茅根創の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(茅根創君) 東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター副センター長で、本務は理学系研究科で地球惑星科学というところでサンゴ礁と地球温暖化の研究をしております。この十年ほど、教育学部の先生方と御一緒に初等中等教育における海洋教育の普及促進について活動、研究を続けております。
本日は、お配りしておりますレジュメに沿って、レジュメと、それから、事前にお配りしてありましたこの配付資料の、最初の方が本センターの紹介のパンフレットですね、海洋教育センターと書かれた、それから、何枚かめくっていきますと、センター長の田中が書きました総合教育技術の記事、その次のページが同行してくださっています日置教授が書かれた記事、その後、本センターがこれまで出してきたポリシーブリーフというのが三、四、五、六とあります。これと、それから、事務局の方で、これ非常に大部の我々が出した「温暖化に挑む海洋教育」、事務局からの依頼が国際的な海洋教育の動向について話してほしいということだったんですが、ちょうどそれをこの本でまとめていましたので、皆様に事前にコピーをしてくださいましたが、今日は本誌の方を机上に置いてあります。それから、実際の海洋教育の実践についてこれまでやってきた様々な実践例をこの「学校における海の学びガイドブック」というのにまとめてあります。
こういった事前にお配りしたパンフレット、ポリシーブリーフ、記事、それとこの「温暖化に挑む海洋教育」とガイドブック、これを参考にしながら、主に、時間二十分ですので、レジュメに従って御説明していきたいと思います。
配付資料については以上です。
その他、もし質問になったときに適宜回覧したい、してもよいものが二つ下に並んでいます。
レジュメの最初のページですが、最初に本センターについての御紹介です。パンフレットにも記載されています。
二〇一〇年から東京大学の海洋アライアンスという、東京大学には全部で、理学、工学、農学、それから法学にも、二百五十名の海洋の研究者がいるんですが、その海洋の研究者を貫くような、横串を貫くような、そういう全学的な機構、海洋アライアンスというのが二〇〇七年に誕生して、その中の一部門として海洋教育プログラム、特に初等中等教育における海洋教育の推進のためのセンターができました。そのセンターのプログラムの私はプログラム長として、二〇一〇年以来活動を続けてまいりました。二〇一九年からは、教育学的にもっと詰めていきましょうということで、教育学研究科の附属の海洋センターとして、センター長が教育学の教育哲学の田中智志、副センター長が理学から私という体制で研究活動を、活動を進めております。アライアンスもこのセンターも、いずれも日本財団の助成によって設立、運営されています。
スタッフは、私と、それから田中センター長、それから、その他教育学系の兼任教員、いずれも兼任です。本務は教育学や理学なんですが、兼任教員が四名と、それから、こちらに専任する、この海洋教育に専任する特任教員が三名、特任研究員が六名、事務員二名という体制で活動しております。
これまで、全国に百以上の自治体、教育委員会、それから小中高校、幼稚園も含めてですね、百以上と連携をして、三名と六名の特任教員、特任研究員がほぼ毎月のように全国を飛び回って実践活動を進めております。
主な活動としましては、パンフレットの方に詳しくは書かれていますが、一番目玉としては、全国海洋教育サミットというのを毎年行っておりまして、二〇一三年から毎年で、今年は二月にオンラインになりましたけれども開催して、今年は全国七十校六百名が参加しました。昨年は、安田講堂と、それから伊藤学術国際というところでやったんですけれども、ここでは海洋教育に関わる教員、実践者、研究者が一堂に会して議論を行うとともに、一番の目玉は、その各全国六十校の小中高校、幼稚園もありましたね、の子供たち、生徒たちがポスターセッションという形でそれまでの実践を発表してお互いに議論をし合うというような、そういう場を設けてきました。
