鈴木宣弘の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(鈴木宣弘君) この度はこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私の方からは、配付いただいております日米貿易協定の虚実というペーパーに基づいてお話をさせていただきます。本協定をめぐる議論には、私が思うには事実と異なる点があると思いますので、そのような点から所見を述べたいと思います。
 まず、一つ大きな点は、アメリカが自動車関税及び部品の撤廃を約束したという点でございます。日本政府はそのように話しまして、署名をいたしました。しかし、その後に開示されたアメリカ側の合意内容、英文だけが出ておりますが、それには今後交渉を続けるとしか書いておりません。この英文が関税撤廃を約束したと読めるというのであれば、私には全く理解に苦しみます。アメリカ側も、自動車の撤廃は約束していないと交渉トップがコメントしておりますし、影響試算についても、日本が自動車の関税撤廃を見込んで試算をしているのは理解できないというふうにアメリカ側は指摘しております。
 じゃ、なぜ、ない約束をあることにしなくてはいけないのか。それは、約束があることにしないと、アメリカ側の貿易額の九二%を含む協定であると言っているのが、自動車の部分が四割ぐらい抜ければ五割少しに落ち込んでしまう。これは過去に例のない前代未聞の国際法違反協定となります。この点だけでも国会批准は難しくなる。
 我々は、差別的なつまみ食い協定の横行が第二次世界大戦まで行ってしまったという反省から、戦後、ガットのルールで、二国間の自由貿易協定をやるときは九〇%以上を含まなきゃいけないというルールをみんなで一生懸命守ってまいりました。その結果、二百ぐらいある自由貿易協定の中で、八五%のカバー率を下回る協定はほとんどない状態になっております。
 そういう中で、日米二国のこの大きな経済圏が五十数%の協定を発効するとなりましたら、これは世界の貿易秩序に対する大きな挑戦であります。前代未聞の犯罪行為とも言える、戦後の世界の努力を無に帰すような事態が生じるわけですので、その点をどう考えるのか、非常に大きな問題です。
 それから、個別の品目でいいますと、アメリカからの日本の牛肉輸入についてはTPP合意にとどめられたという議論がありますが、日本は、牛肉についての輸入枠、低関税の輸入枠、セーフガードというのを、アメリカの分も含めてTPP11で十一か国に差し出しました、六十一万トン。それにアメリカの分が入っていたわけです。それにアメリカと二国でまた二十四万トンを加えてしまったわけです。ですから、これは既にTPP超えです。
 しかも、アメリカの二十四万トンについては、それを超えてアメリカが日本に牛肉を持ってきたら、十日間以内に協議を開始してアメリカの枠を増やしていくということをサイドレターで決めていることが後で明らかになりました。これは、結果的にはアメリカの枠をどんどん増やして、九%でアメリカは幾らでも日本に持ってこれるということをやっていくということでありまして、セーフガードのガードには全くならないという大変な事態を招くことになります。
 それから、日本からのアメリカへの牛肉輸出は、アメリカが何十万トンなのに、日本からは僅か二百トンしか低関税枠がございません。それが最大六万トンと言いますが、それはほかの国の枠も含めてのことですから、二百トンを少し超えても、まあ低関税でいいよというぐらいの約束にしか見えません。
 ところが、TPP全体のときには、アメリカはその二百トンの枠も拡大し、いずれはなくして、十五年後には関税も撤廃すると日本に約束していたんです。それを完全にほごにされて、二百トンが少し増えるだけになったことが日本の成果だというのは、私には理解できません。
 それから、米や乳製品は勝ち取ったと言いますが、米は御案内のとおりカリフォルニアの主産物で、トランプ大統領にとってはどう頑張っても負けるカリフォルニアはむしろいじめた方がいいぐらいの形で対応したと言われております。
 じゃ、乳製品などの枠はどうかといいますと、乳製品やその他三十三品目、TPPワイド枠といって、アメリカの分も含めてTPP11の国に既に譲ってしまっておるわけです。だから、TPP水準はそこで日本にとっては実現されてしまっているわけで、アメリカの分がそこに加われば、もうすぐにTPP超えになるわけです。それが回避されたからといって、それはアメリカから見ればTPPマイナスということで、先ほどの先生の評価もあり得ると思いますが、日本から見れば既にアメリカの分も含めてTPP11で実現してしまっているわけですから、その点をよく考えないといけないのではないかと思います。
 それから、奇妙なことに、今回の協定の日本側の約束内容の中に、アメリカが将来にわたって特恵的な待遇を強く要求するということが書かれております。これは、アメリカの単なる希望的観測ではございません。日本側の合意内容にこのことが書かれているということは大変重要な意味を持つと考えます。そもそも、アメリカが一度日本から得た合意内容をもう要らないと言うわけはございません。既に米の団体も酪農の団体も何とかしろと言っているわけです。だから、こういうことがこれからすぐに起こるわけです。
 そして、自動車のために農業を差し出したわけではない、こういうことはしないというように言っていますが、交渉官が既に記者会見で、これから自動車の交渉をするに当たっては、まだ日本の農産物は大分余裕があるのでそれをカードに使うと本当に言っちゃっているわけですよね。このことは非常に正直だったなと思います。
 それから、二五%の自動車関税は発動されないと本当に約束されたのでしょうか。どこにも書いてありません。むしろ、協定本文には、安全保障上の理由で、この規定にかかわらず、本協定の規定にかかわらずやれるんだということが書いてあるわけですから、そのことの意味は大きいと思います。
