只木誠の発言 (法務委員会)

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○只木参考人 皆さん、おはようございます。ただいま御紹介いただきました中央大学の只木と申します。
 本委員会で意見陳述を行う機会を与えていただきまして、大変光栄に存じます。
 私は、法務省大臣官房や矯正局等の主催の委員会や研究会において委員として参加し、近時では、PFI手法による刑事施設の運営業務の在り方に関する有識者会議や、安全安心なまちづくり関係功労者表彰に関わってまいりました。そのような経験を踏まえて若干の意見を申し上げたいと思います。
 まず、我が国の再犯に関する現状を見てみたいと思います。
 昨年の犯罪白書によれば、刑務所を出所後、二年以内に再び罪を犯して入所した者の再入率は一五・七%であり、二〇二一年までに一六%以下に減少させることを目指した政府目標は達成されたことになります。もっとも、保護観察がつかない満期釈放者については、出所後の支援が届きにくい面もあることから、その再入率は二三・三%と、仮釈放者のそれと比較して二倍以上と高く、再犯防止対策の強化が課題となっております。また、入所人員に占める再入者の比率、いわゆる再入者率は五八%と高止まりしており、他方で、再入者においては無職者の割合が高く、また、職業訓練を受けた者の再入率が低いことは一般に知られているところであります。
 今回の改正案が議論された背景には、このような現状や課題についての認識が存していたものと思われます。
 今回の刑法等の一部を改正する法律案の概要について確認しておきたいと思います。
 今回の法律案においては、現行の懲役刑、禁錮刑を廃し、拘禁刑を創設することが示されましたが、併せて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰という目的の下、施設内、社会内処遇の一層の充実を図るための所要の規定の整備も予定されております。受刑者に対する社会復帰支援、受刑者の資質、環境の調査における鑑別の活用、被害者等の心情等を踏まえた処遇、刑執行終了者等に対する支援、援助などがこれです。
 拘禁刑の導入に伴っては、刑事収容施設法においても、拘禁刑の執行を受ける受刑者には、個々の特性、必要性に応じた作業を課し、改善指導や教科指導を行うこととし、また、矯正処遇の一環として、被害者等が希望する場合には、被害者等から聴取した心情等を受刑者に伝達する制度を設けたことなどが新たに盛り込まれました。
 後者については、自らの犯罪、非行に対する反省や悔悟の情を深めさせるため、また、改善更生を効果的に図る一助として、被害者及びその親族等の心情やその置かれている状況等について受刑者に正しく理解させることが極めて重要であるとの観点から、現状行われている被害者の視点を取り入れた教育を更に一歩進めたものであると言えましょう。
 一方、勤労意欲を高め、規律ある就業態度を養い、職業上重要な知識及び技能の習得を目的とした作業活動、犯罪の責任の自覚と規範意識の涵養や健全な社会人たるに必要な能力の獲得を目的とした改善指導、社会生活の基礎となる知識の習得等を目的とした教科指導については、いずれも、受刑者の改善更生及び出所後における再犯防止という観点から重要な処遇方法であるところ、学力の不足が顕著である、あるいは高齢で福祉的な支援が必要である、あるいは薬物等への依存が見られる等々、受刑者が抱える問題は多様であり、その特性に応じたバランスのよい処遇が鍵となります。
 そのため、作業に代えて指導に重点を置くなどの対応も同時に必要となってくるのであり、その意味からも、単一刑の導入は必要性に合致したものでありました。
 そして、個々の受刑者の特性に応じた柔軟かつ効果的な処遇を目指すために、受刑者の個々の問題性等に応じての作業、指導が必要と認められる場合には、その実施を専ら受刑者の意思に委ねることは適当ではないと考えられることから、受刑者の遵守事項として、正当な理由なくこれを拒否してはならない旨、定められるに至っています。
 また、以上のような拘禁刑受刑者に対する改善、矯正について適正な判断を担保するためになされる処遇調査に当たっては、専門的な知識に基づいた科学的調査を行う少年鑑別所の鑑別機能の活用、導入が考えられております。
 さらに、刑の執行終了者等の出所後の生活環境の整備や生活資金の安定的な確保が立ち行かない場合の更生緊急保護等、その後の切れ目のない援助なども視野に入れたものとなっております。
 今回の改正で取り上げられることとなった自由刑の単一化の議論については、少年法適用対象年齢の十八歳未満への引下げや若年受刑者の処遇の在り方に関する検討を契機として、近時、新たに注目されるようになっていましたが、そもそも単一化の流れは、理論的にも実務的にも必然性を伴っていたように思われます。
 現行刑法では、かつては、禁錮刑は非破廉恥罪に対して科されるものとして説明されてきました。しかし、現在では、犯罪を破廉恥罪と非破廉恥罪とに区別することに合理性はないと考えられています。すなわち、禁錮の主たる対象犯罪は政治犯や過失犯であるところ、両者を同列に扱う根拠はないとか、あるいは、刑務作業は破廉恥罪に対して苦痛ないし恥として科されるものだとする解釈は労働を軽視する考え方に親和的であるとか、そして、禁錮受刑者の八割強が請願作業についているという現状では懲役と禁錮の間の差異は事実上存在しないなどの理由からです。また、禁錮刑の現状を見ますと、昨年の犯罪白書によれば、二〇二〇年度の入所受刑者のうち禁錮刑は〇・三%、五十三人にとどまっており、しかも非難の程度が軽い過失犯の事例に限られていることも指摘されております。
