小山堅の発言 (資源エネルギーに関する調査会)
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○参考人(小山堅君) ありがとうございます。
御紹介いただきました、日本エネルギー経済研究所の小山でございます。
それでは、これから二十分ほどお時間をいただいて、ウクライナ危機とエネルギーの問題についてお話をさせていただきます。(資料映写)
まず、ウクライナ危機が起きてから、我々はエネルギー価格の高騰とエネルギー市場の不安定化に直面しておりますが、実は、皆様方も御記憶のとおり、今般のエネルギー市場の不安定化はウクライナ危機が本格的に深刻になる前から実は始まっていたという点を最初に申し上げたいと思っております。
昨年の後半以降、原油も、ヨーロッパの天然ガスの価格も、アジアのLNGのスポット価格も、そして石炭も、ある地域においては電力の価格も大幅に上昇し、同時多発的にエネルギー価格の高騰が起こっておりました。このように同時多発的にエネルギー価格が高騰をするというのは、なかなか普通あることではございません。
なぜこのようなことが起きたかということになりますと、私は四つほど問題点があったというふうに考えております。
一つは、二〇二〇年から起きてきたコロナの反動で、よく相場、取引の格言で言うとおり、谷が深ければその分山が次高くなると、反動が非常に大きいということでございました。
そして、なぜ、しかも、その反動が大きくなったかといいますと、国際的なエネルギー市場の中にある供給の余力、いざ需要が増えてきたときにそれに即応的に対応できる余力が減ってしまっていた。なぜ減ってしまっていたかというと、各エネルギーの企業が、できるだけコストを削減し、経営を効率化し合理化しようとすると、コストの元となる余分な余力を減らそうというふうに行動いたします。これは、個別の行動としては合理的ですが、全体として見るといざというときの余力が減るということを起こしてまいりました。
それから、あともう一つは、この間の低炭素、脱炭素化への取組の中で、再生可能エネルギーが重要な役割を果たしてまいりました。今回の特に電力需要の逼迫、需給の逼迫を見ますと、いずれもそのきっかけにおいて、例えば風力発電が不調になったり、太陽光発電が不調になった、これがイギリスやヨーロッパでの場合でも、日本でもテキサスでも見られています。これは、再生可能エネルギーに問題があったというよりは、最初に申し上げた、供給余力が不足している、何かあったときにそれに対応できる余力が全体として不足している中で起きてきたということが私は重要かと思っています。一たびどのエネルギー源も需給が逼迫してしまいますとそこからなかなか抜け出すことができない悪循環が発生し、その上に今般の地政学リスクが加わったということかと思います。
原油価格、このスライドにお示ししたとおり、二〇二〇年の四月にはマイナスの値段が先物価格で付くというような極端な事例が起きました。先ほど申し上げたとおり、もう異常な、谷が深くなったときであります。このときからの反動で、市場では供給が削減され、そしてその下で原油価格が上がってまいりました。
昨年の十月には、既に原油価格は八十ドルを超え、日本でもアメリカでもヨーロッパでも大きな問題を引き起こしておりましたが、その後も原油価格は実は上がり続け、その背景には先ほど申し上げたウクライナの情勢が大きく影響してまいったわけです。
三月の七日に原油価格は百三十ドルを瞬間風速で突破いたしました。リーマン・ショック後の最高値ということになります。これはもちろん、皆様御案内のとおり、アメリカがロシアの原油、LNG、エネルギー製品の禁輸を発表したということで、これは大変なことになるということが市場で反応した結果でございます。
しかし、これも皆様方いろんな報道で御案内のとおり、原油も価格が上昇していますが、それ以上に深刻なのは天然ガスあるいはLNGのスポット価格です。この赤い線で示したのはヨーロッパの天然ガスの取引価格でございますが、その先ほど、原油が百三十ドルを超えた日、同じ日に天然ガスの価格は原油換算でいうと一バレル四百ドルを超えるというような異常な暴騰ぶりを示しております。そして、ヨーロッパの天然ガス価格とアジアのLNGのスポット価格というのは今非常に連動性を高めておりますので、このアジアの価格も、青い線で示しておりますが、同じように原油以上にはるかに高い値段になっている。今回のウクライナ危機の中で、とりわけ天然ガスの問題が相当厳しくなっているということが分かっているのかなというふうに思っております。
