大橋弘の発言 (経済産業委員会)

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○大橋参考人 おはようございます。東京大学公共政策大学院で院長をしております大橋弘と申します。
 経済学を専門としておりまして、本法律案とのかかわりですが、二〇一八年から、経済産業省、公正取引委員会、総務省の三府省において、デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会という会議がございまして、そこで座長を務めさせていただいた御縁がございます。
 本日は、このような貴重な場をいただきましたので、デジタルプラットフォームをめぐるルール整備の必要性やそのあり方について意見を申し述べたいと思います。
 まず、国際的な動向について若干御説明をさせていただきます。
 デジタルプラットフォームに対する規制の是非については、競争政策の観点から、国際的に現在大きな話題になっております。私が知る限り、最初のレポート、調査レポートが出たのは二〇一八年三月にフランスの競争当局のもので、その翌月にイスラエル、ドイツというぐあいに、次々とデジタルプラットフォームに関する調査報告書が公にされました。
 我が国では、二〇一八年十二月に、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則と、それが基づく中間報告が出されました。我が国の報告は、EUやイギリスの報告書よりも早い段階での調査報告であり、その点でも我が国の検討は、欧米諸国から見て、タイミング的にも、またこれから述べますように検討内容においても、決して引けをとるものではないと思います。こうした点は国際的にも、例えば昨年七月に出たシカゴ大学で作成された委員会報告を見ても認知されていることがわかります。
 さて、各国で公にされている報告書は、どれも内容はかなりの程度共通をしています。まず、出発点として、デジタルプラットフォームは規模が大きいほど効率性が高く、社会的にメリットが大きいという点であります。例えば、オンラインモールを例にとれば、モールの規模が大きければ、いろいろな店舗がプラットフォーム上に展開され、そうしたさまざまな商品を楽しみたい消費者が大勢やってきます。こうした現象をネットワーク効果といいますけれども、デジタルプラットフォームはまさにネットワーク効果のよい面を最大限に生かす存在だと思われます。
 特にデジタルプラットフォームは、地域の中小規模の事業者にとってなくてはならない存在です。資本力が乏しく、宣伝広告を行う資金的余力がない地域の企業でも、プラットフォームを通じて、ほかの地域の消費者や、さらには世界の市場へもリーチをすることができます。中小企業にとって、プラットフォームはまさにイノベーションを起こす原動力になっていると言えます。
 他方で、かなり以前より、中小事業者を中心に、デジタルプラットフォームの取引における不当性を訴える声がささやかれていました。ささやくと申し上げたのは、正式に表明されたり相談されたりすることはなく、あくまで内々の話として語られていたということです。
 その内容は、例えば、何の通告や相談もなく契約内容が変更される、アプリの審査基準が不透明、検索アルゴリズムが急に変更になって売上げが大きく落ち込んだなどといったものであります。こうした苦情をプラットフォーム側に届けようと思っても、届ける方法がない、あるいは届けられても返答がないというのがほとんどのケースで見られていたようです。こうした声が多く重なった業種が、アプリストアやオンラインモールに提供する事業者でした。
 不思議なのは、困っているこれらの事業者は、なぜ大きく声を上げて問題を訴えないのかという点です。二つの理由が少なくともありました。
 一つの理由は守秘義務契約の問題です。多くの私契約は守秘義務が課せられていると思いますが、特に海外のデジタルプラットフォームに関しては、違反に対して重たいペナルティーが科せられたり、裁判の管轄場所を海外に制限されたりといった問題があったようです。
 二つ目の理由は、仮にみずから声を上げたことがプラットフォーム側にわかると今後のビジネスに差し支えることを強く懸念したという点もあります。特に、多くの中小企業者のビジネスがデジタルプラットフォームなしには成り立たない場合には、なおさらのことになります。
 こうした経緯を踏まえると、以下の二つの点が指摘できると思います。
 一つは、我が国の事業者は、プラットフォームに依存してビジネスを行っている者ほど、ビジネスの継続性を優先して、プラットフォーム事業者に対して契約上あるいは取引上の問題点を指摘しにくい状況にある。
 二つ目は、海外を含むデジタルプラットフォーム事業者は、みずからのビジネスを国際標準にすることに熱心であるがゆえに、我が国の事業者の置かれた独自の状況について理解していないことが多いのではないかという点であります。
 この点を解決するためには、デジタルプラットフォームと取引事業者との間を誰かが取り持ってやる必要があります。取引事業者には、彼らが問題を指摘しても仕返しを受けることがないように、守ってあげる必要がある。また、プラットフォーム事業者にも、我が国の事業者が挙げる問題点のうち合理的なものについては、問題を解消してもらうことで、更に魅力的なプラットフォームになってもらう必要がある。互いにコミュニケーションが成り立って、好循環が生まれるまでは、中立的な主体である行政が間を取り持ってやる必要がある。今回の法律案は、そうした意図が背景にあるものと思っています。
