内田聖子の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(内田聖子君) よろしくお願いいたします。
アジア太平洋資料センターの代表理事をしております内田聖子と申します。本日は、貴重な機会いただきまして、ありがとうございます。
私の団体は、市民社会組織、NGO、NPOとして、世界の農民団体や労働組合、NGO、その他の様々な組織と連携をして、貿易や投資の課題について調査研究や提言活動を行っています。NGOですから、我々は交渉の現場にも毎回のように赴きます。TPPのときもそうでしたが、RCEPに関しては、私自身、この六年ほどですが、各国で行われる交渉現場に行きまして、まあコロナの前ですけれども、いろんな組織とともに政府に意見を伝えたり、各国の交渉官とも意見を交換してきました。残念ながら、RCEPについては日本での関心は高いとは言えず、そして先週、衆議院でも非常に短時間で可決をしてしまったということは残念に思っておりますので、是非、参議院では熟議を皆さんに尽くしていただきたいと切に願っております。
今日は、こうした経験から、RCEPが持っている意味や影響について、特に今国際情勢が動いていく中で、どういう影響をアジアに、そして日本に果たすのかということを市民社会の立場からお話ししたいと思います。
資料は、パワーポイントのこれを配っていただいています。
まず、木村先生もおっしゃっていたことに私も同意なんですけれども、どういう視点からRCEPを評価するのかということによって随分違ってくると思うんですが、私は、この互恵的な協定、そしてASEANの中心性、かつ衡平な経済発展と、これはRCEPの基本指針及び目的に書かれた文言ですけれども、これがやはり非常に重要なコンセプトであろうと思っています。
RCEPは、カンボジア、ラオス、ミャンマーのような非常に貧しい後発開発途上国を含み、かつ多様性がある国を含んでいます。しかしながら、そういう小さな国々が何とかまとまってASEANというものを形成していて、そしてその経済的かつ社会的な発展をどうするかということがやはり重要なんだと思うんですね。つまり、単に経済利益を追求してグローバル化をしていくということだけではなくて、アジアの地域での平和、そして安定的な統合戦略というものがあらかじめ組み込まれていると思うんです。こうした観点からRCEPを検証したいと思います。
参加国の人口は二十二億人強ですけれども、そのうちの半数以上が農民、特に小規模零細農民ですね、あるいは漁民、先住民族、あるいは貧困層だったり、いわゆるインフォーマルセクターと言われる労働者、それから女性など、どうしてもグローバル化の中で恩恵が受けられず、逆にますます底辺への競争を強いられるような脆弱層が多く含まれています。こうした方々を全て包摂して、かつ経済的、社会的にも有益な協定なのかという視点が重要だと思っています。
まず、その際、前提として指摘しておきたいのは、このRCEP交渉というのは八年続いてきたんですけれども、協定の内容のほとんどは二〇一九年の時点で既にほぼ決まっていたと言われています。つまり、このコロナの前にほぼ決まっていたと。要するに、コロナ禍のダメージということが考慮されていないということです。
御存じのとおり、ASEAN含め世界全体ですけれども、コロナで経済というのは非常に打撃を受けています。ASEANも同じで、経済成長率はマイナス一・四、これは過去二十年で最大ということですし、失業率も増加しています。ワクチンや検査の体制というのは喫緊の課題です。貧困層も増えていくと言われています。いろんなデータを付けましたので、御覧いただければと思います。コロナによる貧困層の拡大というのは世界共通の現象なんですけれども、ASEAN地域でも同様に起こるということです。
済みません、ページ番号がこれに書いていないんですが、三枚目かな、めくっていただいて、そういう苦境に立つ中で、この一年、ASEAN経済というのは逆に中国への依存というものを本当に強めているというふうに私は見ています。
昨年で、ASEANは中国との貿易の最大の相手国になりました。これはEUと順序が変わって、ASEANがトップということになりました。特に、ベトナム、タイ、ブルネイ等で大きく増加しています。また、一帯一路という中で中国の対外投資全体は少なくなっているんですが、一帯一路に対しては逆に増加していて、非常に多くの直接投資がASEANになされている。かつ、中国が貸し付けている債務ですね、これもやはり増加傾向でして、ラオスなんかを見ると、債務総額の五〇%が中国から貸し付けられている。その返済が今非常に大きな課題になってきている。
