秋田典子の発言 (国土交通委員会)

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○秋田参考人 よろしくお願いします。千葉大学大学院園芸学研究科の秋田と申します。本日は、このような貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
 それでは、早速、資料に沿って意見陳述をさせていただきます。
 まず、表紙を御覧ください。
 やや見づらいかもしれませんが、これは川だけ地形地図というもので、利根川の流域の部分を切り取ったものです。この地図では、山から海まで、川が毛細血管のように大地に張り巡らされていることが分かります。私たちが川の恵みの中で暮らしていることを改めて認識し、川とともに暮らしていく知恵を紡ぐ場づくりが、今回の法改正を通じて力強く前進することを願っています。
 二ページ目を御覧ください。
 私は、都市工学、都市計画を専攻し、現在はランドスケープ学という分野の教員を務めております。二〇一一年の東日本大震災の発生から十年間、現地の復興に深く関わり、災害とまちづくりの在り方について、研究、実践の両面から検討を重ねてまいりました。
 三ページ目を御覧ください。
 災害とまちづくりに関する研究や実践から、私自身が流域治水の取組の中で最も重要だと考えることは、山田先生と同じですが、治水対策とまちづくり、すなわち都市計画など都市側の施策との連携です。
 これは当たり前のことだと思われるかもしれませんが、これまで、ともすると、まちづくり側は治水に対しては河川管理者任せ、あるいはお互いに情報が一方通行で、まちづくりと治水対策の連携が十分に取れているとは言えない状況でした。
 この治水対策とまちづくりの連携の実現において、私が現時点で特に重要だと考えるのは、連携のための基盤構築と制度化、そして総合政策としての流域治水の実践です。
 まず、連携のための基盤構築と制度化では、連携の前提となる水害や治水、まちづくりに関わる情報の透明化、双方向化、さらに、そうした情報を共有し、流域治水に関わる各主体が縦割りや横割りを超えて縦断的、横断的に減災に取り組むことができるプラットフォームの形成です。
 総合政策としての流域治水の実践では、まちづくりと治水の双方が、ハードとソフトの両面に総合的に関わることが求められます。こちらも山田先生と同様ですが、これまでハード対策は治水、ソフト対策はまちづくりという役割分担意識があったように思います。
 しかし、流域治水の実践においては、まちづくり側のハード対策である緑地の確保や透水施設の整備、避難施設など、まちづくり側の減災の成果を治水対策と連携させていくことが重要です。一方で、治水側も、住民の合意形成などのソフト側に積極的に関わることで、治水事業に対する住民の理解を促進し、減災を加速化させることが可能になると考えます。
 治水側とまちづくり側がハード、ソフト双方の総合的な取組を連携して実践することで、国民全体が流域治水を他人事とせず、全員参加の流域治水の取組の基盤が形成されると考えます。
 四ページ目を御覧ください。
 先ほど述べた二つのポイントについて、具体的な例を取り上げながら説明したいと思います。
 まず、第一の、連携のための基盤構築の制度化と情報の透明化、双方向化について、コミュニケーションツールとしてのハザードマップの進化をテーマに説明します。
 治水とまちづくりの連携の基本となるコミュニケーションツールの一つが、ハザードマップです。治水側としては、情報はどんどん更新、公開し、透明化を図っていると考えていられると思います。確かにそのとおりなのですが、現状では、ハザードマップは、住民にとって理解が困難な場合や、まちづくりにおいて扱いにくい状況があります。その理由として、ハザードマップは、災害の種類別、河川別、確率別など数や種類が多様であり、複雑化していることが挙げられます。
 四ページ左下の図は、私の大学のある千葉県松戸市の大学キャンパス周辺のハザードマップです。ハザードマップは洪水と内水で別に作成されており、最大リスクも、十メートル以上、三メートル以上と異なっています。これをどのように使い分けるのか、住民が正確に理解することは容易ではありません。