 現在の問題は、契約条件等で開示されていない情報が多いことから、個々の事業者がみずからの直面する問題をほかの事業者と共有することができず、守秘義務を前にして、みずから途方に暮れているという状況と描写できると思います。契約等の情報が開示されるようになれば、事業者みずからが直面している問題が、自分だけでなく、ほかの人も直面していることなのだということがわかって、そうした事業者との横の連携が生まれてくるようになると思います。事業者が個々で対応するときには届かなかった声が、集団で声を出せば、デジタルプラットフォーム事業者に届く場合もふえてくると思います。それでも声が届かない場合、あるいは届いていないふりをしている場合には、間に入っている行政が、運営状況のレポートとモニタリングレビューをすることで、間を取り持つことが可能になります。
 こうした行政の仲立ちを通じて、デジタルプラットフォーム事業者と取引事業者との間によい意味でのコミュニケーションが生まれれば、行政が運営状況のレポートやモニタリングに多くのリソースを割かなくても、ADRのような仕組みと独禁法の運用を組み合わせることで、十分にデジタルプラットフォームの透明性と公正性が確保される世界が訪れると思います。
 いずれにしても、現在のように、デジタルプラットフォーム事業者が情報と交渉力を持つがゆえに、取引事業者が劣位に置かれるような状況を脱して、正常で対等な取引慣行に落ちつくまでの間は、しっかり行政がかかわる形を維持されることが望まれると思います。
 過去、政府においては、二〇一六年から少なくとも四回はデジタルプラットフォームにかかわる取引事業者のヒアリングを行っていると思います。声を上げた取引事業者の多くは、アプリやオンラインモールの事業者でした。しかし、デジタルプラットフォームは、今や、副業におけるマッチングや教育アプリ、結婚サイトなど、世の中に多種多様なサービスとして幅広く普及しています。将来的には、アプリやオンラインモールでの本法案での成功経験をもとに、ほかの事業分野にも本法案の網を広げていくことが重要だろうと思います。
 最後に、デジタルプラットフォームに関連して考えることを二点申し上げて、終わりとさせていただきたいと思います。
 第一に、独禁法との関係であります。
 そもそも本法案の内容は独禁法で実現できないのかという点は、検討の当初からありました。問題は、デジタルプラットフォームに対して独禁法を適用するには、外部からとれる情報が乏し過ぎて、ハードルが高いという点がネックになっていました。鉄鋼や化学産業といった素材産業と比較して、デジタル分野はデータや情報がどのように使われているのかを外部から知ることが難しく、情報のとり方も、例えば談合のように、密室で被疑者を泣き落として自白させることで情報をとるといった手法では全く太刀打ちができないわけであります。
 しかし、これは我が国だけの問題ではありません。米国においても現在、シカゴ学派を中心にしてきた独禁法の運用に対する見直し、厳格化が学者の中で提起されているさなかであります。
 我が国においても、公正取引委員会が、デジタル分野において、また海外事業者に対して、どのように正式な形での法執行を行っていくのか、経験値を積んでいく必要があります。排除措置命令や課徴金納付命令をしっかり発動して初めて抑止力のある法執行と言えるからであります。こうした正式な法執行を行うための審査、調査を進めていく中で、禁止すべき取引行為類型なども明確になってくるでしょうし、また独禁法を執行するための競争環境整備としての本法案の意義も高まってくるというふうに思います。
 二つ目は、競争の重要性です。
 いわゆるGAFAと呼ばれるデジタルプラットフォームも、もとをたどれば小さいベンチャーから始まっています。ベンチャー企業が、既にいる大きな企業よりもよりよいサービスを生み出そうとして今のGAFAがあるわけであります。こうしたGAFAにかわろうとするスピリッツを持つベンチャー企業が我が国にももっと出てこなければいけません。GAFAに身売りをして、それでよしとするベンチャー企業ばかりでは競争は起きないわけであります。他方で、GAFAにかわろうとするベンチャーに対しては、GAFAはその資金力で強引にでも買収を仕掛けてくると思います。将来の敵は早目に芽を摘んで競争を殺した方がよいからであります。
 今回の法律案は、単にプラットフォームとそれに取引する主に中小企業との間の関係を適正化するものであるわけですが、我が国の経済成長を見据えれば、デジタルプラットフォームと取引する中小企業者の中から将来のデジタルプラットフォーマーが誕生するような好循環を生み出す努力も求められると思います。
 以上でございます。
 御清聴いただきまして、ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 大橋弘

speaker_id: 352

日付: 2020-04-14

院: 衆議院

会議名: 経済産業委員会