馬奈木厳太郎の発言 (内閣委員会)
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○参考人(馬奈木厳太郎君) 東京合同法律事務所に所属している弁護士の馬奈木と申します。貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
私は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟という、原発事故の被害者が国と東京電力を被告に原状回復と被害救済を求めた裁判に関わっています。また、沖縄の問題にも様々な形で関わってきました。そうしたことから、沖縄や原発も含め、これまで余り議論されていない論点を中心に意見を述べたいと思います。
本論に入る前に、法案に対する私の印象を述べておきます。
この法案は、大体において四つの言葉から成り立っています。内閣総理大臣、等、その他、できる、であります。例えば、内閣総理大臣は、○○等について、○○その他の○○に対して、○○することができるといった感じです。等やその他という幅を持たせる表現が多いです。何より、内閣総理大臣という主語が圧倒的に多い。二十八か条の条文の中に何と三十三回も出てきます。その結果、この法案は、国民の権利を保障するものではなく、政府に権限を与える行政命令のような内容になっています。言わば、内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案という印象を抱かざるを得ません。
もう一点、私は、安全保障論の専門家ではなく、法律が適用される現場に携わっている者です。そうした実務家の立場からは、この法案は一読して、現場の人や当事者の意見を聞かないまま、そうした形で作られた法案だなというふうに感じました。
以下、四点にわたってお話しさせていただきます。
まず、区域指定による影響と弊害についてです。
注視区域については検討中とのことですが、特別注視区域に指定されると重要事項説明義務が生ずるとされています。売買などの契約に先立って、宅地建物取引士の方が説明をすることになりますけれども、これは書面に特別注視区域に指定されていると一行書けばいいというものではありません。根拠法令を資料に付けた上で、こんな会話が展開されることになるかもしれません。
この土地は土地利用規制法に基づく特別注視区域に指定されています。
それってどんな法律ですか。
国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする法律でして、土地等の利用実態を調査することになります。
何のために調査するのですか。
重要施設に対する機能阻害行為を防止するためです。
何かリスクがあるのですか。
リスクのあるなしも含めて調査します。
調査内容はどんなことですか。
氏名や住所その他政令で定めるものですが、なお必要があると認められるときは、土地等の利用に関して資料の提出や報告を求められることがあります。
誰が調査対象者なのですか。
利用者その他の関係者となりますが、利用者の定義はありますが、その他の関係者の定義はありません。
いつ調査されるのですか。
権利変動の際といった限定がないので、恒常的に調査される可能性があります。
調査されるときは何かお知らせがあるのですか。
そのような規定は設けられていません。
どんな手法の調査なのですか。
手のうちは明かせません。
周りの人にも聞くのですか。
第三者からの情報提供の仕組みも検討中です。
機能阻害というのは。
閣議決定において例示されますが、一概には申せません。でも、勧告を受けたら分かりますから、大丈夫です。
冗談のように聞こえるかもしれませんが、これは政府答弁です。実際にこんなやり取りをしたら、皆さんは買いたい、借りたいと思いますか。
政府は、不動産に与える影響は少ないと根拠もなく述べていますが、そんなに甘くはないはずです。当事者の立場で想像してみてください。自分が調査されるかもしれない、規制が掛かるかもしれない、そうしたところをわざわざ購入しますか。
しかも、この法案は、政府の説明では安全保障上のリスクがあるから法整備しようという話なわけで、区域指定されるとその地域はリスクがあるというふうに一般には受け止められるのではないですか。さらに、五年後には見直しもあり得るわけで、そうすると更に規制が増えるかもしれない。一キロだって一キロのままではないかもしれない。区域指定された地域にとっては大打撃です。どの程度のリスクかもはっきりしないところで、これは官製風評と言わなければなりません。