 また、ハザードマップは、想定最大規模、計画規模など、災害のリスク別に示されます。四ページ右下の図は、関東圏の計画規模のハザードマップを示しています。この場合、松戸市にハザードは示されません。つまり、左側の松戸市のハザードマップは想定最大規模で示されているということが分かります。
 五ページ目を御覧ください。
 こちらは、大阪府寝屋川市の洪水ハザードマップです。同一自治体でハザードマップが河川別に作成されています。両方の河川の影響を受ける地域の住民は、大雨が降ったときにどの情報を見ればよいのでしょうか。
 災害ハザードマップは、高度に専門的な技術に基づき計算、作成されているため、作成過程がブラックボックス化しやすく、結果だけを見た住民は、なぜそうなるのか理解することが容易ではありません。特に、災害経験のない住民の場合はなおさらです。
 一方で、複数のハザードが統合されて結果だけが表示されると、更に住民にとって分かりにくく、実感が伴わない場合がございます。このように、ハザード情報は精緻化すればするほど住民の理解から離れていくことに十分に留意する必要があります。
 河川技術者がハザードマップを持参して住民に説明するだけでは、なかなか、住民が適切にリスクを理解し、避難行動につなげたり、場合によっては集団移転につなげることは困難です。このため、ハザードマップの作成、公表、周知の過程で、情報の提供側、情報の受け側が双方向でやり取りをするプロセスを設け、そうした場に多様な主体が参加することが重要だと考えます。
 日本の川は、一つとして同じものはありません。それぞれの川に個性があります。
 行政関係者は数年で異動があり、同じ川を見続けることができません。一方、地域住民は、過去の水害の記録を持っていたり、毎日川を観察するなどして、より小さな変化にも敏感に気づきやすいなど、実態に即した知識、情報を持っています。こうした科学的知見、地元の経験から得られた知恵を統合し、集合知とすることが、今回新たに設置される協議会では期待されます。
 六ページ目を御覧ください。
 次に、まちづくり情報と治水情報のすり合わせについて説明したいと思います。
 前述のとおり、これまで、まちづくりにおいて治水に関する情報は余り反映されず、市街地が形成されると、治水側がそれをカバーするように治水計画を作成するという形になっていました。
 六ページ左下の図を御覧ください。千葉県の利根川水系江戸川左岸圏域河川整備計画を示しています。
 この中で、例えば、先ほど挙げました、私の大学のキャンパスがある松戸市は、市内が坂川水系と真間川水系の二つの圏域に区分されております。ちょっと図面では見づらいかもしれませんが、そのようになっております。また、河川の管轄も国と県に分かれており、市の範囲と流域圏も一致していません。東京湾沿いの船橋市は、市域のごく一部のみが流域圏に含まれています。
 また、この流域計画は千葉県だけで独立して記載されていますが、実際に江戸川はそれだけで独立して流れているわけではなく、複数の県にまたがって流れている利根川の流域に含まれます。
 こうしたことから、広大な流域圏の全体を計画し、まちづくりと連携させることは容易でないことが理解できると思います。しかし、このような課題を理解した上で、連携のための基盤形成と制度化を進めることが何よりも重要です。
 六ページ右下の図は、同じく千葉県内の小規模な自治体の中心部に実施する治水事業の概要を示したものです。治水事業費は約百億円、事業期間は昭和六十年から平成四十七年です。
 治水事業計画がこのように超長期であるのに対し、まちづくりは五年、十年単位で進められます。また、まちづくりのスピード感は非常に速く、このように高度経済成長期以降に急速に市街化が進んだ地域では、既に市街地の拡大が収束し、急激な人口減少に見舞われている場合もございます。治水とまちづくりのスピード感、時間スケールの違いをどのように埋めて効果的な治水対策を行うかということは、まだまだ検討の余地が残されています。
 七ページ目を御覧ください。
