大久保幸夫の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(大久保幸夫君) リクルートワークス研究所の大久保と申します。
 日本の労働市場というのは私は大きな特徴があると思っていまして、それは、新卒で就職しようとする学生向けのルールというのはかなり議論が積み重ねられておりまして、また、マッチング機能もかなり整備をされてきているんですが、卒業後に、今度は社会人になって転職とか再就職しようとする人たち向けのルールとかあるいは支援というものについてはそれほど十分に整備されていないと。また、実際に職に就く環境としても厳しいというふうに私は思っています。
 例えば、求人倍率だけを見ても、大学生の新卒の就職倍率というのは一・五〇倍ありますけど、正社員の転職するときの有効求人倍率は〇・九一倍ですから、一倍切っていましてですね、これ随分この数字の違いって大きいんですよね。
 この新卒者が内定を取りやすいという意味では、日本は他国に例を見ないぐらい環境としては整っているというふうに私は思うんですけれども、今度社会に出る、その一般社会人の転職、再就職ということについては、まあはっきり言って余り目が向けられてこなかったところがあるんではないかというふうに私は思います。
 その中でやはり変化の兆しが出てきておりまして、一つは、今回、経団連が日本型雇用シフトの見直しということについてかなりはっきりと明言をされています。新卒一括採用を重視した結果として、大企業の新卒者大量採用が中小企業やスタートアップ企業の人材獲得を困難にしているということや、起業等に失敗した人が再チャレンジする機会を狭めているということを経営労働政策特別委員会報告で指摘をしております。
 今後、企業の中には、新卒採用にかなり軸足を置いてきた企業も、若干そのウエートを中途採用にバランスさせる企業も出てくるのではないかなというふうに思っています。
 また、デジタルトランスフォーメーションの進展によって大量の技術的失業が生まれるということが指摘されておりまして、ダボス会議では、第四次産業革命によって数年の間に八千万件の仕事が消える一方で、九千七百万件の新たな仕事が生まれるというようなことが推計で出されているところであります。
 これらのことから、今後仕事を変わる人が大幅に増加するだろうということが想定されます。また、日本の場合は、高齢層が生涯現役を目指して再就職をしようという転職行動、これ定年前後ですね、ここが相当増えてくるだろうと。団塊ジュニア世代の人たちがその年齢に差しかかってきておりますので、こういうところまでを含めると、労働市場の機能強化とかあるいはルールの整備ということは喫緊の課題であろうかなというふうに思っております。
 現状のその転職市場、転就職の中途採用についての労働市場を見るときに、私は大きく二つの課題があるというふうに認識をしています。
 一つは、転職を希望する求職者に対して希望に合った仕事を発見できるように支援する機能がとても弱いということです。若年層の一部とかあるいは有期雇用で働いている労働者を除けば、日本では、同じ会社で長期継続的に働き続けている人が多いために、一般に転職というものに対して不慣れです。インターネットの普及によって、実際にインターネットアクセスすれば何百万件という求人情報を目にすることができます。ただ、そこから応募したい求人にたどり着くところは非常に困難でありまして、実際に転職希望者で求職の活動を具体的にしているという方々を対象に調査をしたところ、同じ方にちょうど一年後にまた調査したんですけど、実際に転職先見付かりましたという人が三分の一、見付からずに引き続き探していますという人が三分の一、見付からなくて諦めたという人が三分の一というような、大体このぐらいになっておりますので、なかなかたどり着けていないという状況があるんだろうというふうに思います。
 以前に、私のワークス研究所というところで国際比較調査をやりまして、これ日本を含む十三か国の調査をやったんです。実際に転職を経験した人の調査をやったんですけど、そうしたところ、転職の満足度というのは十三か国中で最低でした、日本は。だから、余り自分の希望に合ったところがちゃんと見付かったと思っていないんだろうというふうに思います。
 もちろん、この背景には、求職者が日本的雇用慣行の中で自らができる仕事は何なのかとかということに関しての、はっきりそれについて認識ができていないということや、希望条件が非常に曖昧であるということもあるでしょうし、あと、全体的な傾向として言えるのは、求職者の活動をするときに非常に受け身です。自分から検索して比較検討して、自分からアプローチしてという、そういう積極的な行動というよりは、どちらかというと、どこかこう企業からスカウトの声が掛からないかなとか、あるいはそういう登録しているところから何かリコメンド情報が来ないかなということを待っていて応募するというパターンが大変多いというところにも特徴があるかなというふうに思っていますので、こういう方々をどういう形で、本当に希望するときに転職先が見付けられるようにしてあげられるのかというのが一つの課題かというふうに思います。
