上家和子の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(上家和子君) 上家和子でございます。よろしくお願いします。貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。
私からは、これまで関与しました三つの調査を基に、医師への支援について述べさせていただきます。
一つ目の調査は、一ページ目の上にありますように日本医師会が二〇一七年に実施したもので、分析を私が担当いたしました。病院に勤務する女性医師への調査でございます。有効回答数は一万人を超えておりまして、当時の病院勤務女性医師の四分の一から回答を得たというものでございます。
二番目の調査は、さきのこの大規模な調査を補完するために実施した、キャリアを変更した二十人の女性医師と九人の管理者等へのディープインタビューです。
三番目は、平成三十年度、令和元年度の二か年にわたる厚生労働科学研究費補助金によるICTを活用した医師に対する支援方策の策定のための研究として私が研究代表者で行ったものですが、この研究では、当時の臨床研修病院千三十五病院のうち五百四十四病院の病院長、そして診療科長四千三百五十一人から得た回答を基にまとめたものでございます。
一ページめくっていただきまして、女性医師、勤務女性医師の状況を見ますと、三分の一が小学生以下の子供を育てている方でございました。インタビュー、その後のインタビューで妊娠中について聞いたところ、その下、円グラフの下にありますが、妊娠を報告したとき、医局長は舌打ちした、教授は辞めるの、続けるのと言ったという具合に、おめでとうと言ってもらえないと、そういうことを口々に言われたのに驚いた次第でございます。
でも、こういった上司の反応というのの背景にはそれなりの理由があります。
右上のグラフを御覧いただきますと、ちょっと分かりにくいグラフで申し訳ないんですが、真ん中の二つの、中の二つのバーは、子育てをしている女性医師の勤務時間、実勤務時間です。それに対して一番上側と一番下側は、二〇〇九年と二〇一七年の子育てをしていない女性医師の勤務時間です。明らかに異なります。二〇〇九年に比べ二〇一七年は、いずれも勤務時間が多少は短くなってきていますけれども、それよりも、八年の差よりも、子育てをしているかしていないかで歴然と勤務時間が違うということでございます。
赤枠で囲っております週六十時間以上というのが、これ月に直しますと時間外が八十時間以上、つまり過労死ラインを超えている人たちということになります。こういった中でも子育てを頑張っている先生方多いわけですけれども、母体の健康確保というのは、産前産後の休業の補償が医療保険で手当てされるように、母体保護ですけれども、育児休業は、これは就労の確保、子育て支援ということで、雇用保険から手当が出るという仕組みなわけです。
そういった中で、労働者としての医師は当然労働法やこういった育児休業法等で守られているわけなんですが、例えば三六協定なんかでもそうですけれども、労働者を守る仕組みというのは労使双方で合意する協定、労働協定を基本として仕組みがつくられています。三六協定、育休取得、それから子育て中にかなり大きな役割を果たすと思われる時間単位で取れる有給休暇、こういったもの全て、労働者の過半数で組織される労働組合、労働組合がないところでは過半数を代表する者と締結するという仕組みになっています。
私の調査しました臨床研修病院における医師の労働組合への参加、左下の円グラフですけれども、これを見ますと五・六%がほぼ参加している。ただ、このほぼ参加しているの中には労働協定締結権のない組合への参加も含めて、それでも五%台でございます。九五%近くの病院で医師は労働組合にほぼ参加していません。こういった中でも、労働組合と医師の働き方や休暇の取り方について取決めを行わなければならないというのが現在の労働法制です。
医師の雇用というのは、右下にまとめておりますけれども、パートナーシップ型ではなくジョブ型です。それから、診療と自己研さんが不可分で、臨床の経験を積むためにも、常勤であっても流動性が高く、様々な病院を経験することが資質の向上につながります。大学との、医局の関係からも、必ずしも雇用主に人事権、人事の決定権がない場合も多いことも通常とは異なるかと思います。
こういったことから、労働組合への加入率が低いのはある程度やむを得ないことかとも思われます。労働法制への医師の理解が不足しているというのは明らかだと思われますし、労働法制への理解の促進は必要ではありますが、それだけでは労働者の過半数を医師が占めることはまずないような病院という環境の中で、労働組合に加入すれば医師の働き方について様々なものが解決するというものではないのかもしれません。
