稲葉剛の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(稲葉剛君) 一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛と申します。本日は、貴重な機会を与えていただき、ありがとうございます。
 私からは、コロナ禍における生活困窮者支援活動の現場からの報告と、そこから見えてきた公的支援の課題についてお話ししたいと思います。
 五月の三日と五日に私たちが開催したゴールデンウイーク大人食堂には、二日間で約六百六十人もの方々が来られました。コロナ以前、こうした食料支援の現場に来られる方のほとんどが中高年の単身男性でしたが、今では十代、二十代の若者、女性、お子さん連れ、外国籍の方など、世代や国籍、性別を問わず様々な方が支援を求めて集まるようになっています。私はこれまで二十七年間、生活困窮者支援の活動を続けてきましたが、これほどまでに多く多様な方々が困窮しているという状況は、バブル崩壊後、リーマン・ショックを含め、過去に見たことがありません。
 この一年間、民間で生活困窮者支援に関わる私たちは、貧困の現場では緊急事態が発生している、社会の底が抜けていると言い続けてきました。しかし、各地の炊き出しに集まる人の数は増え続け、日々最悪の事態を更新し続けています。
 首都圏の四十団体以上のネットワーク、新型コロナ災害緊急アクションでは、メールフォームによる相談窓口を開設し、この一年間に六百件以上の相談に対応するとともに、所持金が数十円しかない、今晩から野宿をせざるを得ないといった緊急性の高い相談にはスタッフが現場まで駆け付けて支援をするというアウトリーチ型の支援活動を続けてきました。今年に入り、コロナ禍の長期化に伴い、経済的困窮だけではなく精神的にも疲弊し切っている方々からの相談が増える傾向にあり、死ぬことを考えていると話す二十代、三十代の若者からのSOSが急増しています。
 私は、昨年春以降、貧困の急速な拡大に対応するためには、最後のセーフティーネットである生活保護を徹底的に活用すると同時に、その手前の支援策も大幅に拡充する必要があると訴えてきました。しかし、政府は、昨年に一度十万円の特別定額給付金を支給しただけで、社会福祉協議会の特例貸付けを拡充するということで急場を乗り切ろうとしました。コロナの長期化を踏まえ、特例貸付けは今年二月に二百万円まで増額されたため、現在、貸付けの二つのメニューの総額は八千四百億円を超え、申請件数は二百九万件を超えています。その結果、現場では何が起こったのでしょうか。
 関西社協コミュニティワーカー協会が全国の社協職員千百八十四人を対象に実施したアンケートには、次のような社協職員の声が寄せられています。貸付け以外の支援施策がいまだ打ち出されないことが相談現場で苦しい、延長まで借り切った人や年齢的に就労につながらない人たちにどう支援していいのか悩む、また、そもそも仕事が少ない、苦しい状況の人に借金をさせている、これが福祉なのか疑問に思う、金銭面での支援が必要なのであれば貸付けではなく給付という形で検討してもらいたい、今のままでは生活ができず貧困によって亡くなる方が増えそうで心配です、コロナの影響がこれだけ長期化することを国のリーダーや識者も含めて誰も知り得なかったのかという疑問がある。コロナ禍における政府の最大の貧困対策が給付ではなく貸付けであったということについて、現場の職員が最も矛盾を感じているのです。また、丁寧な相談支援ができないジレンマを全体の七六%の社協職員が抱えており、生活保護につなげようにも福祉事務所の窓口で拒否されるので今後の支援に悩んでいるという声もありました。
 社協の貸付けについては借受人と世帯主が住民税非課税世帯であれば償還を免除するという方針が示されていますが、この収入基準は厳し過ぎるので緩和すべきだと考えます。また、家賃の負担を少なくするために家族と同居して家計は別にしているという若者らが償還免除の対象から外されてしまう危険性もあると考えます。
