二木立の発言 (厚生労働委員会)

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○二木参考人 こんにちは。参考人の二木です。
 私は、お手元の配付資料、これに沿ってお話をします。
 私は、医師出身の、医療経済、医療政策研究者です。本日は、去年と今年に発表した二つの論文に基づいて、全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案のうち、中所得の後期高齢者患者の一部負担、窓口負担の二割引上げに反対する以下の四つの理由を述べます。
 一、応能負担原則は保険料や租税負担にのみ適用される。二、医療には受益者負担原則を適用すべきでない。三、後期高齢者の医療費は非高齢者の約五倍。四、後期高齢者の負担増のうち、現役世代の負担減に回るのは二割にすぎない。一と二は理念的反対理由、三と四はデータに基づく反対理由です。
 以下、順番に説明します。
 まず、私は、医療、社会保障における応能負担原則、支払い能力に応じて負担する原則に大賛成です。しかし、それは保険料や租税負担に適用されるのであり、サービスを受ける際は、所得の多寡によらず平等に給付を受けるのが社会保険の原則と考えています。これは、社会保障研究者の常識的な見解、通説です。
 例えば、社会保障法研究の重鎮である堀勝洋上智大学名誉教授は、社会保険においては、能力に応じて負担し、ニーズに応じて給付するという原則に従うのが望ましいと明快に述べられています。堀氏によると、保険料は能力、給付は必要に応じる方向で進むべきであると最初に提案した公式文書は、社会保障制度審議会の一九六二年の勧告だそうです。
 私が委員を務めた日本医師会の医療政策会議も、一昨年四月に公表した、平成三十・令和元年度医療政策会議報告書の序章の「財源」で、以下のように述べました。社会保障における能力に応じた負担という考えは、財源調達面に限るのであり、生活リスクに直面してニーズが顕在化し給付を受ける段階で、自己負担率に差を設けることは、社会保障の理念にそぐわない。
 日本医師会も、昨年十月二十八日に発表した「後期高齢者の患者負担割合のあり方について」で、二割負担導入に反対する理由の二番目に、応能負担、収入や所得に応じた負担は、本来は保険料及び税で求めるべきである、財務省が言うように可能な限り広範囲ではなく、限定的にしか認められないと、社会保険の原理に基づく主張をしています。
 実は、厚生労働省も、この原則を一九九〇年代までは遵守していました。例えば、介護保険法制定のときの際の老人保健福祉審議会の最終報告、「高齢者介護保険制度の創設について」、一九九六年には、以下のように書かれていました。「高齢者介護に関する現行の利用者負担は、福祉(措置)制度と医療保険制度との間でも、また、在宅と施設の間でも不合理な格差が生じているので、この格差を是正するため、介護保険制度においては、受益に応じた負担として統一的なルールを設定することが適当である。 利用者負担の設定に当たっては、受益に応じた公平な負担という観点から、定率一割負担とすることが考えられる。」と。
 なお、私は、今後は、保険料や租税の賦課対象に金融資産も含めるべきだ、必要があると考えています。個人金融資産の約三分の二は高齢者に集中しており、これにより、保険料、租税収入が相当増えることが期待できます。
 もう一つの理念的反対理由を述べます。
 それは、医療には受益者負担原則を適用すべきではないと考えているからです。
 一般には、医療の一部負担は、医療サービスを利用した人、患者さんと、利用していない人、健康な方との公平を確保する受益者負担原則あるいは応益負担原則から説明されます。しかし、患者が医療を受けることで得る受益とは、病気から回復、改善すること、つまりマイナス状態から正常状態に近づくことであり、消費者が一般の物やサービスを利用して得るプラスの利益、満足感、経済学では効用といいます、とは全く異なります。
 この点については、世界的な経済学者である故宇沢弘文先生も以下のように指摘されています。医療は元々、病気、けがによって健康を喪失した人々を健康な状態に戻すという防御的な面を持つ。つまり、自分から進んで積極的に求め、享受しようという一般的な財・サービスとは異なって、喪失したものを取り戻して健康な状態への回復を求めるものであって、豊かな医療サービスを多くの人々が利用できるような医療制度を維持することは、社会的な観点からも極めて望ましいものとなると。
 次に、第三の、データに基づく反対理由を述べます。
 それは、後期高齢者の一人当たり年間医療費は九十一・九万円で、六十五歳未満の十八・八万円の四・九倍であり、仮に二割負担を導入すると、年間自己負担額は十八・四万円となり、三割負担の六十五歳未満の自己負担額五・六万円の実に三・三倍になるからです。これは高額療養費制度は考慮しない粗い計算ですが、それを考慮しても、後期高齢者の患者負担の方がはるかに多くなることに変わりありません。これではとても公平な負担とは言えません。
