鶴岡路人の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(鶴岡路人君) 今御紹介いただきました慶應義塾大学の鶴岡と申します。よろしくお願いいたします。
本日は参考人質疑ということでして、中身いろいろ考えたんですけれども、一つはやはり、戦況分析してもしようがないんで、この今回の戦争の構図というものをどのように捉えたらいいかということで、まず抑止ということに着目をして今回の戦争の構図を考えてみたいと思います。その上で、日本の課題ということで、生物化学兵器が使われた場合の対応と、対ロ制裁、今までは強化の方向ですけれども、今後、この停戦合意などができた後にはいかに緩和を進めていくのかと、そういう新しい課題も出てくるわけです。その辺りについて本日はお話しさせていただきます。
まず一つ目の、この抑止ということであります。
これは、NATOとロシア、あるいはアメリカとロシアというものは、やはり今の状況においては敵対関係でありますので、これは相互抑止をする、お互いに抑止をし合う関係ということになります。
基本的な構図としては、まあ釈迦に説法かもしれませんけれども、例えばNATO側から見れば、ロシアが○○、何かをするのであれば、こちらは△△をして対応すると、この脅しの結果、ロシアが行動を変える、行動を変化させるということになれば、アメリカの抑止、NATOの抑止は成功したということになります。これは逆も同様でありまして、ロシア側からもNATOに対してこのような警告、抑止のメッセージというものがなされているわけです。
実際に、この戦争が始まる前は、アメリカ側、NATO側は、これ、もしウクライナに侵攻した場合には重大な結果を招くということで、経済制裁というものを前面に打ち出していたわけです。ただ、残念ながら経済制裁ということでは抑止が成立しなかった、その結果として侵攻が起きてしまったわけです。
戦争開始後ということになりますと、今度はロシア側から様々な抑止のメッセージが出されているというのが現状です。NATOがウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するという話に関しては、飛行禁止区域を設定したらそれは参戦とみなす。参戦とみなすということはNATO側に対しても攻撃を行うということでありまして、これは飛行禁止区域の設定を阻止するためのロシア側からの抑止のメッセージだったということになります。あるいは、ポーランドのミグ29という戦闘機をウクライナに供与するという話に関しても、戦闘機を供与したら参戦とみなすといったような抑止のメッセージが出されたわけです。
その結果、非常に残念なことに、このロシアの抑止メッセージ、警告をある意味そのまま真に受けたという形になりまして、NATO側はいずれも断念をするという形になっています。ですから、これを抑止の構図ということで見ますと、一方的にロシアがNATOを抑止しているというのがこれまで多く見られてきた状況です。
先週の三月二十四日にNATO首脳会合が行われまして、ここにおける最大の焦点は、ロシアが生物化学兵器を使用した場合にNATOとしていかに対応するかということだったようです。共同声明においては、深刻な結果を招くということで警告をしています。深刻な結果に何が含まれるのかというのは必ずしも明確ではありませんけれども、事務総長ないしバイデン・アメリカ大統領の発言などから総合すると、やはり軍事的対応というものが含まれるんだろうと思われます。
やはりこれ、NATOにとっては、今までウクライナに介入、軍事介入しないというのは、これ、ウクライナに対しては防衛義務を負わないからだという説明を行ってきたわけです。それに対して、化学兵器を含めた大量破壊兵器というものが実際に使用されることになると、やはりそれは局面が大きく変わる、次元が大きく変わると。
ですから、これはもうウクライナを支援するかしないかということではありませんで、この国際社会、国際規範の中において大量破壊兵器が使われてそのままでいいんですかと、こういった別の問題になってくるということです。ですから、ここは、恐らくNATOとしては相当な決意を持って今ロシアに対して抑止のメッセージを出そうとしているということです。これは、更に大枠で考えますと、今までどうしてもロシアの側が主導権を握って抑止をやってきたということの、この主導権をNATOが取り返すというような意義がある動きということになります。
NATOが介入しますとこれは第三次世界大戦になるとか全面核戦争になる、だからロシアを刺激すべきでないという声、もちろんその懸念は常に存在しますし分かりますけれども、ただ、じゃ、ロシアから一方的に抑止され続けていいんでしょうかと、これが我々は非常に考えなければいけないと思うんですね。
といいますのも、この核兵器を持っている国を相手にしたときに、あらゆるこちらの行為が第三次世界大戦、全面核戦争に直結すると本当に考えるんであれば、核兵器持っている国を抑止することをできなくなってしまうわけですね。当然、この地域にも核兵器を持っている国があるわけでして、日本はそれらの国々を抑止する立場にあるわけです。ですから、このロシアの議論にそのまま乗って、NATOが少しでも介入すると全面核戦争になるというような議論は是非やめていただきたいというのが、こういった問題を見ている立場からの率直なところであります。
やはり、何らかの介入と全面核戦争の間には様々なステップがあるわけですね。これをいかにコントロールしていくかというのが抑止においては最大の課題ですので、そこをすっ飛ばした議論をしてしまうと、もう抑止自体を全く信用していないということになってしまうんだろうと思います。
ただ、核兵器を持っているこの現状変更勢力、この力による現状変更を行う国々、しかもそれは核兵器を持っていると、こういう場合は、やはり紛争が、あるいは侵攻が発生してしまうと扱いが難しいというのも現実でありまして、それは今回我々がよく分かってしまったことであります。ですから、この侵攻が起こる前にいかに抑止をするかということが非常に大きな課題になるということも一つ教訓だろうと思います。