さて、ウクライナ、この問題そのものについては、もう皆様方は御案内のとおりでございます。ロシアが力によって現状変更を加え、そして国際システムに挑戦をした。これに対して、アメリカもヨーロッパもそして日本も、決して許すことはできないということで、様々なこの立場の違い、特にエネルギー上の立場の違いはありますけれども、予想を超えて厳しい経済制裁をロシアに科すということになってまいりました。この戦争、軍事的な紛争、プラス、経済制裁や金融、この組合せの下でロシアのエネルギーがこれからどうなるのかというところが非常に大きな不安になっているわけでございます。
ロシアのエネルギーは、石油で見ますと世界の石油輸出の一一%、天然ガスでは世界の輸出の四分の一を占める、まさにエネルギー輸出の巨人であります。そのロシアのエネルギーが、この青い字で書きましたとおり、欧米側の経済制裁によってエネルギー取引が制約を受けるのではないか、あるいは戦争、戦闘が続くさなかでエネルギー関連のインフラが損傷したり操業できなくなるのではないか、あるいは、余り本当は可能性はそれほど高くないかもしれませんが、今のロシアではどういうことが起こるかなかなか分からないということを考えますと、ロシア側が輸出削減、停止という対抗措置をとる可能性もある。これらの組合せが起きて、ロシア側のエネルギー輸出に停止、削減ということが起これば、これから先の世界のエネルギー市場はますます混乱に陥るということかと思います。
その点において、特に石油とやはり天然ガス、LNGで場合を分けて考える必要があるかというふうに思っております。
石油の場合は、一言で申し上げると、供給支障、途絶が起きたときに、それをすぐ対応する、ある意味でいくと代替供給源が市場には備わっております。
一つは、中東の産油国、サウジアラビアを中心としてアラブ首長国連邦などに存在している余剰の生産能力です。この生産能力は、既に設備があって、この国の指導者がそれを決めれば、ある意味でいくと割と即座に石油が市場に出てまいります。
もう一つ即時的に対応できるのは、言うまでもなく、消費国にある石油の備蓄であります。IEAが三月に六千万バレルの備蓄を放出を決定し、今般はまたアメリカが三月三十一日に追加で戦略石油備蓄の放出というのを決定しています。その意味で、消費国の備蓄も大変重要である。また加えて、半年程度の時間を置けば例えばアメリカのシェールオイルの生産が増えてくる、あるいはイランとの核協議がまとまればイランの市場、石油が市場に戻ってくるというように、代替供給が幾つか可能性がある。
ところが、問題はガス、LNGでして、こちらは全ての企業、産ガス国が基本的に能力いっぱいで現在生産をしています。そのため、もしロシアの天然ガス供給が減少する、大きく止まるということになれば、その分だけ世界全体の供給量がそのまま減少する。そして、その減少してしまった供給、それを目指して世界中の消費国、消費国がある意味でいくと分け合う、あるいは取り合うということになる。そういう状況なために、先ほどお示ししたとおり、天然ガス価格の方が非常に高い。これから先、供給途絶があれば、この市場の混乱は大変なことになるということであります。
そして、ロシアに対して特に依存しているヨーロッパのこの影響というのは甚大になる。もちろん、原油価格が高騰すれば、日本を含めた世界全体の影響は深刻なものになります。その下でエネルギーの安定供給と安全保障を確保しなければならないというのは、日本、ヨーロッパ、世界の重要課題となっております。
とりわけ、今、ヨーロッパではこの問題に対して本当に真剣な取組が始まっております。柱は四つあるというふうに私は思っておりまして、一つは、ロシア依存度をいかに低減するか。このロシア依存度低減の中身は二つで、エネルギーミックスそのものを変えていく、再生可能エネルギーや省エネルギーを推進する。元々これは、脱炭素のためにヨーロッパが強力に取り組もうとしていたものをもっと進める。加えて、ヨーロッパの幾つかの国では原子力発電の活用ということについて動きが出ております。これも後ほど御説明申し上げたいと思います。
