内田聖子の発言 (外交防衛委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(内田聖子君) 貴重な機会を与えていただき、ありがとうございます。
 私は、NPO、そして国際NGOという立場、つまり国際市民社会の一員として、この貿易協定を、WTOの時代、そしてTPPと追ってきました。今日はその立場から分析等を述べさせていただきます。
 まず、この日米貿易協定の基本的な背景、成り立ちというのは、最初の中川先生おっしゃったことと同じですので繰り返しませんが、一点そこで私、強調したいのは、TPPからアメリカが脱退したときに、日本政府は米国抜きのTPPは意味がないと言っておりました。そして、その後、TPP11の審議の際には、日本は米国をTPPに復帰をさせる努力をするということを言っていました。そして、日米FTA、これには応じないんだという方針をはっきりと立てておりました。
 これは、日本政府のいわゆるルールベースの包括的なFTAを目指していくんだという主張に沿ったものであり、私は国際市民社会の立場として必ずしもこれに賛同はしないんですが、少なくとも当時の政府の主張には論理の一貫性というのはあったと思っています。
 ところが、アメリカが日米FTA、貿易協定を求めてきて、そこに応じてしまったわけなんですけれども、このことが日本にとっては非常に大きな方針の転換ということになったと思います。実は、このことが国会審議でも私はまだ深められていないのではないかと思っています。つまり、日本が、ルールに基づく自由貿易であったり、それからTPPにやっぱりアメリカに復帰してもらうんだと筋を通すという大義を下ろしたということになるわけですね。で、その日米同盟に縛られた関係の中で、この日米貿易協定の交渉が始まっていったと。
 つまり、これはそもそも日本が望んでいなかった協定なんです。理にもかなっていない、ルールベースということにも。多国間交渉やってきた、これをねじ曲げて交渉に応じたという点で非常にスタートの時点から矛盾の上に立つ協定だと思っております。
 ですから、その矛盾の上に立って交渉した結果、日本の利益はこうだということを後付けのような形で説明をされるわけなので、どうしてもそこには無理がありますし、協定の評価そのものも非常にばらばらだと思っております。
 かつ、この間、国会審議を私もインターネット等で見てまいりましたが、その事実関係というところがなかなか明らかになっていない、そして、資料というか根拠となるものもなかなか共有されていないということ。そちらに時間が取られ過ぎていて、やはり今一番考えるべきは、大きな転換をしてしまったというわけなんですが、じゃ、今後日本はどういう通商交渉政策を取っていくのかと、この激動の時代で、中国との関係も含めて、どういう多国間の枠組みをつくるのかという非常に長期的で本質的な議論がなされていないのではないかということに非常に懸念を持っています。
 さて、この日米貿易協定ですが、最初はTAGといって始まったわけですが、今では誰も使っていないわけなんですけれども、途中から、交渉の直前から、物品だけではなくて、その後サービスや投資もやるんだという、割と漠然とした形で明示されました。
 これは、段階方式というか、まず物品をやって次にその他をやると、段階方式というふうに私は呼んでいますけれども、この在り方自体は貿易協定の中では非常に珍しいというか異例だと思っております。どの国にとっても、どの範囲を交渉するのかということは非常に重要、基本中の基本でして、例えばWTOでも何を交渉するのかで延々と議論して決まらないという状況ありますし、例えばTPPや日本・EUの協定でも、必ず予備交渉をして、何を交渉する範囲にするのかと定義をしてから交渉に入るわけですね。
 ところが、今言われている二段階目、物品はこれで仮に批准したとして、今後二段階目やると言われている交渉分野というのはさっぱり分からないわけですね。サービスが入るのか、投資も入るのか、知財も入るのかという非常に不明瞭な状態になっております。
 これは、日本にとっては非常に不利な立ち位置にならざるを得ないと思っています。というのは、二段階の交渉というのは、やはり先にたくさんカードを切ってしまった側が不利になりますし、あるいは力関係の中でどうしてもねじ込まれていくというか、応じていかざるを得ないということがあります。外形的にもこの日米貿易協定というのは非常に異例ですし、ある種、片務的であり、非対称ということが言えると思います。
 さて、限られた時間でありますけれども、今日、私はたくさん資料を刷っていただいて持ってきました。最初は、アメリカの交渉目的という昨年十二月に出た文書を、ちょっと私自身翻訳したものを付けさせていただいています。
 元々、アメリカは包括的なFTAを目指しているのです。ただ、トランプ大統領の選挙対策ということで、まずは物品ということに手を付けているわけですけれども、このそもそもの交渉目的を読むと、もちろんそれはTPPをベースにして、さらにそこに為替操作禁止条項を入れてほしいとか、あるいは非市場国排除条項、これは中国を指しているわけですが、というものも入っている。あるいは、個別の分野でも、様々TPPをよりアップグレードするものをこの協定で最終的には求めているということなんですね。
 アメリカは、こうした包括的なFTAを目指すのは、九〇年代以降ずっとそうでして、なぜならば、物品だけでは足りず、やはりルールの部分、非関税部分を求めることによって利益が最大化するからです。ということで、アメリカは、昨年の交渉前から、どの分野をやりたい、どういうふうにやりたいということを明示してきたわけです。
 ところが、じゃ日本はどうかというと、これは交渉に入る前に、何が目的か、何を獲得するのかということは明文化はもちろんされておらず、そもそも望んだ協定ではないわけですので、かつ、やはり今回の交渉の問題の大きなところは、日米貿易交渉の最大かつ唯一の目的と言っていいと思いますが、通商拡大法に基づく高関税措置をアメリカにとらせないことと、これがもうマックスな目的になったという設定です。