次に、日本の課題というところで二点取り上げさせていただきます。
一つは、ロシアが生物化学兵器を使用した場合にいかに対応するかということでして、これ、NATOとしても段階がありまして、恐らくその軍事的な対処というものがオプションとしては承認されたような形になっているんだと思いますけれども、やはりその第一ステップは、このロシアによる生物化学兵器使用を認定できるかということなんですね。
といいますのも、ロシアがたとえ生物兵器使ったとしても、使いましたと言うわけがないんですね。で、まあウクライナが使ったとかアメリカが使ったとかいろいろ言うわけですね。そうしますと、アメリカやNATOの側としては証拠を集めないといけない。しかし、ウクライナにおいて本当に証拠を迅速に集めることができるのか、あるいはどのような証拠を集められるのか、そして、その証拠の精度、確度でNATOの三十か国の国が本当にコンセンサスに達することができるのかと、こういう問題はNATOも抱えているわけですね。ですから、この化学兵器使用の認定がない限りは、NATOとしても当然次のステップに行くわけにはいきません。
ここで、日本にとっての問題は、これ、NATOでたとえ、例えばですね、ロシアによる化学兵器の使用というのが認定されたときに、日本も果たして一緒に認定できるのかどうかですね。これは、どのような情報、インテリジェンスをアメリカやイギリス、NATOが日本に提供するのかということにも関わってきますし、また、日本のそういったインテリジェンスを評価する基準というものがNATOと違う部分もかなりあるかと思いますので、たとえ同じエビデンス、同じ情報を見たとしても、日本の場合は違う結論に達することもないわけではないですし、今までもロシア関係ではそういった事例があったかと思います。ですから、これは、日本にとって同調して認定するのかというのは、それは現段階から真剣に考えておかなければならない問題だと思います。
その上で、NATOがロシアによる化学兵器の使用、まあ生物兵器でもいいですけれども、使用を認定した場合に、次に軍事作戦を実施すると。これは限定的なものだと思いますけれども、地上部隊の派遣というのは考えられないと思いますが、空爆、ミサイル攻撃等々を含めた限定的な軍事作戦をNATOが実施するときに、日本はそれを支持することはできるんだろうかと。あるいは、外交上支持できないということですと、理解をするとかですね、いろいろな段階があろうかと思いますけれども。
ただ、今までこの問題に対しては極めて強い姿勢で、G7の足並みをそろえるという観点を含めてですね、対応してきた日本が、ここに、この段階でどういう判断をすることになるのかと、これは日本として事前にしっかりと頭の体操を含めて考えておく、準備をしておくということが必要なんだと思います。
ただ、まあNATOも、これ、軍事作戦の実施ということに関しては非常に慎重、あるいは反対の国というのもありますので、この認定ですね、事実認定の部分で時間が掛かるということはNATOにおいても十分考えられることです。ですから、日本が対応を迫られるときに、もう本当に時間がないということにはならないのかもしれませんけれども、ただ、それを願って待っているというわけにもいきませんので、この課題はしっかり考えていかなければならないと思います。
最後に、対ロ制裁の緩和の話です。
今までは、先週のG7首脳会合でもまだ強化ということで一致していますけれども、やはりこういう問題は強化の局面の方が足並みをそろえるのはやりやすいんですね。
今後問題になってくるのは、停戦協議、今日も実施されますけれども、これ、停戦協議、そしてさらにロシア軍の撤退の協議というものが本格化したときに、当然ロシア側は条件の一つとして制裁の緩和ないし解除というものを求めてくるわけです。ですから、それをどこまでG7の側として、そしてその一員としての日本として対応することができるのかというところは、今の段階からこれも考えておく必要があるんだろうと思います。
先日のバイデン大統領の発言、これ、プーチンは権力にとどまるべきではないという発言ですね、あれがその後様々な波紋を呼びましたけれども、ただ、この今までの米欧の制裁に関する議論を見ていると、ここに二月二十六日の米欧の声明、これ、SWIFTからの排除とロシア中央銀行に対する制裁決めたときの声明ですけれども、今回の戦争がプーチンにとっての戦略的失敗になることを確実にするという極めて強い文言を使っています。ですから、このプーチン体制自体を終わりにしない限り危機の本質はなくならないという意見自体は、アメリカ、ヨーロッパに極めて広く存在しているんだと思います。
この戦争犯罪としてプーチン大統領を訴追するということも、これも、たとえ停戦が実現しても戦争犯罪なくならないわけですね。そうしますと、この戦争犯罪の訴追を続けるということと制裁を緩和するということをどのように両立させていくのかという辺りが非常に大きな問題になるわけです。
ですから、この戦争が終わったとき、そして停戦協議が成立して撤退が実現したときに解除する制裁と、たとえこの撤退が実現した後も解除しない制裁、まあ一番考えやすいのはプーチン大統領個人に対する制裁というのは解除しないということにはなるんだと思いますけれども、じゃ、そうしますと、ほかは全て制裁解除するのかという、これもまた厄介な問題だと思います。
また、制裁の外側で、既にエネルギー企業などがロシアから撤退をしているわけですね。あれは別に制裁の対象になったから撤退しているわけではないわけですね。
そういったものを含めて考えたとき、あるいは、ヨーロッパにおいても今、ロシアの化石燃料、石油、天然ガスに依存を中長期的にしないようにする、脱却するというような方針が今決められようとしているところであります。
ですから、そういったその制裁と直接関係ない部分も恐らく視野に入れつつ、制裁をどのように緩和するのかという辺りの頭づくりをそろそろ始めないといけないのかなというふうに考えております。
私の方からは以上です。