大槻奈那の発言 (予算委員会公聴会)

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○大槻公述人 ありがとうございます。名古屋商科大学並びにマネックス証券というところにおります大槻と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 私からは、日本の金融市場の現状とリスク、そして、それを踏まえました日本の課題、期待についてということでお話をさせていただきたいと思います。
 まず、新型コロナの発生から約二年ということで、様々なインパクトがあると思いますが、当社の個人のアンケートからちょっとお伝えをしたいと思います。
 お手元の資料の二ページ目、上段のグラフを御覧いただければと思います。
 こちらは、新型コロナ発生当初の二〇年四月、そして各種経済対策発表後の二〇二一年一月に、それぞれ、自分の収入がどうなったか、あるいはどうなると思うかということについて聞いたものです。
 回答者は証券口座を持っている人ということですから、やや楽観的なバイアスがあるかと思われますが、それでも、コロナ発生当初は、収入が減った、あるいは減りそうだと答えた方が全体の五割に上り、増えると答えた方はほとんどいませんでした。これが、二一年一月時点では、右側になりますが、減った、減りそうだといった人が三割に減少しまして、変わらない又は増えたという方が合わせて七割程度に増えました。
 その背景の一つが、同じページの左下にございますように、過去と違う形での支援を行ったということだと思います。政府が、御存じのとおり、直接の給付金それから補助金等を比較的早期に支給したこと、これに加えまして、真ん中あたりのルートですが、保証協会を通じていわゆるゼロゼロ融資で銀行に貸出しを促したということが表れたと思います。
 右下にございますように、この結果として、リーマン・ショックのときに比べましても、広い業種についてしっかりと貸出しが伸びているということがお分かりいただけると思います。
 今回のスキームが奏功したために、次のページにございますように、邦銀は、当初は不良債権の増加による財務の悪化が相当懸念されたわけですが、実は、今期、もうすぐ三月が終わりますが、引き当てを取り崩して、一部の銀行では過去最高益を達成する見込みですし、貸出しを増やしてもなお、右側にございますように、余剰資金が増加して、一月時点ですが、三百三十兆円ということで史上最大となっています。
 下の方にございます資本につきましても、二〇一九年までは、実は、国内基準行、地域金融機関が主ですが、低下傾向にありましたが、コロナ禍を通じてむしろ充実しています。後ほど触れますが、このことは、今後の日本企業の正常化そして成長のプロセスのために極めて重要だと思っています。
 四ページ目を御覧いただければと思います。
 日本を含む各国で行われた財政政策などの結果、左上の図のとおり、御存じのとおりですが、世界のマネーが大きく増加しまして、右上にございますのが日本の個人預金ですが、こちらは増加しました。二一年九月時点の銀行の個人預金の残高は約五百三十兆円となっていますが、これはコロナ前のトレンドから推計される金額よりも十三兆円ぐらい膨らんでいる計算です。
 これらのマネーの伸びに押されまして、同じページの左下にございますように、二〇二〇年三月のパンデミック宣言で発生しました株価の暴落も、実は、一九二九年以来、史上最短のペースで回復しました。これらに支えられまして、右下にございますが、個人の金融資産ですが、米国と比べますと相当見劣りがするようではありますが、それでも安定的に増加をしています。
 このように、新型コロナ、今の時点ではございますが、金融市場への影響は、これまでのところ、我々市場関係者の当初の予想がいい意味で大外れだったということだと思います。しかし一方で、これからお話しさせていただきますように、足下の環境の変化、それに対する懸念材料も明らかになりつつあると感じています。
 五ページ目を御覧ください。
 まず、一点目の変化といたしましては、これまで持ちこたえてきた企業それから個人の体力に陰りが見えてきた点です。