 ですから、ここでもアメリカとは全く立場が違っていて、ですから、その非対称、片務的ということはそういうところにもあるわけなので、是非国会では、そもそもTPPにアメリカを復帰させるという大義はどこに行ったのか、あるいは日本が求めるべき目的は高関税措置を回避をすると、そういうことでよかったのかということを基本中の基本として検証いただきたいと私は強く思っています。
 それからもう一つ、非常にアメリカペースでこの交渉進んでいて、実は私、一月一日に発効を目指すと新聞などでも書かれているわけなんですが、この理由がよく分かりません。日本に少なくともこの協定を一月一日に発効しなければいけない合理的な根拠というのはないというふうに思います。トランプ大統領の選挙のためにそうしたいということなんじゃないかと私は思っていますが、そのおかげで非常に拙速な審議が国会でも行われているのではないかと思っています。
 TPPや日EUの頃は、少なくとも合意があって、その後、影響試算等も出て、そして議員の皆さんが協定文を、初めて合意後に開示されるわけですから、一定程度、何か月とか吟味をするような時間があって、そして国会審議という流れ、そして国民への説明も、まあ不十分だとは当時から言っておりましたが、一定程度なされてきたわけです。
 ところが、今回は、それが圧倒的に日数も足りず、対策予算あるいは政策大綱ですか、農業の、これももう衆議院の可決が終わる頃、あるいは終わった後に出されてしまうと。これでは、やはり議会の権限ですとか透明性、説明責任、そして何よりも打撃を受ける農家の方々に対して非常に私は不誠実ではないかと思っています。国会軽視ということを改めて指摘したいと思います。
 そして、この協定の中身の問題ですけど、これは個別に様々あるので、そして鈴木先生も今農業面述べましたので繰り返しませんが、やはり気になるところとしては、この自動車の関税引下げを本当にアメリカが約束をしたのかと、これはWTOの抵触問題ですね、国会でも指摘がなされています。
 これについては資料の中に幾つかあるわけなんですけれども、実は九月の合意がなされる前後から、アメリカの側でも、貿易の専門家ですとか、それから研究者、それからシンクタンク等々でこのWTO違反の問題というのはずっと指摘をされてきております。詳しくはこの資料にいろいろ書いておりますけれども、日本の私たちだけが指摘しているわけではなくて、アメリカの側でも専門家はこれは危険だと言っていますし、日米だけでなくて、例えばEUであったり、その他の国の専門家も同じような指摘をしているということを申し上げたいと思います。
 そしてもう一つは、高関税措置が本当に回避できたのかということに関しても、これは非常に解釈の余地を残すような文言が共同声明にあるものですから、理解も様々です。日本の中でも政府の見解と違う見解もありますし、これは同じようにアメリカの側でもあるんですが、おおむね必ずしもトランプ大統領は高関税を課さないということを約束したわけではないという理解で共通していると私は思っております。
 実は、今日、時間の許す限り、アメリカの議会や業界団体の受け止めは何かという、どういうふうになっているかというのを御紹介をしたいと思っているんです。というのは、これ、同じ事実、確定した事実を基にそれぞれの国で議論する、これはもうやればいいんです。ところが、今言ったように、事実のところがどうもぼやけてはっきりしない、あるいは日米の政府の説明がどうやら何か食い違っているようだということなので、必然的にというか仕方なくというか、やっぱりアメリカではどういう受け止めがあって、どういう議論がされているのかということを我々はしっかり知る必要があるという意味で、少し御紹介をします。
 WTO違反の問題の指摘は今言ったとおりですし、加えて、実は先週の二十日、アメリカの下院歳入委員会の貿易小委員会というところで公聴会がありました。ちょうど今日のような形で四人の専門家が証言をしたわけですが、そこの場でも、改めてアメリカが自動車や部品の関税撤廃をしていないという証言が、例えば全米自動車労組の方からもなされています。これは明言されています。それから、CSISといって、国際戦略研究所ですか、のマシュー・グッドマン氏という方も、ワシントンはTPPの下で段階的に削減されるはずだった日本製の自動車への二・五%の関税及び自動車部品への関税を削減することに同意しませんでしたというふうに言っています。これは日本政府の説明と真っ向から矛盾しているんですね。一体、これ事実がどこにあるのかということをもっと深く検証しなければならないと思っております。
 アメリカの政府も、この件に関してははっきりとした態度を示していないんですね。ですから、非常に奇妙な構図が生まれていて、日本とアメリカのそれぞれの専門家や議員の方、業界団体、この人たちは、これWTOに違反しているんじゃないかといっていろんな対策も考えているわけです。ところが、両国の政府が、はっきりとそれはどうなのかということを共通の理解として示していないという非常に奇妙な状況が生まれております。
 しかも、もしWTO違反であればどうしなきゃいけないかというと、そういう協定は結ばない、あるいは中間協定として位置付けるという方法があります。アメリカの側では、今どちらかというと、こっちの中間協定にして、後付けなんですけれども、そしてWTO違反を回避して、これは、つまり二段階目の交渉というのをかなり期限も内容も明確化してやらなければいけないということになるわけなんです。
 というように、様々な議論が今あって、そして二段階目の交渉についてもいろんな意見出ています。お米や乳製品をもっと交渉しなければいけないとか、あるいは、自動車の方は、関税削減なんてもうとんでもないと、むしろ日本の非関税障壁を撤廃させてアメリカの車を日本にもっと売るようにしなさいとか等々やっております。

発言情報

speech_id: 120013950X00720191128_015

発言者: 内田聖子

speaker_id: 132

日付: 2019-11-28

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会