政府は地元から不安の声が上がっていると言いますが、地元の人も、いやいや、こんな内容は望んでいないよとおっしゃるのではないですか。区域指定されることが当該地域に与える効果や影響について、法案もそうですが、これまでの質疑でも現場感覚を伴ったやり取りがなされたとは到底思えません。実際に区域指定をする段になると、この内容のままではその地域から猛反発を食らうはずです。リスク、リスクと、あるかないか分からないものを見ようとしていますが、現場のリアリティーは見えていないようです。
次に、これまで余り議論されていない原発について述べたいと思います。
生活関連施設として原発が検討されていますが、なぜ原発が対象になるのか理由が全く明らかにされていません。政府は、新規制基準を世界で一番厳しい基準だと豪語しています。新規制基準にはテロ対策も含まれていますから、世界で一番安全なはずです。まさか政府は新規制基準では足りないと考えているのですか。
それから、原発の関係で機能阻害行為とは一体何を想定しているのですか。この法案では、機能阻害というのは施設の外から人為的にもたらされる被害、そういったものが想定されているようですが、原発については施設の中から被害はもたらされています。被害者は、施設の中の事業者や、事業者を監督する国ではありません。周辺住民が被害者なのです。
原発によって阻害されるのは、ふるさとや地域との結び付きという機能であり、日常の生活やなりわいという機能です。そこを間違えないでいただきたい。
住民を潜在的な脅威とみなすような考えは、事故を起こした当事者である国として、厳に戒められるべきです。原発に対する阻害を恐れるのであれば、その答えは、住民を調査対象にすることではなく、原発をやめることです。
もう一つ、ほとんど議論されていない二十二条と二十三条について述べます。
二十二条は、内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、資料の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができるとなっています。似た表現が七条にもありますが、こちらは土地等の利用実態の調査なのに対して、二十二条にはそうした限定はなく、この法律の目的を達成するためその他の協力を求めることができるとあります。この法律の目的とは、国民生活の基盤の維持とか我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与するというもので、広範で大ざっぱなものになっています。その他の協力というのも限定がありません。内閣総理大臣に包括的な権限が与えられています。
例えば、基地のゲート前で座込みや集会を開き、道路やその付近に工作物などを設置している場合、それが安全保障上の観点から適当ではないとされれば道路の管理者に撤去などを求めることがこの二十二条によってできるようになるのではないですか。あるいは、都道府県の労働委員会はその他の執行機関に含まれますが、労働委員会は労働組合の組合員に関する情報を保有しています。こういった土地の利用実態には関わらない情報についても、目的を達するために必要だと言えば提供を求めることができるようになるのではないですか。
二十二条からは、残念ながら、地方自治の本旨といった考えはうかがえません。政府と地方公共団体は法的に対等なはずですが、まるで内閣総理大臣の下請機関のような扱いになっています。
それから、二十三条は、国が適切な管理を行う必要があると認められるものについて、買取りその他の必要な措置を講ずるよう努めるとあります。これは端的に言って、土地収用法を潜脱した形で、事実上の強制収用につながるのではないですか。
努めるとありますが、政府は何を行うのですか。買取りを申し出ること自体、所有者には圧力となる場合があります。例えば、石垣島では自衛隊の基地建設が進行していますが、周辺で建設反対の立場を示している所有者に政府が買取りを申し出ることはないですか。
土地収用法は、防衛に関わるものを収用や使用ができる事業には含めていません。それは、さきの大戦に対する反省があるからです。戦後作られ、長年にわたり守られてきた原則を、衆参を通じても僅か二十時間程度の審議で、しかもこの論点については全くと言うほど議論が交わされていないにもかかわらず、こうした原則を覆すようなことがあってはなりません。
四点目は、この法案が触れていない点についてであります。
法案では、止められる人や止められる機関がありません。事後的に検証できる制度も設けられていません。その意味で、この法案は公正とは言えません。
