菅原淳一の発言 (外交防衛委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(菅原淳一君) ありがとうございます。菅原淳一と申します。
みずほ総合研究所とみずほ情報総研が合併しまして、四月一日に発足いたしましたみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社という新しい会社でございまして、こちらの調査部におきまして通商問題の調査研究に従事しております。本日は、このような貴重な機会を頂戴いたしまして、大変光栄に存じます。
本日は、RCEPの意義につきまして、会社を代表してということではなくて、個人的な意見ということで述べさせていただければと思います。ただいま意見陳述された木村参考人の御意見と重なるところもありますが、御容赦いただければというふうに思います。
それでは、お手元の資料に沿ってお話をさせていただきたいと思います。
まず二ページ目をおめくりいただきまして、RCEP協定、全体像とその意義ということでございます。
こちらについては、皆さんよく御存じということではございますが、RCEPは経済規模、人口共に世界の約三割を占めるメガEPA、経済連携協定ということでございます。交渉の最終段階でインドが抜けたというのはやはり大きな痛手と言わざるを得ませんけれども、右下の表にお示ししたように、インドが抜けた十五か国でも経済規模、人口はCPTPPや日EU・EPAを上回るというものでございます。こうした巨大な経済圏がインド太平洋地域に構築される意義というのは極めて大きいというふうに評価しております。
現在、参加各国は国内手続進めているわけですけれども、御案内のように、中国とシンガポールが既に寄託を終えたというふうに報じられております。また、タイも議会承認を終えているということでございますので、早期の発効が期待されているというところでございます。
続きまして三ページ目でございますが、このRCEP、日本の貿易政策という観点から見ますと、やはり一番大きな意味は、日本にとって中国、韓国との初めてのEPAになるということかと思います。左下の図表でお示ししてございますけれども、ASEANを一というふうに数えた場合に、RCEP参加国間でEPAがなかったのは日中間と日韓間のみでありました。RCEPはこの貿易量も大きいインド太平洋地域のサプライチェーンにおける大きなミッシングリンク、欠落を埋めるものということでございます。そしてまた、RCEPによって自由化、ルールが共通化されて、域内サプライチェーンの構築、強靱化がより容易になるということでございますので、その経済的意義は大きいというふうに言っていいと思います。
さらに、米中対立というのが当面続いていくというふうに見られている中で、RCEPは日中経済関係の安定、日中間ビジネスの予見可能性を高めることにも資するというふうに期待されているところであります。
また、RCEPが全十五か国について発効いたしますと、日本の貿易のFTAカバー率は、輸出で六割、輸入で七割弱まで拡大するということでございます。
日本の貿易に占めるRCEP十四か国の割合というのは、輸出で四三・一%、輸入では四九・二%ということでございますので、そのシェアからいってもこの意味というのが計り知れるということかと思います。
この数字に、まだ現在のところでは部分的な自由貿易協定と言っていいかと思いますが、日米貿易協定というのも含めますと、輸出入ともカバー率は八割にまで達するということでございますので、日本が二〇一〇年代に進めてきたメガFTAが一つの到着、帰結を迎えるというふうにも言うことができるかと思います。
加えまして、現在、日本が進めている自由で開かれたインド太平洋、この実現に向けた土台になるものとして、このRCEPには戦略的意義もあるということも指摘されているところでございます。
続いて四ページ目でございますが、RCEPは、これも御案内のように、全二十章で構成されております包括的な協定ということになっております。ここについては、木村参考人からもございましたけれども、TPPに比べますと、やはり、例えば章で見ますと、国有企業とか環境とか労働、規制の整合性といったものが含まれていないということはやはり指摘されているところでございます。また、章や規定があっても、TPPほどの高い水準にはなっていないというものも少なからず見られます。
その上で各章を見てみますと、例えば政府調達の章でございますけど、これは章としてはあるんですけれども、中央政府機関の対象調達の透明性等のみが対象にされているという点で、地方政府機関だとか自由化も含んでいるTPP等に比べるとやはりやや劣ると言わざるを得ないと。その他、運用面でも締約国の裁量が大きい規定もありますので、かなりやはり注意が必要なところも大きい、多いということかと思います。