 他方、処遇の面を見ますと、平成十二年の少年法改正によって、十六歳未満の少年が懲役、禁錮の言渡しを受けた場合には、十六歳に達するまでの間、少年院においてその執行が可能となり、その場合、少年には矯正教育が施され、懲役、禁錮刑の内容とは切り離して、矯正施設における処遇内容を定めることができるようになり、執行の面でも両者の区別は既になくなっているとされております。
 また、刑収法においては、受刑者には矯正処遇として作業と改善指導及び教科指導を行うことが定められており、受刑者にはそれを受講する義務があると解され、改善指導、教科指導については、懲役受刑者と禁錮受刑者とで取扱いを区別しておりません。
 以上のように、禁錮刑の受刑者に作業を課さないことの意味、そして、それとともに、禁錮刑を刑罰として維持する必要性も希薄化し、懲役刑、禁錮刑の区別それ自体ももはや意義を見出せなくなっている現在、刑事施設においては、懲役には作業を課するとしていた点を改めることで、作業以外の処遇に十分な時間を振り向けるといった処遇の個別化や、作業と指導とをベストミックスした柔軟な処遇が可能になると思われます。
 このような法律案の、とりわけ自由刑の単一化の評価という点に関して、受刑者の改善更生、社会復帰を目指す取組を見ていきたいと思います。
 出所後の受刑者の更生のための支援施設の具体的な取組の例として、民間と協働して受刑者処遇に当たる、PFI手法を活用した刑事施設の設置、運営があります。その目的、意義は、過剰収容対策、地域との共生、民間のノウハウの活用による人材の再生などであり、その結果、PFI刑務所では、二年以内の再入率が全国平均と比較して一〇%以上減少したとされております。この十五年間、実践経験を積み上げてきたPFI刑務所では、例えば、パソコンの基礎知識の習得など、雇用ニーズを踏まえた教科指導や、民間企業が職業訓練や刑務作業を通じて必要なスキルを受刑者に身につけさせる、優秀な者を出所後に同企業等にて雇い入れるという取組など、画期的なプランをもって、人材の再生という点で成果を上げてきました。
 地域との共生の具現化という面からは、自治体、大学、PFI刑務所が連携した生産活動がなされ、また、大手通信企業とコラボしたネット販売に関する職業訓練など、時代の要請にも積極的に対応してきました。
 このような、施設内にいながら社会とつながる作業の展開、地域の団体や人材と連携した、例えば、盲導犬パピー養成プログラム、受刑者と住民との文通プログラムなど、いずれも成功を収めていると評価することができましょう。
 なるほど、今日では、刑事施設の過剰収容問題も改善されて、PFI刑務所も一定程度その役割を果たし終えたと考えられますが、とはいえ、そこで培われた処遇技法については、これから拘禁刑の下で、より柔軟に活用できるようになり、施設外処遇、作業や職業訓練から直接雇用に結びつける取組などの民間のノウハウは、今後の刑事施設運営に生かされ、より発揮されることが期待できると思います。
 そして、近時、CSR、企業の社会的責任やSDGsの観点から、高い公益性を伴ったビジネスを志向する企業が増え、また、ESG投資と呼ばれる、環境、社会、ガバナンスといった収益性以外の要素から企業活動を評価し、投資する動機とする考え方が広まり、ソーシャルビジネスと位置づけて刑務所運営事業に協力する企業が増えています。企業が刑務所運営事業を公益的取組として捉え事業スキームを展開し、刑務所が再犯防止や地方創生といった社会と共有する価値を創出し、地域の課題に取り組む場として民間企業や社会に認知されていくことで、受刑者にあっては社会への貢献の意識の涵養が、社会にあっては受刑者への意識の変化と再犯防止につながる協力雇用主等の受皿の裾野の広がりが、それぞれ期待されるところです。
 他方、そのような刑事施設における処遇の変化に対応し、受刑者の更生、社会復帰を支えようとする市民や社会の動きにも注目されます。
 政府は、犯罪に強い社会の実現に向けて、安全・安心なまちづくりの日を設け、地域社会における防犯活動又は再犯の防止等に関する個人、団体の取組を広く普及させようとしていますが、これに応えるのは、就労、住居の確保のための取組、保健医療・福祉サービスの利用の促進のための取組、高齢者、障害のある者、薬物依存を有する者への支援等々に関わって、例えば、協力雇用主の元受刑者への幅広い支援、NPO法人による青少年の立ち直り支援、更生保護女性会による非行防止活動、各地のBBS活動、社会福祉協議会による孤立、困窮により罪を犯した者への福祉的支援、保護司会による薬物依存者の回復プログラムの実施など、多様かつ広範囲で多岐にわたっております。
 こうした民間支援の機運が高まっている今日、自由刑の単一化の下、作業と処遇が最適化されたプログラムを刑事施設が提供することには大きな意義があると思われます。
 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 120805206X01220220426_004

発言者: 只木誠

speaker_id: 32747

日付: 2022-04-26

院: 衆議院

会議名: 法務委員会