 私の知り合いの社協職員は、貸付けの利用者はほかのカードローン、クレジット、リボ払い等も満額まで借りている人が少なくない、社協の貸付けを実際にほかの債務の返済に充てている人も多いと思われる、自殺者が多かった時代は多重債務による生活苦が主な理由だったが、その再来がもう目前まで来ているという感覚があると危機感を語っています。ほかの先進国と違い、現金の給付ではなく貸付けで対応しようとした弊害は余りに大きいと言わざるを得ません。
 最後のセーフティーネットである生活保護は昨年の秋以降申請者数が増え続けていますが、今年一月の申請者数は前年同月比で七・二%増と微増にとどまっています。民間の食料支援に集まる人がコロナ以前と比べて倍増しているのと対照的です。
 生活困窮者が増えているにもかかわらず生活保護利用が進まない背景には、三つの要因があると私は考えています。
 一つ目は、広報の不足です。厚生労働省は、昨年十二月より公式サイトにおいて生活保護の申請は国民の権利ですという広報を始めましたが、ネットでの広報には限界があります。一部の政治家が主導した過去のバッシングによって浸透してしまった生活保護に関するマイナスイメージを払拭するためには、テレビのコマーシャルや駅の広告など、様々なツールを活用した広報を行う必要があります。マイナンバーカード並みの予算を投入して広報を展開してほしいと望みます。
 二つ目は、各地の福祉事務所による水際作戦です。今年二月、生活に困窮して住まいを失った二十代の女性が横浜市神奈川区に相談に行ったところ、生活保護に関する様々な虚偽の説明をされ、追い返されてしまうという事案が発生しました。神奈川区は後日謝罪をしましたが、同様の水際作戦は各地で頻発しています。新型コロナ災害緊急アクションには、若いから生活保護はないと言われた、もっと仕事を真剣に探してはと言われ断られた、住民登録がないから駄目と言われた等、違法な追い返しをされたという相談が相次いでいます。こうした生活保護の窓口における水際作戦をなくすためには、生活保護のオンライン申請を導入すること、各自治体の窓口で相談者が手に取れる場所に申請書を置くことを求めます。
 三つ目には、制度上のハードルがあります。最大のハードルである扶養照会については、今年の四月以降、申請者の意向が一定程度尊重される運用に変わりましたが、まだ現場では徹底されていません。更に一歩進め、申請者の同意がなければ親族に連絡をしてはならないということを明記した通知を厚生労働省から出してほしいと願っています。
 また、車の保有や申請時の預貯金額などの資産要件も大幅に緩和し、生活保護の利用者数を政策的に増やしていくことが求められています。二〇一三年以降引き下げられてきた生活扶助基準も元に戻す必要があります。生活保護の手前においてもう一度一律の給付金を支給する、住居確保給付金の支給期間を撤廃して普遍的な家賃補助制度へと改変するなどの現金給付を思い切って拡充すると同時に、生活保護そのものも使いやすくしていくという両面作戦を行わなければ、現下の貧困拡大には対応できません。
 また、難民申請中で仮放免の方も含めて、制度から排除されてしまっている外国籍の方々の医療や住まい、生活を保障する支援策を行わなければ命の問題に直結すると大変危惧をしています。
 自助も共助も限界だ、今こそ公助の出番だと私たちは一年間叫び続けてきました。しかし、生活困窮者支援の現場では、依然として公助の姿は見えません。政府は一体どこにあるのでしょうか。この国に政府が存在しているということが貧困の現場からは見えないのです。
 今この瞬間、家を追い出されて路上生活へと追いやられていく若者たちがいます。今この瞬間、おなかをすかせている子供がいます。その子供のために炊き出しに並ぶ親御さんがいます。そして、今、命を絶つことを考えている大勢の人たちがいます。その人たちに向けて、日本には政府がある、人々の命と暮らしを守る政府があるんだということを行動で示してください。貧困に苦しむ人々の声を聞く政治があるということを今すぐ行動で示してください。
 私からの報告とお願いは以上とさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 稲葉剛

speaker_id: 27915

日付: 2021-05-06

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会