神野直彦の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(神野直彦君) 社会保障審議会の年金部会長を仰せ付かっております神野でございます。
 私、網膜剥離で視覚障害を起こしております。したがいまして、欠礼があるかもしれません。御寛容いただければと存じます。
 私は、本日、年金部会での議論を念頭に置きながら、私の責任において、今回の制度改正を年金改革の流れの中に位置付け、その意義と概要、さらに今後の課題について意見を陳述させていただきたいと考えております。
 お手元にメモを準備させていただいておりますので、御参照いただければ幸いでございます。
 私、先進国の年金制度が共通して直面している課題が三つあると考えております。一つは賃金、言い換えれば経済成長が停滞していること、第二に、少子高齢化と言われているように、人口構造が大きく変化したこと、第三に、年金制度は、家族内の世代間連帯という人間の命をつないでいく鎖、これが、家族機能が小さくなったので社会化したものだと考えられるわけですけれども、年金を支える心ともいうべき世代間の連帯の意識が弱まっていることです。
 これらの課題に応えるために、日本では二〇〇四年に年金制度の抜本改革を実施しました。それまでの高度成長期に形成された年金制度は給付を先に決めてから保険料を設定する仕組みでしたが、給付の見直しと保険料の引上げが繰り返され、年金制度への不満が高まっておりました。そこで、二〇〇四年の抜本改正では、将来の保険料の上限を固定し、収入の範囲内でおおむね百年間で財政均衡するようにマクロ経済スライドを導入して給付水準を自動的に調整するようにした、改めたわけでございます。つまり、入りを量って出るを制するという仕組みの方に発想を転換して将来不安の解消を図ったわけでございます。この二〇〇四年の抜本改正の財政フレームは、二〇一二年の社会保障・税一体改革で基礎年金の国庫負担二分の一の恒久化などの改正によって完成を見ることになります。
 改革には、制度の枠組みを抜本的に改めるビジョン型の改革と、現実ただいま生じている問題に対処する問題解決型の改革がございます。二〇〇四年の抜本改革はビジョン型改革なのに対して、五年ごとに財政検証を行い実施される年金改革は問題解決型改革だと言っていいかと思っております。
 二〇一三年八月に、社会保障制度改革国民会議の報告書で今後の年金制度の課題として四項目を設定いたしております。この四項目は、完成を見た二〇〇四年の抜本改革の財政フレームの下で、長期的持続可能性を強固にしてセーフティーネット機能を強化するという観点から、問題解決型改革として取り組むべき課題を設定したものというふうに考えてよいと思います。
 さらに、この四項目は二〇一三年十二月の社会保障制度改革プログラム法にも規定されることになります。これ、メモにお示ししておりますが、この四つの課題のうち、第一のマクロ経済スライドの見直しについては二〇一六年の制度改正でキャリーオーバー制の導入として対応しておりますが、今回の制度改正の意義は、初めてプログラム法の課題全般に向き合った改革であると位置付けられると思っております。
 こうした意義を持つ今回の制度改正の基本的な考え方についてですが、まず、年金部会では、二〇一九年、令和元年の財政検証の結果から、二〇〇四年の財政フレームが現在も機能しているということを確認いたしております。これは、次の財政検証までに所得代替率五〇%の給付水準を下回ることがないということ、さらに、経済成長と労働参加が進むケースでは、引き続き所得代替率五〇%を今後おおむね百年間にわたって確保できるということになっているからでございます。
 二〇一九年の財政検証では、前回二〇一四年の財政検証に続いて、現行制度に基づく本体試算に加えて、プログラム法の四つの課題を検討するために、一定の制度改正を仮定したオプション試算を実施しております。このオプション試算からは、被用者保険の更なる拡大や、就労期間、加入期間を延長すること、それから繰下げ受給を選択することは年金の水準確保に効果が大きいということが明らかになっていると思います。
 こうした財政検証を踏まえて、働き方の多様化、それから高齢期の長期化という社会経済の変化を見据えながら、多様な就労を年金制度に反映すること、それから就労期間の延伸による年金の確保や充実、これを二本柱にして年金部会では具体的な制度設計をいたしました。
 この年金改革の議論の結果を尊重していただいて、今回の法案の概要はメモの方にお示ししたようなことになっているのではないかというふうに思っております。
 時間の関係で説明は省略させていただきますけれども、プログラム法の短時間労働者に対する被用者保険の拡大という第二の課題への対応として、多様な就労を年金制度に反映させるという意図の下に、被用者保険の適用拡大が盛り込まれております。
 さらに、高齢期の就労と年金受給の在り方というプログラム法の第二の課題に対しましても、就労期間の延伸による年金の確保、充実のためという意図の下に、在職老齢年金制度の見直し、在職定時改定の導入、それから年金受給開始時期の選択肢の拡大などを図っております。私的年金につきましても、確定拠出年金の加入可能年齢の引上げと受給開始時期の選択肢の拡大などの見直しを提起しています。
 過去、現在、未来にわたる継続性が要求される年金制度では、制度の枠組みを抜本的に改めるビジョン型改革はそう頻繁にはできません。枠組みが有効に機能している以上、問題解決型の改革を積み重ね、より精緻な制度にしていく取組が重要だと思います。
 今回の法案は、二〇〇四年の抜本改革の財政フレームが機能しているということを確認した上で、多くの国民の理解の下に現在できることを全て盛り込んでいる改正というふうに評価できるかと思っております。仮に抜本改革が必要となる時期が到来しても、それは、抜本改革だと、例えば三十年掛けて三十分の一ずつ改めていく必要があるんですね、連続性保つためには。そうなってくると、現行制度を充実させていくということは、それを考えたとしても矛盾しないということを指摘しておかなければならないと思っております。
 今後の課題としては、まず、厚生年金制度が適用されていない短時間労働者、それから非適用業種の労働者、フリーランスやギグワークといった方々に対して年金制度による生活保障の網を掛けていく、広げていく必要があると考えます。
 それから第二、次いでですが、入るを量って出を制するという仕組みである以上やむを得ない面があるんですが、基礎年金のマクロスライドによる調整期間が厚生年金よりも長期化し、その水準が低下していくという課題がございます。
 今回の法案の附則、検討規定に、被用者保険の適用範囲に加えて公的年金の所得再分配機能の強化についても盛り込まれておりますけれども、こうした検討は、衆議院において、財政検証で基礎年金の水準が低下が示されていることを踏まえて行うという旨の規定が追加されたものと了解をいたしております。私も同じ認識であり、難しい問題ではございますが、引き続き取組を進めていく必要があると考えます。
 現在、世界は新型コロナウイルス感染症という未知の病に襲われ、危機の時代になっております。年金を含む社会保障は国民の生活のセーフティーネットなんですね。国民の生活の安定が損なわれかねない危機の時代にこそ、社会的セーフティーネットというのは網の目を細かくし、強固にしていくという必要があるかというふうに考えております。
 年金部会長という立場からいたしますと、今回の法案は年金部会の議論を尊重していただいて反映していただいておりますので、国会におかれましても生産的な御議論、御審議をしていただいた上に成立させていただくということを願い、結びとさせていただきます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 神野直彦

speaker_id: 25094

日付: 2020-05-26

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会