山口彰の発言 (原子力問題調査特別委員会)
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○山口参考人 皆様、おはようございます。原子力安全研究協会の山口でございます。
本日は、原子力問題調査特別委員会におきましてこういう発言の場を与えていただき、大変光栄に存じます。
これから、十五分という時間をいただきましたので、私の考えを述べさせていただきたいと思います。
お手元に資料をお配りしてございます。タイトルに、原子力規制行政の在り方についての意見ということで書いてございます。
まず、原子力規制というのはとても難しいことであるということを申し上げたいと思います。上の方に四角で囲ってありますように、原子力規制というものは、原子力の利用により享受する恩恵、それと適切に均衡するように原子力の利用に伴うリスクを管理する、そういったことでございます。したがいまして、利用による恩恵ということと原子力の利用に伴うリスクというものにどう向き合うかというところが問題なわけであります。
それに対して、安全の確保ということで、日本で、原子力基本法にはこのように書いてございます。安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行う。そして、さらに、第三条の二に、その安全の確保を図るため、原子力規制委員会を置くということで定めてございます。
ここで、ポイントは、安全の確保ということは一体どういうものであるのか、どうすれば安全の確保が実現されたと我々は考えるのか、そういう点でございます。
さて、それを踏まえまして、元々、震災後、日本の原子力規制委員会は、アメリカの原子力規制委員会をモデルとして、その構成、組織が検討されました。さて、では、アメリカはどう考えているか、これを御説明したいと思います。
二、リスクの管理というところを御覧ください。
アトミック・エナジー・アクト、これは原子力基本法に相当するものでありますが、一九五四年のアトミック・エナジー・アクトの中で、不当なリスクがないこと、アディクエートプロテクション、適切な規制ということがありますが、まずこれをやりなさいということが書いてございます。しかし、ここでも、適切な規制というものは何なのか、それが当然問題になるわけです。そこで、米国は、二階層構造の安全確保ということを書いてございます。それが、この不当なリスクがないということと、原子力規制に、規制委員会に自由裁量の権限を与えるということでございます。
もう少し説明いたしますと、まず、不当なリスクがないということにつきましては、受容可能で適切な公衆防護レベルを確保するべきであると述べた上で、そのためには、必要なコストが幾らであろうが、それにかかわらず実施を求めなさいということで、そのように書いてございます。しかしながら、同時に、原子力発電所がゼロリスクであることを要求すべきではないということが書いてあります。
これはどういうことかといいますと、米国では、一九八五年にバックフィットルールというものが導入されました。日本でも、新しい規制基準では、新しい知見が得られればそれを適切にバックフィットする、そういうバックフィットルールが確立してございます。
そのときに、アメリカの規制委員会では、バックフィットルールの中で、その下の方にちょっと書いてございますが、委員会がどのようなバックフィットを求めるかについては、経済的なコストやそのほかの政策的な観点を考慮することは適切であるというふうに書いてあるわけです。そして、それに対して裁判になりました。その結果、一九八七年に自由裁量の権限ということが認められて、そして、二階層の構造ができ上がったわけです。
自由裁量の権限の中では、事業者に対して、規制委員会は、(1)で述べましたアディクエート、これを超える安全対策を求める権限を持つんだということでございます。そして、その権限をどこまで執行するか、それには、経済的コスト、それからそのほかの政策的観点、例えばエネルギーセキュリティーとか、そういったものを考慮することは適切である。さらに、バックフィットの便益、すなわち、どの程度安全の質が向上したかということでございますが、それは、コストと比べてそのバックフィットが正当化されるということを求めたわけでございます。
さて、この不当なリスクがない、あるいはリスクが管理されたということは一体どのようなことか、それが次の三ポツに書いてございます。英語をちょっと日本語にしてございますので、裏のページ、御覧いただきますと、リスクの同定、分析、コミュニケーション、受容、これはリスクを受け入れることですね、それからリスクの回避、それから転換、制御、こういったことを行って、コストと恩恵の観点から受容可能なレベルとするプロセス、これがリスク管理であるというふうに言っているわけです。
