福田護の発言 (憲法審査会)
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○参考人(福田護君) 弁護士をしております福田と申します。
本日は、憲法改正手続法についてのこの場で意見を申し上げる機会、与えていただきまして、大変ありがとうございます。
今日は、資料として、私のレジュメと、それから日本弁護士連合会、日弁連と申しますけれども、日弁連が作成、発表している意見書を二通御用意いたしましたので、適宜御参照をお願いしたいと思います。
最初にお断りをしておきたいのですけれども、私は日弁連の憲法問題対策本部というところに所属をして、日弁連の意見書作りなどにも関与をしてきております。本日も先ほどの資料をお配りをさせていただいております。しかしながら、本日は、日弁連の委員としての立場ではなくて、弁護士個人としての意見を申し述べさせていただくということにしたいと思います。それは大筋において日弁連の意見と重なりますけれども、一部異なるところもございます。そのようなものとしてお受け止めをお願いしたいと存じます。
私からは、憲法改正手続法の質的な面、これを中心にお話をさせていただきたいと存じますが、まず最初に、私としての結論的な意見をまとめて申し上げさせていただきたいと思います。
現行の憲法改正手続法は、仮に今審議されている公選法並びの改正がなされても、根本的な部分に欠陥があって、その対処がなされない限りは公平公正な国民投票が保障されず、このままでは実際に適用されるべきものではない、国民投票が実施されてはならない、このことを強調させていただきたいというふうに存じます。
公平公正な国民投票の実施、実質的平等の確保された国民的熟議の下での国民投票の実施、これは憲法改正というこれ以上ない重要な選択において必ずや確保されなければならない憲法上の価値だと存じます。憲法九十六条も憲法十四条もそれを要求をしていると考えます。これは、衆議院において提出をされた修正案の附則第四条、特にその第二号に基づく措置がとられても、なお十分ではないのではないかと考えております。
もし仮に現状のままで国民投票が実施された場合、特に国民に極めて影響力の大きいテレビ、ラジオのCMを含む有料広告においては、賛成派、反対派の間でその量、放送時間帯等に圧倒的な格差が生じます。極めて不平等な事態が現出すると存じます。また、現状で規制のないインターネットの使用や広告というのは、全く無秩序な状況を呈するのではないかと危惧をされます。さらに、これは最低投票率の問題に関連しますけれども、選挙での投票率が大きく低下してきている現状では、根本規範たる憲法改正の正当性、これを基礎付けるに足る賛成票というのがないままに憲法改正がなされてしまうおそれ、これも感じないではいられません。
憲法改正における国民投票の性質という点についてですが、改めて強調させていただきますけれども、著名な憲法学者、芦部信喜先生はその著書において、国民投票による憲法改正決定の方式というのは、国民主権の原理と最高法規としての憲法の国民意思による民主的正当化の要請とを確保する最も純粋な手段と言うことができる、こういうふうに述べておられます。
このような憲法改正というのは、まさに憲法制定権力ないし改正権力の発動でありますから、立憲主義の理念に支えられ、それを具現したものでなければならないと存じます。憲法改正国民投票は、それによって国民が自らの権利、自由を確保すべきものであって、国民が権力に対して何をどう守らせるのか、その規範の新たな定立でございます。そして、それは国と国民との在り方、これを将来の長きにわたって決定付けるものになります。憲法改正手続は、そのようなものとして憲法改正の正当性を十分に根拠付ける、そういうものでなければならないと存じます。
国民投票がそのようなものであるためには、幾つかの最低限の要請ないし条件が満たされる必要があると存じます。一つは、国民投票手続が国民の主体的、能動的参画を保障するものでなければならない。二つ目は、主権者である国民間でその参画の機会、これが実質的な公平、平等を保障される必要。そして同時に、その制度が公正なものとして用意をされ、その公正な運用が確保される必要というふうに考えております。
日弁連は、憲法改正手続法について、二〇〇四年に与党がその法案の検討を始めたその時期から検討を行ってきておりまして、二〇〇五年二月には法案に対する意見書を発表し、その後も数次にわたる意見書を公表して提言を行い、また、その時々の状況の推移に応じて会長声明なども発表してきております。
本日は、私の意見を申し上げる参考資料として代表的なものを二つ、既に御覧いただいているかもしれませんけれども、改めてお手元に配付させていただきました。
一つは、二〇〇七年五月に制定された憲法改正手続法において残された必要な検討課題、これは何かということを指摘したものでございまして、二〇〇九年十一月十八日付けの意見書です。
これは、八項目にわたる問題点を挙げて、例えば公務員、教育者の地位利用による国民投票運動、この禁止規定の削除、あるいは組織的多数人買収の、あるいは利益誘導罪の削除などを求めておりますけれども、特に重要な点として指摘をしているのが国民に対する情報提供の在り方の改革でして、一つは国民投票広報協議会、この構成等の見直しをし、二つ目、公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用の拡大、公の費用によるですね。それから三つ目、有料意見広告放送の賛成派、反対派の実質的な公平の確保、そして投票期日前十四日間の禁止期間の再検討の必要性、これを強調しております。また、最低投票率の規定は必要不可欠であるという立場を取っております。
もう一つお配りした二〇一九年一月十八日付けの意見書は、自民党の改憲四項目など憲法改正が具体的に提起される政治状況の下で、憲法改正手続法の適用がなされることがある場合に必要と考える最低限の措置を提言したものとなっております。