 一部業種の不良債権なんですが、コロナ前から大きな増加が見られるのに加えまして、それ以上に目を引くのが、左上の図の一番右側の濃い青棒なんですが、不良債権の予備軍と言われる、その他要注意債権の増加が際立っています。また、これと表裏一体なんですが、下の方にございますように、一部の業種では、赤字それから減益となっている上、借入れの増加で財務力の大幅な悪化が見られるのは御存じのとおりかと思います。
 不良債権の予備軍と申し上げましたけれども、不良債権そのものの五倍ぐらいになっていまして、これらの企業をどのように再生し、成長軌道に乗せるのかというのが日本経済の明暗を分けるというふうに考えています。
 それから、同じページでもう一点だけ、個人について。
 右下なんですけれども、この赤い折れ線のグラフにございますように、預金残高が小さめな、三百万円未満の口座の一口座当たりの預金残高なんですが、ほかの大口の預金の口座はまだ安定的に増加をしているんですけれども、これが足下で減少に転じています。また、ここにはございませんが、一部民間企業のデータでは、住宅ローンの返済に困っている方々の相談件数が、コロナ前に比べて一・五から一・六倍になっていると言われます。
 第二の変化ということで、次のページ、六ページ目です。
 資産価格膨張の巻き戻しです。
 この上の二つのグラフは、日米それぞれの中央銀行の、資産残高を横軸に、縦軸に株価を取っています。様々な要因が関係していると思いますが、日米共に、近年の中央銀行の資産規模と株価にはやはり一定の関係があると見られます。
 株価は、中長期的には将来の企業収益を表すというものではあるんですけれども、市場のお金の流れに影響されないという考え方がある一方で、昨年、アメリカで発表された研究では、市場に一ドル流入すると株価の時価総額が五ドル程度上昇するというふうにも見られています。
 加えまして、下の二つの図表は、住宅価格の上昇と消費者物価の上昇の比較ですが、日本の場合、他の先進国に比べますとまだまだ行き過ぎ感というのは少ないんですが、それでも久々に上昇幅が拡大を続けているという状況です。
 こうした資産価格の上昇ということ自体を否定するものではございません。国民の富を増やすものということだとは思うんですが、御存じのとおり、年初来、市場は極めて不安定になっています。その影響については、今後の見通しとともに、後で少し触れたいと思います。
 戻りまして、三点目の変化ということで、七ページ目を御覧ください。
 こちらは四つの図表をお載せしていますけれども、全て我々が定期的に行っているアンケートです。
 左上にございますとおり、若干傾向は緩やかになっているんですが、まだまだマイナスの方にございます。これはどういうことを意味しているかというと、個人の財布のひもが、全世代で、前年比でまだ引き締めているということになっています。理由を聞いているんですが、広い世代の方々が年金や財政への不安を口にしています。右側を御覧いただきますとおり、これは、全世代をまたいで、いろいろな世代の方が同じような回答をしています。このことは、今後の歳出の在り方を考える上で十分考慮すべきではないかというふうに考えています。
 それでは、ここから、当面の金融市場のリスク、これを踏まえた日本の課題、機会についてお話をさせていただければと思います。
 まず、八ページ目、これは、皆さん本当に御存じのとおりのことだと思いますが、インフレ率の上昇です。日本のインフレ率は、消費者物価については、御存じのとおり、今のところ穏やかでございます。しかしながら、左下のとおり、海外からの輸入価格等に左右される企業物価指数はアメリカと連動して大きく上昇している結果、右下のとおり、日本企業が消費者に転嫁できずに耐えている部分、ここで申し上げますと矢印のところになりますが、これは過去最大となっています。
 足下では、御存じのとおり、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫化で原油価格も一バレル百ドルを目前としていますし、その他の資源価格も影響を受ける可能性が十分あると思います。
 こうなりますと、日本でも今後はさすがに消費者への価格転嫁は必至だと思われますし、それから、最近は、朝起きてから寝るまで、我々の日々の生活に欠かせなくなっているのが海外の商品とかサービスかと思いますが、これも円安も相まって急速に価格が上昇していまして、インフレが個人の消費行動に与える影響、これは可能性は十分あると思っています。