 以上のような課題を踏まえると、縦割りやスケールを超えた横断、縦断的取組を実現できるプラットフォームの構築がいかに重要かということが理解できるかと思います。また、そこで形式的ではなく実質的な協議が行われることがとても重要だと考えます。今回はそれが法制度化するということで、協議会の役割に大いに期待し、そのプロセスを注視したいと考えています。
 このような横の連携に加え、縦の連携も重要です。治水対策は、ともすると鶏と卵の関係になる危険性を伴います。すなわち、河川管理者が住民に、この場所は危ないので防災対策を十分に行ってくださいと伝えるだけでは、住民はリスクを押しつけられてしまったと感じてしまい、河川管理者の方が先にハード対策をするべきだと考え、ハードもソフトも進まなくなってしまう可能性があるということです。
 七ページ右上の図は、水とともに暮らす地域で住宅がかさ上げされているものです。このように、現地を訪問すると、昔からの知恵に基づき、様々な水害対策がなされていることもあります。こうした住民の主体的な取組を引き出しながら、行政関係者と住民が協働で水防を進めるという意識を持つことが、地域での防災の機運を高める上では重要だと考えます。
 八ページ目を御覧ください。
 次に、二つ目のポイントである、総合政策としての流域治水の実践について説明します。
 これは、治水とまちづくりの双方がハードとソフトの両面に取り組むことであるとさきに述べました。まず、まちづくり側にできるハード面の取組に関しては、例えばグリーンインフラの採用が挙げられます。これは山田先生もおっしゃったことです。例えば、具体的には、都市に水を集める機能のある公園を造ったり、調整池を市民の親しめる空間にしたり、都市内の緑地を保全し、地表面に雨水浸透を促す土地利用を促進することも流域治水に貢献します。
 このような、まちづくり側で取り組める治水対策は、全員治水を進める上で不可欠です。治水対策は、ともすると上流あるいは国や県の河川管理区域内にとどまりがちです。しかし、例えば基礎自治体レベルでは河川のない地域もあります。流域治水を一部の地域の負担にさせず、国民全員でこれに取り組むためには、各地域がそれぞれの地域の特性に合わせて治水に参加できる方法を準備する必要があります。
 また、治水とまちづくりの連携による魅力的な地域づくりの取組も各地で見られるようになっています。特に都市部においては、川の存在や魅力に気づくことこそが、全員参加の流域治水において最初の一歩になります。
 九ページ目を御覧ください。
 今度は逆に、治水側によるソフト面の取組の重要性について説明します。
 左下の図を見てください。例えば危険性の高い場所で集団移転をする場合、こちらに示すように、様々なプロセスを長い時間をかけて経ることになります。このプロセスは総合的判断の積み重ねであり、科学的情報の一方通行だけでは、コミュニティーの合意形成や住民の具体的な行動につなげるのは困難です。
 また、九ページ右上の図は、ある地域のハザードエリアを示したものですが、集落の一部のみがその対象になっています。ほんの僅かな場所の違いで、同じ集落の中にハザードエリアとそれ以外が含まれる場合、コミュニティーの分断を招くおそれがあります。ハザードマップの作り手と受け手が十分に意思疎通し、慎重に住民の理解と合意形成を図る必要があります。
 九ページ右下のグラフは、一九八二年とかなり古いものですが、洪水により被災した後に集団移転した住民の防災に対する意識を調査した結果です。これによると、そのエリアが危険だと思っていても、実際は移転まで考えない人が最も多く、災害が発生する前に移転することの難しさを示しています。
 まちづくりでの最終手段である防災集団移転に至る前にも、取り組めることはたくさんあります。被災する前に住民の協力を引き出すためには、ハードとソフトの連携と協働、そして、そのエンジンとなる多様な主体が連携するプラットフォームでの実質的な協議が重要です。
 本法律で創設される様々な仕組みを通じて防災・減災を実現するためには、運用がとても重要です。実質的協議、連携が運用の中で実現されることを心より期待しております。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 秋田典子

speaker_id: 32251

日付: 2021-03-31

院: 衆議院

会議名: 国土交通委員会