市川正司の発言 (法務委員会)
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○市川参考人 日本弁護士連合会人権擁護委員会元委員長の市川正司と申します。よろしくお願いいたします。
私も、過去に、難民審査参与員制度設立当初でございましたけれども、二年、実質的には、当初でしたので、実務が始まったのは半年後でしたので、一年半ほど仕事をさせていただきました。その中で、月に一件ぐらいずつの当時は審理をしておりましたけれども、最終的に、一年半で数名の難民認定をしました。それから、在留特別許可も与えました。
彼らの難民申請は、一次審で言っていなかったこと、あるいは言っていたんだけれども十分に語り尽くせないこと、こういったことがたくさんあります。彼らは、学歴であったり、それから実際の言葉の不十分さ、こういったことを考えますと、参与員がきちんと話を聞いてあげるという態度が極めて重要でございまして、例えば、本人にかかってきた大使館からの電話、その一本について、どういうことだったのか、これを丁寧に聞くことから難民該当性が明らかになってくる、あるいは、刑務所に行ったそのときの処遇状況を丁寧に聞くことから、拷問のおそれ、こういったものが出てくるという経験をさせていただきました。
なお、本論に入らせていただきますが、本日は、本法案に対する日弁連の意見を中心に意見を述べさせていただきます。日弁連の意見の詳細は、お配りした法務資料三百四十六ページ以下に記載されております。概要につきましては、本日お配りしたA4の一枚の表を配付させていただいておりますので、この項目の順番にお話しいたします。
第一に、法案の目的とされる長期収容の解消のために、いかなる方策が必要かという点でございます。
出入国管理政策懇談会の収容と送還に関する専門部会で提出された資料によれば、二〇一九年六月末時点で、収容期間が二年以上三年未満の被収容者は計百七十六名、三年以上の収容者は七十六名に上っております。いつまで収容されるかということが分からないままに、このような長期にわたって収容されるということの肉体的、精神的負担は想像するに余りありまして、収容の長期化を防ぐための施策が必要であることは論をまちません。
日弁連は、収容の長期化を防ぐためには、より端的に、収容の要件を明確にして不必要な収容をなくすこと、収容期間の上限を設けることが必要であると考えております。また、収容の必要性や相当性を判断するについては、身体を拘束することは極めて大きな人権の制約でございますので、刑事手続における身体拘束と同様、裁判所による審査を経るべきものと考えております。
第二に、監理措置制度についてであります。
今回の改正案は、対象者を収容しない方法として、基本的には、新たに創設される監理措置制度を想定しております。これまで様々な場面で使われてきた仮放免という制度については、健康上などの理由がある場合に限って適用することになっております。
このように、収容するかしないかの二つの分かれ道のところにある制度として監理制度を機能させるのであれば、収容の可否の判断は厳格に判断し、裁判所の審査を経るべきという収容制度全般の問題点がここでも同様に妥当することとなり、不必要、不相当な収容が生じないような制度たてつけとするべきであると考えます。
そして、実務上の大きな問題として、監理人の監督、届出義務の問題がございます。
監理人となる者として想定されているのは、家族や友人、難民認定手続や在留特別許可手続、それらに関係する裁判をする代理人の弁護士、また支援団体、こういったところと想定されております。
この監理人は、監理措置の対象者からの相談に応じて、支援や助言その他の援助を行うよう努めると規定されておりまして、被監理者の相談に乗りながら彼らを支援することが予定されています。これらの支援は、これまで弁護士や支援団体がケースワーカーとして行ってきたことではあります。
しかし、他方で、監理人は、対象者を監督して、その動静を定期的に国に届け出る義務を国に対して負うこととなっております。また、被監理者が逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるときや、条件に違反して働いているときなどにも届出しなければなりません。この届出義務に違反すると、監理人に過料の罰則が科されます。
具体的な場面を想定いたしますと、例えば、着のみ着のままで本国から逃げてきた難民申請者や避難民には、日本に知人はおりません。また、報酬を払って監理人になる人を依頼する力もありません。そこで、監理人になるのは、難民申請者の支援団体や、難民認定申請を弁護士会の財源などで支援する弁護士であります。
