橋爪隆の発言 (法務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(橋爪隆君) おはようございます。
 ただいま御紹介いただきました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。本日は、このように参考人として意見陳述をする機会をいただきまして、大変光栄に存じております。
 私は、法制審議会少年法・刑事法部会の委員として、少年法改正をめぐる審議に参加いたしました。本日は、部会における議論を踏まえて、若干の意見を申し上げたいと存じます。A4で一枚、表裏の資料をお配りしておりますので、それに即して進めてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 まずは、前提といたしまして、今回の少年法改正の概要について確認しておきたいと存じます。
 まず、十八歳、十九歳の者、すなわち、公職選挙法の改正によって選挙権が認められ、また民法改正によって民法上の成年となり親権者の監護教育を離れた者についても少年法の適用を肯定すべきかが問題となりますが、改正法では、少年法の適用年齢を引き下げず、十八歳、十九歳の者も少年法の適用対象としつつも、特定少年という新たな類型を設けて、その取扱いに関する特例を規定しております。
 具体的には、①ですけれども、特定少年、すなわち十八歳以上の少年の保護事件についても、全件を家庭裁判所に送致する全件送致主義を維持した上で、原則として家庭裁判所から検察官に送致すべき事件、いわゆる原則逆送事件の範囲を拡大しております。すなわち、現行法二十条二項によれば、犯行時十六歳以上の者が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件は原則として検察官送致をするとされておりますが、改正法案六十二条二項では、これに加えて、死刑、無期又は短期一年以上の懲役、禁錮に当たる罪の事件であり、行為当時、行為者が十八歳以上であった場合を原則逆送事件の対象としております。これによって、強盗罪、強制性交等罪、現住建造物等放火罪等の犯罪も原則逆送事件となります。
 ②番ですが、検察官送致された事件、場合も、少年の刑事事件については特別な取扱いをする規定がございますが、特定少年については、これらの特例の適用が原則的に排除されております。例えば、少年について、有期の懲役、禁錮を科す場合には、刑の長期と短期を言い渡し、その範囲で刑を執行する、いわゆる不定期刑の制度がございますが、特定少年にはこれが適用されません。
 さらに、少年が家庭裁判所で保護処分を受ける場合にも、特定少年については、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲を上限として保護処分に付されます。これは、保護処分について、いわゆる責任主義、すなわち犯罪行為の際の行為責任を上限として処分を課すべきという原則が妥当することを意味します。これによって、虞犯少年は、将来犯罪を犯す危険性があるとはいえ、既に犯罪を犯したわけではなく、行為責任を負うものではないことから、特定少年に関する保護処分の対象からは除外されております。
 最後に、少年事件に関する推知報道を禁止する少年法六十一条につきましても、特定少年のときに犯した事件について公判請求が行われた場合にはこれを適用しない旨の規定が設けられております。
 このような改正法の概要につきまして、以下、意見を申し上げます。
 今回の法改正の契機は、御承知のとおり、公職選挙法及び民法の改正を契機とするものであり、十八歳、十九歳の少年の行動や、その実態の変化に基づくものではございません。したがいまして、十八歳、十九歳の者が生物学的にも社会的にも成長過程にある未成熟な存在であること、そして、万が一非行に走った場合にも、再犯防止、健全育成の可能性を十分に尊重し、重点的な働きかけが必要である点につきましては、一切変わりはございません。また、民法や公職選挙法の年齢要件が改正されましても、年齢要件は個別の法律の趣旨に従って検討すべきでありますので、少年法の適用年齢を直ちに引き下げることが必然というわけではありません。
 しかし、民法や公職選挙法の改正の趣旨が一定の範囲で少年法の適用可能性に影響を有することも事実です。すなわち、民法改正によって、十八歳以上の者は親権者の監護教育に服さず、自律的な意思決定が可能な主体として扱われております。このことは少年法の保護処分の在り方にも大きな影響がございます。
 と申しますのは、現行法の保護処分は、少年が犯罪等の問題行動に出た場合には、親権者の監護教育が十分に機能していないと評価して、言わば国家が親代わりとなって後見的、補充的に少年に介入し少年を保護する制度として理解されております。しかしながら、民法の改正によって、十八歳、十九歳の者は親権者の監護教育を離れます。したがいまして、国家が親代わりに介入するという発想はその前提を失ったと言えます。すなわち、十八歳、十九歳の者についてその健全育成を支援する必要があるとしても、従来の少年法の保護処分と全く同じ原理原則で対応することは民法の改正によって困難になったと言わざるを得ません。
 また、公職選挙法の改正も、十八歳、十九歳の者が国政に参加する主体として責任ある立場で社会に参加することを要求するものと言えますので、論理必然的ではありませんが、これらの者が犯罪を犯した場合にも、社会的な期待の変化を一定の範囲で刑事司法制度に反映させる必要があると言えます。
 このように、十八歳、十九歳は、未成熟で可塑性に富んでおり、重点的な働きかけが必要であるという意味においては二十歳以上の者と区別されるとともに、他方において、今回の民法、公職選挙法の改正によって、後見的、補充的な観点からの権利制約を正当化することが困難であり、自らの行為責任に対応した処分を受けるべき主体になったという意味において、十八歳未満の者とも区別される存在になったと言えます。このような意味において、十八歳、十九歳の者には中間層、中間類型としての評価を与える必要があります。
