上田健介の発言 (憲法審査会)

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○参考人(上田健介君) 上智大学の上田と申します。
 本日は、このような機会で意見陳述の機会を与えられましたことに感謝申し上げます。
 早速、レジュメに沿いながら意見を申し述べます。
 まず、一、合区の評価です。
 合区についてですが、二つの角度からの評価ができるかと思います。
 一つは、言うまでもなく、投票価値の平等の視点です。合区は、最高裁の平成二十四年、二十六年の判決で、それぞれ一対五・〇〇、一対四・七七という最大較差であった、定数配分規定につき違憲状態の判断が出されたことを受けて、較差を縮小させるために平成二十七年の公職選挙法改正で導入されたものです。合区導入後、最初の平成二十八年の参議院通常選挙で最大較差は一対三・〇八となりました。これにつき、平成二十九年の最高裁判決は合区を都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めるこれまでにない手法と評価し、これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したこと、さらに、改正法が附則で次回の通常選挙に向けて、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る旨を定めていることと併せて合憲だと判断しました。
 確かに、投票価値の平等の観点だけから見れば、合区をこのように高く評価することは可能だと考えます。しかし、これも先生方御承知のとおり、合区は特に合区対象県の住民を中心に反発を引き起こしました。その一つの表れは、先ほども御指摘ありましたが、合区対象県における投票率の低下です。レジュメに記載しましたとおり、平成二十八年、令和元年の選挙を通じ、合区対象県では、令和元年の高知県を除き、全国平均より上昇率が小さいか、あるいは低下率が大きくなっています。徳島のように二度の選挙を通じて一〇%以上投票率が低下してしまっている例もあります。
 これは、合区対象県の住民から見れば、自分たちの県だけ一つの選挙区として扱われず、ないがしろにされているという感情によるものだと推察されます。地域の感情の意義は、つとに新井誠教授が指摘されていますが、これを法的に見ると、合区対象県の住民とそのほかの都道府県の住民との間で法の下の平等に反する事態が生じていると評価することもできます。そして、これをゼロか一かの差だと見れば、自分たちだけが承認されていないという、投票価値の較差以上に深刻な不平等取扱いだということすら言えるかもしれません。
 もちろん、このような考えに対しては、合区を導入した時点で全体として都道府県単位の選挙制度ではなくなっているのだから、そのような見方は錯覚にすぎないとの反論が可能です。また、もし今後合区対象県が増えてくれば、ほかの都道府県と異なる取扱いを受けているという感覚は弱まることも予想されます。
 しかし、今度は、現在の選挙区の選挙制度はどういう理念でどういう代表者を選出することを意図しているのか、明確な説明ができないのではないかという問題を提示することができます。
 二、参議院の選挙制度全体の評価です。
 先ほどの疑問は、現在の参議院の選挙制度の比例代表部分、ひいては全体についても言えます。比例代表については、平成三十年の公職選挙法改正でいわゆる特定枠が導入されました。比例代表の一部につき政党等の判断により優先的に当選人となるべき候補者を順位付きで届け出ることができるものです。この仕組みを導入する目的は、提案理由によれば、全国的な支持基盤を有するとは言えないが国政上有為な人材又は民意を媒介する政党がその役割を果たす上で必要な人材が当選しやすくなるようにすることだとされていました。
 しかし、国会会議録を読めば、合区対象県のように人口的に少数派ともいうべき条件不利地域の声を国政に届けるような活用を想定しているという趣旨の発言が繰り返されています。また、これに併せて比例区の定数を四増やしていることも合区対象県の議員の救済の意図がにじみ出ています。もし特定枠導入がこの意図に基づくものであるならば、合理的なものとは言えません。
 また、提案理由を文字どおり受け取るならば、これは拘束名簿式比例代表の目的と言えます。要するに、特定枠は拘束名簿式比例代表であるわけです。しかし、それならば、非拘束名簿式を取っていた従来の制度に拘束名簿式をはめ込む意味がよく分かりません。非拘束名簿式には、有権者と議員との距離を近づけるプラスの意義がある反面、票の流用という問題点、これが問題かは評価が分かれますが、これも指摘されていました。ここに拘束名簿式をはめ込むことは、問題とも指摘される点をそのままに、プラスの意義を打ち消す効果を持つことになります。
 また、特定枠を使うか、どの程度使うかは政党の判断に任されています。政党が拘束名簿式か非拘束名簿式かという選挙制度自体を選択できるわけです。選挙のプレーヤーである政党が選挙のルールを選択できるというのは、比例代表制の導入時に説かれた政党本位の選挙制度という趣旨を超えた特権を政党に与えているように見えます。これがいかなる理由で正当化されるのかも定かでありません。
 このように、比例代表の部分についても、現在の選挙制度はどういう理念でどういう代表者を選出することを意図しているのか、きちんとした説明ができないのではないかという疑問を提示できます。
 次に、選挙区は、さきに述べたとおり、一都道府県で一選挙区のものと合区のものとが混合しています。他方、これを代表法の観点から見ても、改選ごとに一議席の選挙区と二議席以上の選挙区とがあり、言わば小選挙区制と大選挙区制とが混合しています。このような仕組み、これを全体として見た場合に、参議院にどういう代表者を選出することを意図しているのか、率直に言ってもうよく分からなくなっているという感想です。