 こうした物価上昇から、九ページ目にございますように、上の方のグラフは、欧米の先進諸国について、今年織り込まれている金融の引締め、金利の上昇幅でございます。日本につきましては、この図でもお示しのとおり、この限りではございませんけれども、下段のとおり、左側は、まず中長期金利については、日米の金利の相関は高く、足下ですと、十年国債利回りが二〇一六年のマイナス金利導入後最高の〇・二三%を過日つけましたが、昨日の日銀の指し値オペで二ベーシスほど低下をしました。
 こうした日銀の施策で日本の市場金利は総じて安定しているというふうに言えますが、足下では、右側の下のグラフのとおり、日銀を除くベースで、投資家の中に占める海外の割合を示していますが、増加傾向にございますので、徐々にこうした海外の売買の動向も気にするべきになってきていると思います。
 また、米国の金融政策については、ここでは金利の話をしていますが、実際に不透明感が多いのはバランスシートの縮小でございます。FRBは金利を一年で二%程度引き上げたことはございますが、バランスシートの縮小は、二〇一九年に年間一割程度縮小したことはありますが、今回はそもそも資産の膨張が類を見ない状態になってございますので、市場としても大変読みにくくなっています。
 仮に、こうした不透明感から金利が大きく上昇し、株式市場等が動揺した場合についての日本の影響ですが、まず、国債の利払いにつきましては、財務省の試算等を見ましても大きな影響が直ちに出るわけではないと考えられますが、万一金利が一%上昇すれば、徐々に影響は拡大し、毎年数兆円程度の負担増となりますし、また、こうした財政の動向については、先ほどもお伝えしましたように、個人の関心が高まっているということは十分に意識しておくべきではないかと思います。
 そして、資産価格の膨張の巻き戻しについてですが、十ページには逆資産効果を表しています。
 実体経済に影響を与えるルートとして、資産価格が下落した場合、逆資産効果で消費に影響を与えるということが言われておりますし、アメリカではそれが特に顕著です。日本はそれほどではないですけれども、ただ、ここで考えなければいけないのは、一連の、この二年間のコロナの影響もございまして、個人、企業、昔に比べて投資を行っている方々の割合が非常に増えていますので、逆資産効果は過去よりも大きくなる可能性もあるかと思っています。
 さらに、中長期的に注意すべきところは、こうした短期的なものというよりはリスクテイクマインドの後退だと思います。個人が消費を減らせば当然企業の投資は減少しますし、さらに、金融機関やファンドが企業価値を将来の利益から算出していますけれども、金利が上昇し、収益の不確実性が高まれば、収益を現在価値に割り戻すときの割引率が上がってしまい、評価が下がる。これによって企業の調達にも影響が出る可能性があると思います。
 ここまで金融環境のリスクについて述べてきましたが、もちろん、一方で、新型コロナの収束に伴いまして、物、サービスの実需の巻き戻しも期待できると思いますし、これらを生かし、思い切った改革の機会にもなり得ると思います。
 そのような中で期待される施策を、金融以外も含めまして、やや広い観点から最後にお話をしたいと思います。
 十一ページ目ですけれども、仮に金融市場が動揺すると、コロナの前例から、再び緊急避難的な補助金等を求める声が高まる可能性はあると思います。もちろん場合によっては一定程度は必要かと思いますが、それでは成長の後押しにはなりにくく、個人が抱く財政への不安が高まりつつある中では効果が希薄化する可能性もあると思います。成長を促すには、民間の挑戦する人々、そしてリスクマネーが自律的に拡大していけるように促すことが重要であると思います。
 具体的には、まず、下支えから成長育成へのシフトということです。民間の力が鍵となりますが、さきにも触れましたとおり、金融機関は、このコロナ危機の二年間で、差はありますけれども、全体としては財務余力を維持向上できていますし、現在も一部の金融機関では既に地元企業を積極的に支援しています。今後は、更にこの余力の活用を広めることが望まれると思います。
 金融機関は、実はコロナ前までは貸出競争激化の影響などで企業のデットガバナンスが弱まっていた印象もございますけれども、今後の企業の再建過程では再び本領を発揮し、一層の成長を助けられるような、企業のエクイティー性の資金の相談、それから、この二年間停滞してきた海外進出の後押し、あるいは、状況によりましては、ニーズがより大きい業態への転換を促すなど、国では人的資源やノウハウの問題でやり切れないような取組を民間金融機関に期待したいと思いますし、また、それを促すような仕組みも必要だと思います。
