拝師徳彦の発言 (地方創生及び消費者問題に関する特別委員会)

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○参考人(拝師徳彦君) 全国消費者行政ウォッチねっとという消費者団体の事務局長をしております弁護士の拝師と申します。
 本日は、貴重な発言の機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
 私からは、消費者行政や消費者関連法について消費者の視点からウオッチするという活動を行ってきた立場から、また法律家である弁護士の立場から、本改正法案に対する評価、そして要望を申し上げます。
 なお、衆議院の委員会審議におきまして、参考人としての発言に代えて意見書を提出させていただきました。一枚物で机上にあるかと思いますが、以下、衆議院意見書と呼ばせていただきますが、こちらと若干重複する点もあるかと思いますが、御容赦いただければと思います。
 まず、本改正法案の全体評価について申し上げたいと思います。
 現行法は、民事ルールのみによる通報者保護を中心とし、内部通報優先という立て付けだったために十分に機能せず、様々な企業不祥事を防ぐことができなかったのではないかと思います。
 これに対し、本改正法案は、公益通報対応業務従事者に対する刑事罰付き守秘義務や、事業者に対する内部通報体制整備義務の導入によって、言わば当事者に任せきりだった通報者保護に国が積極的に関与するという大きな方向転換を図っており、通報者保護に向けた一歩を踏み出すものとして評価しております。
 また、内部通報と行政通報の保護要件をかなりフラットな形にして、いわゆる制度間競争が機能するような仕組みを導入しております。これによって企業がこれまで以上に内部通報体制の信頼性を高める努力をすることが期待できるのであり、この点も大きな改善点ではないかと思っております。
 さきに提出させていただいた衆議院意見書では、不祥事に関する情報を透明化することで不祥事を予防、是正するという視点が重要である旨記載させていただきました。本改正法案が適切に運用されることで情報の透明度が今まで以上に高まっていくのではないかと期待しているところです。
 もちろん、不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置、刑事罰の導入が見送られるなど、重要な課題が先送りにされたということは大変残念ですが、施行から十四年間、抜本的な改正が行われなかった本法が大きく変わっていく第一歩ですので、是非今国会で成立させていただきたいというふうに思います。
 次に、本改正法案の施行、運用に当たっての課題について申し上げます。
 本改正法案の一番の目玉は、やはり第十二条において公益通報対応業務従事者に守秘義務を課し、これに違反した場合には罰則を科すとした点ではないかと思います。これによって、通報者が最も心配する通報者の氏名等の漏えいが一定程度防止できることになります。
 もっとも、懸念事項としては、守秘義務を解除する正当な理由の内容いかんでは守秘義務が骨抜きになりかねず、通報者が安心して通報することができなくなるのではないかということです。例えば、通報に係る法令違反等について調査の必要があるという理由で守秘義務が解除されるということになれば、通報者としては安心して通報することはできません。他方で、せっかく通報してもらった法令違反等の事実については、きちんと調査して是正、予防につなげていかなければならない。
 このように、正当な理由の解釈は、通報者の安心確保の要請と、不祥事の調査、是正の要請という一見すると対立する二つの要請の兼ね合いがあるため、どこで線を引くのか悩ましいところだと思います。しかしながら、やはり通報者が怖がって通報できないということであればそもそも調査も始まらないわけですので、通報者の安心確保を第一に考えるべきだと思います。
 したがって、改正法第十二条の正当な理由は、書面による真意に基づく本人の同意がある場合等極めて限定的な場合に限る必要があると思います。この同意についても、事業者側からの働きかけによる場合は、労働者と事業者とのパワーバランスから考えて、真意かどうか疑義を生じることになりますので、あくまで本人が自発的に申し出て同意に至った場合に限定すべきであろうというふうに思っております。
 それでは調査ができなくなってしまうのではないかという御指摘もあるかもしれませんが、例えば、マスコミが調査報道のための取材を行う場合には、通報に関する部署とは違う部署から調査をする等の工夫をされていると聞いたことがあります。現行の民間事業者向けガイドラインにも様々な工夫が記載されています。こうした調査における工夫を調査手法事例集のようなものを作って集積し、担当者向けの研修で伝授する等の方策を講じることによって調査スキルをブラッシュアップしていく、これによって守秘義務の遵守と的確な調査とが両立できていくのではないかと考えております。
 また、公益通報対応業務従事者の範囲をなるべく限定的にしてほしいとの意見もあるようですが、あらかじめ定められた担当者に守秘義務を課すことはもちろんですが、ケースによっては、あらかじめ定められていた担当者以外の従業員、役員等にも調査、是正をお願いしなくてはならないこともあると思います。その場合には、例えば、通報窓口の責任者が必要に応じて公益通報対応業務従事者の追加選任をできるような仕組みにしておくなど、漏れなく守秘義務が掛かるようにするべきだというふうに考えます。
 次に、内部通報体制整備義務について申し上げます。
 同義務は、これまで民民に任せきりだった公益通報者保護の分野に行政がしっかり関与していく足掛かりとして極めて重要な制度だというふうに思います。
 問題はその内容でして、形だけヘルプラインがあればいいということではなくて、従業員から信頼され、ちゅうちょなく利用されるものにしなくてはならない。これを担保するような具体的内容を指針で定めていく必要があると思います。
