松嶋隆弘の発言 (法務委員会)
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○松嶋参考人 おはようございます。
ただいま御紹介いただきました、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘と申します。
商事法のうち、会社法、特に中小会社に関する法律問題を中心に勉強しております。
このたびは、せっかく意見陳述の機会をいただきましたので、今回の会社法改正法案に関しまして、日ごろ思っていることを申し述べたいと思います。
私どもの意見書は、企業法実務研究会名義で法務省に提出した上、税務事例という雑誌に掲載させていただきましたので、それを参考資料としてお手元に御用意させていただきました。限られた時間ですので、それらの全てについて申し述べることはできません。この場では、中小会社法の観点から、気になっていることを数点指摘してみたいと思っております。よろしくお願いいたします。
まず最初に、今回の改正法案全体についての感想を申し述べたいと思います。
今回の改正法案は、株主総会の電子化、社外取締役の義務づけ、業績連動型報酬に対する報酬規制、社債管理者、株式交付等々、いずれも、専ら上場会社、大規模公開会社を念頭に置いた改正項目が中心ではないかと思われます。その意味では、前回の改正である平成二十六年改正も同様な側面がありました。とりわけ社外取締役に関する規制等は、平成二十六年改正の積み残しの側面があるようです。
言うまでもないことですが、このような大規模公開会社におきましては、所有と経営の分離が徹底しておりまして、経営に関する事項は取締役会が広範な裁量的権限を有しております。株主総会を介した株主の経営への関与は、おのずから限定的なものとならざるを得ません。このような株式会社を念頭に、さきに述べました各項目に関する改正を行うのは、まことに時宜にかなったものと言えましょう。
ただ、世の中の大部分は、どちらかといいますと上場もしていない中小規模の会社でございます。このような中小会社におきましては、所有と経営の分離が必ずしも徹底しておらず、株主総会を介した株主の経営への関与は、経営権を有していない同族株主が経営権を有している同族株主に対する対抗手段としてなされるということが往々にしてあるようです。このような会社における株主は、会社の実質的所有者であることを忘れてはならないのであります。
そして、釈迦に説法ではございますが、平成十七年に制定された会社法典におきましては、所有と経営が一致した旧有限会社型の会社をベースとして、その上に制度を積み重ねる形で、大規模公開会社の機関設計に係る組合せもその一つとして置かれているわけであります。このような会社法典の想定する機関設計の基本に鑑みましても、株主の所有者性、これは株主総会の最高機関性としてあらわれますが、これを忘れてはならないと考えます。
また、今回の改正法案を通覧いたしますと、改正したいであろう本質的目標に到達するため、他の便宜的な方策を用いようとしている側面が目につくように思います。社会の変化に追いつくべく頻繁に改正されるのは会社法が持つ宿命でありますが、他方で、会社法は、資本主義のインフラである会社制度を規律する基本法典ですので、しっかりしたグランドデザインが必要でないかと考えております。
本日は、こうした観点から何点か指摘しておきたいと思います。
一つは、株主提案権の個数制限についてです。
改正法案は、株主提案権のうち、議案要領通知請求権につき、提案することができる議案の数の制限を十個に限定しようとしております。これは、提案されている理由によりますと、近時の濫用的な行使事例に鑑みての改正であるとのことであります。
しかしながら、巷間紹介されている事例は、よくよく見ますと、いずれもごく一部の特定の者、ここでは委員会の性質に鑑み名前を差し控えますが、その者による行使事例であるにすぎず、対象となった会社も、その者が創業者一族であったという特殊な背景事情があるようであります。このようなごく一部の者による特殊な行使事例を根拠に、株主の重要な権利である株主提案権の行使が限定されるというのは、立法事実としていささか不十分ではないかと考えている次第であります。
ここで、株主提案権の制度趣旨について考えてみますに、株主提案権は、昭和五十六年の商法の大改正に際し、株主総会の活性化の一環として導入されたものであります。そして、今話題としております議案要領通知請求権は、取締役会設置会社の場合、総株主の議決権の百分の一以上の議決権又は三百個以上の議決権を有する少数株主の権利とされております。
しかし、ここで言う少数株主は、かつての一株運動における株主などと異なり、実際には大株主であります。中小会社の場合に引きつけて申しますと、経営権を持っていない大株主であると言ってよいでしょう。ですので、これらの株主による株主提案権の行使は、経営権を持っていない株主が経営権を持っている株主に対し株主総会という公正かつ透明な土俵で議論をするという、コミュニケーションを求める訴えとして真摯に受けとめるという態度が、立法に当たっても必要とされるように思います。そして、このような態度こそが、昭和五十六年改正で議論された株主総会の活性化に資すると考えている次第です。
もちろん、濫用に対する懸念は理解できます。しかし、改正法案の提案は、余りにも制度の病理的側面にとらわれ過ぎなのではないかと思います。このような病理現象への懸念は、かつての株主代表訴訟の改正に際しましても、行為時株主の原則の導入に関する議論、これは結局見送られましたが、等々、時々浮上しては消えていくものでありますが、今回の提案はまさにその一環なのではないかと思います。
