稲継裕昭の発言 (行政監視委員会)

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○参考人(稲継裕昭君) 本日は、貴重な機会を与えていただき感謝申し上げます。早稲田大学の稲継と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、三つの点についてお話をさせていただきます。
 一つは、日本で地方分権とかあるいは地方政府の自律性が議論されるときに、特定の国と比較して進んでいる、あるいは遅れているという議論がなされがちでありますけれども、それへの問題提起であります。
 二つ目は、地方分権や地方政府の自律性を高めるべきという理念、規範的な議論と、現場自治体、自治体職員あるいは住民からの受け止めという現実との間のギャップの話であります。
 三つ目は、自律性を議論する際に、デジタル化の話、DXの話は今後避けて通ることはできず、それが議論そのもののフェーズを、局面を大きく変える可能性があるという点でございます。
 まず、一つ目です。
 日本はAという国に比べて地方分権が遅れているとか、Bという国では地方の自律性がこれほどあるのに日本では国の関与が強くてよろしくないという議論がなされることがございます。他国比較で実証的なように見えますけれども、実は特定国の選定において既にバイアスが掛かっております。
 そもそも、世界の中央、地方関係を見ますと、連邦制国家か単一主権国家かという違いだけではなく、その起源、オリジンが大陸法系か英米法系かという大きな違いがありますし、その後の発展形態も様々です。多くの国を比較した研究が必要ですが、資金面、人材面で難しい点が多くあります。OECDなどの国際機関による研究はありますけれども、データが得られやすい財政的側面を主に見て比較している場合が多く、総括的な研究はほとんどなされておりません。
 レジュメの四ページ以降、とりわけ十ページ以降に紹介しておりますのは欧州委員会による比較研究であります。欧州委員会の地域政策総局が包括的な指数を構築するために委託して行われた研究で、約四十人の地方自治専門家が広範なネットワークを活用して、三十九の対象国の一九九〇年から二〇一四年までの十五年間のデータを集めて比較した研究成果の一部の紹介でございます。
 ここでは、中央、地方関係に関する十一の指標により統一的基準で地方自治指数をコーディングし、各国の地方政府の自律性の程度を座標軸に分類する試みをしています。この研究は欧州三十九か国の比較でありますけれども、日本についても同様のコーディング指数で座標軸に入れて比較して、今後研究を進めてまいりたいと思っております。
 二つ目の、理念と現実のギャップについてであります。
 一九九三年の衆参両院における地方分権推進決議以降、地方分権推進法あるいは分権一括法などなど、そして二〇〇〇年に入ってからも更なる地方分権へと日本は相当かじを切ってまいりました。このことを住民は、あるいは基礎自治体である市町村の職員はどう受け止めているのかという話でございます。
 例えば、パスポートの発給手続です。これはお手元の二ページのところになります。
 外務省から、古くはですね、機関委任事務、そして後に法定受託事務として外務省から都道府県に委ねられており、都道府県のパスポートセンターが設けられてまいりました。しかし、二〇〇〇年代以降、府県から市町村へと、更なる分権の一環として市町村へ委託している道府県が、そこにありますようにかなりの数に上ります。
 身近な市町村役場でパスポートを申請し交付を受けることができるので、住民にとっては便利になった側面ももちろんあるでしょう。他方で、通勤途上の駅のターミナルにある府県のパスポートセンターが閉鎖になって、平日に休みを取って居住地の市役所まで行かなければならず、不自由を感じている会社員がいるのも事実であります。
 また、市町村にとっては、パスポートの申請の受付、その後の府県や外務省への取次ぎ、発行されたパスポートの受領、申請者への交付という煩雑な事務が新たに加わることになります。大規模な市ではそれに対応する余力があっても、小さな市町村ではせいぜい一週間で数件の申請しかないパスポート関連事務に職員を張り付けるわけにはいかず、他の業務との兼務になります。もちろん、国からはそれなりの予算は回ってまいりますけれども、職員の業務負担を考えると、それに見合ったものでは必ずしもありません。