この過程では、米国は、一九七九年にスリーマイル島の事故を経験し、そして、一九八六年に安全目標の政策声明を出し、そしてリスク評価を行ってリスクを管理し、一九九五年にリスクを活用するということのまた政策声明を出し、そういった長い経緯を経て確立された考え方、これが二階層構造の安全確保ということでございます。
さて、こういったことが一体何に依拠して実現可能になるか、それがよい規制の五つの原則というところに書いてございます。安全を確保しつつ、しかも、コスト、それの経済性、あるいは便益、そういったものを考えながらリスクを管理していく、これはなかなか難しいことであります。そういった難しい意思決定、判断を行っていく上で、複数の価値軸を調和させるということが必要になってまいります。その根拠となるものがよい規制の五つの原則ということになります。
まず第一に、自立性。これは、あるいは独立性でもいいんですが、ただの独立性ではなく、自立性というものが、高い倫理観と専門性によって判断がされること、そして規制が孤立しないこと、これをインディペンデンスといって定義していて、いずれかの考え方に偏らないようにきちんとコントロールしているわけでございます。
二つ目、寛容性、オープンネスでございますが、これは、関係者というのは、公衆だけでなく、議会、行政機関、事業者、公衆、国際的なコミュニティー、そういうところと自由なコミュニケーションを常に維持していなさい、そういうことがこの二つ目、寛容性でございます。
三つ目、費用対効果性。すなわち、規制の行政というものは、納税者それから事業者が最善のものを享受する、そういうことが必要であるということから、現実的な規制であること、そして、リスクの低減効果と整合させつつ投入する資源を最小化すること、それを費用対効果性として、三つ目の原則に述べているわけでございます。
四つ目ですが、明瞭性。これは、規制が首尾一貫して論理的で現実的であること。
そして最後に、信頼感、リライアビリティーですが、これは、研究、運転経験、そういった最新知見に基づいていて、規制の判断が安易に覆されないように、そして原子力の利用というものが安定的に行われるように、これが公衆から見ても、あるいは事業者から見ても信頼感につながるということでございます。
すなわち、安全の確保を行うためにどういう考え方でやるのか、何と何を考慮してやるのか、こういった原則があればこそ、極めて難しい規制判断、これができるものだというふうに考える次第です。
最後に、五ポツのところを御覧ください。
今、原子力、これは極めて社会に対して様々なメリットをもたらすものであり、多くの国が持続的に活用していこうということを考えてございます。では、そのようなことをどうやって実現するか。
米国を始め海外では、新しい革新炉の開発、これが進んでおります。その革新炉の開発をしっかり規制としても受け止めるために、米国は、ニュークリア・エナジー・イノベーション・アンド・モダナイゼーション・アクトという法律を作りました。これは、原子力エネルギーのイノベーション、それから規制の近代化、それを推進する法律でございます。
その中に書いてございますのは、原子力規制委員会は、環境の変化に対して規制プロセスを向上させるとともに、非軽水炉のレビューに備え、対応すること。すなわち、非軽水炉と申しますのは、今議論になっています小型モジュラー炉、あるいは高速炉、高温ガス炉、そういった革新炉でございます。当然、こういった革新炉は新しい考え方の原子炉でございますので、規制がそれに対してきちんと適合するよう準備をきちんとしなさい、そういうことを決めているわけでございます。
そして二つ目、原子力規制委員会は、ビジョンと戦略を策定し、非軽水炉技術の申請があった場合に効果的に効率よくレビューできるようにしなさい。こうやって、規制が持つべき専門性をしっかり高めなさいということを書いているわけでございます。
こういった取組があればこそ、新しい革新炉というものが導入する、そういったプロセスが開けてくるということだと考えてございます。
最後に、一番下、ここが私の結論でございますが、このように、現代は多様なリスクにさらされております。それは、エネルギーのセキュリティー、もちろん原子力のリスクもあるわけですが、様々な資源の導入リスク、それから地政学的なリスク、多くのリスクがございます。そういった中で、原子力技術を持続的に活用するということは、我が国にとって大変重要なことであります。そういった環境を踏まえますと、原子力規制行政において、これまで、安全の確保を行っていくというふうな考え方で規制を行っていたものを、リスクの管理をもって安全の確保を行う、つまり、適切にリスクを管理するという考え方に進化させていくべきではないかと考えます。これは、既に米国の例でお示ししましたように、原子力基本法に、確立された国際的な考え方に倣いということが書いてございますが、こういった考え方が確立された国際的なプラクティスであるというふうに考えるところでございます。
以上で私の発言を終わらせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)