更に言うと、欧米は中国企業に対する規制を強化している中で、ASEANは、逆に、5Gであるとか通信インフラに関しては逆にどんどん受け入れていっているというような状況が進んでいます。こうした流れがRCEPによって更に加速をするということは明らかであると思います。両者はASEANプラス1を締結しているんですが、RCEPではそれ以上の関税撤廃やルールというのが構築されております。
この中国とASEANの関係強化は、私は、単に中国けしからぬ、出ていけという、そういう中国脅威論をしたいわけでは全くなくて、逆にASEANにとっては苦境に立つ中で致し方ない選択でもあるわけです。開発途上国は開発資金がないわけですね。それから、技術やいろんなオプションがないということなんですね。しかし、結果的に、ASEANにとってこのことというのが、今起こっている米中対立における政治リスクを非常に高めてしまうということを私は非常に懸念しています。
言わば、日本も含めた自由で開かれたインド太平洋と一帯一路という中の競合の中心地にASEANは実際今なっていて、中国経済への依存が非常に高まる中でバランスを取っていく外交というのが難しくなっています。ASEANの分断ということも起こりかねないような状況です。そうしたことを通じたアジアの不安定化がRCEPによって加速されやしないかという点を非常に懸念しています。
それでも、ASEANにとってRCEPで経済的な便益があればまだ良いと言えるかもしれません。しかし、ちょっと幾つか試算を付けたんですけれども、そして、この試算というのはどこまで現実的にどうなのかというのはあるんですが、一定の傾向は分かると思います。いろんな試算を見てみても、やはり経済的には日中韓がメリットは大きいわけですが、ASEANに関してはゼロか、最悪の場合マイナスになってしまうというような結果も出ています。
その意味で、このRCEPがASEANにとってはある種非常に危険をはらむディールになりやしないか、そのことが日本も含むこのアジア地域の不安定化や、あるいは国による格差の増大ですね、こういうことを引き起こしかねない。これが冒頭申し上げた互恵的な関係という点から見て本当にそうなっているのかということは、是非皆さんにも検証いただきたいと思います。
さて、RCEPの内容は、今、菅原先生からも詳しくあったので私はポイントだけしか申し上げませんが、物品に関しては、今言ったように日中韓のFTAという意味が大きいわけですね。ASEANの中ではもう関税撤廃も投資やサービスの自由化も多くなされていますので、日中韓が利益が大きいということです。
ところが、日本のその全体のメリットということの、より詳細に見ると、確かに工業製品は輸出が拡大するのであろうと私も思います。しかし、この農産物についてはどうでしょうか。日本政府は主要五品目を除外しているので影響はないと言って、試算もしていないということをちょっと私は驚いておるわけですが、先週の衆議院の外務委員会での参考人質疑で出られた東京大学の鈴木宣弘先生の研究室の試算によれば、主要五品目は除外なんだけれども、野菜、それから果物ですね、それから加工品、こういうものはかなり広範に関税撤廃がされます。で、その結果の試算としては、農業生産の減少額としては五千六百億円だという結果が出て、これ非常に私も驚きました。ここまで本当に出るのかどうか、出るんだとしたら大変なことだと思いました。
これは、TPP11のトータルと比べれば半分程度ではあるんですが、相当に当たりますし、とりわけ野菜や果樹、加工品ということに関しては、TPPの何と三・五倍にも至るという数字です。ですので、この点は、影響がない、大丈夫だということで済ませずに、是非この参議院の委員会の中でもう一度きちんと検証して、影響が出るなら何らかの対策が必要でしょうという話なのではないかというふうに思いますし、ずっとメガ協定を結んでくる中で、やっぱり農業はどんどんどんどん自由化が進んで、もう農村は立ち行かないというような状況にもなってきたと思います。なので、是非見直しをしていただきたいと思っております。