さらに、地域フォーラムも開催し、先ほど百校以上と申し上げましたけれども、これまで四十ほどの海洋教育の促進拠点、パイオニアスクールプログラムの地域展開部門、右の日本地図に赤や緑でドットを打ったところですが、こういうところと、こういった学校や教育委員会と協働で海洋教育の実践やカリキュラム開発をこの十年間進めてまいりました。特に最近は、教育課程特例校制度を利用して、海洋に係る海洋科とか海洋環境科といったような科をつくって、十校程度と、そこも海洋教育の研究、実践を進めております。さらに、教員の方々にも研修プログラムを提供し、映像や資料などの一般への啓蒙啓発を進めています。それから、笹川平和財団がこれと別に三百ほどの学校にこれまで海洋教育の助成をしているんですけれども、それの支援も行っております。
最初に、二番目、三ページ目ですが、我が国における海洋教育の位置付けですが、平成十九年に国連海洋法条約を受けて海洋基本法が制定されたのは皆さん当然御存じのことかと思います。この中で学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進というのがうたわれていたんですけれども、残念ながら、その直後に出された学習指導要領では、それほど海洋をやりなさいというようなことは明文化、余り増えていませんでした。
そういった中で、海洋基本法のこの教育の推進というのがなかなか実現しない中で、平成二十八年に内閣総理大臣メッセージ、海の日メッセージの中で、若い皆さんに海洋をもっと知ってほしい、海洋教育の取組を強化していくため、産学官オールジャパンによるニッポン学びの海プラットフォームを立ち上げるということをメッセージとしていただきました。二〇二五年までに全ての市町村で海洋教育が実践されることを目指すというふうにうたわれています。
この同じ年に出したポリシーブリーフの三号ですけれども、我々のセンターで全国の小中学生五千人を対象に海洋リテラシーについて調査を行いましたところ、尖閣諸島の位置が分かる小中学生が三割、竹島や五島列島と間違えている学生が七割いて、尖閣諸島の場所、あるいはEEZの正しい理解、そういったことがいずれも三割程度。サンマはどれですかとか離岸流はどうして危ないんですかとか、そういった比較的身近な海の知識はあるんだけれども、一たび太平洋に入ると、エルニーニョや、サケがどこに回遊してきますかとか、あるいは太平洋の島の国の名前とか、そういったものは三割以下にとどまるという結果になりました。
そういったこともかなり強く訴えてきたんです、リテラシーがまだ十分でないということを我々センターとして訴えてきたわけですが、二〇一六年に、次の学習指導要領の改訂のときのパブリックコメントの中に、海洋国家である我が国の教育において、産業と経済を支える重要な役割を担っていること、さらに、グローバル化が進む中で、領土、国土に関しての理解を学習指導要領の中に盛り込みなさいということがパブリックコメントの中で出て、それを受けて二〇一七年に改訂された学習指導要領では海の記述が、これ検索してみたんですけれども、指導要領とその解説の中の海の記述が、その前の平成二十年度の指導要領に比べて一・五倍増えました。
そういう意味では、学習指導要領に海をもっと盛り込むというセンターの目標が半ば達成されたんですけれども、よく中身を見てみますと、増えたのは主に社会科における領土、領海に関わる記述で、これが繰り返し出てまいります。地理でも公民でも出てくる。それまでは北方領土については教えなさいということがあったんですけれども、竹島や尖閣についても領土であることをきちんと教えろということが繰り返し出てくる。ですから、この一・五倍のほとんどはこの領土の、領海の部分だったということです。理科の方はほとんど変わっていませんでした。
これを受けて、右の図にありますように、小中高の地理、社会科で、この日本のEEZを示す地図が必ず出てくるようになった。さらに、北方領土や沖ノ鳥島、南鳥島、与那国、それから尖閣、竹島についても必ず記述されるようになったんですけれども、余りにも、国土について知ることは、尖閣の位置が三割しか分からないという中できちんと教えることは大事なんだけれども、それだけにとどまってしまったなということで、より広い視野から我が国の領土、領海、EEZを位置付ける必要があるということをポリシーブリーフの四では述べました。
さらに、長いスパンで見ますと、戦後すぐは、特に理科の部分で、これは学習指導要領だけ、解説でなくて学習指導要領の本文だけですけれども、理科に海の記述が百二十七件あったんですけれども、一九六八年以降は激減してほぼゼロ。先ほどほとんど変わらないと言ったのは解説まで含めてで、指導要領本体の方には、現在理科には海の記述はほとんど出ていないような状況になっています。