 もう一つの課題、二番目なんですけど、転職によって賃金が上がらないということです。
 転職した結果として賃金が上がった人の比率は、先ほどもちょっと使った国際比較調査の結果なんですけど、十三か国中でこれも日本は最低でした。他国では転職によってより高い地位を得ていくという傾向があるんですけど、日本の場合は、転職を経験した人とそうでない人を比べると、転職を経験した人の方が管理職に就いている比率が圧倒的に低いんですよ。他国は圧倒的に転職した人の方が上のリーダー職に就いている比率が高いんですよね。これだけを見ても、相当日本では転職が不利になるという状況が続いているということを示しているんだろうというふうに思います。
 本来、転職するタイミングというのは年収をアップするチャンスだというふうに思うんですけど、奥ゆかしさもあるんだと思いますけど、余り賃金の交渉というのはその場でしないということもありますし、その辺が明示されないままに何となく内定していくというケースもあるんじゃないかというふうに思っています。
 日本の場合は、民間の人材紹介会社を使うときとそうでない場合を比べると、人材紹介会社を使ったときの方が優位に転職後の賃金が高くなるという結果も一応あるので、それなりの支援とかサービスはしているんだろうと思いますけれども、今後、賃金の相場情報を積極的に公開していくとか、より仲介しているところが賃金の交渉の役として機能するということが大事なのかなというふうに思っています。
 今申し上げた二つの課題というのはかなり広くこの人材サービス業の関係者には共有されていて、問題解決につながるようなサービスの開発が次々に今進められているところかというふうに思います。ここ数年は、これまでになかった雇用仲介、マッチングのサービスが登場してきています。代表的なものとしては、SNSに転職マッチング支援機能を付加したものが大分出てきています。それから、求職者データベースを作ってそこから企業にスカウトを促すようなサービスというのも出てきています。あるいは、スポットで短時間、隙間時間に働けるようなマッチング支援サービスというのも盛んに出てきています。そしてまた、クローリング技術を使って、世の中に求人票として既に公開されている、あちらこちらに公開されているものがあります、そういうものを機械的に集めてきて、それをまとめて編集して全体が見えるようにするというような、こういうようなサービスも出てきています。これらを一般的に新形態サービスというふうに呼んでいます。
 この新形態サービスについては、既存、古くから人材サービスをやっている大手の事業者が多角化の一環としてやっているものもありますけれども、それ以外に、テクノロジー系に強いベンチャー企業が新たに立ち上げたものとか、海外の事業者が日本でやっているものとか、こういったものも結構ございまして、そこで提供されているサービスは、以前の職業安定法では想定していなかったものもかなりあるというふうに思っています。また、業界団体に加入していない事業者も多く存在しておりますので、今回、職業安定法の改正議論において、募集情報提供事業という考え方の定義をもう一回整理をし直しまして、新形態サービスと従来あった求人サイトを一つにくくりまして、届出制を課すという形にして法律上に位置付けるものにしたのだというふうに理解をしているところであります。
 雇用仲介事業のルールを整備していく上で、私が重要だと思っている観点五点ありますので、ちょっとお話をさせていただきたいと思います。
 一点目は、人権保護とか個人情報保護について的確な規制が必要だということであります。特に、求職情報って非常に個人情報としてナーバスなものなんですよね。一般に、転職をしようとしているとか探しているということはほかの人に知られたくない情報であったりとか、あるいは、これまでの経歴とか賃金の情報というのは一般に公開しない情報ですよね。そういったものを取り扱う事業であると。かつ、そのことをいろいろな企業の方々に見ていただいて評価してもらわないと転職って実現しないわけです。要するに、隠しておくだけでは駄目なわけなんで、それを整理をした上でいろんな企業に見てもらわないと実現しないと、こういう性格を持っていますので、個人情報の保護、大変重要であろうというふうに思います。
 また、選考プロセスには、以前から差別、男女差別とか出身地の差別とか、明確な差別と言わなくても、アンコンシャスバイアスと呼ばれるような無意識の偏見みたいなものが入り込みやすいところでありますので、そういう意味で、人権を守っていくための規制というのは大変重要であろうというふうに思っています。これは一番下地を構成するものですので、もう一番大事なところはそこだというふうに私は思っています。
 その上でですけれども、二番目ですね、雇用仲介事業というのは、先ほどちょっと触れましたとおり、ICTテクノロジーの進化とともに機能を強化してきたという歴史を持っています。先ほど申し上げました二つの課題解決に向けて進化の途上にあることから、イノベーションを阻害するような細か過ぎる規制にならないということは大事なポイントだというふうに思っています。これが二つ目です。
