大橋弘の発言 (経済産業委員会)

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○参考人(大橋弘君) 東京大学公共政策大学院で院長をしております大橋弘と申します。経済学を専門としております。
 本法律案との関わりですけれども、総合資源エネルギー調査会に設置された基本政策分科会持続可能な電力システム構築小委員会という会議体にて委員を務めさせていただいた御縁がございます。また、電力広域的運営推進機関及び電力・ガス監視等委員会においても委員を務めさせていただいております。
 本日は、このような貴重な機会をいただきましたので、今後の電力システムにおける課題やそれへの対応策について愚見を申し述べたいと思います。
 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故という国民の記憶から決して消え去ることのない惨事をきっかけにして始まった電力システム改革も、今年の四月の法的分離をもって貫徹を見ました。
 従来の我が国の電力供給システムは、各供給エリアを担う大手電力事業者が、実質的に垂直一貫の責任を持ちながら国民に電力を届けるものでした。この日本型垂直一貫システムを解体し、発電と小売に新たな競争を導入しながら消費者にメリットを還元するという大事業を電力システム改革で成し遂げたと評価できると思います。この間、小売事業者の登録者数は六百社を超え、また、販売電力量に占める卸電力取引所での取引量も四〇%に迫るレベルになりました。
 多くの消費者にとって小売事業者の選択肢が増えただけでなく、大手電力事業者は少しずつ供給者目線から顧客目線に切り替えて事業に取り組めるようになったというふうに思います。まさに、これは電力システム改革がもたらした大きな改革の一つではないかと思います。
 自由化とは、経済性を追求するということです。市場が開放されて様々な事業者が自由に参入するようになると、大手といえども事業者は経営の効率化、合理化に努めるようになります。採算性の悪い設備は休廃止する、余剰設備は持たないようにするといったことが効率化の一例です。
 そうした取組が自らの事業コストを低減し、消費者に価格の低下やサービス品質の向上としてメリットが行き届くというのが標準的な経済学の教える自由化の内容になります。
 ところが、標準的な経済学が十分に考察できておらず、他方で、電力にとって重要な側面があります。それは、安定供給という概念です。安定供給とは、何か事故があっても電力が支障なく供給されるべきという考え方です。
 我が国では、電力システム改革が始まる前から安定供給を何よりも重要な柱と据えてきました。発電の源を海外に依存し過ぎることのないよう、できるだけ国内で賄おうとか、国内でつくられた電気を消費者に届けるために電力系統をしっかり維持、敷設しようとかということが電力政策において重要な位置付けを占めてきました。
 特に、現時点の技術では、電力を在庫として大量にため込むことが困難な中、供給が逼迫しているときも、だぶついているときも、電力の需要と供給を瞬時瞬時に一致させて停電を防ぐことが重要とされています。
 一言で安定供給とは、有事のために供給体制に余裕を持っておくということになります。一見すると、経済効率性と安定供給とは対立関係にあるように見えます。経済効率のためには余分な設備を持つべきではないですが、安定供給のためには何か起こったときのために余分な設備を持っておくべきということになるわけです。
 しかし、電力システム改革が始まったとき以来、経済性が強く打ち出されてきました。そこにはいろいろな理由があると思いますが、それまでの総括原価方式の下で安定供給に十分な設備量を保有していたために、強く経済性を打ち出しても安定供給にひびが入ることは当面ないという現実的な判断もあったのではないかと思います。
 例えば、料金に対しては、電力・ガス取引等監視委員会において厳しい査定を行い、電力システム改革が目指す低廉な電力料金をともかくも実現しようとしました。そして、実際に、自由化の中で大規模電源等が稼働しなくなっても、価格が大きく上がることもなく、また停電することもなく今日があるのは成功であると評価できると思います。
 しかし、こうしたやり方を何年も続けていくと、余分な人材や設備も削られていきます。そして、安定供給と経済効率性との間のリバランスを考えざるを得ない時点が来ます。そして、まさにその時点が到来したのが二〇一八年夏の北海道胆振東部地震であり、昨年の台風十五号、十九号による大規模停電だったのではないかと思います。
 それぞれの停電には固有の原因がありますので一般化はできませんけれども、度重なる大停電の経験は、安定供給を誇りにしてきた我が国の電力システムが盤石ではなくなったのではないかと国民に印象付けるに十分な出来事だったのではないかと思います。
 改正案の電事法の箇所では、電力システム改革において平時には競争する電力事業者が、自然災害において互いに連携協力すべきという精神が見られます。安定供給のためには競争を超えて協力し合うことを災害時連携計画として義務化したのは評価できると思います。