 逆に言えば、このような安全保障上の規定が入っているのであれば、日本の方こそ、安全保障上の理由で食料の関税障壁はもっと高めるというぐらい言い返せばいいじゃないですか。そういうことが問題です。
 要は、EUは、二五%の自動車関税で脅されても、それは犯罪行為であるから許さないといって対抗しました。日本は、その犯罪行為に対して、いやいや、それは困るから、いろいろ出すからうちだけは許してくれという話になっちゃったので、どんどんいろんなものを出さされて、そして中国との関係で余ったトウモロコシまで六百億円分尻拭いしなさいと言われて、それまで約束してしまったと。どんどん犯罪者にお金を払って許しを請うような形の交渉をやって、その挙げ句が、日米二国で更なる前代未聞の犯罪行為、WTO違反協定を今本当にこのままやるんですかということになってきたと。
 ですから、ウイン・ウインだと言いますけれども、どこがウイン・ウインなんでしょうか。農産物だけ取ってみても、日本側の農産物の関税撤廃率は七二%になっております。アメリカ側は、明治大学の作山先生が書かれていますが、何と農産物のアメリカの関税撤廃率は一%です。
 このような形で、トランプ大統領にとっては、自動車も勝ち取りました、日本には撤廃しないということを貫きました、農産物も欲しいものはもらいました。まさにトランプ大統領の選挙対策としてウイン、ウインなわけでございます。それに日本が一生懸命協力しているというのが今の状況ではないでしょうか。
 そして、三ページの試算の表がございますが、我々が政府のGTAPモデルというものと同じモデルで再計算をしました。自動車の関税撤廃が行われなかった場合には、日本のGDPの増加率はほぼゼロです。そして、日本の自動車の生産額はむしろ八百億円ぐらい減ります。そして、農産物は最大九千五百億円程度のマイナスが生じます。数字は正直です。自動車も農産物も全て失っておるわけです。
 ですから、このような完敗の、完全に日本側が負けているということが明らかな協定を前代未聞の国際法違反まで犯して批准するという事態の深刻さ、誰のために、何のためにこれをやらなくてはいかぬのですか。そのことをよく考えていただきたい。
 そして、こういうことをやっていますと、日本の農業は大変なことになります。既に御案内どおり、日本の地域の農業は生産構造脆弱化で、もう五年、十年で集落がなくなるようなところがどんどん増えています。それにこのような畳みかける自由化をやりましたら、何が起こるか。ここに一つの試算がございますが、その四ページの黄色の部分ですね、二〇三五年ぐらいに牛肉や豚肉では自給率が一割台になるかもしれない、こういう状況が目の前に来ておるわけでございます。
 だから、このように農産物の自由化を進めることは、農家の問題ではあるが消費者はメリットだと言っていると大変なことになると。安い安いと言っているうちに、アメリカの牛肉のエストロゲンは六百倍も入っているとか、成長促進剤のラクトパミン、全て乳がん、前立腺がんとの関係が強いと言われています。
 それから、BSEに、狂牛病にかかっている牛はアメリカでは十分検査がされていませんが、日本は五月十七日にこのアメリカ産牛肉を全面解禁しました。これが日米協定の最初の成果でもあります。
 それから、遺伝子組換え食品につきましては、アメリカからの要請を受けて、遺伝子組換えでないというような表示を二〇二三年に実質禁止することが決まりました。ゲノム編集については、十月一日からアメリカの要請を受けて完全野放しにしております。
 アメリカのトウモロコシ、大豆、小麦に直接掛けられている除草剤、アメリカがもっと振りかけなきゃいけないということで、日本人の安全基準値を残留が多くなるからもっと高めろということで、これも高めてしまいました。イマザリルとかOPPとか、収穫後農薬、日本では禁止ですが、アメリカから運んでくるときに掛けなきゃいけないと。食品添加物だということで無理やりそれを認めてきましたが、アメリカは、それによって表示をしなきゃいけないのがアメリカに対する不当な差別であるからこれをやめろとTPPの交渉のときから言っていまして、今の日米協定の中でこの表示を廃止する議論が行われていると。これだけ見てもリスク満載ですよ。
 これを食べ続けることで、我々は安いと言っていると病気になって早く死ぬと、どこが安いんですかと。牛丼、豚丼、チーズが安いと言っているうちに、どんどん病気が増えて、いかぬ、国産の安全、安心なものを支えなきゃいけないとなったときに自給率が一割になっていたら、もう手遅れです。その瀬戸際まで来ているということを私たちは考えなきゃいけないんじゃないかと。
 国民の命を守り、国土を守るには、どんなときにも安全、安心な食料を安定的に国民に供給すること、それを支える農林水産業の持続が不可欠であります。農は国の本なり、そのためには自給率をしっかりと維持していく、これが世界の常識です。それがどんどん下がって、三七%まで下がっても、まだ下がっても構わないと、自給率が死語になろうとしているのが我が国の現状です。
 アメリカから何兆円も武器を買いますだけが安全保障ではないと思います。食を握られることは、国民の命を握られ、国の独立を失うことだと肝に銘じて、まさに真の安全保障の一角を担う農林水産業を支える政策を再構築すると。このような止めどない自由化が本当にいいのかということを考えなきゃいけない。食料がなくなってから代わりにオスプレイをかじることはできません。
 それと、もう一つ申し上げておきたいのは、今までの経緯を見ていますと、先生方が、あるいは霞が関の皆さんが国会などで発言されたことが後になって違ってくるわけですね、現実が。そのときに誰も責任を取らなくてもいいというこのシステムそのものに私は問題があるんじゃないかと思っています。

発言情報

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発言者: 鈴木宣弘

speaker_id: 2992

日付: 2019-11-28

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会