川崎政司の発言 (憲法審査会)
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○法制局長(川崎政司君) 着席したままで失礼いたします。
参議院法制局長の川崎でございます。どうかよろしくお願いいたします。
私の方からは、お手元の資料に基づき、参議院議員の選挙制度に関しまして、その経緯等とともに、憲法上の要請、最高裁の判断枠組みなどにつきまして御説明をさせていただきます。
まず、参議院選挙制度に関する経緯と定数較差に係る主な最高裁判決の動向につきまして確認をさせていただきたいと思います。
表紙をめくり、一、二ページを見開きで御覧くださいませ。
参議院の選挙制度については、検討の段階では紆余曲折がありましたが、総定数二百五十人、そのうち都道府県の区域を単位とする地方区選挙が百五十人、全国を単位とする全国区選挙が百人という構成でスタートし、地方区選挙では、当時の人口に基づき、各選挙区の人口に比例する形で二人から八人の偶数の議員数が配分され、その最大較差は二・六二倍でした。なお、総定数につきましては、昭和四十七年の沖縄の復帰に伴い、二百五十二人とされました。
参議院の選挙制度に関し、当初議論となっていたのは全国区選挙の在り方であり、昭和五十七年の公職選挙法の改正で拘束名簿式比例代表選挙に改正され、選挙の名称もそれぞれ選挙区選挙と比例代表選挙に改められました。
他方、高度成長や産業構造の変化に伴う都市への人口移動により、選挙区間の定数較差が次第に大きくなり、定数較差訴訟が裁判所に提起されるようになります。
最初に最高裁が判断を示したのは参議院選挙に関してであり、昭和三十九年判決、一番上のところでございますが、は、各選挙区にいかなる割合で議員数を配分するかは、立法政策の問題であり、違憲問題を生じないと、そういう判断を示したところでございます。
最高裁が投票価値の平等が憲法上の要請であるとしたのは、衆議院選挙に関する昭和五十一年判決が最初であり、参議院については昭和五十八年判決となります。昭和五十八年判決では、国会の広い裁量を認め、最大較差五・二六倍を合憲と判断しましたが、平成四年の通常選挙では最大較差が六・五九倍にまで達し、これについて平成八年の最高裁判決が違憲状態との判断を示しました。
もっとも、較差につきましては、平成六年の八増八減の改正で既に四・八一倍に縮小しており、最高裁はその後合憲判決を続けて出すとともに、平成十二年には定数十減とともに比例代表選挙について非拘束名簿式とする改正が行われております。
最高裁に変化が現れ始めたのは平成十六年判決からというふうに言われております。同判決は較差五・〇六倍を合憲としたものの、複数の裁判官により補足意見を通じて較差状況を問題視する指摘がなされるなど、実質的により厳格な評価が行われるようになっていきます。
これに対し、参議院において超党派による検討機関が設けられ、定数較差問題について検討が行われるようになるとともに、平成十八年には四増四減の改正も行われ、最大較差は四・八四倍となりました。
しかし、最高裁は投票価値の平等の要請を重視する姿勢を強め、平成二十四年判決では、昭和五十八年判決の考え方を実質的に変更し、最大較差五・〇〇倍を違憲状態とし、その直後の平成二十四年改正で較差は四・七五倍とされたものの、平成二十六年判決では四・七七倍の較差を再び違憲状態といたしました。
これらを受けて行われたのが平成二十七年の改正であり、四県二合区を含む十増十減により最大較差は二・九七倍に縮小し、これに対し平成二十九年判決は、平成二十四年判決と平成二十六年判決の趣旨に沿った改正であるとして、選挙時最大較差三・〇八倍を合憲との判断を示しました。その後も検討条項を踏まえ、選挙制度の改革について検討が進められ、平成三十年の改正では定数が六増され、選挙区では定数二増により較差が二・九九倍にされるとともに、比例代表選挙では部分的に拘束式となる特定枠の制度が設けられたところであり、これに対し最高裁は令和二年判決で、選挙時三・〇〇倍の較差を合憲と判断しております。
なお、比例代表選挙につきましては、別途、非拘束名簿式が平成十六年判決、特定枠が令和二年判決で合憲と判断をされております。
このような国会と最高裁判所との相互作用とも言える状況は、衆議院の小選挙区間の較差をめぐっても生じており、ある最高裁判事はその補足意見の中で、両者の間で言わば実効性のあるキャッチボールが続いている状況にあると表現しているところです。そして、最高裁によれば、それは、資料の十ページ、飛んでしまいますが、恐縮でございますが、その下の段に挙げておりますけれども、憲法の予定している司法権と立法権の関係に由来するものとしております。
それでは、参議院の選挙における投票価値の平等に関する最高裁の見方、判断はどのように変わってきているのか、これについて確認をさせていただきます。
三、四ページに戻っていただいて恐縮でございますが、そこに簡単にまとめとして示しております。
参議院選挙にも投票価値の平等の要請があるとした昭和五十八年判決は、その一方で、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れない、較差の是正にもおのずから限度があるとし、都道府県単位とすることについても一定の理解を示していました。これに対し、平成二十四年判決は、基本的判断枠組みは維持しつつも、長年にわたる制度と社会の状況の変化を考慮して実質的に五十八年判決の考え方を変更し、参議院の選挙制度であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難い、都道府県を参議院の選挙区単位とする憲法上の要請はなく、投票価値の平等との関係からは都道府県単位といった仕組み自体を見直すことが必要としました。
このように判断する理由につきましては、平成二十四年判決のところで①から③ということで示しておりますけれども、近年の衆参ねじれ現象等の経験を背景に、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限が与えられており、国政における参議院の役割が大きくなっているという認識があると見られております。
