河上正二の発言 (消費者問題に関する特別委員会)
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○河上参考人 河上でございます。
本日は、貴重な発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
早速ですが、消費者契約法等の第三次の改正に向けた法案について、日頃考えているところを述べさせていただきたいと思います。
ここにおいでの先生方にはもう今更言わずもがなということなんですけれども、消費者契約法の制定時に、林立する特別法の間隙を縫って発生する不当な取引行為というものと消費者被害の発生に対して、後追い的に制定される特別法の補充ではなくて、包括的な民事ルールを目指した議論が始まったんだということを思い出していただきたいと思います。
その際、要件を厳格化して、射程をできるだけ具体的な場面での勧誘行為とか不当条項に限定しようとする力と、一般的、包括的民事ルールとして、民法よりやや具体性のある規定群として用意しようとする力の綱引き、これはこの消費者契約法の立法当初から存在しておりました。
立法事実を出せというふうに言われましてトラブル事例が具体的に説明されればされるほど、それならば特定の業態での特定の取引方法や条項に対する規制で事足りるだろう、そういう反論、あるいは、なぜ、民法の規定でもできるんだったら民法でいいじゃないかという反論、これが現れまして、一般的ルールの要件策定にはほど遠い状態だったということであります。現在の消費者契約法の第十条の制定さえ危ぶまれたというのが当時の状況でありました。
結局、必要最小限の内容で出発して、立法担当者の人が小さく産んで大きく育てるんだというふうなことを言いながら、結局小さいまま捨て子になっているというふうに学者にやゆされたというような状況だった、このことは、二度の改正を経た今も、残念ながら現在に至るまで尾を引いております。
最初に、一般的な話で恐縮ですけれども、法体系の中での消費者契約法の位置づけ、このことから申し上げます。
取引の適正化というものに限らず、法的責任を論ずるという場合には、当事者の属性、取引の状況、取引形態、商品内容などに応じて様々な特別法が存在しておりまして、それらの規範が一定の階層構造を成しておりまして、その適用の在り方が定まっているわけであります。
御承知のように、ある問題に対して特別法と一般法がある、要件上はいずれも適用可能だというような場面では、特別法が一般法に優先するというのが原則とされております。しかしながら、問題によっては、重畳適用、つまり両方のルールがそれぞれに動くという重畳適用、これも考えられるわけでして、例えば消費者契約法の第四条、取消し事由に関する規定群ですけれども、これは、民法で言う詐欺、強迫といったようなもの、あるいは錯誤についての規定群というものの適用を排除しているわけではなくて、消費者契約法上の取消権の行使期間を仮に経過しても、なお民法上の取消権が問題となり得る、そういう構造になっております。
また、消費者契約法上の八条、九条の無効条項、これに該当しなくても、例えば受皿としての第十条があり、その十条によって更に柔軟に規制される。十条が駄目だとしても、民法の公序良俗に関する九十条がやはり動くという構造になっているというわけであります。
しかし、同時に、できるだけ明確なルールによって市場の透明度を上げるということを考えますと、その理念とするところ、あるいは果たすべき役割をより明確化して、必要な受皿規定を用意すべきであります。民法規定の適用で対応できそうだから、消費者契約法に規定は要らないというようなことには決してならないということであります。それは、民法には七百九条という不法行為に関する一般ルールがあるんだからということで、製造物責任に関するPL法は要らないと言っているのと同じであります。
その上で、昨今の消費者契約法の在り方についての反省でありますけれども、消費者問題の展開は、事業者と消費者の間の情報、交渉力の構造的格差を超えて、事物連関的に、つまり物事に関連する形で拡大しておりまして、人々の生活における安全、安心に対する関心の広がりとともに、次々と進展してきたわけであります。その過程で、人間本来の脆弱さというものを突きつけられる。これはもう消費者に限らない、人間であります、人間本来の脆弱さというものを考えて、消費者立法もまたその対応に追われつつあるというふうに思われるわけであります。その結果でありますが、断片的規制が次々と拡大しているというのが現状ではないかと認識しております。
しかし、本来その受皿となるべき規定の整備というのは遅れに遅れておりまして、世界水準から見ても取り残された状態にあります。
近年、大変問題になったつけ込み型勧誘に関する規定についても、高齢者、若年成人等に関して、その判断力不足に、あるいは経験不足につけ込んで不当な利益を上げるというような事業者から消費者を保護するために消費者に取消権を与えるというような提案が、なぜこうも難渋しているのかということ、私には理解できません。
確かに、要件の明確化というのはある程度必要でありますけれども、余りに細かくなり過ぎますと、これは取りこぼしを大きくするだけではなくて、逆に、健全な市場育成あるいは被害者の保護にも役立たないということが起きます。悪質な事業者が市場を荒らし回っているときに、その者どもを排除するための公正なルール、これを市場にもたらしておくということは、これは適正な事業活動を遂行している事業者にとっても必要なことであります。消費者にとっても事業者にとってもウィン・ウィンになる、それが消費者志向経営の核心的目標でなければなりません。
一日も早く、相手方の弱みにつけ込んで不当な利益を追求するような不当勧誘行為は許されないという基本的ルールを確立する必要があるわけであります。この春、成年年齢が十八歳にまで引き下げられたというときに、青少年に対して、何とかして未成年者取消権に代わるようなセーフティーネットを張るということは、我々大人の義務であるとさえ考えるわけであります。
以上の話を基に、今回の報告書並びに法案についての考えを申し上げます。