 災害においては、配電を中心とした現場の人たちが時に自らの危険をさらしながら復旧作業に取り組みました。本来、市場経済が骨の髄まで浸透しているのであれば、対価に見合わない復旧作業には応じないという事業者がいても不思議ではありません。しかし、現場の方々が、お金のためだけでなく、早くお客様に電力を届けたいという一心で昼夜を問わず復旧作業に携わっていただいたと感じています。
 本改正案の運用においては、こうした現場のやる気を後押しすることが重要です。間違っても彼らの思いをくじくことがあってはならないと思います。
 新型コロナウイルス感染拡大の中で、電気は生活の上でますますなくてはならないものになっています。経済効率性も重要ですが、安定供給は人の生命にも関わります。平時において安定供給の重要性は忘れられがちであり、経済効率性が先に立つこともしばしばあります。電力システム改革が一応の貫徹を見る中で、事業者間の競争が従来よりも活発化する中にあっては、行政の規制の在り方も変わっていくべきと考えます。
 今回、託送料金についてはレベニューキャップ制の導入がうたわれています。自由化においては事業者のやる気を引き出すことが大切であり、コスト効率化に努めればその分だけ努力に報いるということは大切な視点です。しかし、こうした良い制度も、厳しい料金単価の審査とセットとなれば実質的に骨抜きになります。レベニューキャップ制を生かすためには、料金審査とセットで考える必要があります。
 料金審査は経済効率性に基づいてなされるのが現行のやり方だと思います。こうしたやり方は、電力・ガス監視等委員会が発足した当初の社会的背景においては正しいやり方だったと思います。しかし、システム改革が貫徹し、経済効率性が電力システム全体に浸透しつつある現時点においては、安定供給にも目配りしたバランスが求められると思います。安定供給は監視等委員会ではなく資源エネルギー庁にて管轄しているということを鑑みれば、今後の料金審査は少なくとも監視等委員会と資源エネルギー庁との共同作業で行われるべきと思われます。
 いずれにしても、安定供給の重要性をいま一度本法案の運用上しっかり御議論いただければというふうに願っております。
 再生可能エネルギーについても一言申し上げます。
 さきにも申し上げたとおり、電力システム改革においては経済効率性の議論が強く表に出ており、安定供給だけでなく、環境適合性についても余り意を払われていなかったというのが現実だったと思います。二〇〇九年秋に住宅用太陽光発電の余剰買取り制度ができ、二〇一二年には固定買取り制度ができましたが、共に総括原価方式を採用しており、市場の中で価格が変化するという電力システムの自由化の議論とは切り離されていたというのが実態だったと思います。
 再生可能エネルギーの普及が少なかったときにはそれでもよかったのですが、再エネの存在感が高まるにつれて、再エネの出力変動を既存電源が支えられなくなってきました。具体的には、日射や風などの天候の不確実性がある中で、事前に日が照ると予測していたのに突如曇りになって太陽光発電からの出力が見込めなくなったときに、電力需要を賄うために誰かが供給を肩代わりする必要があります。
 そうした何かあったときのために肩代わりをする電源を調達するのは送配電部門になりますが、再エネの設備量が増えると肩代わりする電源も増えることから、送配電部門の負担も重くなります。この場合、送配電部門が支えられなくなると、再エネの成長に足かせになることも考えられます。また、調達価格等算定委員会という行政のさじ加減で再エネの成長率を決めるという行政主導のやり方も、再エネの着実な成長には不合理になりつつあると思います。
 電力システム改革において、市場を中心として投資判断がなされるようになる中、市場で伸び伸びと再エネが自律的に成長する状況へと一歩近づけるのがFIP制度だと思います。ある意味で、これまでの再エネ政策は量を求めてきましたけれども、これからは国民が求める質を追求する時代に再エネ政策も入ったと言えるのではないかと思います。
 最後に、将来の電力システムについて、思うところを一点申し上げます。
 今次、新型コロナウイルス感染防止対策の中で、私たち国民は、都市における過密、職場における長時間労働など、これまでの暮らしや働き方に伴うリスクや不健全さを改めて認識したと思います。ポストコロナでは、こうした不健全な世界へはもはや戻らず、個を中心として新たな価値観を模索する時代になるのではないでしょうか。
 そうした中で、これまでほかの公共インフラとは独立に民間の取組で整備が進んできた電力を、地域政策の中にしっかり組み込んでいくことが必要だと思います。今後、地域を核とした経済活動を進めていく必要がある中で、例えば電力データを活用してビジネスを行ったり、あるいはそうしたデータを町づくりに生かしたりということも検討していくべきと思います。
 改正法案では、配電網の独立運用や社会課題解決のためのデータ利用が定められており、正しい方向性と感じております。この改正法案を機に、電力政策が公共インフラ政策としっかり連携をして、地域経済の活性化に資するようになればと強く願っております。
 以上でございます。この度は貴重な機会、ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 大橋弘

speaker_id: 352

日付: 2020-06-04

院: 参議院

会議名: 経済産業委員会