梅田一郎の発言 (厚生労働委員会)
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○梅田参考人 新時代戦略研究所の梅田でございます。
この度は、意見表明の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
現在の特例承認制度においては、主要な外国で承認されていることが要件となっているため、国内での開発が先行した医薬品等は該当せず、これらを適切かつ迅速に使用するための新たな法的根拠、緊急承認の制度が待ち望まれておりました。その意味で、多くの皆様方の努力で今回薬機法が改正され、この仕組みが導入されることを大変意義深く感じております。
日本で先行開発された医薬品は、日本だけでなく世界の医療にも広く活用される可能性があります。改正法の狙いを真に生かし、この可能性を追求していくために、世界の経験から学び、今後日本としても取り組んでいくべき課題として五点、お話しさせていただきたいと思います。
第一に、サイエンスの重要性です。承認の判断は、緊急時であったとしても、あくまで科学的根拠に基づいてなされる必要があります。そして、審査のプロセスは透明性が担保されていなければなりません。
現在、最も頑健な科学的根拠とされるのは、統計学的に適切にデザインされたランダム化比較試験です。特に、プラセボ対照試験の実施に際しては、プラセボ投与群が不利益を被らないよう、倫理的な妥当性を追求することも求められます。
高い科学性を担保するにはどうしたらよいか。まず人材、そして資金であろうというふうに思っております。
欧米の企業やアカデミアは、こうした科学性の高い臨床試験や医師主導治験を国際的規模で計画し、遂行できるだけの専門性を持った人材そして資金を有しており、今回、ファイザーやモデルナのワクチンの米国における緊急使用許可、EUA、欧州における条件付製造販売承認、CMA、我が国における特例承認等の根拠となったランダム化比較試験は、感染者数の多い北米、南米、南アフリカ等の多くの国々の医療機関で迅速、適切に実施されました。
日本も、このように国際的なランダム化比較試験を主導できる人材を育成し、平時からより多くの日本人が臨床研究、治験に参加できるような仕組みを構築するなど、臨床研究、治験の基盤を整備する必要があります。資金については後ほど触れます。
次に大切なことは、指導する行政の迅速性、柔軟性です。
米国において緊急使用許可、EUAを与えるかどうかの判断は、適切に管理された臨床試験の結果を含め、入手可能な科学的根拠の全てを鑑みてなされます。
新型コロナウイルスワクチンについては、FDAが速やかにガイドラインを発出し、第三相プラセボ対照ランダム化比較試験で示す必要のある有効性、安全性を明示しました。これは弾力性のある制度で、FDAが案件ごとに裁量を持って判断しています。バイオテロに対する治療薬の場合には、第二相臨床試験で許可した例もあったと聞きます。
次に、審査プロセスの透明性を担保するにはどうしたらよいか。
米国では、緊急使用許可の判断が、政治的思惑等、サイエンス以外の影響を受けないよう工夫がなされています。例えば、新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可において、ワクチン及び関連生物製剤に関する諮問委員会の議論は、全てユーチューブを用いて公開されていました。
欧州の条件付製造販売承認であるCMAも同様に、科学的根拠と透明性を大変重視しています。
CMAは、通常必要とされるよりも少ないデータでアンメット・メディカル・ニーズを満たす医薬品を承認する制度ですが、医薬品やワクチンのベネフィットがあらゆるリスクを上回ることがデータをもって客観的に示されなければ認められません。さらに、CMAが得られた後、企業は、あらかじめ定められた期限内に、進行中又は新規の試験から得られるデータを全て提出することが求められます。
こうした制度として、科学性、透明性を担保するとともに、当然ながら企業に対しても高い倫理観を持って研究開発に取り組むことが求められており、新型コロナウイルスワクチンの開発に際して、欧米の製薬企業九社のCEOは、科学、そしてワクチンを接種される方の安全と福祉を最優先にするという誓約に署名しています。
第二に申し上げたいのは、緊急事態に対応して動かす特別な仕組みではなく、平時から画期的新薬を迅速に自国及び世界に届けるための制度を整備しておくべきということです。平時からの積み重ねが大事です。
米国は、平時においても画期的な新薬を迅速に患者に届けることを目的とした法律、トゥエンティーファースト・センチュリー・キュア・アクトなどを導入しています。そのような政府の方針の下、FDAには、平時から既存の規制やガイダンスにとらわれることなく、その時点で得られている科学的根拠に基づき必要な対応を柔軟に判断する専門性とリソースを備えています。
