佐橋亮の発言 (内閣委員会)
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○佐橋参考人 おはようございます。東京大学東洋文化研究所准教授の佐橋と申します。
本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます。
米ソ冷戦が終結を迎えた頃から、世界には、グローバル化、さらにはロシアや中国との国際協調への前向きな期待が存在した時代がございました。しかし、過去十年ほどで、そうした前向きな期待を持つには厳しい国際環境が出現しております。
従来の先進国以外の国の台頭により、世界のパワーバランスが変化しただけではなく、国際秩序の在り方への不満や拡張主義が具体的な形となって表れるようになりました。
第四次産業革命と言われるほど先端技術の発展が著しく、それらの軍事活動や情報活動への応用が危惧されるようにもなりました。米中の技術競争の激しさは、各国政府や民間企業の研究開発費の増大だけではなく、中国による技術の移転や窃取を増やす結果にもなりました。また、経済における依存関係を利用して相手に強要を迫る行為も実例が積み重ねられてきました。
こうした状況において、いわゆる海洋や宇宙、サイバーなどにおける安全保障空間だけでなく、経済安全保障の考え方が、日本だけでなく欧米や中国において強調されるようになったことは不思議なことではありません。
安全保障とは、時代を映す鏡であり、その時々の国際環境の中で、各国政府が喫緊に、又は長期的に、優先して考えるべき課題に焦点を当てていくものです。あえてアメリカの例を申し上げれば、九〇年代にその関心は地域紛争でしたが、同時多発テロにより、テロリズム及び大量破壊兵器の拡散防止に急に変化をいたしました。何から、何を、何で守るか、安全保障を考える上でのフレームワークですが、それぞれが不断に変わることが安全保障の難しさであります。
今この瞬間において、ロシアのウクライナ侵攻が喫緊の課題であり、国際秩序を国際的な連携によって守るべきことは言うまでもありません。他方で、長期的な課題として、我が国の主権や領土の一体性、国民の生命財産及び国家の繁栄を守るためには、経済社会面での相互依存を活用して他国を脅かしたり、さらには攻撃することが十分に考えられることから、軍事力による抑止や外交だけではなく、経済活動、科学技術分野を含めた体制を整えることが重要になっています。
経済活動は極めて広範であるため、経済安全保障を広く概念定義することもありますが、重要なことは、増大する脅威が何か、いかなる手段がそのために新たに必要かという点に常に着目することだと考えております。
そのように考えますと、今回の経済安全保障推進法案は、立法化がまず求められる分野を進めていくものと評価をしております。
法案の具体的分野について申し上げていきます。
まず、特定重要物資についてです。
特定重要物資のサプライチェーンは、既に民間企業によって組み上げられてきたものです。民間企業の調達多様化に向けた努力を支援することが重要となります。アメリカでは、産業政策と経済安全保障の垣根が下がっており、サプライチェーンの海外投資を実質的には減らすような方策まで議論されておりますが、それは別の政策論であります。経済合理性との均衡を図るためにも、まずは海外を含めた多様化努力が望ましいと考えます。
また、重要物資の特定においては、有識者の意見を重視すること、また、欧米の政策は一つの参照点だとしても、日本の産業構造にとって想定されるものは別であることも想定すべきだと考えております。
サプライチェーンは、企業にとって重要な営業秘密を含む可能性があり、相手企業もある話です。アメリカ政府も、罰則により提供させているのではなく、あくまでも働きかけて提供を受けています。日本の制度においても、企業が自ら協力していく形で進めることが望ましいと思います。
重要物資に関しては、有事を念頭に置いたシミュレーションの必要を述べておきたいと思います。
ウクライナへのロシア侵攻後もエネルギーや穀物の需給変化が話題になりましたが、例えば台湾海峡における有事が発生した場合、世界のサプライチェーンが寸断されるリスクは極めて大きいものになります。大まかな試算はありますが、より具体的なシミュレーションとシナリオ検討が必要となります。先進国とロシア、中国の対立構図が固定化することが恐れられている中、サプライチェーンリスクを具体的なシナリオから点検し、それをもって海外ビジネスの在り方を産業界と考案していくアプローチが必要だと考えます。
基幹インフラについてです。
基幹インフラの防護については、既にインフラ施設が攻撃された事例が多々観察されていることから、備えとして極めて重要となります。電力、水道、パイプライン、鉄道システムなどが近年でも被害を受けております。ランサムウェアによる攻撃も増えています。
備えを高めることは当然としても、インフラを提供する民間企業や各種団体の経済負担が大きいことも事実です。重要なことは、それら主体の負担感を低下させ、経済活動の予見可能性を上げることにあります。政府が可能な限り事前に相談を受け、望ましい設備や維持管理の在り方について具体的に示すことが重要です。企業に責任を転嫁するだけではなく、政府がリスク評価、モニタリングを行い、場合によっては、サイバーセキュリティーを含む投資のための民間企業への補助金を与えることが望ましいのではないでしょうか。
官民技術協力についてです。
ポイントは、産官学の三者が協力し合うメカニズムとして有効に機能するかにあります。そのためには、いわゆるシンクタンクが重要になってきます。従来の機関だけでなく、より幅広い調査を行う機関を設置するというアイデアが重要だと考えます。
ただ、最大の問題は人材です。先端技術だけでなく、安全保障や社会実装に軸足を置いた研究者をどのように確保し、育てていけるかが鍵ではないでしょうか。どのように若手の研究者を引きつけることができるのか、長くとどまっていただき、本人のためになる経験を蓄積できるのか、長期的な視点が強く求められます。
また、いわゆるミッション型の技術開発は重要ですが、二点のみ留保させてください。
第一に、大企業の参画は重要ですが、それに加え、スタートアップ企業を競わせるような仕組みも必要だと思います。アメリカでは国土安全保障省などがそのような取組をしております。
第二に、科学技術には基盤が必要であり、日本政府全体として、科学技術の振興、理系人材の処遇改善を更に推進していただきたいと思います。
非公開特許制度についてです。
人材育成の必要は、非公開特許に関しても当てはまります。二次審査に携わることができる人材を長期的に育成するための制度が必要でしょう。
今回はかなり分野を絞って制度をスタートさせることになりますが、今後、制度を拡充、拡大させていく場合には、制度の存在によって指定のおそれがある分野の技術開発を止めてしまい、他国との競争でむしろ劣位になり、究極的な目標が達成できないおそれがあることに留意してほしいと思います。コストの回収や、将来的にその企業又は開発者の名声が確保できる仕組みが望ましいと思います。
最後に、経済安全保障に関する取組で最も重要なことは、取組を国家戦略の中に確固として位置づけ、その上で確保される継続性にあります。
内閣総理大臣が主導する国家安全保障戦略において、経済安全保障の政策的な全体像が示されること、そこに社会各セクターを代表する有識者の考えが取り込まれることは、合意形成としても非常に重要です。
今回の法案の外になりますが、攻めの経済外交、政府としての経済インテリジェンス機能の確立、そのインテリジェンスの民間への提供可能性の模索、諸外国との経済安全保障における連携さらには支援、こういったことに十分配慮して戦略が組み立てられることに期待をしております。
また、これは必ずしも狭い意味での経済安全保障ではありませんが、人権侵害が著しい国と向かい合うために必要な人権外交や人権に関するインテリジェンス機能、また政府と民間の連携の在り方についても、新たな国際環境と向かい合う中で重要なテーマであり、最後に強調させていただければと思います。
以上となります。ありがとうございました。(拍手)