ただ他方で、知的財産とか電子商取引といった分野におきましては、WTOルールを上回る水準のルール、いわゆるWTOプラス、またWTOでは十分に規定されていないもの、WTOエクストラの規定というものも含まれているということでございまして、この点はやはり高く評価されてしかるべきというふうに考えております。
総じて、TPPとか日EU・EPA等に比べますとやはりRCEPのルールとか自由化の水準というのは低いと言わざるを得ませんけれども、やはり現行はWTOルールというのが基準になりますので、そうした意味では、WTOより高い水準の自由化、ルールが実現できるこのRCEPの意義というのはやはり大きいというふうに言っていいということかと思います。
注目すべきは、このRCEPには見直しや検討の規定が数多く含まれているということでございます。木村参考人からダイナミックというお話がありましたけれども、まさにこのRCEPというのは現在が最終形態とみなすべきものではないと。いわゆるリビングアグリーメントと言われますけれども、生きている協定として発効後も進化、成長を遂げていくものなんだと。むしろ日本が主導してこの進化、成長を促していかなければならない、その点については強調しておきたいというふうに思います。
続きまして五ページ目でございますが、ここからちょっと協定の具体的内容の評価につきまして、全ての章は取り上げられませんので、物品貿易のマーケットアクセス、関税に関することと、あと電子商取引について述べさせていただきたいと思います。
まず物品貿易でございますけれども、これは政府発表によりますと、十五か国全体での関税撤廃率は品目数ベースで九一%ということでございます。このRCEPは、第一・一条冒頭の規定で、ガット第二十四条及びGATS第五条に基づく自由貿易地域を設定するというふうに定められております。したがいまして、物品貿易、関税につきましてはガット二十四条に基づくということになりますが、御案内のように、同条におきましては、EPA、FTA等は実質上全ての貿易の自由化をしなければならないということが規定されているということでございます。
ただ、何をもって実質上全ての貿易というのかということについてはWTO加盟国間での合意はないわけですけれども、慣例上、締約国間の貿易の九〇%というのが目安というふうにされております。ただし、この九〇%という数字も、どのように計算すべきかについて議論があるということは委員の皆様よく御存じのとおりでございます。したがって、十年超の長期にわたるものではありますけれども、全体で関税撤廃率が九一%というのが、ガット二十四条、整合的であるとRCEP締約国は考えているということなのかと存じます。
こうした点を頭に置きながら参加各国の最終的な関税撤廃率というものを見てみますと、残念ながら決して高い水準とは言えないということでございます。ただ、繰り返しになりますけれども、現状よりは大きく改善が図られていると、その点はやはり高く評価すべきというふうに考えております。
具体的に今の点を見てみますと、日本の関税撤廃率は、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド向けが八八%、中国向けが八六%、韓国向けが八一%ということでございますし、その他の国の対日関税撤廃率は、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランドが八六から一〇〇%、中国が八六%、韓国が八三%と日本政府より公表されているところでございます。
工業品の関税撤廃率も比較的高くなっておりますけれども、右下の表にあるような形で、幾つかの国についてどのような工業製品を日本に対してこのRCEPの除外、関税撤廃から外しているかというところを見てみますと、鉄鋼やその製品、それから自動車、同部品等、やはり日本の輸出関心品目が少なからず含まれているということでございますので、この点についてはやや残念とやはり言わざるを得ないところもあるということでございます。
次に、六ページ目、日本の関税譲許について見てみますと、全体は先ほど申し上げたとおりですけれども、農林水産物につきましては、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド向けが六一%、中国向けが五六%、韓国向けが四九%ということで、TPPや日EU・EPAが約八二%という水準にあったことに比べてもかなり低くなっていると、この点は指摘しておきたいというふうに存じます。