こうしたことがあったがゆえに、例えば、新型コロナウイルスワクチンの研究開発において、一部の非臨床試験を臨床試験と並行して実施すること、第一、二、三相試験を一つの試験として実施すること、限られた製剤の安定性試験データに基づいて薬剤の有効期間を設定することなどが判断されました。FDAと開発企業は、随時、科学的、倫理的に最善の方法を協議し、速やかに合意しており、その要点はガイダンスとして公表されます。
第三に、臨床試験における有効性、安全性をリアルタイムで評価できるリアルワールドデータの整備が必要です。
リアルワールドデータの重要性については、日本でも随分以前から議論されてきました。これが、今回のパンデミックでも海外では威力を発揮しています。
特例承認された医薬品であるなら、海外実臨床下での有効性や安全性に係るデータが存在します。しかし、パンデミック時などに緊急承認される医薬品では、海外実臨床下でのデータは存在せず、承認時までに得られる臨床試験データだけでは評価が困難な項目があります。例えば、重大ではあるがまれな有害事象、長期的な追跡データ、臨床試験における評価集団よりも多様な実臨床下の集団での有効性などです。
そこで、承認後に企業により追加提出される臨床試験データに加えて、国内実臨床における有効性、安全性をリアルタイムに評価することが求められます。
米国や英国、イスラエル等では、実臨床における新型コロナウイルスワクチンの有効性、安全性の評価に利用できるリアルワールドデータがあり、リアルワールドデータに基づくエビデンスをアカデミアや政府が速やかに公表しており、企業との共同研究にも利用されています。今回のコロナ禍でも、イスラエル政府とファイザーの取組は度々報道されました。
米国では、国の機関である疾病予防管理センター、CDCやFDAが医療関係者から直接有害事象等の報告をオンラインで受けるワクチン・アドバース・イベント・リポーティング・システムや、オンラインでデータを収集して仮説を検証して因果関係を評価できるワクチン・セーフティー・データリンク等を構築、管理し、タイムリーかつ積極的にワクチン接種後の安全性を監視しています。
欧米では、変異株等に関するデータもアカデミアが速やかに解析し、公表論文や査読前のプレプリントで発信しています。そこで、これらのエビデンスを、変異株に対する有効性の評価、接種年齢をどの範囲にするべきか、拡大するのか、限定するのか、追加接種の要る、要らない、接種間隔の決定、安全性の注意喚起等の行政判断に活用しています。
実臨床データに基づく臨床試験結果の一般化や、まれに起こる重大な副作用情報の収集と評価等は、パンデミック時に限らず平時も重要であるため、日本でもリアルワールドデータを活用できる体制や基盤を整えることが有用かつ重要です。現在、緊急時の薬事承認制度の議論の中で、主に市販後の安全対策の観点からリアルワールドデータを活用することが検討されており、大変期待しております。
四番目に、緊急時の医薬品安定確保、迅速使用のためには、品質に関する制度の見直しも重要です。この点、国際規制調和や共同審査、相互認証の枠組みを推進すべきと考えます。
需要が極めて高いワクチンを日本で開発し、世界各国に安定供給することを考えると、製造所の追加を含む製造能力の拡充、製造方法の改善、原材料の確保、製剤の改良を行う必要があります。その都度、各国の規制当局による審査、承認が必要となります。企業、規制当局双方の負担を軽減するために、規制当局間の品質に関する共同審査、承認、査察結果の相互認証、それを可能とする法整備を進めるべきです。
国家検定について、今回、迅速化の特例措置の一部として特例承認制度と同様の措置がされる方向と理解しておりますが、国家検定は、省略あるいはPMDAへ移管することも検討すべきです。
ワクチンには、企業による出荷判定に加えて、各国で国家検定が課されています。国家検定は、安全、有効で品質が均一なワクチンを国民に届けることを目的として行われていますが、これは、平時に従来の鶏卵等を用いて製造するワクチンを対象として行うことを想定しています。緊急時や、メッセンジャーRNAワクチンのような従来のワクチンに比べ品質が均一なワクチンを対象とすることは想定しているものではありません。
米国では、緊急使用許可の対象ワクチンに対しては、国家検定が省略されることになっています。日本も、緊急時のみならず平時であっても、科学的根拠に基づき、国家検定の要る、要らないや、PMDAでの承認時の審査に組み入れるなどの方策を検討すべきと考えます。
最後に、健全なマーケットを準備することの重要性についても触れておきたいと思います。
日本が重要な治療薬やワクチンを世界に先駆けて開発していくためには、開発、承認、製造等の条件整備とともに、市場としても魅力あるものとなって投資が集まってくることが重要です。
医薬品市場が世界的に安定成長している中で、日本では、度重なる薬価制度改革から、将来の見通しの大変立ちにくい状況になっています。高齢化の中で社会保障費負担が大きな財政問題となっていますが、財政との調和を図りつつ、日本から画期的な医薬品、ワクチンが開発されやすい薬価制度、市場を用意することは、とても大切なことであると考えております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)