 歴史を振り返りますと、御承知のとおり、参議院の選挙制度は当初、全国区と選挙区で始まりました。これは、大石和彦教授等の研究によれば、当時の政府や議員の中には、衆議院と構成を異ならしめるため職能代表制を志向する者が多かったものの、総司令部が難色を示したことから、その代替措置として、全国的組織を背景とする各界の有識者や有名な学者、文人等を選出できる制度として全国区を導入し、しかし全議員を全国区で選出するのは初めての仕組みでリスクがあり、また参議院にも地域的要素を入れるべきだとの考えから地方区を加えたものでした。
 全国区は、昭和五十七年の公職選挙法改正で拘束名簿式比例代表制に変わりました。その提案理由には、全国区は有権者には候補者選択の負担が重く、また候補者は莫大な費用と労力を要するという問題を解消するとともに、政党が国政において重要な機能を果たすようになっているという認識の下、政党本位の選挙制度に改めるという趣旨が述べられていました。
 比例代表制の導入には、無所属を排除する、あるいは良識の府であるべき参議院の党派性を強めてしまうという批判もありました。しかし、何よりその後、衆議院でも政党本位の選挙制度として比例代表制が導入されましたので、その結果、参議院の独自性が見えなくなっています。
 他方、選挙区の意義については、一九七〇年代頃から、単なる地域的要素ではなく都道府県代表だという言説が国会審議でも見られるようになり、昭和五十八年の最高裁判決が事実上の都道府県代表と述べたこともあって、いつの間にか都道府県代表であるという認識が定着しています。しかし、実はこの意味は曖昧で、また参議院の実際の働きとの関係も見えません。そして、合区により都道府県代表という説明は破綻してしまったわけです。
 これらを全体として見たとき、参議院の選挙制度には端的に合理性がないのではないかという、これはまあ違憲だということを示唆しておられるわけですが、最近の櫻井智章教授の見解に私も共感を覚えます。
 三、今後に向けてです。
 それでは、どうすればよいかですが、大変難しい問いです。ポイントは二つあると考えます。
 一つは、言うまでもなく、参議院の役割をどう考えるかです。大きく分ければ二つの方向性があると思います。
 一つは、議院が二つあること自体で直ちに法案審議などを慎重に行えるとして、参議院の役割も衆議院と同じに考えればよいというものです。
 もう一つは、衆議院とは別の役割を考える方向です。この場合、衆議院は第一院として国民全体を代表する存在ですので、参議院はこれと異なる形で民意を代表させることになります。
 諸外国の例で挙げれば、ア、職能代表と言えるかもしれませんが、多様な職域や業界の代表者、イ、地方公共団体の代表者、あるいは理論的に提案されているものであれば、ウ、年齢別代表などの切り方が考えられます。また、アと重複しますが、エ、経験が豊富で能力や才能のある人々で構成するということも考えられます。
 もっとも、これらが憲法四十三条一項の全国民を代表する選挙された議員と抵触しない範囲で実現可能かという点は吟味する必要があります。この全国民の代表の含意については様々な見解、解釈がありますが、私自身は、選ばれた議員と有権者との関係、また議員の政治道徳を説いたもので、選び方については選挙によるべきことを含意するだけではないかと考えています。
 もう一つのポイントは、衆議院との権限関係です。
 大石眞教授がつとに指摘されるとおり、権限と組織は相関関係にあると考えられます。二院制を取る欧州諸国を見ても、完全に対等の権限を持つイタリアの元老院では人口比例の議席配分が要請されているのに対し、立法では実質的に約一年間の停止的拒否権しか持たないイギリスの貴族院は任命制、同じく立法で意見が一致しない場合には国民議会の議決が優先されるフランスの元老院、これは間接選挙であり、人口比例、厳密な人口比例を論じる以前のやり方を取っています。両院の権限が対等であれば第二院の民主的正統性、すなわち投票価値の平等は強く求められ、非対等であるならばこの要請はかなり弱まるということです。この論理は、日本においても同じだと考えられます。
 この点、最高裁の平成二十四年判決からうかがわれる判例法理に立ったとしても、私の読み方ですが、参議院が法案等の審議に際し衆議院の判断に敬譲する態度を示していくならば、投票価値の平等の要請は弱まるのではないかと考えられます。
 二つのポイントを併せ考えると、参議院を衆議院と対等で同じ役割を果たすものだという方向に寄せていくならば、その分、投票価値の平等の要請も衆議院と同様に求められることになります。他方、参議院を衆議院とは異なる形で民意を反映させるため、投票価値の平等にこだわらない選挙制度を考えるのであれば、特に立法に関する決定権限を弱めるべきだということになります。
 それには憲法改正しなければならないと言われそうですが、今ある権限を抑制的に行使すること、これは憲法上可能です。当の参議院議員の方々が権限を手放すことに抵抗感が強いことは認識していますが、私自身はこの方向に進むのがベストではないかと考えています。
 立法の最終決定は、衆議院の判断に従うが、法案審議の中で、あるいは政府統制、行政監視機能、これを強化し拡充して、そういう中で、衆議院では出されないような多様なバックグラウンドを持った立場、利害からの意見、あるいは専門的な知見を国政の議論の場に持ち出し世論を動かして、中長期的に、あるいは、まれには、場合によったら即座にも衆議院、ひいては内閣、政府の考え方を改めさせる、そういう、何というか、補充的な役割、しかし極めて重要な役割を参議院は果たすことが考えられます。私自身はこちらの方向性がよいかというふうに考えております。
 以上でございます。拙い意見を御清聴くださり、誠にありがとうございました。

発言情報

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発言者: 上田健介

speaker_id: 14603

日付: 2022-06-08

院: 参議院

会議名: 憲法審査会