それでは、次のページ、四ページ目。
世界の状況はどうかということですが、我々としては、国際的にはかなり、世界の国々で非常に海洋教育が盛んだから日本もやらなければという、そういうつもりで調査をしたんですけれども、割とそうでもなかった。米国や英国、中国では、それほど国家的な計画として海洋教育を振興している、そういったことはありませんでした。環境教育、科学教育の一環として盛んにもちろん行われてはいますけれども、国の計画、教育の指針として海洋教育というのは余り明確に位置付けられていませんでした。
そういった中で、お隣の台湾と韓国では、国家プロジェクトとして海洋教育を取り入れているということが分かりました。
台湾では、二〇〇七年に海洋教育政策白書、二〇一四年に国民基本教育指針において、教育課程の重要な四課題の一つとして海洋を位置付けて、これは、海洋産業の重要性と、海洋を通じて複数の能力を育むことができるという、そういう理念です。二〇一三年には台湾海洋教育センターというのを設立して、全国各地にこのセンターの支所を設けて海洋教育の実践を行っています。その内容についてはこちらの冊子にまとめてありますので、御覧ください。
さらに、韓国においても、教科学習の一主題として海洋教育を位置付ける。特に、海は未来資源の宝庫であり、先進海洋強国に跳躍するために必須条件であるということで国家海洋教育センターというのを最近設立して、国立海洋科学教育館というのも、二〇二〇年設立予定だったんですが、コロナで遅れているかもしれませんけれども、国として進めましょうということで、主に海洋水産省が中心になってやっております。
一方、中国は、皆様も御存じのとおり、海洋強国戦略の下で、海洋教育強化の必要性はうたわれているんですけれども、長期的、国家的な視野に立った海洋教育の計画はないようです。主に沿海の浙江省等で実践がされていて、その中では、海洋資源、海洋権益、海洋国防、海洋開発といったようなことが歴史と地理で主に教えられています。
アメリカでは、国全体、学習指導要領のようなものはなくて、州ごとに異なる教育を行っていますけれども、その中で幾つか沿岸の州ではかなり海洋教育を行っていますが、これは主に環境教育の一環、あるいは科学リテラシー、海洋リテラシーの教育として、科学教育として、水族館等の社会教育施設、NPOと連携して行われている事例が多いようです。
インドネシア、フィンランド、スウェーデン等も科学教育、環境教育の一環として行われている。
その中で、フランスですが、地理の中で、世界地図の中で今もフランスは、太平洋、ニューカレドニアですとか、インド洋のレユニオン、それからカリブ海にも海外領土を幾つも持っているわけですが、その中で非常に詳細に自国の海外領土について、そのEEZも含めて紹介を地理でしています。そういう意味では、日本の子供たちが我が国のEEZというのを一生懸命学んでいる間に、フランスの子供たちは世界地図の中で国の位置付けというのを知ることができるというわけです。
一方、ドイツも国家的な学習指導要領等はないんですけれども、非常に先進的に、特にドイツの地理学というのは、人間と自然の相互依存性というのをベースに、右下に、右にありますような、三次元構造の中で人間と環境との、自然との関係を考える。グローバルからローカルまで、さらに、左下は構造、機能、過程、プロセスですね。こういったシステムとして人間と自然の関係を取り扱うという地理学の伝統の中に海洋というのを位置付けて、未来空間としての海洋を干潟から地球温暖化まで扱う、そういった教育をしている州があります。
特に温暖化についてきちんと海洋教育の中に取り入れているのは、今のところドイツだけでした。台湾、韓国は、特に韓国は、どちらかというと産業としての海洋教育というような位置付けが強いように思います。私、地球温暖化を研究していますけれども、その中で驚いたのが、この下にある地理教育スタンダード最新版という中で、海面が上昇するとどういう対応があるかということで、この五番というのは、自然の地形、自然の生態系を活用して海面上昇に適応しようという、そういう考え方なんですね。これは日本ですと、どちらかというと護岸になってしまうんですが、非常に先進的な考え方だと思います。