そこでは、改めて、テレビ、ラジオの有料広告放送について、賛成意見、反対意見の公平性を確保するため、国民投票運動のための広告、いわゆる勧誘CMだけではなくて、意見表明のための広告、いわゆる意見表明CMですね、これも含めて規制の必要性の検討、そして対処を求めております。同時に、公費によって、公の費用によって広告を含む放送について平等かつ必要十分な放送枠を確保することを求めております。また、ここでも最低投票率の規定を新設すべきものと提言をしております。
なお、私、参考人といたしましては、二〇一九年意見書中、広告放送の規制は意見の表明も含めて積極的に実施すべきであるというふうに考えておりまして、またインターネットによる広報及び広告規制の検討も必要不可欠だというふうに考えております。
そこで、公平公正な国民投票を実施するための不可欠の条件でございますが、一つ目、憲法改正案について、主権者国民間において情報の共有、賛成、反対運動の意見表明の機会の実質的平等の確保、そのための措置が必要不可欠であり、また、インターネットを含めて有料広告規制と、その反面としての公費による国民投票運動の制度的保障のための措置、こういうふうにまとめて申し上げたいと思います。それから二つ目として、将来に禍根を残さないだけの憲法改正の正当性根拠、その根拠としての多数国民の賛成が制度的に保障されることが必要であって、そのための措置として、まずは最低投票率制度の導入が求められると考えております。
少なくとも、これらの措置を欠いたままでの憲法改正手続には、憲法制定権力である主権者である国民の意思の表明であるべき国民投票として根本的な欠陥がある、現行法のままで国民投票が実施されたら、その欠陥が露呈し、憲法改正という国の根幹を誤ることになりかねない、その意味で現行法は欠陥法であり、憲法十四条、九十六条に違反した状態であるというふうに考えております。
以上申し上げた意見を補強するものとして、これまでの国会審議から二点を指摘しておきたいと思います。
一つは、法制定時の参議院調査特別委員会の十九年の附帯決議、それから二十六年の六月の附帯決議でも再確認されておりますけれども、最低得票率制度の検討と、それからテレビ、ラジオの有料広告規制、これについての検討はいずれも本法施行までになされるべきこととされておりました。逆に言うと、この検討や措置がとられない限り、この法律は実施してはならないということになろうかと存じます。
もう一つは、法律の制定の前提とされた、日本民間放送連盟、民放連ですね、この考え方とのそごがその後明らかになって、このままでは法律の広告規制の不備の問題が顕在化してしまうということへの危惧でございます。
二〇一九年五月九日の衆議院憲法審査会では、野党側の立案担当者であられた枝野幸男先生が次のように述べておられます。すなわち、立法当時、民放連参考人の答弁によって有料広告に関して量的な自主規制がなされるものと受け止めていたけれども、その前提が違うとなると、現行法は欠陥法だということにならざるを得ない、したがって、現行法のままで国民投票は施行できないということになります、当時の民放連の御発言が真意と違っていたという受け止めをした中で法律が作られたということで、もう一度当時に戻って議論をし直さなければならない、このままではこの国民投票は使えません、こういうものでございました。
現行法のままでは、法は所期の目的を達成できず欠陥法のままであり適用できないということが率直にここに述べられております。
テレビの有料広告放送の規制の問題、これについては国会の内外でも相当程度議論がなされてきており、その内容や表現の自由との関係の問題、ここでは改めて申し上げることは差し控えたいと存じます。
ただ、諸外国においても国民投票において有料広告を禁止している国は相当多くて、特にイギリス、フランス、イタリア、ポルトガルなどでこれを禁止する代わりに、無料広告放送枠を用意をするという、そういう制度づくりがなされているということは私たちも十分参考にできるのではないかと思います。
私自身は、その公費による意見の広告の十分な機会を保障する制度、これが非常に重要だと思っておりまして、国民投票広報協議会の組織構成を賛否平等なものに改編をするとともに、政党等に限らず国民に広くこれを開放し、国民が無償で、必要十分な質と量の意見の広告、これを発信し得るようなシステムづくりというのを御検討いただきたいと存じます。これが有料広告の禁止に代わるものに、それに足りるものとして、憲法改正課題にふさわしい放送時間、この枠を保障するものでありたいと考えております。
これらの措置はインターネットの意見の広告についても同様だと思います。これはこれから十分に検討すべき課題だと存じますが、付言を申し上げておけば、広報協議会による憲法改正案のその他参考事項の広報の手段は、現在、放送と新聞についてのみ法の百六条、百七条で規定されておりますけれども、インターネットのホームページ開設による広報というのは、これは規定されておりません。これは必須だろうと存じますので、御検討をお願いしたいと存じます。
最後に、最低投票率制度の問題について触れておきます。
国政選挙の投票率の長期低下傾向は明らかでありまして、最近は五〇%を切るケースも生じております。国の最高法規の現状を変更する、そういう国民の意思表示は明白かつ積極的なものでなければなりません。
低投票率の場合に、加えて、有効投票の過半数でよいとする現行法の下でなおさら、国民のごく一部の賛成意思で憲法改正の効果が発生するとしてよいのか、それでこの憲法改正の正当性が肯定できるのかという問題であります。例えば、四〇%の投票率で二〇%程度の国民の意思によって憲法改正がなされてよいのか、大変疑問に感じます。
この問題は、日本国憲法制定審議の当時から既に意識をされ、学説上も通説的見解としてこれを肯定してきております。この制度についてのいろいろな批判や問題点、この指摘は承知をしておりますけれども、最高法規改正の国民の意思の担保のために最低投票率の導入が望まれるというふうに考えております。
以上、御清聴ありがとうございました。