 特に強調したいのは、内部通報体制に関するデータや事案の内容を記録、保管すべきことをきちんと指針の中に規定して義務付けてほしいということです。民間事業者向けガイドラインにも評価・改善等という独立した項目がありますし、恐らく大企業のヘルプライン等では、既にある程度こうした情報を記録、保管しているのではないかと思いますので、そういった実態も踏まえて検討をしていただきたいというふうに思います。
 その際大切なのは、我が国の企業全体の内部通報制度がどの程度機能しているのかといった、次の制度改正を見据えた立法事実の把握という観点、さらには、当該企業の情報の透明化度を含めたガバナンスリスクを客観的に把握するという投資家的な視点を踏まえながら、具体的な記録、保管の対象を定めていただきたいと思います。
 以上は、本改正法案の施行、運用に関する意見ですが、以下、今回の改正法案で盛り込まれなかった課題について触れさせていただきます。
 先ほど刑事罰付きの守秘義務の話をしましたが、刑事罰付きの守秘義務を入れたからといって、それだけで一〇〇%完璧に通報者の氏名等の漏えいが防げるわけではありません。例えば過失による漏えいもあり得ますし、担当者からの漏えいがなくても、事業者内で特定の情報を知っている人間が限られていれば、おのずと誰が通報したか推測できてしまうということもあろうかと思います。だからこそ、不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置、刑事罰の導入が重要だということで、次回の改正の際の最大の課題になっているわけです。
 今回不利益取扱いに対する行政措置の導入を見送った理由として、政府は行政側のマンパワーの不足を挙げています。消費者庁創設の消費者運動に関わった一人として残念でなりませんが、まずは、内部通報体制整備に関する行政チェックを十分担える人材の確保、育成を行った上で、次の改正までに人的体制を大幅に強化していくことが現実的なのではないかと思います。
 また、衆議院意見書でも触れたように、外部の人材を活用して、調査チームを個別につくって調査を委嘱するような制度的工夫もされてはどうかと思います。
 なお、衆議院の附帯決議第八項では、附則第五条について、行政処分等を含む不利益取扱いに対する行政措置の導入について検討を加える旨の文言を盛り込んでいただいております。できれば、直罰規定を含む刑事罰の導入も検討対象であることを明示していただけると有り難いというふうに思っております。
 次に、立証責任の転換について簡単に触れさせていただきます。
 衆議院の審議で提出された修正案において、附則第五条に基づく三年後見直しの対象に、裁判手続における請求の取扱いという形で、立証責任の転換に関する規定の創設についても見直しの対象に入れるんだということを追加していただきました。
 この立証責任の転換は、実際に不利益取扱いが発生してしまった場合の通報者側の訴訟負担の軽減にもつながりますし、民事訴訟以外の紛争解決手続、例えば労働審判や弁護士会のADR等においても早期紛争解決等の好影響を与えることになると思いますので、是非導入に向けた積極的な議論をお願いしたいと思います。
 次に、資料の収集行為の免責ルールの法定について申し上げます。
 本改正法案によって行政通報のハードルが極めて低くなることは、内部通報優先の仕組みを改め、企業の自助努力を更に促進するという点で大変重要なポイントだと思っておりますが、結果的に行政への通報が不祥事の予防、是正につながらなければ意味がありませんし、この場合、むしろ行政負担のみが重くなるということにもなりかねないという問題があります。このため、重要なのは、通報に伴う裏付け資料がそれなりにそろっているということです。
 ところが、こうした裏付け資料、証拠資料の持ち出しについては、それ自体が就業規則違反等に該当し、新たな不利益取扱いの根拠となりかねません。そうすると、通報者は裏付け資料の持ち出しをちゅうちょしてしまい、結果的に通報が不祥事の予防、是正に生かされないことになるおそれがあります。
 こうした問題を解決するには、やはりこうした裏付け資料の持ち出し行為についての免責ルールを法律上明確に定めておくということが重要だと思います。この点、今回の法改正では見送りとなっていますが、是非この点も附則第五条に基づく三年後見直しの検討事項として、少なくとも附帯決議には明記をしていただきたいと思います。
 ちなみに、持ち出した資料が不祥事の予防、是正の目的に限って利用される限り、企業側のダメージはそれほど大きくならないとは思っておりますので、一旦出た情報が無限定に出回るかのような前提での議論にならないよう配慮していただければと思います。
 最後に、先ほど田中参考人も触れられておりましたが、取締役等の役員の保護要件について申し上げます。
 改正法第六条一号は、取締役等の役員が外部への通報を行おうとする場合、原則として通報対象事実の調査、是正のために必要な措置をとるよう努めなければならないという調査是正義務の前置を定めています。もちろん、取締役等の役員は、通常の従業員に比べれば、社内の不祥事の予防、是正をなし得る可能性の高い立場にいるのでしょうが、社内の力関係によってはそうとは限りませんし、むしろそのような動きを取れば不利益取扱いを免れないような立場にある役員もいるのではないかと思います。にもかかわらず、原則として一律に調査是正措置、事前措置を義務付けることには疑問があり、将来的には緩和、撤廃することが望ましいのではないかと思います。
 少なくとも、改正法の運用の中でこの事前措置の実施の有無を判断する際には、組織内部での是正可能性の有無、程度や、通報した役員に対する不利益取扱いの蓋然性等について外部から判断し難い面があることを十分踏まえて、例えば、取締役会の正式議題にのせなければ事前措置をしたことにならないといった画一的、硬直的な解釈ではなく、他の役員への事実上の打診や働きかけ等もこの事前措置に当たるんだといった柔軟な解釈を取っていただきたいというふうに考えております。
 私からの意見は以上でございます。

発言情報

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発言者: 拝師徳彦

speaker_id: 2015

日付: 2020-06-03

院: 参議院

会議名: 地方創生及び消費者問題に関する特別委員会