首藤由紀の発言 (国土交通委員会)

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○参考人(首藤由紀君) 社会安全研究所の首藤と申します。本日は、このような場で意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 早速ですが、お手元に配っていただいております資料に基づいて、簡単に御説明させていただきたいと思います。
 最初のページの下半分に、簡単な自己紹介ということを載せさせていただきました。私は、大学時代に心理学を勉強いたしまして、それ以来ずっと事故や災害時の人の心理と行動ですとか、あるいは事故や災害をもたらす人のエラーの問題について調査研究をしてまいりました。災害心理学ですとかヒューマンファクターズというような、どちらかというと社会科学とか人間科学というソフトな領域を専門としております。
 また、私自身は決して研究者ではございませんで、ずっと民間のコンサルタントとして様々なお手伝いをさせていただいております。基本的には、災害対策の中でもソフト対策、例えば計画作りですとかマニュアル作りですとか、あるいは教育訓練ですとか啓発、さらには、近年では、災害時の人々あるいは市町村役場などの行政機関の対応を検証してその教訓を生かすというような、そのようなお仕事もさせていただいております。
 めくっていただきまして、スライドの三枚目ですけれども、そういった私のソフト対策を中心としてお手伝いをさせていただいている立場で、前提となる考え方というのをスライドの三枚目に書かせていただきました。
 人の心理や行動を研究してそれを生かすという立場ではございますが、その中でよく分かっていることは、人の行動というのは決して簡単には変えられないということでございます。人は、同じ条件下であっても常に同じ行動を取るわけではありません。あるときには適切に行動ができますけれども、違うときにはうっかりしたり、あるいは思い掛けないことで適切な行動が取れないということもございます。また、ある人が適切に行動ができても、ほかの人も同じようにできるというわけではございません。人の考え方や行動は多種多様でございまして、同じ対策も人によって効果が違うということが分かっております。
 ということから、人間に対する対策というのは、これを一つやっておけば万全だというものはございません。様々な対策をたくさん重ねることで、何とか人々がうまく行動できるように、命を守れるようにする、それが安全対策や防災対策の基本だというふうに考えております。
 その下のページに参りまして、そういった考え方から見まして、今回の改正法案、私の目から見たポイントを三点挙げさせていただきました。
 一点目は、リスクに関する情報がすごく増えて多様になるという点でございます。
 例えば中小河川のハザードマップ、これまで、なかなか作られてきませんでした。それを作って公表するということで、どこが危ないのかということが情報として人々に伝わることになります。また、浸水被害防止区域ということを指定されて、そこに制限を掛けるということで、極めて危ないところがどこなのかということが人々にメッセージとして伝わるというふうに思っております。また、下水道の計画で目標降雨を設定するという記述も拝見いたしました。これも、この地域の下水道はここまでしか対応できないんだというような意味で、リスクに関する情報の一つになるというふうに考えられます。
 ほかにも様々あると思いますが、こういったリスクに関する情報が増えることで、人々が適切に判断して、例えば避難行動を取るですとか危険なところに家を建てないというような行動に役立つのではないかというふうに考えられます。
 それから二点目は、要配慮者利用施設に対して市町村が助言や勧告をするということが明記されるという点です。
 これによって、要配慮者利用施設、避難計画を作って訓練をするということが、より実効性が高まるのではないかということが期待されます。
 それから三点目ですが、浸水被害防止区域で開発の制限が掛けられるということも拝見して理解いたしました。
 これは、非常に直接的に危険な場所に住む人が減らせるのではないか、特に要配慮の方などがそこの地域にお住まいになることを減らせるのではないかというふうに考えることができます。
 そういった意味で非常に大きな期待がある法案ではあると思いますけれども、私の目から見ても、それほど簡単ではないという意味で、課題もあるなというふうに感じました。次のページを御覧ください。
 上の、スライドの五枚目が、まずポイントの一つ目、リスク情報が増えることについての課題でございます。
 大きく二点ございまして、一つは、非常に似たような名前の情報がたくさんあって、素人には全くもって分かりにくいということでございます。
 そこに楕円形でお書きしているのが、今回いただいた資料で関連する様々な区域の名称でございます。専門的にはそれぞれの意味は違いますし、法律等では厳密に区別する意味でこういった形で様々な名前を付けることはやむを得ないとは理解しておりますけれども、このままでは、恐らく一般の方々には全く伝わらないというふうに思います。ですので、呼び方の工夫など、実際に多くの方に理解していただくために様々な工夫が必要であるというふうに考えます。
 それから二点目は、作った情報は、あるだけでは多くの人には行き渡らないというものでございます。