続いて、七ページ目でございます。ここから、今回、日本と初めてのEPAになる中国と韓国について見ておきたいと思います。
中国の対日関税撤廃率は品目数ベースで八六%ということでございますが、中段の表を御覧いただきたいんですけれども、RCEP協定上の基準税率が〇%の品目を現在無税というふうにみなしますと、これは品目数ベースで八・四%ということ、全体の八・四%ということでございます。これがRCEPが発効したと同時に、品目数ベースで二五%まで無税で輸出できるようになるということでございます。そして、これが段階的に拡大されていって協定発効二十一年目に八六%まで拡大していくということでございますので、これはやはり中国市場ということを考えた上で、かなり自由化が進むというふうに言っていいかとは思います。
ただ一方で、個別の品目を見てみますと、やはり工業製品においては機械類とか、特に自動車関係が除外されていたり、あとは関税撤廃なされる場合でもかなり長期、段階的な関税撤廃になっているということで、その点については、特に使う側である、ユーザーである企業の皆さんは要注意ということかと思います。
続きまして、八ページ目、韓国についてでございます。
韓国の対日関税撤廃率は八三%ということでございますので、お気付きかと思いますけど、日本と韓国の間では互いに八〇%台前半しか自由化していないという状況になっているということでございます。
これも除外品目について見てみますと、やはり工業製品で、乗用車、それから貨物自動車といった完成車、さらに、ギアボックス等を全て除外という形になっています。ただ、関税撤廃スケジュール、中段で見てみますと、無税が一六%現在あるわけですけれども、これが協定発効と同時に四割強まで拡大するということでございますし、あと、そこからはちょっと緩やかですけれども、二十年目に八三%ということですので、ここについても期待できる部分はあるということでございます。
そして、九ページ目、電子商取引についてでございますが、まずはインド太平洋の十五か国、特に中国やASEANを含む十五か国で共通の電子商取引ルールで合意したという意義は極めて大きいというふうに言っていいかと思います。WTOにおいても現在、電子商取引ルールについて議論されているところでございますが、これまでWTOでは十分な電子商取引に関するルールはなかったわけでございますので、これが中国、ASEANを含めたものでできたということはやはり重要であるというふうに言っていいかと思います。
このRCEPの電子商取引ルールというのは、TPPに準拠したルールとなってはいるものの、やはりTPPに比べるとやや劣っていると言わざるを得ないところもあるということでございます。よく言われておりますのが、いわゆるTPP三原則についてでございますが、このうちの情報の電子的手段による国境を越える移転の自由、それからコンピューター関連設備の設置要求の禁止というこの二点はRCEPにも盛り込まれたということでございます。
ただし、こちらの二点については、表の方に書いてございますけれども、公共政策上の例外と安全保障上の例外が明記されているということでございます。これらの例外が認められたということは、国内政策上又は経済安全保障上の観点からは日本にとっても重要なことだというふうに評価しております。
しかしながら、協定条文見ますと、公共政策例外については恣意的な措置は認められないとしている一方で、実施の必要性は締約国が決定するというふうに書かれております。安全保障例外の方も、他の締約国は当該措置につき争わないというふうに明記されているということでございます。加えて、この電子商取引章は紛争解決手続の対象外ということにもなっておりますので、やはり実効性の部分についてはやや難があると言わざるを得ないということかと思います。したがいまして、RCEP合同委員会等を通じて、しっかりと他の締約国が恣意的な運用をしないようにモニタリングしていくということが重要になるということかと思います。
最後に、まとめでございますけれども、RCEPは、日本を含む参加諸国にとって自由化、ルールの水準は、TPP等には達していないものの、WTOの水準を大きく上回り、経済的、戦略的意義が大きいということ、RCEP合同委員会等を通じてピアレビューなんかを行って、締約国による恣意的な運用を抑制してRCEPの効果の最大化を図るということが今後重要になること、そして、RCEPは現在の形が最終形ではなく、見直し規定等を用いて進化、成長を図っていくことが重要である、そのために日本がこれを主導していくということが極めて重要であるということを申し上げて、私の意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。