 また、もう一つ、民間部門では個人の方々の力に期待したいと思います。
 今、地方に住む方々の多くは預金を地元の金融機関に預けているわけですが、その資金が地元向けの貸出しで使われる割合は五から六割程度です。また、地方には、御存じのとおり、上場企業が少ないので、個人が地元企業をエクイティー性の資金で助けて育てていくといっても、手だては限られているのが現状です。そういう地元マネーの地産地消を促せるような仕組みが求められているのではと思います。そのためには、例えば、地元企業の非財務情報として、根強いファンがいる、そういうブランドであるとか、ほかにはない技術が隠れているだとか、そういった情報を見える化して、定量化して、個人の方々であっても評価できるような仕組みというものができればというふうに思います。
 もう一つ、人のリスキリングによる変革です。
 働き方改革やコロナ禍の生活変容で、個人は、時間は工面しやすくなっているわけなんですが、学び直しについては質も量もまだまだこれからだと思っています。
 この背景なんですけれども、企業も個人もリスキリングの長期的なリターンを明確にできていないことが大きいのではと思います。一部の個人の方々は、先ほども少し触れましたが、手元資金を市場などへの投資に回しているわけですが、自分への投資の方が中長期的に見てリターンが高いということが分かれば、当然、自分への投資に熱心に取り組むのではと思っています。
 また、別の観点ですが、今は被雇用者が学び直しの支援の中心にどうしてもなっていますが、増加するフリーランスなどで働く方々にも、自らをアップグレードされる機会を広く与えるべきではと思います。
 また、リスキリングの中身ですが、ルーティンワークは、御存じのとおり、これから機械化できるということを念頭に、例えば、雇用されながらでも、いつでも自力で起業できるくらいの考える力、創造力、リーダーシップを育成できるようになれば、高齢になっても生き生きと働けるだけのものが身につくのではと思います。
 もう一つ、支援に対する考え方、手法の変革です。
 デジタル化は、政府のイニシアティブもあり、進展していると理解をしていますが、やはり、遠い地域、業界については、利便性がぴんときていないというのも現実だと思います。
 日本全体のデジタル化底上げには、ヒューマンタッチで、デジタル導入の手間暇を圧縮して、利便性を丁寧に周知していくこと。例えば、マイナンバーの普及で、一部の都市で、市の職員の方々が赴いて書類の作成を一括で担うという形で効果を上げたという例などは好事例だと思います。
 もう一つ、デジタルの先端技術やグリーンイノベーションに対しての理解、そして尊重する企業風土をより一層重視していきたいと思います。
 日本の東証株価指数の企業の創業から数えた年数、いわば企業の年齢ですが、中央値を取りますと六十年を超えていまして、アメリカのS&P五〇〇の三十年程度とはかなり異なります。それだけ企業が安定的に長寿であるということは日本の強みでありますが、そうした長寿安定社会を前提としつつイノベーションを育成するということでは、大企業がイニシアティブを取っていくという日本独自のモデルも必要ではと思います。
 一方で、伝統的な大企業では、まだやはり現状維持バイアスが強くて、とっぴなデジタル技術ですとかグリーンイノベーションに対して腹落ちしていないという印象もあります。経営陣の一層の意識改革を促すような施策を求めたいと思います。
 最後になりますが、今年、申し上げましたように、金融市場は大きな過渡期を迎えていると思います。ただ、非連続的な金融環境だからこそ、人も企業も非連続的に変われる機会になるのではとも思います。短期的な損失穴埋め的な支援からではなくて、中長期的な成長を促すような財政や仕組みづくりを期待したいと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 大槻奈那

speaker_id: 18626

日付: 2022-02-15

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会