平成二十四年判決の考え方はその後も基本的に維持されておりますが、合区による較差是正を評価した平成二十九年判決では、投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて、都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することが否定されるものではないとの言及もなされているところでございます。
次に、五ページをお開きくださいませ。
先ほど憲法審査会の事務局の方から説明がありました較差の現況を示しておりますが、最大較差は三倍をちょっと超えておりますが、三倍を超える選挙区が三つ存在するというような状況にございます。
そのことも念頭に置きつつ、選挙に関する憲法の規定、選挙原則、投票価値の平等や全国民の代表の意義などについて見てまいりたいと思います。
憲法の規定と選挙原則につきましては、隣の六ページのとおりでございます。普通、平等、自由、直接、秘密の選挙原則のうち、どこまで憲法で規定されているのかは議論がありますものの、それらは国会の裁量を拘束し、それらに反する法律の規定は憲法違反とされることになります。
そのような中で、次の七ページと八ページを御覧くださいませ。
投票価値の平等でございますけれども、選挙権の内容の平等として、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力においても平等であることを要求するものであり、具体的には、議員一人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれる人口比例を基準とすることが求められているとされております。
そして、その憲法上の根拠につきましては、その下でございますけれども、最高裁は法の下の平等を定める憲法十四条一項を中心に、十五条一項、三項、四十四条ただし書の規定を挙げております。
ただし、八ページとなりますけれども、最高裁は、選挙制度の仕組みの決定において、投票価値の平等は、唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮できる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものともしております。
他方、憲法四十三条一項の全国民の代表につきましては、その下のところに判例を示しておりますけれども、最高裁は、本来的には、両議院の議員は、その選出方法にかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく、全国民を代表するものであること、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有することを意味するとしております。
続きまして、九ページ以降になります。
最高裁が選挙制度や投票価値の較差の憲法適合性に関し審査する場合の判断枠組みなどについて簡単に触れさせていただきたいと存じます。
まず、選挙制度についてですけれども、最高裁は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、政治の安定の要請も考慮しながら、それぞれの国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではないとします。
その上で、日本国憲法も両議院の議員の選挙制度について、全国民の代表といった制約の下で、法律で定めるべきものとして国会の裁量に委ねているとし、その憲法適合性の審査は、国会の裁量権を考慮しても、全国民の代表による制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するためその限界を超えており、これを是認できない場合に憲法違反となると判示しております。
なお、その下でございますけれども、その際、参議院の選挙制度の独自性については、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、いかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられているとしております。
そして、十ページです。
定数較差について、最高裁は何倍未満といった較差基準などは示しておりません。
投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらず是正措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に憲法に違反するとの基本的な判断枠組みを示しております。
すなわち、最高裁は、その下のところでございますが、一、投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているかどうか、二、そのような状態に至っている場合に、選挙までの期間内に是正されなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして憲法に違反するに至っているかどうかといった二段階の判断枠組みにより審査を行っており、司法権と立法権との関係から、裁判所が投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断しても、これに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることが憲法上想定されているとしているところでございます。
最後、十一ページでございます。衆議院との比較を簡単にさせていただきたいと存じます。
最高裁は、衆参の制度の類似を指摘し、参議院選挙の投票価値の平等の要請が後退してよいとする理由はないとしつつ、衆議院の判断枠組みでは、投票価値の著しい不平等状態ではなく、投票価値の平等の要求に反する状態、参議院の相当期間、相当の期間ではなく、合理的な期間内の是正とするなど、より厳格な姿勢を取っており、また、衆議院の中選挙区制度時代の二度の違憲判決では、事情判決の法理により、選挙の違法を宣言するにとどめ無効としないとしたことから、これが三段階目の枠組みとされております。
駆け足の説明となり恐縮でございますが、私からは以上でございます。
どうかよろしくお願い申し上げます。