もう一つ、そうはいっても、石油や天然ガス、LNGはやっぱり今必要でございます。そのために、供給源の分散化というのをしないといけない、代替供給源をロシアから変えないといけない。そのために、LNGであればアメリカやカタールから、石油であれば先ほど申し上げたサウジアラビア、こういったところが重要になってまいります。
他方、ロシア依存度を低減しても緊急事態というのは起こるということの前提で考えないといけません。そこで、緊急事態への対応能力の整備という面では、IEA等と消費国との連携での石油備蓄の放出、そして、LNG、天然ガスの方は、供給余力がない中で何ができるかということであれば、一番需給が逼迫している地域・国に柔軟に供給を振り向けてこの痛みをできるだけ和らげるというような面での供給の柔軟な調整が必要である。その意味において、緊急融通や柔軟な、例えばアメリカ産のLNGの供給の活用というのが重要になってまいります。
いずれにせよ、石油もLNGも、全てのエネルギー源で、緊急事態においてはそれぞれの消費国が協力をするということが鍵になります。これはまさに第一次石油危機のときの重要な教訓でありますので、この問題もこれから非常に重要なテーマになってくると思います。
そして三番目が、何といっても、やはり供給力や供給余力をしっかりと確保しなければならない。そのためには、やはり適切に投資を行っていくということが重要になります。二〇二〇年以降、脱炭素化の取組が非常に進む中で、化石燃料分野に対しての投資はもう必要ないのではないかというような見方が広まりましたけれども、やはり今般の出来事を見て、実際には適切に化石燃料分野への投資もやっていく、これが移行期を踏まえた、トランジションをしていく中で安定供給をしていくには非常に重要だということが分かってきたのかと思います。
それから四点目は、安定的なベースロード電源というのはやはり価値があるんだということが再確認されたということではないかと思います。ここは、原子力についてフランスが新設の計画を発表したり、最近ではイギリス等の動きも出てきております。また、EUタクソノミーでも、条件付で原子力の位置付けというのが発表されてまいりました。
他方で、今回のウクライナ危機では、これはもう皆様御案内のとおり、原子力発電所に対してのロシア軍の武力攻撃が行われるという、あってはならない暴挙があったと。これが新しいリスクとして考えられる中で、原子力の問題をしっかりと考えていくというのが必要になっているということかと思います。
このグラフはエネルギーの自給率を示したものでございまして、ポイントは本当にシンプルでございます。アメリカとカナダはもう自給一〇〇%、つまり輸出国であって、英国もかなり高い。今回ロシアに対してエネルギーの禁輸というのを出した三か国は、基本的に言うと非常に自給率が高い。それに対してヨーロッパ、中でもドイツ、イタリアとかはかなり低いレベルにある。しかも、その上にもっと低いのが日本であるということがはっきりしております。
そして、ロシア依存度を見ますと、先ほど申し上げたドイツ、イタリア、輸入依存度、自給率が低い上にロシアへの依存度が高いという状況です。先ほどのアメリカ、カナダは事実上ロシアからはほとんど買っていないという状況であります。そして、日本は、例えば天然ガスで九%、石油で四%という依存度ですが、この一〇%内外の数字はイギリスの数字とやや似通ったところがありますが、そもそも輸入依存度、自給率が全く違う。日本の場合は自給率が非常に低いところでの依存という形であり、そこはやはり日本にとってしっかりと考えていくべきポイントなのかというふうに思います。
ヨーロッパ、EUは今回の危機を本当に深刻なものと捉えて、リパワーEUというような計画を発表し、二〇三〇年あるいはそれより前にロシア産の化石燃料の依存から脱却するというようなことを発表しております。これまで、脱炭素化のための取組、フィットフォー五五というようなパッケージ、これを更に強化していくということで早急にロシア依存からの脱却を目指す野心的な計画を出しているところでございます。