実は、報告書は、いずれもよく練られたものでありまして、バランスの取れたもので、基本的には積極的に評価したいというふうに考えたいのですけれども、よくよく読みますと、目配りがよ過ぎて、あれも考えなさい、これも考えなさい、こういう意見もありますよというようなことを書いてあるというわけでありまして、法案にするのは、これは大変な作業だったんじゃないかと推測いたしました。
改正法として、個人的にこの際求めておきたい措置は相当あるんですけれども、できるところから一歩ずつ法案の策定を行うほかないだろうというふうに思います。
消費者契約法関係では、少なくとも、今回、次の点で改正が必要であると考えます。
一つは、事業者の情報提供等の努力義務、これを拡充するということ。それから、消費者の判断力の低下に着目した規定を導入すること。さらに、困惑類型で、退去妨害以外のものを拾うことのできるような規定を用意すること。さらに、他人に相談することを妨害する行為を禁じて、これを取消し事由とすること。さらに、不当条項の第九条について、平均的損害についての推定規定、これを入れること。十条前段のグレー条項に対して、消費者の解除権を奪う条項に関する規定を追加すること。これは今回の改正でもできることであります。
それからもう一つ、消費者裁判手続法との関係では、損害賠償の内容として、財産損害に起因する一定の慰謝料に関する規定を設けるということ。慰謝料に関しては、これはなじまないという意見もありますけれども、定型化された慰謝料を作るということは、解釈上も問題はないというふうに考えております。さらに、悪質な事業者における代表者あるいは実質的支配者を被告にすることができるようにすること。そして、その規制の対象とする事業者の不法行為は、故意、重過失だけではなくて、もう故意、過失という形にすべきことなどであります。
もう少し長期的に見た場合、消費者法のこれからについて更にお話をさせていただきます。
今日の消費者法は、高度化、複雑化、情報化した現代社会に生きる生身の人間を対象とした消費者の保護と支援に関する法律とか判例、行政実務、自主規制等の複合体と呼べるわけでありますけれども、そこには、民事、行政、刑事並びに自主規制のモザイクが観察できるように思います。
消費者といえば、これまでは集団、つまりマスとしての、集団としての平均的、合理的消費者像、これが念頭に置かれてきたのに対して、今後は、むしろ個人の多様なニーズを前提に、それぞれの人にカスタマイズされた消費者の在り方、消費財の開発のものが進んでおるわけでして、ビッグデータ等の利用、活用、この傾向をますます推し進めていることに配慮して、事業者からの攻撃的勧誘に対して、個人の属性に合わせた適合性原則の持つ意味合い、これがますます重要になっていると考えられます。
特に、脆弱な消費者、高齢者、若年者、障害者というものに着目したヨーロッパの政策動向からは学ぶべきものがたくさんございます。無論、通常人であっても、商品の希少性とか話題性、微妙な損得感とか曖昧な記述、時間に追われての判断、相手方への過度の依存心などによって、冷静な判断や選択がゆがめられることは少なくございません。その意味では、開示規制とか不意打ち規制といった従来型の規制態様に限界があるということを認識して、セーフティーネットを張っていくことが必要であります。
消費者契約法は、当初、契約締結過程において不当な勧誘行為が行われた場合の契約の取消しによる消費者の意思表示の効力を否定し、契約からの解放を可能にする規定群と、契約内容となった不当条項を無効にすることによって契約内容を規制するという点から出発した、いわば過渡的な形態のものであります。その後、実効性確保のための消費者裁判手続に関する規定群が追加されて現在の姿になっていますけれども、法規定としては、まだまだ不完全で未完成な状態であります。
将来的には、筋太の方向性を明らかにする作業が是非とも必要であります。だから、不当な契約に対しては、取消しだけじゃなくて、無効あるいは損害賠償といった効果もあり得るわけであります。また、債務内容確定に関する解釈ルール、あるいは契約全体を無効にするような消費者版の公序良俗もあってしかるべきではないかと思います。
差し当たって、有償契約、つまり対価を得ての契約、有償契約を前提とした消費者契約の望ましい規律の全体像というのは、資料の中に、枠組みに掲げておきましたので、後で参考にしていただければというふうに思います。
申し上げたいことはたくさんございますけれども、最後に、この法案についての感想を簡単に述べて意見を終えたいと思います。
検討報告書のまとめ方については、これは先ほども申しましたけれども、目配りがよ過ぎて、幅があり過ぎます。逆に、法の構造に縛られ過ぎているという点もございます。これは、法案化にとって大変厳しい報告書であったということになります。
努力義務に書き込まれた、これは努力義務じゃなくて取消し事由ですか、書き込まれた府令ですけれども、この可能性については、この府令を使って今後の改定への突破口になるということを期待しているところであります。
さらに、取消し事由に限定された条文構造の限界をやはり意識し過ぎたんじゃないかということであります。これが損害賠償とか過失相殺なんかになっていくのであれば、もっともっと柔軟に適用ができたはずであります。
それから、動機形成への働きかけ、これは、働きかけがないと駄目だというような言い方をされることがあるんですけれども、そんなことはない。ある状況に置かれた人間がどういう状態で判断をせざるを得なかったかということを考えていけば、それに対応する可能なルールは出していくことができます。法案の中にも部分的にそれは入っているということでありまして、これは評価してよいかと思います。
事業者に起因しない取引環境、あるいは本人の状況を要件に取り込む必要がありますけれども、そのことが余りにも難しいんじゃないかというような懸念が立法担当者の間でもあったようでありますけれども、しかし、なおなお不十分であります。その辺をもう一度見直していただきたいというところでありましょう。
あとは、お手元の資料の中に、ある程度最近考えたことを書き込んだものがございますので、それを御参照いただければ幸いでございます。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)