ところで、弁護士は、依頼者の秘密を守り、依頼者の利益のために働くことを弁護士倫理上求められております。実際に、難民申請や在留特別許可申請を支援している中で、有利なことも不利なことも全て話してください、ここで話したことの秘密は守りますから、そう言って、本国にいたときのこと、今の生活状況などを率直に話していただいております。そうでなければ、弁護士にもたらされる情報は偏ったものになり、判断を誤りかねません。
ところが、監理人である弁護士に今の生活状況を正直に全て話すと、自分の知らないうちに、監理人である弁護士によって入管に遵守事項違反の疑いありとして届出されてしまうかもしれないということになりますと、依頼者は弁護士に対して慎重に言葉を選んで話すようになります。守秘義務を一部解除することに同意していたとしても、実際に生活をしていく中で、対象者と弁護士の利害が対立し、信頼関係の維持が難しくなっていくおそれがあります。
支援するNGOも、支援者の相談に乗り、適切なアドバイスをするという基本的な役割を担う中で、このような届出、監督をする義務を国に対して負うとなると、やはり対象者との信頼関係の維持が難しくなります。
ですから、この監督、届出の義務があるとすれば、監理人になることは難しいと言わざるを得ません。現に、先日NGOが支援者、弁護士に対して行ったアンケートでも、約九割の方が監理人になることをちゅうちょしています。監理措置は、必ず監理人を選定しなければならないので、監理人が見つからないために収容されることになれば、本来の制度目的は達せられず、窮状につけ込んで不当な報酬を取るような業者も現れかねません。
ですから、このような罰則を伴う届出義務に関する規定は修正し、支援を中心とした制度に変えていただきたいというのが現場の切実な考えでございます。
次に、退去強制令書が発付される前の段階での監理措置について、就労を許可することができるとしたことは今回の法案の前進であると考えますが、この就労許可は、退去強制令書発付後には一切認められないということになっております。
退去強制令書発付後であっても、その取消し訴訟や難民に関する訴訟などが行われて、裁判は数年かかることも珍しくありません。裁判の結果、処分が取り消されて在留が認められることもあります。その間、生活の手段がないということでは、裁判を受ける権利が事実上制約されることになりかねません。ですから、退去強制令書発付後も就労を認めることができる制度としていただきたいと考えます。
また、現行の仮放免の規定を変更せずに広く使えるものとして残しておくこと、現行の仮滞在や仮上陸許可制度を積極的に運用することも必要なことと考えます。
第三に、在留特別許可申請制度でございます。
法案は、退去強制手続とは別に在留特別許可申請手続を設けて、また、在留特別許可を行うに当たっての考慮要素を例示しています。問題は、この在留特別許可をするかの考慮要素、基準はどうかという内容面と、申請の手続の適切さという手続面の問題になります。
内容面から見ますと、在留特別許可をするかどうかの諸事情として、在留を希望する理由、家族関係、素行、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の諸事情が挙げられております。これらを総合的に考慮すると規定しております。
諸事情は、並列的に書かれておりますけれども、法的に見ますと、優先されるべき要素があるというふうに考えます。具体的には、日本も批准している人権に関わる諸条約から、在留を認めなければならない要素です。特に、子どもの権利条約三条が規定する子供の最善の利益という規範、子どもの権利条約九条や自由権規約十七条などが規定している家族の統合という規範が重要であります。
日本で育った子供について、最善の生育環境としての日本での在留を認めること、その際に、子供は在留を認めるけれども親は帰国しろというような、家族の分離を強いないという取扱いは条約上も求められるものであります。
今回の条文に「家族関係」という言葉が入っておりまして、この中には、子供の最善の利益や家族の統合という規範が含まれているものと解釈し得るのかもしれませんが、規定上も明確にするべきというふうに考えます。また、種々の考慮要素の中で、この条約上の要素は考慮要素の中でも重みのあるものであるということを示すべきと考えます。
また、懲役一年を超える実刑判決を受けた者については、原則として在留特別許可をしないこととなっておりますが、これまでに許可されたケースや裁判で在留特別許可が認められた例の中にも、これに当たる者は珍しくはないので、原則不許可とまではせず、消極的な要素の一つとして挙げるにとどめるべきと考えます。