また、この三番目の列に供給セキュリティと手頃なエネルギー価格に関する政策文書というのがございますが、やはり鍵となっている天然ガスの安定供給確保のためには、天然ガスの在庫、備蓄に対しての一定の義務、そういった要件を課したり、あるいはヨーロッパとして共同のガス購入というのを検討するといったような、やはりこれまでにはない取組というのが始まっているということかと思います。やはり、ヨーロッパにとっては、今回の危機では、価格高騰だけでなくて、ひょっとするとエネルギーの入手不足というのが発生するのではないか、これの懸念が非常に大きい。それがゆえに、これだけ強力な政策を取らざるを得なくなったということかと思います。
今回の危機は、振り返ってみますと、第一次石油危機、アラブの戦争といわゆるアラブオイルエンバーゴー、これの組合せと似た点があり、かつその上で供給不足が起こるかもしれないという懸念があることも似た点でございます。その意味で、当時は日本はまさに深刻なエネルギー安定供給への懸念があり、そこからそのための強化の政策が一気に強化されました。ヨーロッパは今それと同じような状況を迎えているのではないかというふうに思っています。
この次の十ページ目のスライドは、マクロン大統領の原子力についての新しい計画で、昨年の十一月の段階で既に原子力の建設再開というのを発表しております。これは、ウクライナ危機が軍事侵攻など本格的に深刻化する前でありまして、先ほど申し上げた、既にエネルギー価格の高騰がヨーロッパ、世界で深刻になっている中で、フランスとしての決定を下した。二月には、新しい戦略として、例えば二〇五〇年までに六基の建設を行う等々、また、今世界的に関心を集めています小型モジュール炉、SMRの開発、こういったものにも取り組むといったことが、動きが出ているわけです。最近はまたイギリスでも新しい動きが出、恐らくロシア依存度の高いヨーロッパの国、東ヨーロッパの国などもこうした動きというのをこれから真剣に検討していく可能性があるというふうに思っております。
それから、今回の危機の中で一つ大きなテーマ、イシューになりましたのは、やはりロシアビジネスとの問題でございます。
今回の軍事侵攻に対して、先進国、G7として結束して対応する、その下で、かつロシアビジネスを続けることのレピュテーションリスク対応というのもある。そのために、欧米の主要企業が相次いで撤退し、それはエネルギー分野でもいわゆる石油メジャーの撤退ということになりました。BP、シェル、エクソンモービル。シェルやエクソンモービルは、サハリン1、2、そういったところに関わる重要企業でございますが、彼らが撤退した。
そうした中で日本がどういう対応をするのかというところに重要な関心が集まってきたわけで、先ほど申し上げたとおり、先進国、G7としての結束、これは極めて重要でありますが、他方で、日本のエネルギーの安定供給上の脆弱性、特徴ということを考えると、それに対してしっかりと戦略的な思考をしていくことが重要ではないかと思っております。
日本は、一九七〇年代以降、いわゆる自主開発を極めて重視して取組をやってまいりました。自主開発において大きな成果を上げたところもあれば、成果がなかなか難しいところもある。ロシア、このサハリン1、2は、この自主開発の面においては成果を上げた重要な拠点と言うことができるのではないかと私は思います。
そして、仮にこれから先、今回、今ニュースで流れているように、ロシアの行動に対してより厳しい対応が必要だというようなことになる、そして撤退というような話があったとしても、これは、二〇〇〇年代の前半に日本がイランのアザデガン油田の開発に取り組んで、そして結果的には対イラン制裁強化の下で撤退したときに何が起きたかといえば、これは中国の企業がそれに代わったということだけであったということも、我々は実態、エネルギー市場の実態として記憶しております。
そうした点も含めて、日本としてエネルギー安定供給ということをしっかり見据えた対応が必要だというふうに思っております。
最後のまとめは繰り返しとなりますので、私からの御説明は以上で終わらせていただきたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。