鈴木宣弘の発言 (外務委員会)
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○鈴木参考人 東京大学の鈴木でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私の方からは、「RCEPで誰が得て、誰が失うか」というペーパーに基づいて、お話しさせていただきます。
私の研究室でも、RCEPの経済的影響について、政府と同じGTAPモデルを用いて、緊急に暫定試算を行いました。その結果、いろいろな特徴が見えてまいりました。
まず、物品貿易でございますが、日本がASEANなどの犠牲の上に利益を得る構造という点が一つのポイントであります。
表の一のとおり、日本のGDP増加率は二・九五%と突出して大きく、中国、韓国もGDPは伸びますが僅か、ASEAN諸国とオセアニアに至ってはマイナス、GDPが減少します。つまり、物品貿易について、言うならば、中国独り勝ちというような状況ではなく、むしろ日本の独り勝ちという状況になっているということでございます。
次のポイントは、一つ表を飛ばしまして、表の三でございます、二ページ。
日本全体の利益が大きいというわけではなくて、利益が大きいのは自動車で、農業では大変な打撃が出る。つまり、自動車独り勝ちで農業独り負けの状態に近いということでございます。
確かに、日本の農産物の関税撤廃率は、TPPと比べても六割程度ということで、日本が目指したTPP水準は実現できませんでした。しかし、それでも農業生産の減少額は五千六百億円に上り、TPP11の半分程度とはいえ、大変な損失です。しかも、RCEPの場合は、青果物が八百六十億円の損失と農業部門内で最も大きく、TPP11の三・五倍にもなっております。これは九日の審議で議論になった点ですが、これが数字で見える化された形になっているということでございます。
次に、表の三でもう一つのポイントは、政府試算の農業生産量の変化がプラス・マイナス・ゼロになっているということでございます。
これは、関税撤廃が行われても、それによる生産量の減少がちょうど相殺されるように生産性が向上する、そういう手当てをするというメカニズムが組み込まれているからでございます。要は、影響がないように対策するから影響がないという影響試算であって、これは影響試算ではないということは認識しておく必要があるということであります。
次に、五番目の点ですが、農業を犠牲にして自動車が利益を得る構造、三ページですね。
先ほど申し上げましたとおり、農業での被害は非常に大きい、一方で、自動車分野の生産額の増加は三兆円にも及びます。このことが、つまり、農業がある意味差し出される形で自動車で利益を得ていくという、これまでの日本の貿易自由化の基本構造というものを指摘してきたわけですが、それが見える化された形になっております。
私は、これまで、日韓、日中韓始め、たくさんのFTAの事前交渉に参加してまいりました。その中でも、物品で一番問題になったのは自動車で、最後まで自動車がもめました。日本は徹底的に関税撤廃を求め、それに対して相手国が抵抗するという構図でありました。
次に、物品以外の問題ですが、次のポイントは、各国の市民、農民の猛反発が起こったということ。これは、日本提案が問題があるということの証左ではないかという視点を持つべきではないかということでございます。
例えば、ISDS条項につきましては、TPPでも、アメリカと日本が一生懸命入れようとしました。このとき、国内では、ISDSを懸念する人たちに対して、根拠がないことで人々を不安にするTPPお化けだとまで言われたわけですが、今、ISDSが国際的にどういう状況になっているか。EUは、ISDSは死んだものだと断言しております。日本が追従したアメリカでさえ、ISDSの入っているような貿易協定にはアメリカは参加しないとバイデン大統領が明言しているという状況になっている。それなのに、日本は、RCEPで韓国とともにISDSを組み込もうとしたわけです。
さらに、薬や種に関連した知財権の強化も日韓が強く求め、各国の市民、農民から猛反発が起こりました。それでも、種苗の育成者権を強化し、農家の自家増殖の権利を制約する方向に誘導する協力ということは明記されてしまっておりますが、日韓が求めた知財権の強化の義務としての水準は実現できなかったわけであります。こういうことからも、企業利益の追求と、それが人々を苦しめるのではないかという視点、日本の要求をトーンダウンせざるを得なかったことの意味を重く受け止める必要があるんじゃないか。
特に、薬も種もそうですが、人の命を守る共有財産です。ジェネリック医薬品が作れなくなったら、人の命は守れません。命を救うのが薬の役割ではないでしょうか。
種を握られたら、食料が作れません。種は、何千年もかけてみんなで守ってきた共有財産。それに対して、一部の企業がちょっと遺伝子操作をして、フリーライドして独占的にもうけの道具にするという方向性がよいのでしょうか。自家増殖は守られるべき農民の権利ではないか。それを剥奪しようとしたから、RCEPでは大変な抵抗が起きたわけです。こういうことは、日本のやろうとしていることに問題があるのではないかという証左であります。
それなのに、日本国内では、既に農家の自家増殖の制限を種苗法の改定でやってしまったわけです。こう考えると、日本における種苗法の改定の問題もよりクリアになります。世界の農民、市民が猛反発したことを、日本の国内ではもうやってしまったということになるわけです。
最後に、これ以上加害者になってはいけないのではないかという視点を申し上げたいと思います。
今こそ、日本と世界の市民、農民の声に耳を傾け、今だけ、金だけ、自分だけの企業利益追求のために、国内の農家や国民を犠牲にしたり、途上国の人々を苦しめるような交渉には終止符を打つ必要があるのではないか。
保護主義対自由貿易とよく言いますが、実際には、市民の命、権利、生活を守るか、ごく一部企業の利益を増やすかという対立になってしまってはいないかということでございます。自由貿易を錦の御旗にして、これ以上、市民の命、権利と、企業利益のバランスを崩してはいけないのではないか。これ以上、日本政府、企業が、アジアの国々を中心に、加害者になってはいけない。そういう視点を十分に考慮すべきではないかということを申し上げまして、私の意見陳述とさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)