そして、農産物に関しては、もう一点申し上げると、RCEPではこの結果なんですけれども、今後その見直しということが想定されているということに警戒する必要がありますし、もう一点は、日中韓のFTAですね、中国はRCEPの後、日中韓もやりたいんだというような意向を見せていると報じられています。ですから、もし日中韓がもう一回また別のフェーズで始まれば、もう一回また関税も含めて三か国で交渉していくということが始まれば更にその警戒をする必要があるというふうに思います。
ルールの部分なんですけれども、これについては様々な評価があって、先ほども菅原先生おっしゃったように、いろんなTPPと比べて緩いとかプラスになったということはあるんですが、私は一点強調したいのは、この間の自由貿易協定の中で常に問題となってきた条項というのが幾つかあります。例えば代表的な例は、投資章に入っているISDSというものであったり、医薬品の特許の保護、バイオ医薬品のデータの保護の問題だとか、それから、農民にとっての種子、種のですね、権利を守るという、それを阻害するような条項だったり、我々はそれを有害条項と言ったりするんですが、それが常に問題になってきました。
結果的に、RCEPには今申し上げたような条項というのは今回は入っていません。これをもって質が低いとか今後積み上げていけばいいという議論もあるんですが、皆さんに是非知っていただきたいのは、こういう、人々にとって問題だと言われているようなルールを、各国の市民社会が、いろんな農民の団体、漁民の団体、労働組合の人たち等々が、ずっとこの八年間、交渉会合の中で、やっぱり人々の健康や医薬品のアクセスや生業を守るというために働きかけをずっと行ってきたと、その結果である、成果であるということなんですね。
資料にたくさん写真を付けておきました。恐らく皆さん、こういうRCEPの交渉会合、それぞれで、これですけれども、どこで何がどう行われて、誰が言っていたかということを余り御存じではないのかなと思いまして付けました。
ですから、一つのRCEPのこの結果の大きな示唆は、私はこのように思っています。RCEPにこうした条項が入らなかったという意味は、これからのメガFTAなりWTOの中でいろんな議論をしていくんだと思うんですが、その際に、こうした知財やデジタルや投資や電子商取引等のいわゆる高い水準のルールと言われているものは、これは全ての国に共通で普遍的なルールにはなり得ないんだと、これがRCEPで一つ私は証明されたと思います。ですから、これは世界の貿易ルールにとって非常に大きな示唆を与える転換点ではないかと思っています。
そして懸念は、ところが今後、見直しとか再交渉が行われている中で、またこの有害だと言われているものが取り入れられていってしまうという懸念がある、ここに世界の市民というのは警戒をしているわけです。
最後に、RCEPを通して今後の世界の貿易交渉の枠組みをどう考えるかという点ですけれども、私はFTAがどんどんどんどんWTOの外で広がってきたことについては非常に否定的に見ています。
というのは、たくさんの協定が既に山のように生まれていて、交渉もそうですし、実施もとても複雑になっています。いわゆるスパゲッティボウルと言われますけれども。かつ、そのことが、WTOにいずれはこういうルールというのは移植していくんだということが当初言われたわけですが、それは実現をできていないわけですね。つまり、個別にいろんなルールがばらばらとできるだけで、共通のルールづくりというのはなされていない。むしろ多くの国が、この二十年ほど、大きな政治的、経済的コストを掛けてFTAをどんどんつくってきたんですが、そのことが停滞しているWTOを再生することの大きな障害になっているというふうにも言えると思います。
ですから、これで終わりますけれども、各国では今いろんな形で貿易の方針の修正とか変更とか停止などなどが起こっています。いろんな例を列挙いたしました。アメリカでも顕著に起こっています。ですから、是非、日本がRCEPの交渉を終えてメガFTAの二十年のフェーズを終えるというのは、菅原先生もおっしゃったとおり、私もそう思います。
ですから、是非この機に、一体日本はこの二十年の自由貿易、FTAを進めてきて、いいことが何があったのか、何が課題かということを振り返っていただきたいんですね。農業や製造業、サービス業、全ての産業でそれぞれがちゃんと発展が遂げられてきたのか、人々の雇用や賃金、生活は向上したのか、日本の産業競争力は本当に付いたのかということを改めて振り返っていただいた上で、このRCEPの審議を十分尽くしていただきたいと思います。
ありがとうございました。