 そして、このような中間層、中間類型については、少年法の適用対象にとどめた上で一般の少年と区別した特例を設けるのか、あるいは、少年法の適用年齢を引き下げた上で十八歳、十九歳を対象とした新たな特別法を設けるか、二つの選択肢があり得るところであり、今回の改正法案は前者の方向性を選択したものと言えます。私個人は、十八歳、十九歳の者に対しては、後見的、保護的な介入が困難であることに鑑みれば、むしろ後者の方向性を選択し、少年法の適用年齢を引き下げた方が理論的には明快だと考えておりました。ただ、仮に少年法の適用年齢を引き下げたとしましても、十八歳、十九歳が未成熟であり、特別な対応が必要である以上、やはり家庭裁判所の人的資源やノウハウの蓄積を活用して、改善更生、再犯防止に向けられた必要な処遇を効果的に実施することが必要となりますので、仮に特別法を設ける場合でも、その手続や処分の内容については大幅に少年法の規定を準用する必要が生じますので、条文の規定形式がかなり複雑になります。
 このような意味においては、十八歳、十九歳の者を少年法の適用対象として、少年審判手続の対象であることを明示しながら、保護処分の内容や刑事責任の在り方については一般の少年とは違った特例を設けるという改正法の方向性は、立法政策として一定の合理性があるものと評価できます。
 裏面に参りますが、以上の評価を前提に、特定少年に関する特例の内容について若干の意見を申し上げたいと存じます。
 まずは、原則逆送事件の拡大です。原則逆送事件については、保護処分よりも刑事処分を優先するようなことになりますので、少年法における原則と例外が逆転します。このように、刑事処分を原則とすべきかの判断は、その主体が刑事責任を負うべき法的地位にあるか否かによって変わってくると思われます。論理必然ではありませんが、十八歳、十九歳に対する法的評価の変更に伴い原則逆送事件の範囲を拡張することは、十分にあり得る政策判断であると思われます。
 この点につきましては、改正法案では、強盗罪や放火罪等も原則逆送の対象となるが、これらの犯罪の中には必ずしも悪質とは言えないような行為も含まれており、これを検察官送致の対象とすることは適当ではないという批判があるところです。もっとも、強盗罪も現住建造物等放火罪も、いずれも人の生命、身体に対する危険性をはらむ重大な犯罪でございます。また、改正法案は、これらの事件を全て検察官送致する義務を課しているわけではなく、改正法案六十二条二項ただし書において例外が設けられております。例えば、強盗事件につきましても、被害の軽微性等を考慮して検察官送致を行わない決定は十分に可能でございます。
 さらに、十八歳、十九歳の者に対する法的評価の変更は刑事事件に関する特例の適用の排除にも反映されております。これも論理必然ではありませんが、特定少年に対する法的評価や社会的な期待の変更に伴い、一定の重大事件を犯し、刑事処分を受けるべき場合についてまで少年の健全育成を重視した特別な取扱いを維持することは困難であるという価値判断が示されたものと言えます。
 他方、家庭裁判所において、少年に、少年を保護処分に付す場合にも、特定少年に対する保護処分は行為責任が上限となることが明確に示されており、一般の少年の保護事件とはその根拠が変わっております。現在、現行法の少年法の保護処分は、少年の要保護性、すなわち少年に再犯を犯す危険性があり、保護処分によって矯正可能性があることを根拠に課されております。したがいまして、極端な例ではありますけれども、極めて軽微な犯罪であっても、本人の犯罪性が根深く、長期間の矯正教育によって初めて矯正可能であるという場合については、少年院に収容することも可能であります。これは、国家が親権者の代わりに後見的、補充的に介入するという保護処分の性質から導かれる帰結と言えます。
 しかし、民法改正によって、特定少年は親権者の監護教育に服していないわけですので、国家による後見的介入を正当化することは困難であります。したがって、特定少年に対する保護処分は、刑罰と同様、行為責任によって上限を画した上で、その範囲内で少年の要保護性を考慮して決定すべきとなります。特定少年に対する保護処分も、再犯防止、健全育成を目的とする点については変わりありませんが、責任主義と両立する限度でこれらの目的が追求されているわけです。これは、十八歳、十九歳の者の法的地位の変更の必然的な帰結と言うべきです。
 最後に、推知報道の禁止の解除でございます。
 推知報道の禁止は、少年の社会復帰を支援する目的で報道の自由を例外的に制限するものであり、少年の社会復帰、健全育成が報道の自由よりも優先されるべきであるという価値観を前提として正当化されます。そして、十八歳、十九歳の者に対する法的評価や社会的な期待の変化に伴い、重大な刑事事件については、こういった価値観が後退するとして、推知報道禁止の解除を正当化することも可能であろうと考えます。
 この点につきましては、少年法五十五条によって家庭裁判所移送決定の可能性があることから、事後的には保護処分の対象となる少年について推知報道を認める可能性があり、問題があるという批判がございます。もっとも、家庭裁判所によって検察官送致決定が行われ、さらに検察官によって公判請求がなされた事件は、言わば二重のフィルターによって選別が行われておりますので、終局処分の確定いかんにかかわらず、この段階で推知報道の禁止を解除することにも一定の合理性があるように思われます。
 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。

発言情報

speech_id: 120415206X01120210506_003

発言者: 橋爪隆

speaker_id: 32582

日付: 2021-05-06

院: 参議院

会議名: 法務委員会