井原聰の発言 (内閣委員会)
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○井原参考人 おはようございます。井原でございます。
本日は、この審議の場に参考人として意見を述べる機会を与えていただきまして、感謝申し上げます。また、立憲民主党や他の野党の御配慮に感謝申し上げます。
私の専門は、科学史、技術史でございます。歴史の見地から、この国の科学技術政策や学術体制、あるいは若手研究者の養成というふうなことに関心を持ってこれまで見てきました。在職中は先端分野の融合領域研究の若手研究者の養成に関わってきたこともあり、そうした経験から意見を述べさせてもらおうと思います。
極めて重要な法案ですが、具体的内容については政省令、業法等で示されるということで、国会での議論は内容がないというふうなことで、是非民主的な手続の面からの工夫をしていただきたい、こういうふうに思います。
法案の二つの性格ということで、一つの方がどうもはっきりしてこない。今、特定重要物質の安定供給、特定社会基盤役務は有事に備えよというわけですが、その有事とは何かが語られずに、有事に対処する国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛整備計画が大いに関係するものと思いますが、これとの関わり、これとどうすり合わせていくのかがないまま議論が進んでいくことに非常に不安を感じます。
現在、経済の喫緊の課題とされている安定供給やサイバー攻撃問題ですが、これは盛んに議論がされております。しかし、防衛問題について、DARPAに似せた組織までつくろうという議論が進んでいるわけですが、御承知のように、アメリカの経済安全保障の肝は防衛問題です。本法案は具体的な内容が書き込まれていませんのでよく分かりませんが、防衛上、軍事上の優位性、不可欠性をどのように強化していくのか、その問題を含めるような内容が読み取れないということでございます。
そこで、私は、多少なりともそれと関わる読み方をこの法案の中で議論をしてみたいというふうに思います。
第六十一条に、特定重要技術の研究開発のために、研究代表者の同意の下で、内閣総理大臣と協議して、関係大臣も加わる協議会を組織するとされていますが、プロジェクトごとにこれだけ大げさな組織がなぜ必要なのかが不明であります。
協議会は、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律により、国の資金で行われる研究開発を対象にすると言っていますけれども、この活性化法は、若年研究者等の能力の活用の促進に必要な施策を講ずるものとするという、若手研究者の能力活用を主眼としたものです。若手研究者育成は必要ですが、特定重要技術開発は若手にだけ負わせるのでしょうか。
また、伴走支援するということですが、防衛省が伴走支援すれば、防衛研究、軍事研究推進とはなりませんでしょうか。現在進行中の防衛技術研究推進制度では軍事研究ではないからと説明してきましたが、これを撤回しなければならないんじゃないか、それどころか、国が提起する研究課題で、特定重要技術課題の場合は、場合によっては防衛や軍事研究になることを明示する必要が出てくるのではないか、こんなふうにも思います。
六十二条の七項には、正当な理由なく、当該事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないとして、違反者には罰則を科しています。これは研究開発を促進するための協議会のメンバーに課せられたものですが、この協議会からの離脱が自由なのか否かも大きな問題になります。
ユネスコの科学及び科学研究者に関する勧告というのがございます。「「軍民両用」に当たる場合には、科学研究者は、良心に従って当該事業から身を引く権利を有し、並びにこれらの懸念について自由に意見を表明し、及び報告する権利及び責任を有する。」とあります。これに照らしたとき、特定重要技術に関わる若手研究者は、罰則のある守秘義務の手前、この権利と責任を放棄しなければなりません。この勧告との対応が必要だと思いますが、一顧だにされておりません。
国から与えられた課題研究型研究で社会実装まで行う、産学連携で企業と大学との共同研究では、実は見えない壁が研究エリアに張られています。お互いに自由な議論もできない、そういう研究エリアがたくさんあります。他分野の新鮮な考え方の交流や研究会、国際交流など研究を醸成するコミュニケーションもなく、先細ることがよくよく見受けられます。
野依良治さんが委員長を務めた建議文書があります。学術研究の特性について次のように提起しています。学術研究に従事する者が自らの内在的動機に基づき行う研究は尊重されるべきである、これにより全体として研究の多様性が確保されるのである。
研究の多様性こそ研究力の基盤であります。伴走支援して社会実装を迫る研究の進め方は、厳に私は戒められなければならないというふうに考えております。若者は窒息しかねません。各省庁が社会実装に向けて支援伴走する方式は人材養成にはならないのではないかと思います。
国大協の調査によれば、二〇一八年現在ですが、国立大学の四十歳未満の若手研究者は、実は六〇%がパートタイマーです。能力の活用以前に、常勤の若手研究者の母数を増やすことが喫緊の課題になっております。
調査研究についてですが、六十四条に、これはシンクタンクを法的に位置づけるものと理解しておりますが、何をどう調査研究するのか。大学、研究機関などで進められている業績評価に関わる個人情報を含むデータまでを調査対象にしてAIで監視するような調査研究だとすれば、国家によって監視されることになりかねません。問題は非常に大きいと思います。
一方、経産省では既に、「経済産業政策の重点」ということで、法案を先取りしたような提起で大学等の管理体制構築などが提示されていて、現行の安全保障輸出管理の現場の混乱が予想されます。
ここで想定されるシンクタンクは、CSTIに直結し、日本学術会議や大学、研究機関までを下位のシンクタンク化するのではないかという危惧があります。特に、学位授与機能まで持たせてはという議論も含まれてあり、学術研究体制に大きな変化を求める議論があるとすれば、余りにも問題が大きいと思います。
特許の問題ですが、特許制度は科学や技術の発達に欠かせない制度として定着してきました。私は、特許制度は、単に知財の問題ではなく、学術研究体制や産業や文化の一部であると考えております。
保全指定については事前審査を行うのでしょうが、忌避できる環境がつくられるのか否か、軍民両用のものの場合、その特許が保全指定され産業化できない不利益を十全に保障されるのか否か、損失額の査定を支払う方の国が行うということで公正さが保たれるのか。原子力災害賠償の問題事例が想起されますが、大きな問題が含まれていると思います。
また、保全指定から離脱して、その特許を取らずに実施に移すケースがあれば、国家と国民の安全を脅かす技術が流出することになります。秘密特許に大きな穴が空いていると言えます。公開を原則とする特許制度に軍事機密を持ち込むことが矛盾であります。軍事技術は本来、秘匿とノウハウで処理すべきではないかと考えるものであります。
大学発ベンチャービジネスがたくさん生まれ始めています。特に、宇宙、海洋、量子、電磁気、サイバー、センサー分野の先端分野での活動が盛んになっていますが、秘密特許や特定重要技術としての囲い込みがこの分野の成長を鈍化させる、そういう危惧を抱いております。
言い足りないことを含めて、主な問題点はお配りしてある資料の末尾にまとめて書いてあります。
以上、多くの問題が、二つ、つまり重要技術の問題と特許の問題の中にも見出すことができますので、抜本的な見直しを求めるものでございます。
なお、与えられました時間の関係で、維新の会の提案に言及できませんでしたことをおわびいたします。
御清聴ありがとうございました。(拍手)