また、過日、平成二十六年改正で、株主名簿の閲覧請求権についても、閲覧拒絶事由について、会計帳簿閲覧請求権の行使に倣った閲覧拒絶事由があったのを削除したという背景がありますけれども、その事例も想起できるわけです。
濫用に対する懸念がどうしても無視できないのであれば、例えば、株主代表訴訟につき濫用的目的の訴えを否定する規定、会社法でいいますと八百四十七条一項ただし書きでありますが、これらの例に倣いまして濫用的目的に関する規定の創設を検討すべきでありまして、その代替的に、便宜的に個数で制限するといった態度は、制度の本質を損なうものであると言わざるを得ません。現に、改正法案は、名誉毀損的目的等、内容に着目した規制を既に用意しているのであります。
第二に、株式交付について取り上げたいと思います。時間の関係もございますので、こちらは少々はしょりつつの説明となります。
改正法案における株式交付は、買収会社がその株式を対価として対象会社を買収しようとしたいが、対象会社を完全子会社化することまでは望んでいないという場合における買収の手法を新たな組織再編として新設しようとするものです。対象会社を完全子会社にしたい場合の制度としては、既に組織再編の一環として株式交換制度が用意されておりますので、今回の株式交付はいわばミニ株式交換と言うことができます。
しかし、結合企業法制に関する一連の商法改正として株式交換制度ができた経緯と今回の株式交付の新設の理由を見比べますと、ここでは、組織再編制度を整備するといった観点よりも、組織再編制度に組み入れることにより、面倒な現物出資規制を外したいという思惑が強いように思います。
現物出資規制については、かつては資本充実規制の一環として重要な役割があったと思いますが、資本規制が空洞化しつつある中、その役割が変容しつつあるように思います。そして、実務では、現物出資規制が種々のニーズの桎梏となるようなケースが出てまいります。事業再生の際に利用されるデット・エクイティー・スワップにまつわる議論、出資される債権の評価が券面額か評価額かといった議論も、要は現物出資規制をどう回避していくかと言っていいことかと思います。
そのような観点から見ますと、現物出資規制に手をつけず、あえて大がかりな組織再編の一環として仕組むことで、現物出資に関する問題が残されたままになるのみならず、かえって新たな弊害が生じかねないように憂慮しております。こう言いますと、直ちに、会社分割制度の改正をきっかけに濫用的詐害分割が横行し、平成二十六年改正で是正された例が思い浮かびますが、このような轍を踏んではならないと考えます。私といたしましては、むしろ、現物出資規制に関し本格的なメスを入れる時期が来ているように思います。
最後に、三点目として、今回の改正項目に挙がっていない中小会社に関する改正についての要望を述べておきたいと思います。
前回の改正でも今回の改正でも、中小会社固有の問題点については本格的な検討の俎上にのせられなかったように思います。その幾つかをここで思いつくままに挙げ、注意喚起し、次回以降の改正につなげていただけたらと願っております。
一つは、相続人等に対する売渡し請求権を規定する会社法百七十四条に関してです。
本条に関しては、かねてから相続クーデターの可能性を生じ得ることが懸念されてまいりました。レジュメに掲げている鳥取地裁の裁判例は、まさにその懸念が現実化したものです。
ここに、相続クーデターは、制度の構造上、議決権に関し、たった一瞬生じるすき間を狙って起こすクーデターのことですが、このようなものが公平の見地から許容され得ないことは言うまでもありません。
幸いにして、鳥取地裁の事案では、特例有限会社に関する事案でありまして、特例有限会社を規定する整備法がこの点に関してのみ旧有限会社の規定を引き継がなかったところから、たまたま相続クーデターが不奏功に終わりました。これが通常の株式会社であれば、相続クーデターが成功しかねなかった事案であります。何らかの立法の手当てが必要であるように思っております。
また、会社法四百二十九条一項の取締役の対第三者責任に関しましても、極めて曖昧な規定がほぼ放置され、解釈に委ねられているため、何らかの対応が必要です。
第三者からの取締役に対する責任の追及は会社倒産時にされることが多いのですが、会社倒産時において、このような形で個別の債権者の保護を与えていくことは不適切なのではないかと思います。むしろ、今後は、倒産時における取締役の責任の査定制度、例えば破産法百七十八条等を介して、債権者全体の公平を図るスキームが模索されていくべきではないかと考えております。
最後に、反社規制を挙げたいと思います。
御存じのとおり、先般の民事執行法改正で、不動産競売における暴力団員による買受け規制が導入されました。このこと自体はまことに喜ぶべきことだと考えておりますが、近時、反社と言われる者が、不動産競売と並行し、企業の支配権の奪取を図り、それに成功したという事案が登場しました。レジュメに掲げている東京高裁の平成三十年の事案がまさにそれであります。
会社法におきましても、他の諸法、例えば数年前には古物法が改正され反社の規定が導入されたと記憶しておりますが、反社規制の導入を真剣に検討すべき段階に来ているのではないかと感じております。
私の意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)