吉原祥子の発言 (内閣委員会)

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○参考人(吉原祥子君) 本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。公益財団法人東京財団政策研究所の吉原と申します。
 東京財団は民間の政策シンクタンクで、私は、その中で日本の土地制度の課題について調査を行ってまいりました。また、昨年開催された国土利用の実態把握等に関する有識者会議に参加させていただきました。
 今日は、これまでの土地制度に関する調査の経験を踏まえながら、この度の法案の必要性と課題について所見を申し述べます。お手元にA4二ページの資料を配付させていただきましたので、御覧いただければ幸いです。
 私ども東京財団が土地問題に着目するきっかけとなったのが外資の森林買収でした。十年以上前になりますが、北海道を中心に外国資本が日本の森林を買っているという関係者からの問題提起があり、実態調査のための研究プロジェクトを開始しました。そこから見えてきたのは、実は我が国ではそもそも土地の所有や利用の実態を行政が十分に把握し切れていないという土地制度そのものの課題でした。それは言い換えれば、急速な社会の変化に対して既存の制度では対応し切れない部分があるということでもありました。
 社会の変化というのは、申し上げるまでもありませんが、まず人口減少、高齢化があります。それに伴い、空き家、空き地が増加しています。その一方で、経済活動はグローバル化し、不動産も国際的な投資対象になっています。そして、相続によって都会に住む子供世代が田舎の土地の所有者になったり、海外の投資家が日本の不動産を所有するなど、地域からは顔が見えづらい不在地主も増えています。東京都主税局によると、東京二十三区では、国外に住所を有する固定資産税の納税義務者は二〇一三年から二〇一九年の六年間で八倍に増加しているとのデータもあります。
 他方、こうした急速な社会の変化に対して、従来の土地政策は、明治以来、人口の増加や、土地は有利な資産という考えを前提に、国内市場における地価高騰や乱開発などの行き過ぎを抑制することが主眼でした。個人の所有権に関わる課題については踏み込んだ検討が行われてきたとは言えず、安全保障上の土地政策もほとんど講じられてきませんでした。
 従来の土地制度の特徴を具体的に見てみますと、まず、土地に関する情報基盤の在り方として、不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳など、目的別に様々な台帳が作成されています。しかし、それらの情報を一元的に把握できる仕組みはありません。行政が持っている台帳のうち、主な所有者情報源となっているのが不動産登記簿です。しかし、権利の登記は任意であり、登記後に所有者が転居した場合でも住所変更の通知義務はありません。
 なお、後ほど述べますが、この点については今国会で法改正が行われ、相続登記が義務化されたところです。
 また、土地所有者の探索においては住民票や戸籍が大きな情報源になりますが、土地が所在する自治体に住民票を置いていない不在地主や国外に在住する非居住者については、そうした住民票や戸籍といった基礎情報がなく、不動産登記が行われていなければ所有者探索は極めて困難になります。
 次に、規制の在り方ですが、個人の所有権は諸外国に比べて極めて強いという特徴があります。例えば土地の売買について、農地以外は売買規制はありません。たとえその土地が安全保障上重要な国境離島や防衛施設の隣接地であっても、売主と買主の合意だけで取引は成立し、購入者も問いません。売買の不動産登記は任意であり、登記をしないことも自由です。
 土地の利用規制については、農地法や森林法など、個別の法律で一定のルールは定められています。しかし、農地の違反転用や森林の再造林放棄が事実上、現状追認されているケースが少なくないなど、実質的な効力については課題も多いと言われています。
 こうした現在の土地制度が抱える課題が具体的な事象となって表面化したのが、近年、社会的な関心の高まった所有者不明土地問題であり、また安全保障上の懸念であると考えます。
 所有者不明土地問題とは、不動産登記簿などの台帳を見ても現在の所有者が直ちには分からないという問題です。そして、安全保障上の懸念というのは、土地利用の実態を把握するための法的根拠が十分でなく、万一の際に対応できる備えがないという問題です。いずれも構造的な課題であり、市場、マーケットに任せているだけでは解決が難しい問題です。
 土地は個人の財産であるとともに、我々の暮らしの土台であり、経済活動の基盤であり、そして国土です。土地は我々自身がつくり出せるものではなく、次の利用者や次の世代に適切に引き継いでいく必要がある財です。土地が持つそうした公共的な性質に鑑みると、社会の変化に応じて制度の見直しを行うことは必要であると考えます。
 それでは、こうした現状の課題について、近年どのような政策対応が取られてきたのでしょうか。
 資料の二ページを御覧ください。
 所有者不明土地問題については、問題の発生防止や土地の適正な利用と管理、相続による権利の承継の円滑化に向け、近年、土地制度と民事基本法制の両面から抜本的な改正が行われました。
 まず、二〇一八年六月には、所有者不明土地を公共的な目的のために利用可能とする特別措置法が成立しました。昨年三月には、約三十年ぶりに土地基本法が改正されました。そこでは、災害の予防、復興など、持続可能な地域の形成を図る観点から、土地の適正な管理の必要性が明示され、また、土地所有者の責務として、登記など権利関係の明確化と土地の境界の明確化に努めることが新たに規定されました。そして、今国会において、この四月に民法、不動産登記法の改正が成立し、相続登記や住所変更登記が義務化されたところです。
 他方、安全保障上の懸念への対応については、二〇一〇年に北海道の調査により道内における海外資本等の林地取得状況が判明して以来、林野庁による毎年の調査の結果の公表や旧民主党ワーキンググループによる議論などが重ねられてきました。いまだ法律の制定には至っていませんでしたが、この度の法案はまさにこうした積み重ねの上に形になったものと理解しております。
 今後、安全保障をめぐる国際情勢は緊迫度を増していくと考えられます。と同時に、人口減少が進む中、地域の活性化のためには多様な人材や優良な投資を国内外から呼び込むことは必須です。この度の法案は、そうした自由な経済活動を前提として、内外無差別の原則に立ち、国民の安全を守る観点から、土地の利用実態の基本的な調査と万一の際の利用規制を定めるものであり、これまでの日本の土地制度に欠けていた重要な法案であると考えます。
 そして、こうした新しい法律の運用に当たっては、国民への分かりやすい説明が必須であることは言うまでもありません。今後、基本方針の策定や注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、これまで内閣委員会の御議論で度々御指摘があったように、国会への報告や国民への十分な説明と情報開示が必須であると考えます。そして、その過程において、国にとって守るべき場所や事柄は何か、また、どのような方法が適切かということについて議論が更に深まっていくことが期待されます。
 今後、技術の進歩によって安全保障上のリスクは更に多様化すると考えられます。そうした様々なリスクに対応する万能薬はありません。今後は、今回の法案を含め、様々な法制度が相互に補完し合いながら、過度な規制が行われることのないよう、また、法の抜け穴が生じないよう、制度全体を見渡したバランスの取れた議論が必要であると考えます。是非、この度の法案が成立し、国民への十分な情報開示を行いながら適切に運用されることを心より願っております。
 以上が所見でございます。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 吉原祥子

speaker_id: 32992

日付: 2021-06-14

院: 参議院

会議名: 内閣委員会