 例えばハザードマップでございますが、近年様々なものが作られて、重ねるハザードマップという形で、一つのサイトを見るといろいろなハザードマップの情報が見られるというところまでようやく最近来てまいりました。しかしながら、そういったものも、見に行く人が見られる情報でございまして、元々関心がない方々が得られる情報にはなっておりません。我々災害情報の世界ではプッシュ型情報と申しますが、見に行く人が得るのではなくて、待っている人に押し付ける形で情報を与える、そのような工夫が様々される必要があると思います。
 これは実際には実現可能かどうか分かりませんが、例えば、スマートフォンで地図を見るときに、必ずそこにハザードが重なっているですとか、そういった形で、多くの人が意識的に見に行かなくてもその情報が目に入る、耳に入る、そういった情報提供の仕方を工夫していく必要があると思います。
 それから二点目の、市町村による助言、勧告についての課題でございます。
 こちらに、市町村による対策のステップというふうにお書きしました。現在、こういった形で要配慮者利用施設を指定して避難計画を作っていただいて訓練をするというのは、今回の法改正の対象である水防法と土砂法以外にも、例えば活火山法でも実施されております。基本的には、まず最初に、市町村が法律に基づいて施設の指定をして地域防災計画に記載する、記載された要配慮者施設の所有者、管理者が避難確保計画を作って市町村に報告する、次いで三番目のステップとして、その施設で計画に基づく訓練を実施する、ここで市町村へ報告するということと、その次の四番目の段階、市町村が必要な助言、勧告を行う、この赤字のところが今回の法改正で水防法、土砂法で追加になった、このような部分でございます。
 しかしながら、私自身は、水防法、土砂法の方には詳しくないんですが、活火山法の方で実際のこの要配慮者施設の指定ですとか避難確保計画の作成などをお手伝いしているんですけれども、現実には、市町村が施設を指定すること自体が決して容易ではございません。施設の方に避難確保計画の作成を義務化して訓練を義務化する、そういった大きな負担を掛けることから、市町村の現場では、施設の方に十分に説明をして、よく理解をしていただいた上で施設の指定をしております。そのため、決して今の現時点で必要な施設指定は一〇〇%は進んでいない、もちろん、努力をされることによって徐々には進んできておりますけれども、決して第一ステップですら容易ではないということでございます。
 ましてや、避難確保計画の報告を受けて、それが適切であるかですとか、訓練の報告を受けて、その訓練で本当に実効性が上がるのか、そういったことまで市町村の限られた人数の、決して専門家でない職員がきちんとできるのかというと、それは容易ではないということを是非皆様に御理解いただきたいと思っております。市町村への専門的な支援ですとか人的支援が不可欠だというふうに私は考えます。
 最後のページを御覧ください。三点目の、開発の制限に関する課題でございます。
 これは、ちょっと課題というのは言い過ぎかもしれませんけれども、私がこれまでいろいろと調査研究をする中で拝見したり伺ったりした人々の暮らし方として、リスクを理解して、それを受容した暮らし方もあるというふうに考えております。
 例えば、三陸地方の沿岸で、東日本大震災の津波より以前に伺ったところで、海岸堤防より海側におうちを構えていらっしゃる方々がいらっしゃいました。その方にお話を伺うと、津波が来ることは分かっているので、もう車に最低限のものを積んでいて、地震があったらすぐ車で逃げるようにしていると、家はもし津波が来たら壊れても仕方がないけれども、命だけは助かるようにしているというふうにおっしゃっている方がいらっしゃいました。また、洪水常襲地域で軒先に小舟を用意して住まわれている方もいるということも伺っております。
 もちろん、危険な地域に住まないということは対策の一つではありますけれども、このように、リスクを理解して受け入れながら、それでもあるメリットを享受して上手に住むということもあると思います。ですので、住まないようにするという法律で制限を掛けると同時に、もしお住まいになるのであればこのようにしてほしい、このようにしませんかという形で、上手な住まい方の提案も併せて推進していただければというふうに考えております。
 最後のページは、今申し上げたことのまとめでございます。
 この法律の改正によって、浸水被害の防止や軽減はより一層進むというふうに期待されております。ただ、推進に当たっては少し工夫を考えていただきたいということで、三点の視点が重要だというふうに申し上げました。一つ目は、人々が本来持っている心理的傾向ですとか行動特性に配慮して、うまく情報提供をしていただきたいということ、それから二点目は、市町村や要配慮者利用施設などの現場の実情に応じて適切な支援を行っていただきたいということ、そして三点目が、リスクと共生する災害文化を醸成するということも併せて推進していただきたいということでございます。
 以上で私の意見を終わります。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 首藤由紀

speaker_id: 25829

日付: 2021-04-20

院: 参議院

会議名: 国土交通委員会