こうしたことを踏まえて、我が国が目指す海洋教育としては、産業のため、あるいは領土、領海という、それももちろん、その二つももちろん大事なんですけれども、より根本的な、命のマトリックスとしての海、これ、このページは教育哲学の田中センター長が訴えているベースの部分になるんですけれども、母なる海、全ての生命の起源であり、多様な生物を育み、それに基づいてハビタビリティーをつくってくれている海、それも、人間だけでなくて、生命のハビタビリティーをつくり出している海、そういう視点がなければ駄目だろうというのが私どもセンターの基本的な考え方です。
ハビタビリティー、具体的に言いますと、気候の調節、今人間が排出した炭素の四分の一、熱の九割を海が吸収してくれています。ですから、海がなかったらもっと大変なことになってしまっていたわけですが、さらに、水産、海運、資源・エネルギー、環境浄化の場としての海の重要性というのも言うまでもありません。
一方で、津波や台風などの災害ももたらす。それが人間による破壊も進んでいて、気候の調節機能も現在上限に達していて、スーパー台風ですとか海洋酸性化、海面上昇などの問題が現在起こりつつあって、こういった問題は今の子供たちが大人になる頃にまさに顕在化する問題です。
こうした海洋の重要性を考えるとき、温暖化が危急のグローバルな課題である現在、人間と海洋の関係を再構成する必要が生じる。これまでの関係、自然との関係、海洋との関係は人間中心的で、海洋は主に人間が利用、管理するものという考え方だったんですけれども、それを共生的な関係、海を俺のものというふうに守るだけではなくて、公共財として、これはセンター長の言葉ですけれども、人間に贈られ、人間があずかるものという、そういうベースで海洋教育をつくろうというのが我々センターの目的です。
共生的な関係に基づいて、自然科学的な知見を踏まえつつ、それを子供たち一人一人がおのずから思考し、自ら活動することへいざなう教育をつくろう。これ実は日本古来の里山、里海という考え方にも示されていて、西洋的な管理という思想とは少し違うものになると思います。
これに基づいて、東京大学の海洋教育の三つの柱として、生命、環境、安全という三つの柱、さらに横軸にグローバル、社会経済、文化。グローバルは全てに掛かるんですが、そのたて糸とよこ糸の中に、生命の起源ですとか水産資源、食文化、海洋汚染、気候変動、観光、芸術、防災、領土、領海を位置付けました。もちろん重要な領土、領海や海洋産業もそのアイテムの一つではあるんですけれども、それだけでない海洋教育というのをつくっていこうということです。
五番目、実践例ですが、これは質疑のときにもし出てきましたら、個別に御紹介したいと思います。サケの遡上の問題、海ごみの問題、あるいは川と海の、森、川、海のつながり。それから、海のない海なし県や海のない地域での海洋教育をどうするのか。さらに、私がテーマとしているサンゴ礁での海洋教育。竹富町は日本で一番最初に海洋教育基本計画というのを立ててくれて、これに我々も深く関わっております。さらに、特別支援教育にも海洋、海が非常に重要である。
最後、我々として政府に求める支援、期待する政策としては、まず、とにかく国の機関として、ナショナルセンターとしての海洋教育センターを設立していただきたい。現在、財団、東大の努力でセンターを十年維持してきたわけですが、是非、国の機関として常勤の、先ほど特任と言いましたけれども、特任の研究員は全て一年契約です、来年はどうなるか分からない、常勤の海洋教育を専門とする研究者が、我々がつくった海洋教育の理念と構造に基づいてカリキュラム開発や実践、評価を確立し、全国の支援を行っていきたい。
それから、次の学習指導要領の改訂がもうすぐですけれども、それに今、今日申し上げたような領土、領海にとどまらない、より本質的な海洋教育を充実していただきたい。英数国社理に海洋というのが入ることはあり得ませんから、海洋教育というのは当然横断的にならざるを得ないわけですが、理科、社会をつなぐ、それに総合学習や美術なども、横軸をつなぐような、教科を横断するような海洋教育。
それから、日本は北から南まで非常に海洋の環境が異なっていますけれども、そのローカルからグローバルな課題に進むような、そういう海洋教育を是非とも次期の学習指導要領に入れていただきたいというふうに思っています。このグローバルな課題について最後に幾つかまとめてありますが、これも質疑の際にもし何かありましたら、御紹介したいと思います。
以上、少し時間超過しました。ありがとうございました。