次のページですけれども、仕事を続けるために何が必要かという調査では、宿直、日直の免除というのが出てきています。ですが、実際には、二十代の病院勤務の女性医師の大半が週一回、二回、それ以上、宿直、オンコールを行っています。
円グラフにありますように、このオンコールのときに病院の外で診療録にアクセスすることはほとんどできません。本当は、実際にはそういうことをやっている病院も既にあって、ICTを使えば診療録を見ていろいろな判断が自宅、病院外でもできるシステムはあるわけですけれども、病院長の先生方からはセキュリティーの問題があるということで導入をためらわれているという実態があります。
さて、医師の場合、自己研さんと診療不可分と先ほど申し上げましたけれども、それに対して、その中で学会への参加というのも非常に大きな位置を占めるものであります。
医学会におけるICTの活用ですが、これは新型コロナの前の段階ですけれども、お答えいただいた六十七学会のうち、ICT活用に関する態度の表明ですとか指針の整備を行っているのは二学会しかありませんでした。一方で、病院側は学会への参加についてはほとんど出張扱いを認めていて、大きな理解を示してはいます。出張はできる、でも子育てをしていたりするとなかなかそうもいかないということで、新型コロナ禍で急速に広まった学会へのウエブ参加は非常に歓迎されています。
自己研さんでは、学会の参加とともに、論文を書いたり論文を読んだりということもあるわけですが、カンファレンスへの参加も重要ですが、診療科内のカンファレンス、四千三百五十一の診療科でお答えいただいた中で、時間内、いわゆる時間内の、勤務時間内にカンファレンスが開始されているのは全体の三分の一にすぎませんでした。
次のページを御覧ください。
時間外勤務、まあ診療科によって随分違うわけですけれども、宿日直、宿直の翌日の勤務体制に何らかの手当てがあるかというのも限られています。
ちょっと細かくて申し訳ありませんが、小児科とか麻酔科、そして病理検査、そして救急といったシフト勤務、あるいは主治医のいない、主治医制をしいていない診療科ではある程度対応ができると。こういった診療科ごとの違いを受けて、女性医師の割合は診療科によって随分異なります。整形外科、脳外科、泌尿器科といったところの女性医師の割合は極めて低い。いずれも長時間労働であって、宿直の翌日も何ら手当てがされないような科です。ですが、女子医学生、女性医師の多くがそういった科に向かないのかというと、そうではない。本人として適性があり、希望があっても、その勤務時間とかいろいろな環境が整わないために選ばないということが起こっているのではないか。自ら規制しているのではないか。そうすると、こういうことが進んでしまうと、現在四割を女子学生が占めていますが、診療科の偏りというのが絶対に深刻になってくると思われます。
それから、子育て中の女性医師に家族環境を聞いたところ、夫と同居していない、いわゆるワンオペ育児をしている割合が乳児を抱えている先生で五%程度、小学生を抱えている先生では二割に達そうとしています。女性医師のその子育て環境という問題の大半は、実は家庭の中にあるのかもしれません。
それからもう一つ、現在御審議いただいているこの医療法の中には、既に第六条の二の第三項に国民の努力義務が書かれています。しかし、国民はどういう形で医療を受けるのか学習する機会があったかどうか疑問です。増え続ける救急受診ありますけれども、シャープ八〇〇〇番やシャープ七一一九によって、救急受診をしようかなと思った人の八割以上が思いとどまって普通の診療を受けることができる。更に言えば、小児科の専門医や在宅医療の専門医がオンラインで医療相談を受ければ、それを九九%、救急受診ではなく一般受診に向けていくことができるという実態があります。
最後です。
こういった調査から見えてきたものとして、医師の勤務環境を守りながら安全な医療を供給するためには、労働組合を代表とする労使関係を基本に置いた労働法制だけでは勤務医の労働環境は守れないのではないかと思います。それから、医師の負担軽減、医療の質の向上につながるICTの積極活用については、セキュリティー対応を分かりやすく示すなど、管理者への支援が不可欠と考えられます。それから、社会全体、家庭内や社会全体の性別役割分担を前提としない社会を目指さなくてはなりません。
そして最後に、医療のかかり方について、具体的な教育を大人だけではなく子供の時代から教育の中に取り込んで展開していただきたい。こういったことがなければなかなか仕組みを整えても実態として進まない部分があるのではないかと思いました。
以上でございます。ありがとうございました。