どのような調査が、誰に対して、どんな手法で、いかなる協力を求めているのか、何を機能阻害行為と判断しているのか、そういった事柄を第三者がチェックし、場合によっては止めるといった手段が必要なのではないでしょうか。
法案は、閣議決定で定める、政令で定める、府令で定める、必要があると認めるとき、こういった文言のオンパレードになっています。国会の関与もなく、独立した第三者機関の関与もなく、調査対象者に調査の事実を告げるわけでもありません。
この法案は、全幅の信頼を政府に寄せる、そういったことを国民に求めています。しかし、立憲主義の大原則は、権力は暴走することがあるというものです。ですから、主権者である国民は、権力を監視し、チェックしなければならないのです。法案は、政府が国民を調査し、監視できるかのような内容になっており、完全に転倒しています。そして、それを止めるすべを持たないのです。第三条は、個人情報の保護に十分配慮しつつとか、必要な最小限度のものとなるようにしなければならないなどとありますが、その制度的な担保はないのであります。少なくとも、止める手だてが法案自体に組み込まれていなければ最小限度とは言えません。
最後に、一九九五年九月まで沖縄の歴史や現実を知らなかった一人の日本人として、やはり沖縄について触れないわけにはいきません。
法案によれば、沖縄県内の人が住んでいる島は沖縄島も含めて全てが国境離島等に含まれており、国境離島等の場合には一キロの制限なく区域指定できることから、その気になれば沖縄県全域を区域指定することができます。つまり、沖縄県民を丸ごと調査対象にすることができるということです。安全保障の名目で県民を監視下に置くかのような発想は、まるで戦前のようであります。
昨年、沖縄県の恩納村にある、ある組織の沖縄研修道場を見学させていただく機会がありました。かつて中国に向けた核ミサイル、メースBの跡地に造られた道場は、基地の跡は永遠に残そう、人類はかつて戦争という愚かなことをしたのだという一つのあかしとしてという考えから、平和記念資料館として整備されています。また、そこには青年部、未来部が編集した都道府県ごとの戦争体験の証言集も置いてあり、戦争体験のつらさや悲惨さとともに、軍が住民をスパイ扱いした事実なども語られていました。資料館では、中国や韓国を始め各国との交流も展示してあり、外国の人々について、友と記されてありました。平和の文化の構築に向けた取組や戦争証言集の刊行など、私は大変深い感銘を受けました。
そうした戦争の教訓も踏まえたとき、地域住民を調査対象とし、監視下に置くようなやり方は、本当に正しいものなのでしょうか。証言者の方や証言集作りに関わった先達に対して胸を張ることができますか。そして、友と呼んだ外国の人たちは、この法案を読んだらどういう気持ちになるでしょうか。
沖縄は、長年基地被害に苦しんできました。つい先日も米軍の不時着があり、有機フッ素化合物による被害も出ています。ある学校では、米軍機が飛来すると校庭の生徒が避難しなければならない、そういった日常にあります。政府は、口を開けば負担軽減と言います。しかし、この法案は全く負担軽減にはなりません。その逆です。
この法案が成立すると、最も影響を受けるのは間違いなく沖縄です。沖縄の人々は、選挙権が停止されていたため、日本国憲法の制定に制度的には関わることができませんでした。米軍統治の下、銃剣とブルドーザーで土地を収用されながらも、サンマ裁判と呼ばれるような闘いも経て、民主主義や自治を粘り強く獲得してきました。
沖縄の民意や自治をまた踏みにじるのですか。そんなことが許されていいのですか。私は恥ずかしさと悔しさでいっぱいであります。
こんな政府丸投げ法案を成立させるようであれば、国会は何のためにあるのかという話になると思います。まだ間に合います。一旦法案を取り下げませんか。
この法案は、複数の考え方を無理に一つにしたことに問題の原因があります。その問題は、機能という言葉に象徴され、調査という言葉の意味を分裂させています。すなわち、国境離島の実態調査に問題意識がある人と、防衛施設の機能確保に問題意識のある人がいて、さらには原発もという欲張りな人が加わって、無理やり合体させたのがこの法案です。国境周辺の離島の実態調査と、都市部も含む防衛施設周辺の実態調査とではまるで意味が違います。そこを機能という言葉で無理につなぎ、軍事的合理性だけで突っ走ったから、本当にひどい法案になっています。皆さんも本当は分かっていらっしゃるのではないでしょうか。
急がないといけない事情はないはずです。しかも、安全保障に関わるのであれば、より多くの人の納得と合意の下、進められるべきです。良識の府である参議院の役割を是非発揮していただきたいというふうに考えます。
ありがとうございました。