 三つ目は、各サービス会社が相談・苦情対応窓口を設けて、求人情報と事実に相違があった場合については、その窓口に苦情を申し入れる、問い合わせるということをして、仲介している会社が、事実確認とか事実確認に基づく修正とか、それが本質的に問題があるようであれば掲載の停止という対応を適切に行うことが大事なんですけれども。
 実は、この相談とか苦情に寄せられるものを業界団体の全国求人情報協会が集計をしておりますが、そうすると、寄せられた事実と違うぞという苦情のうち六二%が元々の求人する企業の情報が間違っていたということなんですね。間違っていたというか、実際に求職者が行ってみたら違うことを言われたと。それは多くの場合は悪意があってのものではなくて、平均値を言っていて、下の数字を言ったら違うじゃないかと言われたとか、あるいは電話で問い合わせたときに説明が不十分で誤解されたとか、そういった類いのものも多いんですけれども、求人側の起点によるものがかなり高くて、仲介しているメディアの方のミスとか問題が一一%ぐらい、それから求職者が読み違えたり誤解したりしていることによって発生しているケースが一八%ぐらいと、こういう感じになっていまして、この的確性を守っていくという上においては、仲介の雇用仲介サービス事業者が的確な情報提供を心掛けるとともに、六二%は求人企業の一番最初に出す求人票に原点がありますので、ここについても併せてきちんとした指導をしていただくということが大事かなというふうに思っています。これは三番目ですね。
 それから四番目は、職業安定法の法規制ということがありますけれども、それ以前に、募集情報提供事業というのは、その流れは、元々は求人情報誌とか、新聞の案内広告とか、合同チラシとか、こういうものがインターネットサービス化したという流れの上に成立をしているところでありますので、それ以前は、これ以前はずっと業界団体の自主規制によって運用されてきたというところがあります。こちらも歴史が長いので、法規制だけではなく、業界団体によるガバナンスと両輪でこの人材サービスを健全な事業として育てていくことが大事であろうというふうに思っています。これは四番目ですね。
 それから最後、五番目ですけれども、求職者保護の観点で問題行動を繰り返す悪質な事業者に関しては、厳しくその改善命令等の行政処分を行っていただくことが大事だと思っています。
 実際に業界団体等に加入しているところはそういうのはないんですけれども、以前に比べると、こういうテクノロジーを使ってサービスを提供するようになってからは、参入障壁がかなり下がりました。つまり、新しい、新規で立ち上げようとするとどんどん入ってこれるところになりますから、そういう中には悪質なところが出てくるということもありますので、そういうところをしっかり排除していくということの、今五つ申し上げましたけど、こういうものを全体のパッケージとして運用していくことが大事かなというふうに思っています。
 最後に一点だけ、職業能力開発促進法の改正もありますので、ちょっとその点だけ一点触れておきたいと思います。
 DXとか、デジタルトランスフォーメーションとかグリーントランスフォーメーションとかによって、リスキリングという議論が非常に国際的に高まってきています。
 これは、これまでと異なる専門性に対応しないと技術的失業を生み出すと、こういうことになるわけでありますけれども、このリスキリングの特徴というのは引き算にあると私は思っていまして、引き算、新しく求められるスキルはこれで、今持っているスキルはこれで、そうすると、差し引くとこういうものをリスキリングしなきゃいけないということが出てくる。つまり、この学習の結果得られるものが明確だから学習意欲が湧いて、学習と就業が完全につながるということなんですね。
 これは一方で、これまでやってきた学び直しの議論というのはどっちかというと足し算、足し算の議論で、こういうものを学習すると可能性が広がりますよという形のものだったというふうに私は思っているんです。そうすると、努力の結果得られるものはなかなか見通し切れないということがあります。
 どのようなスキルを企業が求めているのか、それに基づいて訓練プログラムを整備して、そのスキルが就業に結び付いたかどうかをきちんと検証していくというプロセスが必要だというふうに思っています。官民の職業教育機関と雇用仲介機関ですね、これが連携促進されることが理想的だというふうに思います。
 そして、学習することが就業実現と賃金上昇に結び付くようにしていく。このままだと世界的なリスキリングの流れに遅れてしまいますので、これについてしっかりとキャッチアップしつつ、転職によって賃金が上がらない国という、ちょっと汚名といいますか残念な状況を改善するような形で進めていきたいというふうに考えております。
 私の意見は以上でございます。

発言情報

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発言者: 大久保幸夫

speaker_id: 29221

日付: 2022-03-25

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会