそうなことなども見えてまいりました。
 これらデータは、元をただせば現場の判断の積み重ねでございます。つまり、ベテランの経験や感覚がデータという形で次に引き継がれていくというふうなことも意味しております。今後、更にデータが蓄積され研究が進むことで、意思決定に役立つ知見が得られるというふうに思っております。
 資料八を御覧ください。平成二十九年、当県知事がカナダ・オンタリオ州を訪問した際、児童福祉の関係機関も視察させていただきましたが、あちらではトロント大学が州内の虐待対応のデータを集約、分析し、結果を虐待対応にフィードバックするだけではなく、施策の立案等にも生かしておられるというふうなことでございました。
 今日、最も強調させていただきたいことは、児童虐待の分野におけるデータ分析の重要性です。それを広めていくためには、データを多忙な現場でいかに負担なく集めるのか、それから、現在は自治体ごとに行っておりますリスクアセスメント項目をどう統一するのか等の課題がございます。
 その一点目につきましては、産業技術総合研究所が開発いたしました多機能タブレット端末の実証試験を間もなく三重県で開始する予定でございます。また、二点目につきましては、国で分析に必要なデータ内容や形式を統一してお示しいただくことがそのスタートになるというふうに思っております。
 当県でも数年間蓄積して知見が得られ始めましたように、データ蓄積には一定の時間が掛かります。我が国でもエビデンスベースド若しくはエビデンスインフォームドな児童虐待対応が行われるよう、是非とも早い段階で国がイニシアチブを取っていただければというふうに思います。
 以上でございます。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 鈴木聡

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日付: 2019-06-13

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会