 法案では、二割負担化に関して、長期にわたり頻繁に受診が必要な外来患者について、ある程度配慮がなされていますが、法施行後三年間の時限的なものです。しかも、田村厚生労働大臣が四月十四日に答弁されたように、二割負担の対象拡大は、法改正ではなく国会の議決を必要としない政令で行えます。
 重要なことは、当面は配慮がなされているにもかかわらず、厚生労働省の長瀬指数を用いた推計によると、受診日数が二・六%程度減少するとの結果が得られていることです。しかし、国民、特に高齢者がコロナ危機で心理的、経済的に疲弊しているときに、高齢者を狙い撃ちにした負担増方針を打ち出せば、コロナ危機で既に生じている高齢者の医療機関の受診控えを加速し、医療機関の経営困難を更に悪化させる危険があります。
 なお、一部負担増による受診抑制が健康に影響を与えるとの厳密な実証研究は、日本ではまだありません。この点は、田村大臣が四月十四日に繰り返し答弁されたとおりです。ただし、その理由は単純で、日本の従来の研究では平均値の検討しかなされていないからです。
 それに対して、アメリカのランド研究所が一九七〇年代に連邦政府の委託を受けて行った大規模な医療保険実験では、無料医療により、最も貧困な人々や疾病のハイリスクの人々の健康状態が向上する、逆に、患者負担はこれらの人々の健康状態を悪化させるとの結果が得られています。しかし、これらの人々は調査対象の中では少数派であるため、アメリカの研究でも、平均値のみで見ると、患者負担増による健康状態の悪化は見られませんでした。
 ついでに言うと、同じ研究では、一部負担が多い患者は無料医療の患者に比べて入院率は低いが、入院患者のカルテを個別に調べて個々の入院の適否を評価したところ、不適切と判定された入院の割合は無料医療の場合と同じだったことも明らかにされています。つまり、患者負担の引上げによって、不適切な入院のみを減らすことはできないのです。
 最後に、四番目の、やはりデータに基づく反対理由を述べます。これは、私が一番強調したいことです。
 それは、後期高齢者の負担増のうち、現役世代の負担減に回るのは二割弱にすぎないことです。なお、私は、本資料を作った四月十七日時点では最新資料を持っていなかったので、以下に述べる数値は、昨年十二月二十三日の社会保障審議会医療保険部会に提出された参考資料一、「議論の整理(案)に関する参考資料」に基づいています。御了承願います。
 参考資料五ページの数値を見ると、給付費減少、後期高齢者の負担増の千九百三十億円の中心は公費千十億円で、後期高齢者支援金、現役世代の負担軽減七百四十億円より多くなっています。その上、参考資料十九ページによると、現役世代の負担軽減には本人負担だけでなく事業主、企業負担減も含まれ、本人、現役労働者負担減は三百五十億円にとどまっています。これは、給付費減少の一八・一%にすぎません。私の知る限り、現役世代の負担に事業主負担を含んだ政府の公式文書はこれが初めてです。
 菅首相は、常々、若い世代の負担上昇を抑えることは待ったなしと強調されていますし、私もそのお気持ちはよく理解できます。しかし、言うまでもなく、本人のうち、若い世代はごく一部です。二〇一九年の二十から六十四歳の生産年齢人口のうち、二十―二十九歳は一八・二%にすぎず、若い世代を二十から三十九歳に広げても三八・九%にとどまります。
 しかも、参考資料七ページによると、今回の改革案により、一人当たり支援金に対する抑制効果は一年七百円です。この約半分は事業主負担なので、本人負担減は約三百五十円。つまり、一月当たり三十円弱にすぎません。若い世代は給与水準が低いので、保険料も少なく、支援金に対する抑制効果は更に小さくなります。これではとても、若い世代の保険料を減らすとは言えません。
 それに対して、自己負担が二割となる後期高齢の外来患者の一月当たり負担額は、経過措置の間でも、三十円の百倍、三千円に増えるのです。この数万円は訂正です、最大三千円です。このような後期高齢者の中でも、不幸にして病気になってしまった方に対してのみ負担を押しつけるやり方は、とても公正な負担とは言えません。
 私も、全世代型社会保障検討会議最終報告が書いている、若い世代は貯蓄も少なく住居費、教育費等の支出の負担も大きいという事情は深刻だと思います。しかし、これを、若い世代の保険料負担の上昇を少し、文字どおり少しですね、減らしていくことにより是正することは不可能で、若い世代の給与引上げと正規雇用化の促進、及び、住居費、教育費への公的補助、支出が不可欠と思います。
 今回の後期高齢者の負担増提案は、この課題から目をそらすレッドヘリング、これは専門用語です、本題から目をそらさせるための偽情報、本題からかけ離れた紛らわしい情報であり、経済学的には、公費、企業負担から高齢者負担へのコストシフティング、コストの置き換え、転嫁と言えます。厳しい言い方をすれば、若い世代はもちろん、現役世代の負担増抑制はそのためのだしに使われたと言えます。
 以上です。(拍手)

発言情報

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発言者: 二木立

speaker_id: 33642

日付: 2021-04-20

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会