申請の手続面ですが、現行法上、在留特別許可を求める人は、退去強制手続の中の口頭審理という手続で、意見を述べたり、代理人弁護士を選任して手続に立ち会ってもらうなどして、在留特別許可を認めるべき事情を説明することが認められております。しかし、在留特別許可申請手続では、これらの機会が権利として認められておらず、現行法よりも手続的な保障が後退していると言わざるを得ません。弁護士としても看過できない点なので、明文上の手当てをしていただきたいと考えます。
第四に、補完的保護対象者の認定手続です。
難民条約で定義されている難民以外にも、政府説明にもあるとおり、紛争地から避難してきた方など、保護が必要な方たちがおります。ヨーロッパ諸国やオーストラリア、カナダなどは、彼らを補完的保護の対象者として在留を認めて保護しております。
今回、補完的保護対象者の定義を定め、その認定をする制度を創設することは、この国際的な流れに沿おうとするものと思います。しかし、この補完的保護の定義が、難民条約の難民の、迫害の理由の部分の定義を外すというだけで、後段の部分の、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者という、この定義はそのまま残しております。
しかし、現在の日本の難民認定の実務では、この後段の要件について、出身国政府が特にその人について迫害の対象としていることが明らかになるような個別的で具体的な客観的な事情があることを要するという極めて厳格な解釈をしておりますので、無差別の暴力や攻撃の対象となって避難した方たちについては救済されなくなるおそれがあります。
難民条約の文言にとらわれず、EU指令が規定するような、国際又は国内武力紛争の状況における無差別暴力というようなキーワードを入れた定義を参照しながら、定義を改めるべきだろうと考えます。
第五に、三回以上の難民申請者などについて、申請中の送還停止効を原則として解除するという改正内容についてです。
二〇一〇年から二〇一八年までに難民認定を受けた二百十二名のうちの十九名が、複数回の難民申請者でした。複数回の難民認定申請を行っている者の中にも、難民認定がされる者がいるのが現状であります。
出入国管理政策懇談会の下に設置された難民認定制度に関する専門部会の二〇一四年十二月の報告書は、UNHCRの解釈、勧告等の基準にものっとった判断基準を明確にすること、難民認定実務に携わる者の専門性の向上などを課題に挙げましたが、この課題の実現はまだ緒についたばかりでございます。このままで送還停止効の例外を設けると、真の難民を本国に送還してしまうという極めて重大な結果を生じさせる危険があります。
また、法案では、三回目の申請であっても難民などに当たる相当の理由がある資料を提出した者については、例外的に送還停止効を解除しないとしております。しかし、この例外に当たるという措置は行政処分としては定められていないので、本人は、退去強制令書の執行を受けて送還に着手されるまで、停止効解除の例外に当たったかどうかが分かりません。また、処分ではないので不服申立ての方法もありません。さらに、送還停止効の解除の適否について、UNHCRなども含めた第三者機関によってモニタリングする制度も設けられておりません。少なくともこれらに対する手当ては必要であろうというふうに考えております。
第六に、退去命令等の違反に対する刑事罰の制定については、退去命令を出す要件を一定程度限定してはいるものの、なお、相当と認めるときはなどの要件が不明確で、刑罰をもってしてまで強制する必要はないと考えております。
第七に、被収容者の処遇に関する規定の整備について、これまで省令で定められてきたものを法律によって処遇の在り方を規律すること自体は意味のあることと考えます。しかし、国連被拘禁者処遇最低基準規則や国連の拷問禁止委員会からの日本政府に対する総括所見と比較したとき、不十分な点があります。詳細は日弁連の今回の意見書に記載しておりますので、参照していただきたいと存じます。
以上のとおりですが、今回の入管法の改正のきっかけになったのは、二〇一九年六月に大村の入国管理センターで発生した被収容者の死亡事故でありまして、このような事故の再発は何としても防がなければならないということが出発点であったと認識しております。
日弁連としては、退去強制手続の対象となる人の安全や自由が切り下げられるようなことがなく、国際的な基準に基づく検証にも耐えられるよう、今回の改正法案について抜本的な見直し、修正が行われるべきものと考えておりますので、参考としていただきますようお願いいたします。
御清聴ありがとうございました。(拍手)