 レジュメ二ページの下の方に、ある県の事例と書いておりますけれども、高圧ガス云々といった権限を県から市町村へ移譲した事例であります。
 大規模な市ではこの移譲を受けることを歓迎しているところもあるかもしれませんけれども、小規模な市ではそれに携わる専門人材がいるかという問題が発生します。分権の受皿という話がいつも議論され、権限、財源、人材の不足が言われるわけですけれども、たとえ権限移譲されお金が付いたとしても、それをハンドリングできる人材がそう豊富にはいない。いたとしても、関連する業務が年に数件しか発生しないような状況では、その業務に一人の人工を充てるわけにもいかない。こういった諸問題から、市町村の中には県への権限返上を申し出ているところもあると複数の県の市町村課長から聞いております。
 三ページのところに参りまして、基礎自治体の多様性とございます。
 今申し上げたように、権限返上を言い出している市町村もあれば、他方で、横浜市など、更なる分権を求め、県から独立した特別自治市制度の創設を訴えている自治体もございます。これに対しては県の側からカウンターの議論もなされています。他方、横浜市など二十の政令指定都市で構成される指定都市市長会は、昨年十一月に宣言を出しています。
 独立するとした場合、当該特別市の住民は賛成し、残された周辺部の市町村の住民は反対するだろうと予想されていました。ところが、昨年末、川崎市が市民に対して特別自治市に関するパブリックコメントを行ったところ、ほとんどが反対意見だったということが川崎市のホームページで先週公表されました。
 この特別自治市制度は住民が本当に望んでいる話なのか。もっと言えば、住民は地方分権を望んでいるのか、そもそもそのようなことには関心がなく、どちらでもよいのか。分権の議論をする際には、通常、首長様や地方議会の議員が主要アクターとして登場しますけれども、もっと自治体現場の職員や住民の意見にも留意する必要があるように思います。
 最後に、三つ目でございます。
 自治体DX推進計画が二〇二〇年十二月に発出され、各自治体でもDX、デジタルトランスフォーメーションへの取組が進められています。AIやRPAの自治体への導入もここ二年ほどで飛躍的に進んでおります。窓口改革も多く行われ、北海道北見市の書かない窓口というものは、昨年十二月、デジタル大臣が視察されるなど、全国的にも有名になってまいりました。日本の行政のデジタル化が今後急加速していくと思われます。
 行政の電子化の先進国エストニアでは、窓口を訪れて対面で行わなければならない手続は三つだけだそうです。結婚と離婚と不動産の購入の三つだけ。あとはインターネット上でできるそうです。この三つはいずれも人生の一大イベントで、じっくり考える機会を与えるという趣旨だそうです。
 日本でも電子行政が進むと、例えば先ほど見たパスポートにつきましては自宅で全部できるようになる。そうすると、外務省か、県への法定受託事務か、市町村への更なる分権かという議論自体消えてしまいます。外務省のホームページで直接申請するという話になるかもしれません。
 また、住民の意見の集約というのが地方議会の重要な役割の一つですけれども、デシディムという参加型合意形成プラットフォームがスペインのバルセロナで始まり、世界各国に広まっています。日本でも加古川市など、既にこのデシディムの実証を始めているところも出てまいりました。デジタル、ICTを使って住民の意見の集約ができるという可能性も出てまいりました。
 このように見てくると、DXの推進は、分権改革や地方自治の在り方そのものにこれまでとは全く異なるフェーズをもたらす可能性もあると思います。今後、分権改革の議論、国と地方の役割分担の議論は、DXの推進度合いをにらみながら進めざるを得ないというふうに思っております。
 以上でございます。
 どうも御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 稲継裕昭

speaker_id: 24401

日付: 2022-02-14

院: 参議院

会議名: 行政監視委員会